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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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週末の探索に向けて隣家が盛り上がってる件



 11月の上旬の週末、天気は少し愚図ついていて、夕方から雨模様になるとの予報である。来栖家の面々は、放牧した家畜を早めに厩舎に戻すべきか様子を見ながら。

 もうすぐやって来る筈の、四葉ワークスの移動販売車を待ち侘びている感じ。それを言うなら、凛香チームも来栖家にお招きされて昼食を一緒に食べた所である。


 民泊移住を始めて、まだ1週間程度しか経ってはいないのだけれど。歳が近いせいか、紗良や姫香と凛香チームの面々は既に結構仲良くなっていて。

 それはやっぱり、午前の授業を一緒に受けているせいもあるのだろう。隠れたファインプレーだと、護人は自分の采配を内心で褒め称えつつ。

 子供たちの学力アップが、将来役に立つように願うのみ。


 まぁ、役に立たなくても若い内の苦労は絶対に身につくとは思っているけれども。一緒に苦労して仲良くなって、それが年を取ってもずっと続く仲間が出来ればこれ以上の幸せは無い。

 凛香と言う少女は、護人から見ても寡黙で何を考えているかは分かり辛いけど。さすが未成年チームのリーダーをやっていただけあって、面倒見が良くて優しい性格をしている。


 訓練の様子を見る限り、戦闘では短刀を使った接近戦が得意なようだ。思慮深くて決して無理はしない、リーダーの資質的には間違ってはいないのだろうけど。

 隼人みたいな、イケイケの性格の舵取りをするほどの迫力は無いみたいで。チームを上手く回すには、やはり若さが邪魔をしているのかも知れない。

 それでも、ある程度の信頼を仲間から得ている点は素晴らしい。


 隼人は“変質”持ちの点を除いても、戦闘に関しては非凡な才能の持ち主だった。実生活では乱暴者で短気な面も窺わせるが、仲間には決して暴力を向けない。

 戦闘訓練では両手武器を使っていたが、盾役も普段はこなすそうだ。ろくな装備も持たない癖に、探索では相当な無茶をして来た感じも受けるけど。


 良くも悪くも、チームのかなめ的なエースには違いなさそう。確かにパワーはあるし、所持する切り裂き系のスキルの威力も抜群だ。

 装備の問題が解決すれば、安定したアタッカー兼盾役になってくれそう。ただ、やっぱり親を亡くした14歳の少年の脆さは、隠しようも無く現れるようで。

 護人も何とかフォロー出来たらなと、秘かに思っている次第である。


 隼人と11歳の穂積の“変質”問題だが、中級エリクサーの薬品瓶を常備させる事で、応急処置的には対応可能に至った。その価値を知る凛香や隼人には、顔を蒼褪めさせてしまったけど。

 民泊移住のお礼と、出世払いでの返却をとの事で何とか受け取って貰えた次第である。そもそも遠慮などして、子供が苦しんでいる所など誰も見たくは無いので。


 薬品が無くなったら、すぐにこちらに言うように厳命している護人であった。そして今回の装備品の買い与えも、同じく出世払いでの対応となっていて。

 ってか、装備をちゃんとしない限りは、ギルドの規則としてダンジョンへ潜る事は禁止しているので。どの道避けては通れない、防具揃えからの強化案である。

 凛香もそれには大人しく従って、とにかく探索の出動許可を得たい構え。


 そもそも広島市の協会に在籍中の凛香チームは、週に3日は探索に潜っていたのだ。ただ広島市には広域ダンジョンがやたら多くて、そのせいで多数のチームの同時インを賄えてはいたのだけれど。

