特大ワイバーンを倒して探索の締めとする件
この10層も、5層と同じく途中で雑魚モンスターは襲って来ない仕様の様子で。お陰で下りの道中は、物凄くスムーズに進む事が出来た。
お昼のぽかぽかな天候も相まって、本当に登山気分を満喫してしまう来栖家チームだったり。呑気に鼻歌とか歌っちゃったり、主に末妹の所業であるが。
「最後の中ボスは何が出て来るかなぁ、叔父さん? ドラゴンとかだったらどうしよう、私たちで勝てるかなぁ?」
「だからアンタの一言は招くから止めなさいって、バカ香多奈っ! アンタは自分が、変なスキル持ってるの忘れたのっ!?」
「だから2人とも喧嘩しない……姫香も大声出し過ぎ、雑魚がいないからと言って油断はしないように」
は~いと反省混じりの返事が来るのは、まぁ毎度の事とは言え。確かに吞気過ぎと、前を歩くハスキー達も胡乱な視線で振り返っている。
姉妹でバツの悪そうな咳とか交えつつ、尚も進む事15分余り。そしてようやく5層でも目にした、舞台のような中ボス戦を想定した広いフィールド。
ただし、今回のは5層のそれに比べるとかなり大きいような気も。敵の数も地味に増えていて、まず目に入ったのは地面でドクロを巻いている巨大なワイバーン。
今まで遭遇したどれよりも大きく、その体長はまるでドラゴン。
それを見て蒼くなってるのは、言霊を口にしてしまった末妹に他ならず。そしてオマケのように、3体のガーゴイルが周囲を護衛している。
その大きさもゆうに3メートルを超えていて、そんな石像は反則だと言いたくなるレベル。敵全員が飛行持ちと言うのは、地味に嫌な仕様かも知れない。
それより奴が飛び立つ前に倒すべきか、それともわざと飛び立たせてからミケに撃墜して貰うか悩ましい。取り敢えず姫香は、金のシャベルを手に速攻の準備に余念がない様子。
紗良も2度目の魔法の準備中、香多奈も魔玉の投擲準備とこちらはいつ戦いが始まっても大丈夫。一向に飛び立つ素振りも見せないワイバーンに、護人も攻撃指示を出す破目に。
そして始まる、飛行生物たちとの稀な地上戦。
そして分かった事だが、ワイバーンは飛んでなくてもこの巨体だと充分に厄介だと言う事実。しかもガーゴイルの護衛付きである、咬み付きと有毒尻尾の振り回しだけで充分脅威。
それが通常は意識しない真上から、突き刺すように降って来るのだ。防御も大変だし、下手に動くとガーゴイルたちに囲まれてしまって一転不利になってしまう。
それだけこのタッグは、例え地上オンリーとしても厄介でもあるって事で。特に小型ショベル形態のルルンバちゃんがいない今、前衛を担う者がこちらには2人しかいないのだ。
例えハスキー達が勇ましくても、この体格差で前衛をやってくれと送り出す事は出来ない。辛うじて、香多奈に『応援』を貰ったコロ助が行けるかなって感じ。
遊撃で無い前衛役不足は、このチームの最大の弱点なのだ。
そのツケを今、思い切り払わされている気分の護人。結局は、断腸の思いでガーゴイル3体に《敵煽》を掛けて、舞台の端っこへと移動を選択。
一番デカくて厄介な地上ワイバーンは、姫香を前衛にチームの残り全員で処理して貰う事に。思い切った配分方式だが、これでも心配なリーダーだったり。
何しろ、前衛をたった1人で担う姫香の負担はかなり重い。それでも少女は、『身体強化』と『圧縮』スキルで意外と華麗に巨体の敵の攻撃を避けて行く。
それを影からサポートしているのは、言うまでもなくツグミだった。『影縛』と《闇操》のスキルで、主に敵の邪魔をしながら主人を毒牙から守っている。
そのコンビプレーは、息がバッチリ合って見ていても危なげが無い。
「護人叔父さん、心配しないで……この体が大きいだけのワイバーン、私たちですぐに始末するからっ!」
「コロ助っ、頑張って……レイジーが、尻尾から片付けるって言ってる!」
何と犬とも会話の出来る香多奈が、司令官的な役割まで果たしている。一方の紗良だが、何度か魔法を放とうとしては失敗しているみたい。
どうもぶっつけ本番は、早々に成功には至らない様子である。それよりも巨大化したコロ助の右翼への噛み付きから、レイジーの焔の魔剣での尻尾切りは予告通りに一発で成功!
