ミケの暴走で再ダンジョン突入が決定する件
皆で協議した結果、取り敢えずは“魔素鑑定装置”で用水路近くのダンジョン前の魔素濃度をチェックする事に。その結果で対処を考えようと、家長の護人が出した結論である。
とは言え、悪い予感と言うのは割と高確率で当たるのも事実。そして思い出す、そう言えばこのダンジョンも随分長い事“間引き”していなかったなと。
これは不味いかもと、思った護人の予想は大当たり。
「それを踏まえて、ミケさんが気を利かせて間引きをしてくれていたのかなぁ、姫香お姉ちゃん?」
「いや、違うでしょ……あれは最近、私達が構ってあげて無いから拗ねてるんだよ。もう半分は、子供に狩りを教えてやる的な本能みたいなモノなんじゃないの?
ミケのドヤ感が、ひしひしと伝わって来てるよ」
確かに姫香の言う通り、息絶えて魔石になったモンスターに、今は胡乱な表情を浮かべているモノの。その前のミケは、獲物を狩って来てやったぜ的な得意満面のオーラが凄かった。
猫の本能がどの程度作用しているのかは不明だが、姫香の推測は概ね当たっている気がする。とは言え、ただの猫の筈のミケが、ネズミ型とは言えモンスターを狩れるモノだろうか?
しかも当の本人は、怪我すら負ってなくて余裕の表情。
そして狩りの続きを催促すべく、ダンジョンの入り口で入るぞと催促の鳴き声。香多奈に限っては、それを受けて皆の革スーツを取りに母屋へと走り出す始末。
せっかちなその行為に待ったを掛けて、護人はしばし思案する。昼からももちろん野菜の植え付けはあるし、応援に来てくれている老夫婦が危険に見舞われる事態は防ぎたい。
待機中の植松夫婦に、護人は手短に現状を報告する。それから念のためにと、午後の手伝いは丁寧に断りを入れる。本音を言えば、今日1日で仕事は一気に終わらせたい所。
それでも安全の確保が第一なのは、“大変動”以降のこの世界では常識でもある。そんな護人の思惑も知らず、子供たちはテンション高くダンジョンに潜る用意に余念が無い。
それを受けて、ハスキー軍団も俄然ヤル気満々。
愛想の良い事に、ミケは皆の準備が整うまでダンジョン前で大人しく待ってくれていた。護人達の装備や武器は、前回と同様で大きく変化は無い。
ルルンバちゃんも香多奈に抱えられ、前回と同様の付属品を携えて参加する。そして香多奈も、護人からスマホを受け取って撮影役に徹する様子。
心配顔の護人だが、大泣きされるので断固阻止も出来ないと言う。
「ミケが待ち侘びてるよ、それじゃあ気を付けて探索しよっか……護人叔父さん、出発前に何か一言!」
「ああ、いや……安全第一で、危なくなったら引き返す方針で行こう。特に香多奈、絶対に前に出ないようにな?」
「分かってるよ、叔父さんっ……盾も持ってるし、紗良姉さんの横から動かないようにするよっ!」
やる気充分の姫香にコメントを求められた護人は、取り敢えず最年少の香多奈にクギを刺しておく。そして待ち侘びた様子のミケに視線を向け、こちらの準備は出来たよのサイン。
それを受けて、のそりと風格を漂わせて動き出すミケランジェロ。子供たち付いておいで的な仕草で、先頭をゆっくりと歩き始める。
そして始まる、来栖家パーティ2度目のダンジョン突入。
洞窟内の雰囲気は、初回の裏庭ダンジョンと大差が無いような気がする。広さや暗さも同様、唯一の大きな違いはミケが先頭を進んでいる事だろうか。
その次に護人と姫香、それからスキルを得たレイジーが続く。ルルンバちゃんもご機嫌に、後方から大きな音も立てずに付いて来ている。そして第1層の、敵が早くもお出迎え。
ミケもとっくに感付いていて、その対応はまさに迅雷神速だった。彼女の毛が逆立ったと思ったら、地面を走り寄って来ていた大ネズミ3匹が感電したように次々と倒れて行く。
そこにすかさず近接攻撃、喉元に噛み付いて止めを刺す。それにレイジーとツグミも追従して、護人と姫香は武器を振るう隙も無いと言う。
「……護人叔父さん、今のはナニ? ミケが何かこう、雷みたいなのを放った気がしたんだけど。ひょっとして、魔法系のスキルとか覚えてたり?」
