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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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お祭り前に既にお祭り騒ぎな来栖家の件



 久々に開催される秋の収穫祭と、初の土日連続の青空市を前にした秋晴れの日。来栖家にとっては、大規模レイドから戻って間もない週末の金曜日。

 その日は来栖家も忙しくて、香多奈も明日の子供神輿を前に、学校も半ドンで家に帰宅して来て。姉たちも青空市で売る品物の準備等で、忙しく動き回っている。


 そんな中、不意に護人のスマホに協会から電話が掛かって来た。護人も実は忙しくて、自治会からあれこれと用件を言い渡されてその準備に追われていたのだ。

 具体的には、例の民泊移住の受け入れ案件である。チーム『ユニコーン』が総勢7名(しかも全員未成年者らしい)で、今日の午後に日馬桜駅に到着するらしいのだ。

 その出迎えとか色々、全て護人に任されていて。


「凛香チームの出迎えでしょ、私も一緒について行くよ、護人叔父さん。魔法の鞄とかも持って行った方が良いかな、引っ越し荷物とかあるなら楽に運べるだろうし」

「あっ、じゃあ私も行くねっ……キャンピングカーでみんなで出迎えに行こうっ!」


 香多奈のいつもの調子のおねだりだが、紗良は冷静に家屋の中の掃除がまだ中途半端なのだと報告して来て。それを行うのに、もう少し人手が欲しいと告げて来る。

 何しろ山狩りだ遠征だと、10月はとっても忙しく過ごしていたので。その上突然に厄介な隣人が転がり込んで来て、授業など始める始末。


 午後は姫香が張り切って、裏庭で特訓などを開催するので。新しいメンバーの受け入れ作業は、どんどん後回しにされて行く結果に。

 それに被さって、農作業やらキウイやら何やらの収穫作業、ゼミ生が始めた温室栽培や工房作業がモロに紗良の自由時間とリンクして。

 隣の空き家の管理人の、紗良のお掃除時間が取れないと言う。


 そう説明すると、素直な香多奈は仕方が無いなぁと言う表情で。それなら手伝うよと、あっぱれな返答で姉のお手伝いを申し出る。

 そんな訳で、護衛にコロ助とルルンバちゃんが残っての束の間の別行動。その頃にはゼミ生達も家から出て来て、どうやらお手伝い確保の流れに。



「ふうっ……何かお祭りと青空市の支度もあるってのに、変な所で忙しくなっちゃってるよね、護人叔父さん。

 明日の土曜日が一番大変なのに、用意とか間に合うかなぁ?」

「青空市もお祭りも、基本は楽しめばいいんだから。そんなに根を詰めて準備しなくていいぞ……お金儲けは大事だけど、体調を崩してまでする事じゃ無いからな」


 そうだねっと、こちらも素直な返答の姫香。それよりギルドメンバーの新しい加入が、待ち遠しい感じて楽しそうな少女である。

 スマホを取り出して、後1時間くらいで駅に着くかなと想像を述べるけど。その程度の時間があれば、恐らくは協会の呼び出しの件も終わるだろう。