末妹も、思わずやったぁとガッツポーズで喜んでいる。そしてすかさず離脱するコロ助とレイジー、それを支援するように一転して『旋回』での攻撃に転ずる姫香。
こちらのサポート能力もさすが上手い、絆でガッチリ繋がっているチームには違いなく。その攻撃を鼻面に受けて、怒り心頭ながらも仕切り直しを選択するワイバーンである。
地上戦の不利を悟って、空へと脱出を図ろうとするも。
そこにミケの『雷槌』が、まるでハンマーのように胴体を打ち付けての邪魔立て。さすがニャンコ、弱ったモノをいたぶる精神は天晴である。
その隙を突いて、再び姫香とレイジーの斬り込み。今度はかなり深く傷つけて、さすがの巨体を誇るワイバーンも絶叫を放つ。
それから、その叫びが思わぬモノを召喚した模様で。
人ほどの大きさの旋風が、ワイバーンの両脇から発生して。姫香とレイジーに突っ込んで、吹き飛ばそうと試みる動きを示して来る。
さすがに一筋縄では行かない、10層の中ボスである。
「姫香ちゃん、それ多分普通の武器の効かない精霊だよっ! 日本家屋で出遭った奴、結界を張るからいったん下がって!」
「えっ、マジっ……あの時はどうやって倒したっけ!?」
「姫香、これを使えっ……!!」
敵の中ボスの奥の手に、一転して窮地に立たされた姫香たちだったけど。紗良の指示で、見事に無傷で《結界》内へと逃げ込めた前衛陣。
それを《心眼》で見ていた護人から、またもやナイスタイミングでパスが見舞われる。それは『魔断ちの神剣』で、前回見事に風の精霊を真っ二つに切り裂いた刀であった。
それを思い出した姫香は、そのパスを受けようと必死に手を伸ばす。
それに合わせて、《結界》を解除する紗良と援護の雷の矢を放つミケ。《刹刃》が矢尻の魔法の矢は、4本ほど生成されて2体の旋風に突き刺さる。
それで向こうが怯んでいる隙に、何とか武器の受け渡しに成功する姫香。木板の上を転がりながら、相手と距離を空けての『魔断ちの神剣』を抜刀する。
その刀身は相変わらず、吸い込まれるかのような静かな輝きを放っていた。恐らく売れば物凄い価値が付く逸品なのだろうけど、現在は来栖家のサブ武器に甘んじていると言う。
それを一閃した途端、手前にいた旋風の精霊は呆気なく消滅。一見弱そうに見えた敵だが、周囲の木板はその暴虐に切り刻まれて荒れまくっていた。
まるで荒い鉋を掛けられたみたい、乙女の柔肌なんてイチコロだ。
「姫香お姉ちゃん、次はアッチの奴が接近中だよっ! 頑張って、ワイバーンもかなり弱ってるよっ!」
「オッケー、任せてっ! 早くアイツを倒して、護人叔父さんを楽にさせてあげなくちゃ!」
そんな意気込みで、尚も大暴れの様相を窺わせる姫香だったり。今は鍬を置いて、日本刀を装備してもう1体の旋風を追い駆け回している。
そして姫香の心配していた護人だが、こちらは“四腕”と盾で安定の防御振り。恐らくだが、『硬化』も常時発動させているのだろう。
3体の3メートル超えの石像相手に、致命的に崩れないのは凄いかも。
そして姫香が、何とか2体目の旋風を討伐し終えたのと同時に。何とレイジーとコロ助が、飛び立とうとしていたワイバーンをいつの間にやら撃破してしまっていた。
何と言う剛力ハスキー軍団、尚も元気に次の敵をよこせとアピールしている。その圧力は、まさしくハンターのそれで姫香も抗えずについ従ってしまった。
そんな訳で、ルルンバちゃんの鞭使いでガーゴイルを1体ずつ隔離して貰って。姫香は武器を鍬に持ち替えて、巨人サイズの石像の翼や腕を壊しに掛かる。
ソイツに止めを刺したのは、何と転がって来た白木のハンマーを受け取ったコロ助だった。護人が必要だろうと、これまた薔薇のマントの収納から融通してくれた武器なのだが。
母親のレイジーの真似をして、巨大コロ助が咥えての使用を習得!