「ミケさん、凄いねぇ……妖精ちゃんも、今のは魔法だって言ってるよ? 詳しい事は分かんないかな、妖精ちゃんはミケさんには絶対に近付きたくないそうだから」
「うぅむ、ひょっとしてネズミ退治の最中に、偶然スキル書を入手しちゃったとか? どちらにせよ、ミケはウチの戦力として期待出来るな」
護人の言う通り、一層の通路はミケの独壇場となった。サポートにレイジーとツグミが頑張る程度で、護人と姫香は武器を振るう機会は全く無し。
ところが2層への階段が見付かった頃、肝心のミケの様子が何だかヘンに。酔ったように小さな体かふらついて、どこかエネルギー切れを思わせる。
最終的には、護人の足元に近付いて頭を擦り付ける仕草。
それから座り込んで、一歩も動こうとしなくなってしまった。どうやらMP切れを起こしたんじゃないかなとは、同じ経験のある姫香の推測である。
彼女も自分のスキルを、暇な時間に色々と試してみたようで。つまりは調子に乗って使い過ぎると、こんな風に身体に力が全く入らなくなる事態に陥るとの事。
それにしてもさすがニャンコ、後は任せると気紛れな潔さは天晴。仕方無く、護人はミケを抱え上げて後衛の紗良に預ける。持参のリュックに頭だけ出して、収納して貰えはそれ程には今後の探索の負担にはならないだろう。
ちなみにこの1層の脇道は1つ、覗いてみたら大蛭モンスターの巣だった。レイジーに頼んで焼き払って貰い、ドロップした魔石をルルンバちゃんに回収して貰って終了。
「確かに、ヒルには近づかないに限るねっ。奴らは知らない内に、肌に引っ付いて血を吸って来るもんね。
ってか、レイジーと護人叔父さんって、普通に会話が成立してない? レイジーが賢くなってるのかな、ツグミとコロ助はどうだろう?」
「そう言われたら、確かにそうかもな。香多奈が普通にルルンバちゃんや妖精ちゃんと会話をしてるから、俺も何となくそんなモノだと思っていたかも。
ひょっとしたら、これも“変質”の一種なのかも知れないな」
そうなんだと、納得した感じの姫香ではあったモノの。私もツグミと会話出来るようになるぞと、余り深く考えていない事はモロバレだったり。
それより1層では全く戦う機会の無かった前衛陣、姫香は次の層では頑張るぞと暴れ足りなさをアピール中。確かに雑魚の大ネズミ辺りでの肩慣らしは、必要かもと護人も思う。
何しろミケはいきなり戦力外だし、本番は次の2層からかも。
そんな意気込みの第2層も、やはりメインの敵は大ネズミだった。一度に出現する数もそれなりで、戦ってみてその厄介さが身に染みる。
何しろ奴らは小柄で、地面すれすれを素早く駆け寄る生き物なのだ。前回闘った蟻型モンスターと、殴るべき位置と言うか高さがまるで違って来る。
蹴った方がまだ早い、実際姫香は途中からそんな対処方法に。
逆にハスキー軍団は、水を得た魚と言うか普段の狩りの方法で順応出来ていた。護人と姫香が手古摺っている中、各々が向かって来るネズミ軍団に迅速に対処している。
お陰で、半ダース以上いた敵も後衛に届かず始末出来てる感じ。ワーキャー言いながら撮影している香多奈には、まるで緊張感は窺えない。
そして数分後には第1陣は全て消滅、すぐに第2陣に遭遇するもその頃には護人と姫香にも多少の慣れと余裕が生まれていた。器用に武器と蹴りとを使い分けて、大ネズミの群れを蹴散らして行く。
ハスキー軍団も同様で、レイジーに至ってはスキルを使う素振りも見せない。雑魚と分かっているのだろうが、その姿はある種の風格すら窺わせる。
そして突き当りに到着、紗良の報告では脇道は2つあったそう。
どちらにも小部屋が奥にあって、居座っていた敵も1匹ずつだったとの事。いたのは大ムカデと大モグラと言う、ある意味厄介な奴らだった。
これには護人が、紗良から盾を借りての対応で乗り切って事なきを得た。その隙に姫香がスキルを使って、ほぼ一撃で始末する作戦が功を奏した。
「あっ、モグラの巣に何か落ちてる……ツグミ、こっち持って来て!」
「おっと、これは栄養ドリンクの瓶かな? 相変わらず古い容器に入ってるな、恐らくは捨てたモノを再利用してるんだろうけど。