 探索と言うより移動が大変で、しかも格上に遭遇する度に逃げ回る効率の悪さ。収入はほぼドロップした魔石のみで、宝箱の回収は週に3度あれば良い方と言う。


 来栖家チームの動画は、そう言う意味では衝撃的ですらあった訳だけど。新天地での探索業は、未だ果たされていないお預け状態と言う。

 過保護に過ぎるとは思うけど、それもようやく解除されるそうで。隼人などは、気合入りまくりで週末を待ち望んでいる雰囲気である。

 そしてようやく、来栖邸の庭先に移動販売車が到着して。


「……まあまあの値段するけど本当に良いのか、おっちゃん? 5人分だと百万超えちゃうぜ、どんだけ働いたら返せるかって話だぜ……」

「先行投資ってのは、惜しんだら駄目なんだよ。君らは若いし、成長の度合いは著しく高いだろうからね。この町にとってもお隣さんとしても、良い方向に育って欲しいと思っている。

 だから午前中の勉強会と、こちらのお節介は素直に受け取ってくれ」

「ゼミ生チームも受け取ったし、ギルド員だから遠慮しちゃ駄目だよ。護人叔父さんの言うように、他にも欲しい装備があったら遠慮せずに買いなさいよね。

 凛香に隼人、ここは田舎なんだから買い逃したら次は無いかもよ?」


 遠慮するなとの物言いは、いかにも姫香らしくて良いのだが。香多奈もこの盾は便利だよとか、横からのお節介が騒音レベルなのは如何なモノか。

 とにかくメインの革スーツは、全員分買い揃える事に成功して。サイズもやや大きいけど、それは成長期を考慮しての事なので問題無し。


 盾やポーション瓶、防毒マスクやその他の探索道具も新調して、今回の買い物は終了の運びに。わざわざ来て貰ったお礼にと、来栖家から前回の青空市で余ったスキル書とオーブ珠を、四葉ワークスへと販売して。

 向こうにも喜んで貰って、これでこんな田舎まで来て貰った対面も保たれた。


 そして探索への意気が上がるチーム『ユニコーン』だが、今日は午後の特訓で新調した探索着に慣れる事からと言い渡されて。但し明日は、敷地内ダンジョンに潜っていいよとのお達しを貰う事に成功した。

 小鳩や譲司も盛り上がっているし、探索業は彼らにとっての日常には違いないのだろう。まぁ、その辺はぼちぼち頑張って貰う事にして、護人は別の用件もこなして行く。


 前回の“キャンピングカーダンジョン”では魔法アイテムが多過ぎて、鑑定し切れない上等そうな装備や素材が多々あったのだ。それを鑑定して貰って、不要なら売ってしまおうと。