 先ほどの電話では、詳しい事情は聞かなかったのだが。どうやらギルド『羅漢』から、はるばるこの町に事情聴取にギルド員がやって来ているらしい。

 と言う事は、例の悪漢の襲撃とその撃退の動画についてだろう。まさか罪に問われる事は無いだろうが、取り調べなど行われるのなら緊張するなと言われても難しい。

 姫香に言わせれば、堂々としてれば良いとの事なのだが。


こっちは間引き仕事はキッチリ果たしたし、やましい事は何も無いのだからと。確かにそうだが、まぁ何とも男らしい返答である。

 10分後には協会の駐車場に辿り着いて、確かに見慣れぬ装甲車が端に停めてあるのを確認して。レイジーとツグミと共に、車から飛び出す護人と姫香。


 そして協会の中で対面したのは、遠征でも顔を合わせた雨宮だった。あの件ではお世話になりましたと、社交辞令を交しつつお互い席について。

 仁志支部長の同伴と、能見さんのお茶出しを待ってすかさず本題へ。


「いえ、こちらも提出された動画のチェックを、先日全チーム分済ませまして……当然の如く、問題を起こした3チームからは、破壊されたとカメラの返却はなりませんでした。

 連中も無傷で済んだ者はいなかったようで、恐らく今後のチーム活動の続行は難しいでしょう。そこはチーム『日馬割』に責任はありません、それはお話の前にハッキリさせておきましょう。

 ただ今後の為に、詳細を確認して来いと上からのお達しで……」

「はぁ、そう言う事ですか……こちらも多忙で時間をあまり取れないので、1時間程度で良ければお付き合いしますが。

 それ以上時間が必要ですと、来週まで待って貰わないと」


 取り敢えずは時間が無い事を必要以上にアピールしつつ、事情聴取の時間短縮を狙いつつ。いや、多忙なのは本当なので何も下手に出る必要は無いのだが。

 仁志も素早く動画チェックの準備を進めて、さっそく問題の個所を中型のモニターに流し始める。しかも香多奈の撮影のスマホ動画と、ルルンバちゃんに設置された動画の2台分だ。


 撮影角度が微妙に違って面白いが、流されたシーンは全く笑えない内容だった。用意周到な相手の襲撃準備から、弱い者を人質に取るまでの流れるようなコンビネーション。

 そこからのハスキー軍団の反撃と、ミケの熾烈な人質救出の手際はともかくとして。護人が武器を回収して、それを別の層へ捨てる場面もバッチリ収録されていて。

 その手際を仁志と雨宮に褒められて、何故か鼻高々な姫香である。


 それから画面は思いっ切り早送り、護人は家族チームがバラバラになった際の襲撃も話すべきかと独りで問答する。アレは確か10層だったか、やたら大型モンスターに絡まれて。

 ここまでわざわざ来てくれたのだし、報告義務もある気がするので。何気ない風で、さり気なく罠にかかってからのソロ道中で、チンピラ探索者チームに襲われたと独白。


 そいつ等はレイジーの炎の魔狼に追い払われたが、どうやらその後無事にダンジョンを脱出したようで。何とか利益をあげようとしたのか、護人のキャンピングカーに目を付けたらしく。

