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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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キャンプ中に悪漢どもに絡まれる件



 そして恙無つつがなく夕食も終わり、姫香と香多奈がおこした焚火は割と盛大なレベルに。食後のおやつにそこでマシュマロを焼き始める子供達を尻目に、護人は作戦会議に出て来るよと一旦の離脱を告げる。

 頑張ってね~との声援を受け、レイジーには拠点を護るようにと改めて命じておいて。護人はすっかり暗くなったダムの管理所の敷地内を歩いて行く。


 夕方に確認してあったが、その拠点も軍用テントが張られていてなかなかに仰々しい雰囲気だった。その中にお邪魔すると、既に半数程度のチームリーダー達が椅子に腰掛けていて。

 簡素な机とパイプ椅子は用意されているようで、雨宮に声を掛けて貰って護人も適当に着席する。そこに居座る各チームのリーダー達は、どいつも一癖も二癖もありそうな顔付きだ。

 先行きは不安だが、とにかくこのレイド中に騒ぎが無い事を祈るばかりの護人。


 やがて定刻の8時となり、テント内の席も全て埋まって。明日の大規模レイドの作戦会議が、ようやくの事始まった。ギルド『羅漢』の雨宮が、ボードの前に立って進行役を務めている。

 そこには大きくプリントされた、“弥栄ダムダンジョン”の地図が貼られていた。車で周辺を移動しただけで、その巨大さは誰もが分かる規模の広域ダンジョンである。


 確かにこの規模を、数チームで間引きしても焼け石に水かも。そして各チームに、同じようなマップが配られて行く。そこには10層までの、獣人の集落情報が書かれているそうな。

 雨宮の話では、獣人の集落にはほぼ十割の確率で、ワープ魔方陣があるそうだ。他にも大型モンスターを倒せば、ワープ魔方陣が出る確率も高いそうである。

 5層や10層は、この方法でしか移動は果たせないとの事。


「ここに集まって頂いた10チームのうち、D級以下のチームは浅層で間引きをお願いします。逆にC級以上のチームは深く潜って間引きを頑張って頂きたい。

 残念ながら、今回はB級チームの参加は願えませんでしたが。朝の8時から夕方6時まで、各々の力を尽くして探索をして貰う予定です。

 探索行動は自由ですが、くれぐれもチーム同士の揉め事は無しでお願いします」


 その雨宮の言葉を、ニヤニヤしながら聞いている男が対面に座ってるのに護人は気付いた。髭面の巨漢で、いかにも荒事が好きそうな雰囲気を醸し出している。

 最初の面通しで、10チームのリーダーがそれぞれ軽く自己紹介したのだが。確か広島市のチームで、臨時の募集に引っ掛かった程度の実力だった筈。

 本人はC級だと名乗っていたが、果たして如何いかがなモノか。


 そんな急遽招集されたチームはもう1組あって、そちらも広島市内で活動しているチームらしい。こっちの男も長髪で目付きが悪くて、探索者と言うより強盗団のかしらにしか見えない。

 他に岩国から3チームが参加らしいが、この3チームは実力は折り紙付きだそうな。前もってのギルド『羅漢』からの情報なのだが、外人混成チームもあって乱暴者の印象も強いみたいだが。


 果たして、前評判の悪さはそんな所に由来しているのかは、今の時点では分からない。護人にしても、岩国の米軍基地に対する地元の評判などほとんど知らないし。

 ただし、そっち方面の兵士が探索者業にかなり流れて行ったのは、噂では無く本当の事らしい。中には気の良い外人さんもいるけど、想像通りの気の荒い連中ももちろん存在しており。

 そんな連中は職業柄、武器の取り扱いにも長けているのは間違いなさそう。


 そして広島市からもう3チーム、内2チームはD級でリーダーも結構若かった。浅層の間引き担当は、今回はこの2チームだけみたい。

 最後の1チームは、ギルド『麒麟(キリン)』の高島だと名乗った。確か紗良と姫香が研修旅行に行った際に、お世話になったギルドだった筈。


 向こうも護人を知っているらしく、会議が始まる前に軽くお喋りなど交わしてみたが。明日の移動で、最初の何層かは一緒に行動してはどうかと提案されてしまった。

 向こうは大規模レイドも何度か経験があるらしく、この“弥栄ダムダンジョン”も去年に続いて2度目らしい。有り難い提案なので、護人は受ける事にして。

 毎年チーム同士のいざこざは、大小に関わらず起きているのは周知の事実らしい。主催者のギルドも頭を悩ましていて、対策として録画用の小型カメラの使用を義務付けているのだが。