後ろからは、香多奈の燥いだ声援が飛び交っている。それに勢いを貰ったコロ助は、武器を振り回してのお替わりを催促する素振り。
どうやら、牙が通らないなら人間の造った武器を使えばいいジャンとの真理に到達したらしく。この賢さは、母親譲りなのか“変異”が関係しているのか。
全く定かでは無いが、とにかく2体目のガーゴイルも先程と同じ運命を辿る結果に。そして3体目は、それを何となく眺めながら護人が完璧に破壊に至ってしまった。
それを確認して、終わったのねと武器を返還に来る素直なコロ助。
「いや、凄いなコロ助……巨大化して、ハンマーまで使い始めるとか賢いぞ。今までウチのチームは、硬い敵との対戦は苦労してたからなぁ」
「そうだね、レイジーと組んでワイバーン倒したり、最近は成長著しいかもね? 香多奈の護衛が、紗良姉さんの《結界》のお陰で必要なくなったからね。
これからは、バンバン前衛で頑張って貰おうねっ!」
コロ助もリーダーに褒められて、この上なく嬉しそう。レイジーも剣を戻しに来て、そんな子供の成長を頼もしそうに鼻を寄せて褒めている。
ハスキー軍団では、ツグミは相変わらず地味な立ち位置ではあるが。《空間倉庫》なんて、便利なスキルを覚えた探索者などまずお目に掛かれない。
そう言う意味では、かなり破格な能力持ちのワンちゃんには違いなく。何より姫香と一番相性が良いのは、ツグミを置いて他にはいないのだ。
そんなフォローも忘れない、相棒を撫で回して労わる姫香である。
そしてようやく訪れた穏やかな空気の中、中ボスのドロップを拾って行く香多奈とルルンバちゃん。ワイバーンは魔石(大)と鱗を2枚、それからオーブ珠を1個落としていた。
ガーゴイルは魔石(中)3個と、1体が珍しく硬化ポーション800mlを瓶ごと落としてくれた。そして舞台の端っこに置かれていたのは、銀色の大きなサイズの宝箱で。
期待と共に開け放った中からは、魔結晶(大)が4個と強化の巻物が3枚、薬品はMP回復ポーション1000mlと上級ポーション800mlが出て来た。
薬品はもう1点、何だか毒々しい色合いのが1本。それから剣が1本と、後は素材系の鉱石やら皮素材やら骨素材がゴロゴロ。後は、お肉の大きな塊がゴロンと出て来た。
良く分からないが、ひょっとしたらワイバーンのお肉なのかも?
前例は多いそうで、美味しいのかなぁと興奮気味の香多奈はともかくとして。好奇心旺盛と言うか、食欲に忠実なハスキー軍団が顔を近付けて来る。
それをブロックしつつ、魔法の鞄に収納して行く紗良。レイジー達の残念そうな顔付きを見るに、余程美味しそうな肉の塊に思えたのだろう。
取り敢えず時刻は2時を大きく過ぎていて、10層もクリアしたのでダンジョンを出ても良い時刻。ゆっくりするにも、探索を終えてダンジョンを出るべきだろう。
今回も回収アイテム多かったねと、子供達も満足はしてくれたようで何より。それじゃあ外へ出ようかと、定期湧きのワープ魔方陣を無視して出入り口の魔方陣へ。
ここのダンジョンも、出口は即地上に通じているとの事なので。
ワープ魔方陣で移動型のダンジョンの、唯一の良心的なポイントかも知れない。忘れ物が無いかを確認して、一行はハスキー軍団を先頭に10層から退出する。
これで金曜の夕方から始まった、一連の遠征レイドは終了である。後は今日の成果を報告して、さっさと家に戻れば良いだけだ。
ギルド『羅漢』の森末からは、もう1泊くらい寛いで行ってくれと言われてはいるのだが。香多奈の小学校も余りサボれないし、今日中には戻るつもり。
家畜の世話もあるし、ハスキー達も知らない土地では寛げないだろうし。そう言われては、向こうも強く引き止められない森末ギルマスである。
とは言え、出た先にはどのチームも不在だったけど。
それからボチボチ、来栖家チームが着替えを終えてキャンピングカーで寛いでいる内に。間引きを終えた各チームが、無事に探索から戻って来て。
それを確認した護人と子供たち、お互いの無事と探索成功を口にして。それからサヨナラの挨拶、また今度青空市で会いましょうと。
今回の遠征レイドは、明らかに探索歴が上のチームと行動を共に出来てとっても勉強になった。今後この教訓を活かすかどうかは別として、糧にはなると思われる。
そんな事を考えながら、車を発進させる護人。
――後は積雪に気を付けて運転して、無事に家へと戻るだけ。
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