 誰も見咎めていないのを幸いに、犯行に及ぼうとしたところ。留守番を頼まれていた魔人ちゃんに、これまた熾烈な反撃に遭ったみたいで。

 待機スタッフの話によると、腕の落とし物を3本ほど届けられたそうな。


 ありがた迷惑な話だが、護人からすると大事なキャンピングカーを荒されずに済んで何よりである。幸いにも、そのチームからも文句の類いは聞こえて来ないし。

 それはギルド『羅漢』の方も同様で、そのチームからは何の音沙汰も無いと請け合ってくれた。今後接点さえ作らなければ、万事オッケーであると信じたい。


 それよりもと、仁志支部長が再び画面に注視するように皆に呼び掛ける。場面は問題の12層の襲撃で、これには完全にハスキー軍団も虚を突かれたのが動画からも分かる程。

 しかもマシンガンである、恐らく米軍基地からの流用品だろうと雨宮は推測しているが。そんな解説は不要と言うか、ハスキー軍団の逆襲が割と酷い。

 とは言え、撃たれたコロ助の事を思えばそれも当然だが。


「あの時、何でコロ助は勝手に巨大化したのかなぁ? 香多奈は応援してないし、何か瞬間ワープとかもしてるみたいだし。スキルって、まだまだ不思議な事あるよね。

 私も新しいスキル、この時は思わず使ってるけどさ……今は発動しようとしても、上手く出来ないよっ」

「確かにそう言う事は多いな、何故かは分からないけど。向こうがこちらの意思を汲んでくれるって事が、ひょっとしてあるのかも知れないね」


 なるほどと言ってる間に、動画は来栖家チームがワープ魔方陣で退出するシーンに。あの時はコロ助の怪我が心配で、襲撃犯に腹が立って仕方が無かったけれど。

 噛み殺されたり土に埋められたりした相手チームには、やっばりさほどの憐憫の情も湧いて来ない有り様。天罰とまでは言わないが、しっぺ返しを食らっただけだ。


 側で見守っている能見さんも、蒼い顔をしているが批難の表情は浮かべていない。仁志支部長も雨宮も同様で、優秀な護衛犬に称賛の声まで上げる始末。

 それからこの襲撃は、確実に相手の命と財産を狙っての確信犯だと決定づけて。そもそも懲罰機関が上手く作動していない現代において、どちらかを罪に問う事も不可能と口にする。

 更には、彼らを庇い立てる自警団や行政も存在しないので。


「そんな訳で、今回は来年以降の大規模レイドへの反省点として、不味かった点の洗い出しみたいな感じで来させて頂いた次第でして。チーム『日馬割』的には、3度もの襲撃に遭って本当にお気の毒でしたとしか言いようは無いのですが……。

 機会があれば、是非とも来年の参加もお待ちしております」


 それはちょっとと、思い切り嫌な顔をする護人に雨宮も思わず苦笑い。仁志支部長はこの会合が穏便に終わって、ホッとした感じで人知れず背伸びをしている。

 姫香が調子に乗って、チーム『日馬割』は今後ギルドになって大きくなる予定だと大風呂敷を広げに掛かる。そして今後は、大規模レイドも信頼出来る相手としか潜らないと宣言。


 それは護人の方針とも沿うのだが、さすがに規模が大き過ぎると能見さんも隣で笑っている。ただそれは馬鹿にした笑いではなく、妹の世間知らずの夢を応援する笑みのよう。

 護人も同じく、そうやって自衛の安全手段を模索するのも大事かなと思い直していたり。世の中が安全であるためには、探索業はどの道今後も必要なのだ。

 それを来栖家が担うのならば、少しでも安全度は上げて行くべきだ。


 それから少々の世間話やら、業務伝言などを交えて話を交わして。能見さんからは、“鬼原ダンジョン”の動画が出来上がったので、アップして良いかの確認と。

 それから“弥栄ダムダンジョン”の動画は、念入りに編集して5回程度に分けてアップして行く予定との事で。お願いしますと返事をして、こちらも紗良からの伝言を思い出す護人。


「そう言えば……装備を加工したり修理出来る職人を、何とか協会でキープお願い出来ないでしょうか? 四葉ワークスに装備の加工や修理を頼むのは、時間が掛かるし武器装備の受け渡しが大変なんですよ。

 この町に工房の類いが、1軒でも出来ればベストなんですが」

「えっ、この町には修理工房無いんですかっ!?」


 雨宮に思い切り驚かれたが、普通は協会にそっち関係の設備はあるそうだ。ギルド『羅漢』では、自前の専属工房も所有しているそうで超便利そう。

 探索に特化すれば、そっち関係の設備も当然充実させるのも常識で。むしろ命が懸かっている武器や装備を、ないがしろにする行いは推奨されていないとの事。


 それには仁志支部長も、図星を刺されて困り顔。物販の充実や修理工房の類いは、今まで本部に何度か掛け合ってみてはいるそうなのだが。

 専属探索者チームの数の少なさを理由に、なかなか許可が降りて無いのが現状らしい。それでも護人がB級に上がった事で、少しこちらに有利な風が吹いてるのも事実なのだそう。

 事務員増加を含め、来年あたりには許可が降りそうな気配も。


「……想像以上に、タフな環境で探索チームを運営してるんですねぇ、来栖さん。良ければ吉和にも遊びに来て下さい、ギルドの運営をするなら見ておく事はたくさんある筈ですし」