利用する側からしたら、これに口を付けたくは無いよな」
「家から空ボトルを持って来てるから、それに移し替えておきますね? ミケちゃん、休んでる所をゴメンね……ちょっと中のモノ取り出すね?」
前衛陣が休憩している最中に、紗良がポーションの移し替え作業をこなす流れ。同じく休息中のミケだが、回復する見込みは無さそう。
妖精ちゃんによると、回収した液体は普通の回復ポーションらしい。ダンジョン産ではありふれた薬品だが、それでも売値は100mlが千円程度である。
とは言え、残念ながら回収出来たのは200ml足らず。
第3層も、本道は大ネズミの縄張り……と思いきや、天井から土蜘蛛が飛び降りて襲って来た。妖精ちゃんとレイジーのお陰で、不意打ちこそ喰らわなかったモノの。
初対面の敵の登場に、一同に緊張が走ったのも事実。特に護人が、大型の蜘蛛を苦手としている事もあって。そのワサワサとした動きに、前衛の対処が一瞬だけ揺らいだ場面も。
「いや、スマン……何と言うか、蜘蛛を見るだけで体に怖気が奔ってな。それが座布団サイズともなると、対面するだけで腰が抜けそうになるな。
迷惑かけるけど、後ろには通さないから安心してくれ」
「あっ、黙ってましたけど……私も蜘蛛とかムカデとか、カマドウマとか家の中に出没する虫は全般的に苦手です。毎回ほぼ全部、姫香ちゃんと香多奈ちゃんに退治して貰ってます。
2人は田舎あるあるだって、全然余裕そうですけど……」
アレは確かに嫌だよなと、全力で同意の護人である。そんなんじゃ田舎で生きていけないよと、5年間の半端ない対応力を示す妹達だったり。
この虫騒ぎは、春先や秋口にありがちな田舎ならではの嫌な恒例行事である。長い事田舎で暮らしていても、慣れない者もいるのは当然。
ゴキブリと一緒で、毒とか無くても嫌な人は一定数いるのだ。
この先も出て来ると思うと、気の重い護人ではある。半面、ハスキー達はこの敵は苦手とか、我が儘を言わないので有り難い。
強心臓の持ち主のハスキー軍団は、どうも戦闘本能の方が勝っている様子。実際、この層の支道に居座っていた大蛇相手にも、果敢に攻め込んで行くその勇姿。
猛烈なアタックに、3メートルを超す大蛇も2分で昇天。
「……蛇も嫌だな、特にビッグサイズともなると」
「蛇は殺すと祟るからねぇ……あっ、でも魔石になったから関係無いのかな? 無事に成仏してくれたって事だよね、それなら安心なのかな?」
「前の部屋にいたワームよりは、手応えがあったな……段々と敵も手強くなって来てるな、次の層も行けるかな」
紗良と姫香の良く分からない遣り取りに、護人の冷静な感想が続く。確かに手応え的には、この前に潜った裏庭ダンジョンよりはありそうな気がする。
モンスターの数はどっこいだけど、通常の敵に関しては向こうの蟻型モンスターの方が強かったか。ただし今後も大蜘蛛が本道の敵に混じると、こっちの方が難易度は高くなるかも。
などと思っていたら、ルルンバちゃんが何かを発見。そこは大蛇を退治した突き当りの小部屋で、半ば土に埋まっている状態だった。
姫香が発掘を手伝ったところ、それは古びたブリキの箱だった。まるでタイムカプセルだが、案外と元はそうだったのかも。
「やった、これにもお宝が入ってたよ……えっと、これは鑑定の書かな? 2枚あるね、後は変な尖った骨が一緒に入ってるね。
素材かな、そっち系も売れるんだっけ、香多奈?」
「あ~っ、何かパンフレットにはレア素材も高価で買い取りますって書いてたかなぁ? 多分買い取って、武器とか装備にするんじゃないかな。
叔父さんっ、高く売れると良いね!」
そんな感じでテンションの上がった子供達は、当然のように更に下層へと降りるつもりの様子。手綱を握る護人だが、一歩引いてしまいがちな性格のせいで止める術も無し。
ハスキー軍団も疲れ知らずで、先頭を行く姫香に追従の素振り。
――とりわけ順調に、2度目のダンジョン攻略は進んで行くのだった。
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