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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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数年ぶりの秋祭りが開催される件



 その日は朝から、日馬桜町は結構な人出で賑わっていた。この近辺の町で“大変動”以降、お祭りの開催をする地域が無かったのもその要因ではあるけど。

 やはり2日連続での青空市の出店は、人々の購買意欲をそそるイベントに違いなく。更にはお祭りのワクワク感がいろどりを添えて、道行く人々の顔はどれも明るい。


 そして朝から出店する屋台は、いつもの青空市の3倍以上と言う賑やかさ。ほとんどが食べ物関係の屋台だが、娯楽関係や企業が出展したブースも、いつもの倍に及んでいる。

 つまりはお祭りで、その騒々しさはとうとう元中学校グランド跡地を飛び出して、その周囲の道路にまで及んでしまう始末。お陰で前段階での場所取りは、割と熾烈を極める有り様。

 来栖家もとうとう、定位置のグランドを追い出される破目に。


 それでもまぁ、グランド入り口の良い場所を取れてかえって良かったかも。あまり内側にブースがあると、逆に動き辛い可能性も出て来るかもなので。

 そんな訳で、恒例のキャンピングカーを後方に配置しての、来栖家の販売ブースはきちんと形を成して。その上今回は、チーム『ユニコーン』から応援も担ぎ出しての万全態勢を敷いている。


 これ以上の態勢は無いって位にしっかりして、臨んだ11月の2日連続の青空市の初日だけど。恒例のように午前中は大盛況、並べた野菜や秋の果物がマッハで売れて行く。

 その暴虐の嵐に、全く慣れていない凛香と小鳩は1時間掛からずに目を回す始末。お客の買った品を暗算で計算しないといけないし、場合によってはまけても良いよって話だし。

 そんな事言われても、自分達の計算力にも自信の無い2人である。


 お客の大半はおばちゃん連中で、割とせっかちと言うか容赦が無い。普段は愛想も良いのだろうが、食糧問題とか生活がかかると簡単にタガが外れる生き物で。

 それの相手は、ある意味モンスターに対峙するより大変かも。そんな事を考えながら、必死にお客を捌く手伝いに励む凛香と小鳩だった。


「ふうっ、あんまり熟成してない干し柿も結構売れるんだねぇ……もう無くなっちゃった、でも明日もあるから補充はしなくてもいいかな、姫香ちゃん?」

「そうだね、大根もほぼ売れたし……キャベツと白菜も半球で売ろうかって言ってたけど、一玉ひとたまで普通に完売しちゃったねっ!」


 キャベツも白菜も、丸々とした出来のモノが飛ぶように売れて行ってしまった。今日は早めに開店して良いって話だったので、9時前からお店を出していたのだが。

 周囲の出店も似たようなモノで、それに釣られて人通りも朝から途切れない有り様。そして来栖家の販売ブースも、そんな来客の群れを一気に集める事に成功して。


 ってか、せっかくのお祭りに集まってくれた人々が、荷物が多くてそのまま帰ってしまうのも考え物。そこで広大な背後のスペースを利用して、100円荷物預かりサービスを実行。

 これは香多奈の発案で、せっかくのお祭りなのに荷物があったら楽しめないよねの言葉から。ウチで買ったモノを、相手が帰るまで後ろの空き地に置いて貰えばいいジャンとの言葉をもとに。

 そしてこのサービス、ほとんどの人が利用する盛況振りで。


 荷物整理に駆り出された隼人や慎吾は、もうそれだけでてんてこ舞いの有り様。接客業など初めてらしく、要領の悪さは各所に見受けられるけど。

 小鳩に叱責されながら、何とかこなす事1時間余り。こちらも野菜と果物が売り切れると、自然と混雑も落ち着いて。これが祭りかと、おののく男の子たちである。



「さてと、野菜と果物が全て売り切れちゃったね……ある意味、こっからが本番だからね、凛香! 探索で仕入れたアイテムを、バンバン売りに出しちゃうよっ!