「そうですね、まぁその内……おっと時間は大丈夫かい、姫香? そろそろ1時間だし、出迎えのチームを待たせちゃっても気の毒だ。

 確か、小さな子供もいるんだろう?」

「あっ、そうだった……ラインには通知は無いけど、たぶんもう駅に着く頃の筈だよっ! 急ごう護人叔父さんっ、我がギルド躍進の瞬間だよっ」


 そんな御大層なモノでは無いと思うが、子供を待たせるのも気の毒なので。護人は慌てて大人たちにおいとまを告げて、協会を飛び出してキャンピングカーへと向かう。

 外に出た瞬間に無罪放免だと叫ぶ姫香と、それを意に介さず呑気に駆け寄って来るレイジーとツグミ。そのタイミングで、姫香のスマホに着信が。


 ヤバいもうすぐ着くってとの姫香の言葉に、護人も慌てて運転席へと乗り込んで。ここから駅まで5分と掛からないが、急いで車を発進させて次なる業務をこなしに掛かる。

 明日がお祭りだと言うのに、その直前にこの忙しさと来たら。何とも言えない護人だけど、子供たちはお祭り騒ぎを含めて楽しそうなのが何よりだ。

 今回の民泊移住の案件も、上手く事が進めば良いのだが。




 その移住チームだが、キャンピングカーの到着と同時に日馬桜駅のホームから元気に飛び出て来た。その佇まいは、チームと言うより仲の良い家族か兄弟のよう。

 日馬桜町の町並みだが、明日のお祭りを前に紙垂しでが住宅の並びに沿って飾られている。それを見付けて、何となくテンションが上がっている姫香だが。


 ちゃんとチーム『ユニコーン』の出迎えを忘れず、代表して進み出た凛香に片手を上げて挨拶している。それから荷物をどうぞと、魔法の鞄を差し出しての接待振り。

 護人も近寄って、噂の未成年チームをそれとなく観察するに。最年少は香多奈と同じくらいの年齢で、この子たちは確か探索者登録はしてないと言ってた筈。

 つまり、7人いる内の最年少2人は探索には同行してないって事だ。


「この小さい子2人は和香わか穂積ほずみ、穂積の方が“変質”でたまに痙攣をおこす。肌も少し異質なんで、普段は隠すように言ってある。

 和香は12歳で、穂積が最年少の11歳だ」

「そうなんだ、よろしくねっ!」


 護人の視線を感じたのか、凛香が真っ先に最年少の2人を紹介して来た。その当人たちは、2匹のハスキー達に興味津々で、挨拶もお座なりだったけど。

 次いで紹介されたのは、茶髪で体格の良い男の子だった。探索ではウチのエースだと、凛香が隼人はやとだと名前を口にして。

 どうもと少々生意気そうな口調に、姫香も何故か反応する。


 それを事前に察知して、護人が大人の対応で握手を求めて獲物を搔っ攫う。この辺は既に手慣れたモノ、こんな人目の多い場所でいざこざを起こしたくないのは当然だ。

 隼人の方も戸惑っていたが、それに構わず凛香はチーム員の紹介を続ける。残り3人は慎吾しんご譲司じょうじ小鳩こばとと言う名前で、一応全員スキル持ちとの事。

 そして凛香と隼人との5人で、探索業を担っているそうだ。


 こちらも名乗って挨拶を交わし、ついでにハスキー達の名前も教えておく。隼人からコイツ等凄く強いんだよなと、質問と言うか確認の言葉が。

 恐らく動画を観たのだろうか、姫香からアンタより数倍強いわよと余計な失言が。護人が軽くたしなめて、心中で姫香の同行を後悔し始める中。

 引っ越し荷物も片付いたようで、これで新居への移動はバッチリだ。





 ――ただ一つ、新人と姫香の格付け問題を除いては。






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