 しかし、その装備や素材がまた一波乱起こす事に。


「ええっと、こちらの小手とブーツはオリハル製ですね……希少性はミスリル製品より高く、性質で言うと魔法や理力に馴染みやすい装備で、探索者に人気は高いですよ。

 ただし、防御力的にはミスリル防具と似たり寄ったりです」

「へえっ、それならウチで使った方が良いのかな……でもサイズ自動調整の魔法は掛かって無いよね、みんな大きさは合わないかもね、護人叔父さん」

「そうだな、結構大きい仕様だからな……仕方ないから、売ってしまおうか」


 それから秘密の宝物庫の重しになってた鉄板は、『重オーグ鉄』と言うそうだ。文字通りに重くて錆びやすい素材ではあるが、異世界物質なので高値が付くそう。

 鉄の加工技術は、こちらの世界でも幅広く広まっているので。むしろ在庫になり難く、すぐどこかから買取依頼が舞い込むそうで。


 四葉ワークスの販売員さんも、色を付けるので売って欲しいとの事。この辺は、何度も顔を合わせている仲なので、そんなに遠慮も無くなっている。

 護人としては、宝物庫から出て来た宝石の散りばめられた細剣も売ってしまおうと思っていたのだが。こちらは鑑定不可と言うか、宝石の鑑定に時間が掛かるそう。

 つまりは、今の向こうの持ち合わせでは払い切れない額になるみたい。


 結局はこの3アイテムの代金は、代金振り込みの後払いと言う事になったものの。お互い良い取引が出来たと、笑顔で握手してのお別れとなって。

 ともかく、これで凛香チームの出撃準備は全て整ったのだった。




 開けて土曜日、チーム『ユニコーン』は敷地内の“鼠ダンジョン”に腕試し探索へ。その見届け役として、今回は姫香とレイジーとツグミがついて行く事に。

 他のメンバーの、和香と穂積は来栖邸で一緒にお留守番となっている。香多奈があれこれと、遊び道具を引っ張り出してお持て成しなど行っていて。


 反して凛香チームの面々は、久々の探索に盛り上がりを見せており。ところが突入した“鼠ダンジョン”、敵の姿がほとんどいないと言う非常事態。

 どうもハスキー軍団が、過剰に間引きに入っているらしい。思わずレイジーに視線をやる姫香だが、思いっ切り視線を逸らされた。

 それならとツグミを見遣ると、ひっくり返って降参の合図。


 悪いとは思っていないっぽいが、どうもみんなと経験値モンスターを分け合わなかったのを反省している素振り。隣家チームも、敵の余りの少なさにテンションダダ下がり。

 それでも30分で中ボス部屋に辿り着くと、中には濃厚なモンスターの気配が。ここからが本番だと気合いを入れ直し、隼人を先頭に突入する面々。

 そして中では、定番の大蜘蛛がお出迎え。


「譲司、慎吾……景気づけにブッ放せ!!」

「「了解、隼人兄ちゃんっ!!」」


 隼人の言葉に、譲司は『氷槍』スキルでの魔法攻撃を、慎吾は新たに覚えた『投擲』での槍投げを敢行。両方とも命中して、大蜘蛛は天井から派手に落下して行く。

 そこに小鳩が、来栖家からレンタルされた『打ち出の小槌』で隼人にステ上昇の魔法掛け。それを貰った隼人が、同じくレンタルの『朱塗りの薙刀』を手に突っ込んで行く。


 凛香は雑魚の蜘蛛退治で、後衛と隼人の補佐を頑張っている。手にしているのは愛用の短刀で、その動きに淀みは無い。レンタルされた『羅刹の腕輪』の敏捷アップも、良い感じで効果が出ている様子。

 姫香とハスキー達は、いつでも手伝えるように後ろで構えていたモノの。中ボス戦は、5分余りで終了しての完勝。隣家チームの実力は、どうやら本物らしい。

 少なくとも、ここの中ボスを軽く退ける程度には。


 ドロップにスキル書こそ出なかったが、キッズ達の表情は明るい。もっと奥まで潜るぞと、ドロップをもっと求める声が威勢よく上がっている。

 姫香もこの先の情報は知らないが、この実力なら問題無いかなと黙ってついて行く構え。いざとなればレイジーもいるし、自分とツグミのペアもサポートしている訳だし。

 チーム『ユニコーン』の快進撃は、まだ始まったばかりだ。



 来栖邸のリビングは、子供の騒ぐ声と流れてる音楽で騒がしい程。流れているCDは、かなり昔の『ユニコーン』と言うバンドのセカンドアルバム。このバンドも広島出身で、ボーカルの奥田民生はソロでの活動でも有名に。

 1stと2ndアルバムは秀逸だったこのバンド、しかし3枚目以降は段々とコミックバンドと化して行き。サザンの逆パターンで、タイトルからして『ヒゲとボイン』とか『おどる亀ヤプシ』とかふざけ倒している。

 地元のファンからしたら、とても残念なバンドではあった。


 そして子供たちが対戦で熱中しているのは、対戦型の古いゲーム『ぷよぷよ』だったり。これは広島のゲーム会社が製作した落ちゲーで、当時は爆発的に流行ったのだけれど。

 残念ながら制作会社は、こちらもテーマパークなど変な方向に突っ走って倒産してしまった。ぷよまん(お饅頭)などの発売で、一世を風靡したのは確かではあったのだが本当に残念。