 その程度では、犯罪を前提とした襲撃者達のストッパーにはならないらしく。ここ数年、何チームかはチーム全員が戻って来ない事態が起こっているそうだ。

 これは明らかに変と言うか、モンスター戦なら何人かが逃げ延びる機会もありそうなのだが。だからと言って、証拠も浮かび上がって来ないまま、怪しいチームを糾弾する事も叶わず。

 そんなこんなで、対応は後手に回って未だ何も為されずな状況に。


 ちなみに録画用の小型カメラ一式も、地図と同じく全員分配布された。これは返却義務があって、後詰めにギルド『羅漢』のスタッフが1名控えるそうなので。

 午後の6時になったら、各自ダンジョンを出て貰って構わないそうだ。その際にカメラを返却して、それで随時解散して帰路について貰って良いとの事。


 全員が揃うまで待つなんて、個人主義の蔓延する探索者の間では文句ばかり出て無駄らしい。悲しい常識だが、護人にしても子供たちを連れてさっさと帰れるのは有り難い。

 探索も特にペースを問われないみたいだし、自分達のやり方で構わないそうである。話ではバギーやらバイクを持ち込むチームもあるそうで、そんなチームも階層クリアは速そう。

 そんなこんなで、代表会議は定時通りに終了して。


「来栖さん、明日はよろしくお願いします……初参加のチームは、あなたの所と広島市のD級チーム2つだけみたいですね。

 恐らくギルド『羅漢』の雨宮チームも、途中まで一緒に行動してくれるでしょう」

「そうなんですか、お世話掛けますがよろしくお願いします。ウチのチームは、ちょっと独特なので迷惑を掛けるかも知れませんが」


 ギルド『麒麟』の高島に話し掛けられた護人は、明日の探索への予防線を張るのに忙しい。ってか、意外と複数回参加のチームが多いという話に、衝撃を受けてしまってる護人である。

 それから他愛ない会話を交わしながら、暗闇の中を2人で歩いていると。血相を変えた子供達が、ハスキー軍団に伴われて暗い木立から飛び出て来た。


 護人を見付けると、安心したように駆け寄って来る子供たち。何事かと慌てる護人だが、どうやら彼の不在中にキャンプ地点でひと騒ぎあったらしい。

 しかも騒動を起こした悪漢どもは、青空市でも騒ぎを起こしたチンピラ連中だったとの事で。そんな輩が紛れ込んでると、仁志やギルド『羅漢』のギルマスに忠告されていたとは言え。

 まさかこんな早々に、悪漢どもにつけ狙われるなんて。


 それはつい先ほど起こった出来事で、興奮する香多奈はレイジーが使った新たなスキルを護人に話すのに夢中な有り様。物凄く派手だったようで、格好良かったんだからと連呼する末妹。

 お陰で連中に銃口を向けられたことなど、すっぽり忘れているのは良い事だ。姫香はそんな事を考えながら、先程の連中とのやり取りを思い出す。

 それは、つい10分ほど前に起きた出来事だった――




「今晩は全員で車の中で寝るの、姫香お姉ちゃん? 狭くないかな、ちゃんとしたベッドは1つしか無いよね? あっでも、その上が簡易ベッドになってるんだっけ?」

「そうだよ、だから下の大きいベッドで、アンタと紗良姉さんが一緒に寝ればいいよ。私は上のベッドで寝て、護人叔父さんがリビングで寝袋敷いて寝るってさ。

 犬達は、警護も兼ねて外で寝て貰おう」

「明日の朝は8時に探索開始らしいね、早めに起きて昼食と夕食を作っておかなくちゃ。6時起きでいいかな、あんまり家にいる時と変わらないねぇ」


 紗良の言葉に、焚火に薪をくべながらそうだねぇと同意の姫香。夕食の片づけは既に終わっていて、子供たちは火を眺めたりスマホを弄ったりと、それぞれ寛いだ時間を過ごしている。

