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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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意に反してドル箱が順調に増えて行く件



 そんな訳であっという間に4層で、しかしここに来てようやく変化が訪れた。敵の数と種類は相変わらずだが、そいつ等の大半がさっきのコインをドロップして。

 その使い方が、ここに来てようやく判明したのだ。後衛で護人の後をついて歩いていた香多奈が、変わった機械を発見して叔父さんに質問を飛ばして。

 その結果、その機械にコインの投入口を偶然発見。


「あっ、パチンコ玉がいっぱい出て来た……あっ、隣の台が何かカウントダウンを始めたよっ、叔父さん!?

 何だろう、ふぃ、ふぃーばータイム……?」

「何か、この台で打てって言ってるみたいだな……仕方ない、自信は無いけど打ってみるか。紗良、悪いけど姫香に進むの少し待つように言ってくれるかい?」

「分かりました、こっちに合流するように声を掛けますね?」


 などと話し合っている間にも、護人は小さな椅子に腰掛けてハンドルを回し始める。それを隣で眺めていた香多奈は、なぁんだ簡単そうだなと言う顔付きに。

 しばらくは叔父さんの画面を眺めて、玉がどこに通ると正解なのかを見定めた少女は。隣の台にもコイン投入口があるのを確認して、コインを玉に替えるとミケを抱えて打ち始める。