 お客も探索者が増えて来るから、気合で負けちゃ駄目だよっ」

「そうだねぇ、魔法のアイテムも今回は混ぜようと思ってるし……後は目玉的には、薬品類も余ったのを売りに出すつもりだから。

 こっちは、一般の人も欲しがるかもだから、効能の説明には注意してね」

「う、了解した……気合いを入れて臨もうか、小鳩」


 どう頑張れば良いかは不明だが、取り敢えず気合いを入れるぞと意気込む凛香。この頃には、香多奈は和香と穂積をつれて屋台通りへと飛び出して行ってしまった。

 出掛ける前に、しっかりと護人に3人分のお小遣いを貰うのを忘れないちゃっかり振りで。お昼前には、法被はっぴを取りに戻るねと言い残して。


 何ともアグレッシブには違いないが、確かにこんな楽しいイベントは参加しないと意味は無いのだろう。しかも友達も増えてるし、護衛役のコロ助も大変そう。

 それにも増して、熱く燃え上がっている販売ブースの姉陣営である。1個でも多く売るぞと、今回は魔法のアイテムも多くブースに並べる作戦らしい。

 それから薬品類も余ったのを出品、こちらも目玉になり得るラインアップ。


 いつもの目玉のスキル書だが、今回は山狩りと遠征で2つのダンジョンに潜ったお陰で、何と5枚も存在する。これは売れ残ったら、チーム『ユニコーン』に融通する予定。

 他にも魔法の武器関係は、剣や日本刀や短刀と揃い踏み。装備品も耳飾りや仮面や兜と、割と豊富な商品を並べ立てている。


 他にもテント用品やソフビ人形、置物から箸やお椀から徳利とっくりさかずき、売れ残ってる椅子や木の棚や花のブーケ等々。取り敢えず置けるだけおこうと、苦心惨憺(さんたん)しての売り場作り。

 ポップを前もって作っておいて正解だったと、紗良も胸を撫で下ろして安堵している。ちなみに魔法のアイテムや骨董品は、ほぼ全部能見さんに査定して貰っての金額設定である。

 でないと、素人での鑑定で出品など恐ろし過ぎる。


 もっとも、能見さんも協会のオンライン鑑定を利用しての、業務の範囲内だったのだけれど。地元の盛り上がりに貢献するためにと、彼女も力を貸してくれて本当に有り難い限り。

 そして案の定、まず食い付きが良かったのは薬品類だった。近所のおばちゃん連中が、いざと言う時用にと解毒ポーションや解熱ポーションを買って行く。


 さすがにMP回復ポーションは、一般の人には用無しなので売れないけど。とか思っていたら、常連の佐久間が今回もチームでやって来て、エーテル含めて全部買って行ってしまった。

 その額何と11万円、思わずおまけにソフビ人形を付ける姫香であった。


 それを嬉しそうに受け取る、チーム『ジャミラ』のリーダーだったり。まぁ、趣味は人それぞれなのだが、そんな佐久間から残念なお知らせが。

 どうも西広島では“もみのき森林公園ダンジョン”のオーバーフロー騒動で、探索チームが手一杯らしく。同様に広島市でも、海側からの野良の侵攻で防御人員を取られていて。

 今回に限っては、探索チームのお客は少ないかもとの情報が。


「あらら、それは残念だねぇ……せっかく目玉商品とか用意したし、スキル書も無駄に5枚もあるのに。そっかぁ、他の町はそんな事になってたのかぁ」

「それでもお祭りと青空市の告知は、この町もしっかりしてたからね……他の町からお客が来る可能性もあるし、頑張ってね。

 ウチらも影ながら、チームの応援してるから」


 チーム『ジャミラ』のチーム員にそう言われ、ありがとうと満面の笑みで返す姫香。さすがに売り子歴も半年と、場数を踏んで来ているだけある。

 それを眺めて感心し切りな凛香と小鳩、何しろ対応したお客のデレ具合と来たら。こうやって陥落して行けば良いのかと、変な方向から女子力を吸収する2人である。


 その後に訪れた、これまた常連のニコルからも似たような情報を仕入れ。彼は悩んだ挙句、目玉商品の1つの『般若の仮面』を購入に至って。

 仮面は別に、顔に被らなくても良いとの紗良の説明で、思い切って購入する事に決めたようだ。これは全ステータスアップの良品で、売値は15万だったのだけど。

 どうやら他の探索者も、結構儲けて懐は温かいみたい。


 ニコルは他にも、龍と鯉の金の置物が気に入ったみたいである。目玉商品購入のお礼にと、紗良はこれを安く譲る事にして。

 別れ際は、これまたお互いに満面の笑みと言う。凄いなと呟くキッズ女子たち、売り子のスキル侮りがたしと無駄に力が入っている様子。



 そこからはやはり、探索者の姿はほぼ見掛けなくなって。ただ、どこかのおっちゃんが柳の釣り竿とルアーを、全て買って行ってくれたのを皮切りに。

 それを隣で見ていた別のおっちゃんも、購買意欲をそそられたのか。鬼原ダンジョン産の、陶器の徳利と盃数種類を全てご購入の流れに。

 ただしそこから、売り上げは伸び悩みを見せ始め。


「やっほー、姫ちゃんに紗良お姉ちゃんっ、お久し振りっ! はるばる広島から、怜央奈ちゃんが遊びに来たよっ♪」

「あらっ、怜央奈じゃんっ……久し振りっ、元気そうねっ! 何か広島市って、今は大変だって聞いてたけど。大丈夫なの、そこら辺の事情は?」

「う~ん、野良対策の見廻り業務は確かに増えてるけど。働いてばっかりいられないし、お祭りとか見に来たかったからね!