 ハスキー達も寛ぎながらも、警護の任務は抜かりの無い様子。それぞれ散らばった場所に場所取りして、慣れない土地に神経を尖らせている。


 そのハスキー達が、不意に警戒のレベルを引き上げた。全員がすくっと立ち上がって、木立の闇に顔を向けて警戒の唸り声を発し始め。

 驚いた姫香が、代表して誰何すいかの声を発する。


 その連中は、連れ立って大振りの懐中電灯を所持しており、まるで夜の散歩中と言った素振りで。にやにやと笑い合いながら、緊張した雰囲気はまるでナシ。

 それでも視線は抜け目なく、車や紗良や姫香らに向けられていて。品定めをするように、返された言葉も意味の無い揶揄からかい混じりの台詞ばかり。

 その内に、中の1人がアッと驚きの声を発した。


「おいっ、この娘……どっかで見たと思ったら、青空市で売り子やってやがったぜ! あの時はよくも恥をかかせたな、慰謝料よこしやがれっ!」

「何だ、ガキばっかじゃねぇか……俺らが明日の道中、しっかり護衛してやるからよ。その売り込みに来たんだが、こりゃあ参ったな。

 こんな無防備だと、キャンプ中に襲われちゃうぞ?」

「今の所怪しい不審者は、あんた達しか見掛けてないけど? ハスキー達が見えないの、この子たちは下手なC級ランカーより強いわよ?」


 姫香の生意気な返答にも、やさぐれ連中の威勢の良さは止まらない。ふざけんなとか調子に乗るなとか、ヤジの類いは止む気配も無く。

 レイジーが1歩踏み出したところ、さすがに向こうも危機感を抱いたのだろう。一斉に身構えて、何と拳銃を抜く者まで出る始末。


 正気を疑う行為だが、姫香はあくまで冷静だった。紗良と香多奈に車に乗り込むように指示を出して、確かに青空市でいちゃもんつけて来た奴等に間違いないなぁと思い出しながら。

 護衛は必要ないからお帰り下さいと、大声で用件を言い放ちながら。突然動き出す小型ショベル(ルルンバちゃん)に絶叫を放つ、間抜けな襲撃犯に苛ついてみたり。

 コイツ等一体、何をしにここに来たのだろう!?


「何で武器なんか構えるかな、勝手に押しかけて来たのはそっちでしょ……嫌ならそのまま帰れば良いし、誰も引き止めたりしないよ?

 それ以上変な事すると、本当にハスキー達が黙って無いよ?」

「うっ、うるせえっ……こっちが下手に出てりゃあ、ガキが図に乗りやがって! 取り敢えずはそこで唸ってる、馬鹿な犬を下がらせろ!」


 バカなのはどっちだと、思わず天を仰ぎそうになる姫香。何故あの連中は、自分達が優位だと思っているのだろう? 粘れば他のチームも不審に思うし、この現場を見られたら申し開きも何も無いと思うのだが。

 我慢の限界に達した向こうの銃持ちが、とうとうその銃口をレイジーへと向けた。その瞬間、『隠密』で知られずに接近していたツグミが、その腕に噛み付いて致命傷を与える。


 怒号が飛び交い、刀剣持ちの大男がツグミに向けて刀を抜いて振り下ろした。そんな鈍い攻撃にやられる訳も無く、ツグミは『影縛り』で銃を拾い上げて戦線離脱。

 鮮やかなお手並みに、今度は刀剣持ちが悲鳴を上げた。コロ助の『牙突』が、今度は兄妹サポートを果たした様子。そして次に起きた出来事は、ある意味皆にとって衝撃的だった。

 リーダー犬のレイジーが、今度は自分の番と本気を出したのだろう。


 突然に姫香の後ろに位置していた、キャンプの焚火が劫火の燃え上がりを見せたかと思ったら。そこから何匹もの炎の犬達が、跳ねるように出現して悪漢たちに襲い掛かって行き。

 慌てふためく連中だが、蹴ろうが殴ろうが相手は炎である。ダメージを一方的に負って、とうとう尻尾を巻いて逃げ去って行くその後ろ姿に。

 レイジーは心底軽蔑したように、尻尾を1度だけ振るのだった。




「――って事がさっきあってね、悪い奴らが鉄砲持って襲って来たの! そしたら姫香お姉ちゃんが啖呵たんか切って、あっち行けって言い争いになって。

 最終的に、レイジーが炎の犬のお供を呼び寄せて凄かったんだから!」

「でもまぁ、全員で糾弾する程の暴行には及んでは無かったかな? ってか、こっちもハスキー達が逆襲でスキルまで使っちゃったし、今行っても言い逃れされるかもね。

 さすが悪知恵が働く連中だよ、簡単に尻尾は掴まさないところとか」

「ええ、確かにこの程度のいざこざなんて、探索者にとっては日常茶飯事ですからね……縄張り意識の高い連中は、喧嘩で血を流す事なんてザラですから。

 そう言う意味では、注意勧告を行っても無駄に終わるでしょう」


 そうらしい、何しろ割と大きなギルドに所属している者の話なのだ。こちらから被害に遭ったと報告しても、向こうは確実に煙に巻きに掛かるだろう。

 それはこの大規模レイドを統率する、ギルド『羅漢』の代表者を連れて行っても同じな気が。ここに来て、ギルマスが不参加で代理の若者に比重が掛かっているのが痛手かも。

 まぁ、誰が行っても結果は濁されて終わりな気もするけど。





 ――とにかく明日の本番は、大荒れの探索業になりそうな予感。







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