 その姿は楽しそうで、膝の上のミケに少女は必死にルール説明。この穴に玉が入ったら光が派手について、下の穴から玉が倍になって戻って来るらしいねと。

 どの穴にも入らなかったら、野球で言う所のアウトである。穴を通ったらヒットで、じゃんじゃんヒットを打てばたくさん得点が入る仕組みらしい。

 そんな説明より、ミケさんは跳ね回る玉に夢中らしい。


 そして戻って来た紗良と姫香が、2人の姿を見て呆れ返った顔付きに。正確には香多奈の所業に批判的な表情なのだが、まぁ誰かが玉を増やす作業をすべきではある。

 末妹の好奇心は、恐らくはこの場の誰よりも旺盛なのは確定的で。そして香多奈の台が、いつの間にか“大フィーバータイム”に突入したっぽい。

 派手な演出で、液晶画面が盛大にチャンスを告げている。


 一方の護人の台は、最初に注ぎ込んだコインの分の玉は既に尽きそうな有り様。戻って来た姫香に変わろうかと尋ねると、やはり興味があったのか負けないよと素早い場所交代。

 紗良は冷ややかな表情で、再びコインで玉を交換する保護者を見つめるけど。お金も掛かっていないのだし、ただのゲームだと心中で自分を納得させた様子。

 派手な演出を続ける香多奈を、頑張れと応援し始める。


 ハスキー軍団は、こんな煩い音を出す機械はあまり好きではない様子。少し離れた場所で、早く先へと進もうよとご主人たちを眺めている。

 そしてどうやら、この台が稼働する時間は最初から限られていたのが判明して。台の上の見慣れぬタイマーが、残り2分だと告げているのを紗良が発見。


 護人は残ったコインを全部玉に替えて、香多奈が儲けた奴をドル箱へと詰め込み始める。残念ながら、姫香の方は減りはしないけど大きく稼げてもいない様子。

 やがて時間がゼロを告げて、その後はハンドルを幾ら回しても弾は射出されなくなってしまった。それでもドル箱は合計で2つ半、さっきのスカスカ振りに較べると随分増えた。

 香多奈は満足そうに、やったねミケさんと自分の手腕を褒め称える素振り。


「ちょっと、今の結果は香多奈の腕ってより、ミケの豪運のせいなんじゃない? 次に稼働する台を見付けたら、正々堂々と勝負よっ!?」

「えっ、いいけど……ミケさんに頼って、玉を一杯稼いだ方が良くないかなっ?」


 珍しく香多奈の方が真っ当な意見だが、姫香は自分が妹に負けた事が納得いかない様子。そんな姉妹を宥めつつ、護人はチームを何とか纏めて再び進み始める。

 次は5層だし、油断しないようにと子供たちに言い聞かせ。そして辿り着いた次の層でも、全く同じく先行するハスキー軍団とルルンバちゃん。


 ちょっとだけ違うのは、パチンコ台の上のドル箱にアイテムが幾つか入っていた事。例のコインが4枚に魔石(小)が5個、ライターが数個とお洒落な灰皿が1個入っていた。

 出て来る敵もショボいけど、回収アイテムも同じくと言うのは久々かも。かえって初々しいと言うか、スイスイと進むのは有り難いのだが。

 そして出て来る大扉、中ボスの部屋はちゃんと仕切られている様子。


 ここはさすがに全員で戦おうと、遠隔速攻の指示を出す護人だけど。張り切って突入した部屋の中で、待ち構えていたのは体長2メートルのセイウチ獣人の中ボス。

 お供にキツネ獣人が3匹、そいつ等が動き出す前に勝負は決していた。取り敢えず放たれた姫香の金のシャベルが、キッチリと中ボスの胸板に命中して。


 その一撃が割と致命傷で、おざなりに投げた香多奈の爆破石はオマケみたいなモノ。護衛の筈のキツネ獣人たちは何も出来ず、ハスキー達に狩られて行って。

 張り切って突進したルルンバちゃんは、殴る相手がいなくて悲しそう。とは言え完勝は悪い事では無いのだし、香多奈に慰められつつドロップを拾う両者である。

 そしてドロップの中には、一応スキル書が1枚紛れ込んでいて。


 何となくホッとする一同である、こんな弱い相手から申し訳ない気持ちも確かにあったけど。他にも魔石(中)が1個と派手な蝶ネクタイを回収して、満足そうな香多奈である。

 それから改めて室内を見回すと、確かに情報通りに景品交換所があった。ただし店員不在で、玉を数える機械と奥に景品が納められたガラスケースがあるだけ。


 商品には数字が振られていて、玉の数がその景品に達していれば、何事も無く交換が可能らしい。途中のドロップはショボかったけど、なるほどここで一発逆転が可能っぽい。

 ただし、パチンコ玉が少なかったらそれも駄目だけど。景品には確かにブランド品の鞄があったし、食料品やチョコやスナック類や玩具や衣類、化粧品から魔石まで何でもある。

 それこそ壁の一面が、全てかガラスケースの商品棚と言う仕様に。


「うわぁ、これってガラスを壊したら、ここの商品取り放題じゃないのかなぁ?」

「うーん、そんな不正は恐らくダンジョンが許さないんじゃないか? ダンジョンの不正ペナルティは恐ろしいって、仁志さんも能見さんも言ってたからな」

「あぁ、強制ワープで最深層に放り込まれたり、モンスターが無限湧きの罠が作動したりするんでしょ?

 いつ聞いたんだっけ、探索者カードの発行の時だったかな?」


 そんな事あるのと、ビックリ顔の香多奈だけれど。ダンジョンは意外と、そう言う礼節には厳しいともっぱらの噂である。身体を張ってその真相を知りたくない護人は、ズルなどしないと決めており。

 その点は幼い香多奈も同様らしく、怖いねぇと隣のコロ助に抱きついている。今は揃っての休憩中だが、突入から1時間ちょっとで今回は物凄いハイペース。


 一番時間が掛かったのは、パチンコ台での玉増やしのシーンと言う。そしてハスキー達の怪我チェックを終えた紗良は、今度は景品の種類をチェックに掛かり。

 珍しい物を発見しては、香多奈を呼んで撮影させている徹底振り。


「わっ、地上へのワープ魔方陣の発生サービスが景品にあるよっ? 玉がたった5個で良いんだって、そこは親切設計だねぇ……スキル書やオーブ珠もあるけど、こっちは逆に凄く高いや。

 面白いねぇ、うわっ……香多奈ちゃん見てっ、宝珠もしっかりあるよっ!?」

「わっ、本当だ……えっ、玉の数が10万個も必要なのっ!? オーブ珠で2万個って書いてるから、5倍の価値があって事?

 凄いねぇ、モンスターを倒す方がよっぽど楽だよっ」


 楽って事は無いが、確かに労力を考えればそうかも知れないと護人は納得。ちなみにブランド品の鞄は5千~1万程だそうで、スキル書と似た価値らしい。

 香多奈はハスキー達がきっと喜びそうと、お中元のハムセットを交換したい様子。これは千個と交換なので、まぁそれ程の高望みでは無い感じ。


 パッと見た感じでは、ドル箱にいっぱい玉が詰まって1500玉位だろうか。つまり10箱以上は頑張って増やさないと、魔法の鞄を2つ以上は交換が不可能と言う事になる。

 律儀にも、この中ボス部屋にまで自走AIカートは追走して来てくれている。その上に乗る箱はまだ2つと半分程度、これを何とか5倍には増やしたい所だ。

 中ボスを倒すより、そっちが余程大変かも?