 ってか、凛香ちゃんもいるじゃん、何でっ?」


 そんな時、突然に思わぬ友達の来襲が。怜央奈は相変わらず賑やかで、凛香の存在を目にして驚いている様子。どうやら向こうで、ちょっとした顔見知りだった様子。

 当の凛香は痴れっとした表情で、動画を観てこっちに引っ越して来たと簡潔に事情を説明。それは凄い行動力だねぇと、素直に感心している幼い怜央奈である。


 それから勝手にブースの中に入って来て、お店手伝うから今夜泊めてと可愛いお強請ねだりを発動。世渡り上手だなと感心する凛香の目の前で、あっという間に話はまとまって行く。

 後方の護人への確認は、それ程に簡潔に終わって慣れたモノ。


 それよりそろそろお昼だから、交替で食事をしなさいとテーブルに座っていた護人の発言に。それじゃあ買い出し部隊を募るよと、姫香の威勢の良い号令掛け。

 それに挙手したのは、隼人や小鳩と言った新入りキッズたち。護人は少し考えて、それじゃあ紗良と凛香を店番に残して、護人が護衛役に同じくここに残ると明言。

 他のメンバーで、屋台に買い足しに向かうようにとお金を渡す。


 そのタイミングを見計らったように、嵐の勢いで戻って来る香多奈達。その第一声がお腹空いたと毎度な発言なのは、既に末妹クオリティで慣れ切っている家族の面々である。

 そして恐らく、途中で買い食いもしているとの推測も当たっている筈。それを指摘しないのも、ある意味家族の優しさなのかも知れない。


「それじゃあお小遣い渡すぞ、自分の欲しいのとみんなの分を買って来るように。今日は屋台も人通りも多いから、小さい子は迷子にならないように気を付けて。

 年上の子は、しっかり面倒見てあげてな」

「「「は~い」」」


 そんな訳で、軍資金を貰った面々はお互いに何を買いに行くかを綿密に話し合う。こんな時は、姫香と隼人も無駄に火花を散らさないのは偉いと思う。

 それから各々の目的は決まったらしく、キラキラした眼の年少者を引き連れて買い足し部隊は市場へと散って行く。見守る凛香は、少しハラハラしながらそれを目で追っていたが。

 結局口出しはせず、初めてのお遣いを見守る親の気分を味わう事に。



 それから15分後、混み合った屋台から誇らしそうに戦利品を持ち帰る子供たち。まるで狩りに成功したかのように、増設したテーブルへと戦利品を並べて行く。

 今回も焼きそばとお好み焼きがメインだが、定番のフランクフルトや、珍しい焼きイカや揚げパンなんかも今回は売っていたようだ。どれもまだ温かく、匂いが食欲をそそる。


 子供達も待ち切れない表情で、頂きますの言葉と共に一気に食欲を満たしに掛かる。やはりお好み焼きが一番人気で、護人は仕方なく残った焼きそばを手にする。

 和香と穂積も、1つの焼きそばを分け合って食べている。この2人は特に食が細いので、紗良も気に掛けている様子ではあるけど。

 今回に限っては、恐らく香多奈との途中の間食が原因かも。


 焼きイカの評判は、子供たちの間でも特に高かった。広島市に在住中にも、海産物の類いは滅多に見掛けなかったそうで。山間の田舎町の屋台すげぇと、隼人などは感心し切りな模様。

 ただし、これは恐らく大きな企業が一口嚙んでいると思われ。祭りを盛り上げようと、自治会の面々があちこち奔走した結果なのかも知れない。


 食事中も、販売ブースに客が訪れるのを気にしている紗良だったけど。本当に探索者の姿は少なくて、吉和のオーバーフロー騒動の大きさが窺える。

 怜央奈の情報では、広島市の騒ぎは段々と沈静化して行ってるようだ。何しろA級ランカーを擁する『反逆同盟』が、早くからこの対応に当たっているそうで。

 海を根城にする、大型モンスターはほぼ制圧済みとの事。


「あっ、でも甲斐谷さんのチームはこの後遊びに来るよ? ここまで一緒に車で来たからね、お祭り騒ぎに釣られて今は他の屋台を歩き回ってるかもだけど。

 何か来栖家チームに、大事な用事があるって言ってた♪」

「えっ、そうなの……何の用事だろう、厄介事はもうゴメンなんだけど? 何しろこっちは、先月の大規模レイドで散々な目に遭っちゃったからね。

 大体、あのチームも最初はダムの間引きメンバーに入ってたって噂じゃん?」


 怜央奈の遅ればせながらの申告に、鋭くツッコむ姫香である。何だかんだで、この2人のコンビは一見マイルドに見えて切れがある。

 だがしかし、それはどっちにしろ護人叔父さん案件だよねとの姫香の言葉に。いや自分は午後からは、香多奈の晴れ姿の撮影作業がと言い逃れる家長である。

 ただまぁ、販売ブースに大人がいないのも結構心配で。





 ――とか思っている間に、噂していた影がブース前にやって来た。








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