 交代でそれを楽しむ子供達を眺めつつ、リビングの護人は探索中の面々に思いを馳せるけど。レイジーも付いてるし、それ程の心配もしていない。

 それより11月には、香多奈の誕生日が待っている。紗良が秘かに準備を進めている様だけど、護人も何か企画とかした方が良いのか悩んでいる。

 例えば、新入りキッズと合同で大きなパーティを開くとか。


 逆に家族と小さな会にした方が、香多奈は喜ぶかも知れないし。その点は、姉たちと相談して決めた方が変な話にならずに済むような気がする。

 とにかく、一度拗ねたら機嫌を戻すのが大変な末妹である。下手に自分だけで暴走せずに、慎重に準備を進めたい。この年代の娘は、とにかく愛情を形で確認したいモノ。

 姫香の時の試行錯誤で、保護者レベルも上昇している護人であった――



 6層以降の敵だが、大ネズミに加えてネズミ獣人やら大蜘蛛の1サイズ上が出て来て。それらを順調に、変に崩れる事も無く駆逐して行く凛香チーム。

 この洞窟タイプのダンジョン、6層以降も構造は単純で大助かりである。支道も各層にせいぜい2つか3つ、そこに潜むシャドウはツグミが勝手に倒して行って。

 宝箱も同時に、彼女が見付けて来てくれる始末。


 どうも凛香チームに関しては、支道をいちいちチェックする癖は無い様子。罠の類いを解く術を持つメンバーがいないので、今までも命重視で危険には近付かなかったらしい。

 チーム『日馬割』の場合は、深く考えず支道に入って宝箱も開けていたけど。ペット達の野生の勘頼みで、幸い変な罠には今まで遭遇する事も無かった。

 どうやら都会のダンジョンは、罠も相当ひねくれているらしい。


 8層に至っても、凛香チームの進行速度は怯む事は無かった。このチームの戦闘スタイルだが、隼人がとにかく1トップで暴れ回るタイプのアタッカーを担っており。

 凛香が短刀で、アサシンのように気配を消してサポートに徹している感じ。スキルも『短刀術』と『幻術』を持っているそうで、敵を惑わしたり急所を狙って一突きで仕留めたり。

 弱いモンスターなら、その作戦でほぼ押し切る事が可能みたい。


 隼人に関しては、『透過』と『切裂』と言うスキルを所有していて武器系のスキルは無し。威力のある武器を力任せにブン回しているが、それでも『切裂』を乗せれば必殺技に昇華する。

 『透過』も使い方によっては強力で、硬い敵を内側から破壊する事も可能なスキルだ。最近の特訓で、理力の使い方も魔人ちゃんから熱心に学んでおり。

 戦士としてのランクを押し上げるのも、そう遠い話では無いのかも。


 後衛の小鳩は、『光導』『風癒』と言うスキルでチームのサポート役だ。来栖家から『混迷の杖』を借り受けて、戦闘にも参加は可能になったのは嬉しい点である。

 更には『風癒』と言う回復スキルを最近覚えて、本人的にも大感激だ。それまでは『光導』と言う、何となく正解のルートが分かる探索系スキルしか持っていなかったので。


 そして同じく後衛の譲司は、元から持っていた『氷槍』と言うチーム唯一の攻撃魔法の持ち主である。そして新しく覚えた『記憶術』で、最近は勉強も楽しくなって来たようで。

 ゼミ生達が取り扱う、温室栽培や錬金術にも興味を持ち始めている模様。将来は、有名な学者さんになるかもだけど、それは現時点では分からない。


 最後に慎吾だが、『探知』に加えてつい最近『投擲』スキルを覚える事が出来た。それによってようやくの事、戦闘参加が可能にはなったけど。

 本業は相変わらず荷物持ちで、大抵は後ろからついて行く感じ。チーム最年少の13歳なので、その点は仕方の無い事なのだろうけれど。





 ――とにもかくにも、確変した凛香チームの先行きは明るい感じ。






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