 休憩を終えて降り立った第6層、今回はMP消費もほぼ無くて楽な道中には違いないのだが。ドロップ品もアイテム回収率も思いっ切り低くて、その点は残念で仕方が無い。

 一応は、5層の中ボス部屋に宝箱は置かれていたのだけれど。木製の中身は魔石(中)が2個に魔結晶(小)が3個、鑑定の書が2枚と木の実が4個。

 それから例のコインが8枚と、短弓と矢束が40本分入っていただけ。


 全く大した事は無いのは、ある程度仕方無いと割り切るとして。子供たちの気勢が上がらないのは、全くどうして如何なモノか。取り敢えず元気なハスキー達に続いて、とにかくパチンコ台の間を進む一行。

 香多奈がたまに、台の受け皿に忘れ去られている玉を回収して回っているけど。この6層で、ちょびっと玉は増えはしたけど所詮は雀の涙である。


 それよりこの層から、新たに制服を着たゴーレムが出現し始めた。それを嬉々として、嬉しそうに破壊しつくすルルンバちゃんはまるで破壊神。

 ハスキー軍団は、硬い敵は素直に後輩に譲って、自分達は新たに出現したタヌキ獣人を相手取っている。コイツも鎧着用で、武器も片手斧や棍棒を持っていて少しだけ強そうである。

 とは言え、殲滅スピードはそんなに変わらない気も。そして目を皿のようにして、稼働するパチンコ台を探す姫香と香多奈ではあるけれど。

 この層では発見出来ず、2人の試合は次へと持ち越しへ。


「もう7層なんだ、探索スピードは速いけど、なかなか打てる台が見付からないね」

「わおっ、ハスキー達とルルンバちゃん、もう見えなくなっちゃった……姫香お姉ちゃん、ちゃんとついて行ってあげなよっ、監督冬吉届きだよっ!」


 誰が冬吉ふゆきち届きよと、末妹の言い間違いを茶化しつつも。不行き届きが怖いのか、律儀に様子を見に行く姫香である。そして香多奈も、毎度恒例の受け皿チェック。

 そして先頭に追い付いた姫香が目にしたのは、敵の飛行ドローン機がルルンバちゃんのアームに呆気無く撃墜されているシーン。

 情緒の欠片も無く、戦闘は終わって魔石の回収を始めるルルンバちゃんである。


 茫然としていたら、ツグミがこっちに何かあるよと姫香を呼びに来て。そして2度目の細ロッカーとご対面、開けると中からまたもや制服一式と制汗剤、例のコインが5個に魔玉(雷)が7個出て来た。

 それから煙草1カートンに、ポーション600mlとエーテル600mlが水差しの中から。それらを検分していたら、後衛がようやく追いついて来た。

 姫香はそれらを、紗良へと次々に手渡して行く。


「あっ、姫香お姉ちゃんも宝物見付けたんだ……こっちもパチンコ台の上にあった箱から、鑑定の書とコインを見付けたよっ!」

「でも、玉を打てるパチンコ台は無かったんでしょ? このままじゃ、魔法の鞄1個との交換も怪しいよね……どうしようか、護人叔父さん?」

「まぁ、その内に出て来るだろう……少なくとも、10層に辿り着くまでに1回くらいはチャンスはあるんじゃないかな?」


 その言葉に納得したのか、その時はみんなで頑張って玉の数を増やさなきゃねと元気に答える姫香である。その心意気は天晴だが、賭け事は圧倒的にスる確率の方が高いのだ。

 時には一度に何万円も失う大人もいるんだよと、丁寧に説明を試みる護人だけれど。私たちは大丈夫だよと、ダメな人間の精神性をなぞる姫香の自信の在りよう。


 これは痛い目を一度見せるのも社会勉強かなと、護人が心中で悩んでいる内に。7層はいつの間にやら踏破していて、次はもう8層へと踏み込んでいた。

 ここも同じフロア編成で、敵の性質も似たような感じなのだろうけど。ハスキー軍団とルルンバちゃんが、我先にと駆け出してこの層も護人や姫香の出番はない気配。

 それでいいのだろうかと言う疑問が、ちょっとだけ脳裏に芽生えるも。


 ハスキー軍団も楽しんでいるし、きっと良いのだろうと気にしない事に。現に姫香が追い付いて目にしたのは、やっぱり大活躍するルルンバちゃんの勇姿と。

 それから盾と大槌を装備したタヌキ獣人が、数の優位も作れずに次々と討伐されて行く姿だった。少々の装備では、暴力の化身と化したルルンバちゃんは止まらない。

 ましてや、集団で襲い掛かるハスキー軍団の前では死すら生温い。


 本当に敵が可哀想だが、楽をさせて貰っている手前そんな情けも無用だろう。そしてツグミが、今度は鉢植えの観葉植物前に姫香を案内して来た。

 調べてみると、土の上に魔結晶(小)が幾つか転がっていて。姫香はツグミを褒めながら、そのアイテムを回収して行く。向こうも歓声が上がっているので、何か見付けた模様。

 のんびりし過ぎな気もするが、こんな探索があっても良いのかも?





 ――ツグミのモフモフ具合を愛でながら、そんな事を思う姫香だった。







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