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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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町の者総出で山狩りを行う件



 秋晴れで爽やかと言うよりは、そろそろ朝は肌寒くなって来た山の上の天候にもめげず。来栖家の子供達は、祝日にも関わらず早起きしてからの家畜の世話を滞りなく済ませて。

 朝食を食べ終わって、今日の予定を護人に確認している。いや、確認するまでもなく随分前には、既に決まっていたのだけれど。


 つまりは結構な人数で、チームを組んでの山狩りである。仰々しいネーミングだが、やる事はまさにそんな感じ……山に入って、害獣や野良モンスターを狩るのだ。

 それから各自調査を行って、ひょっとしたら山の奥に生えているかも知れない新造ダンジョンのチェック等々。そのメンバー構成は、町の猟友会に自警団『白桜』チームなど様々で。

 それに加えて、来栖家チームと神崎妹&森下も参加予定だとの事。


 ちなみに神崎姉の方は、そろそろ産休に入る時期なのだそうで。今回以降は、探索業には不参加との事。それから林田兄妹も、万一に備えて町の警備に残る事に。

 確かに戦える者が全員町を留守にするなど、治安上決して望ましくない。自警団のメンバーも、半数は通常業務(消防関係)で町に居残りの模様。


 その代わり、猟銃を所持した狩猟会のメンバーが10人以上、それから猟犬も結構な数がいる。自警団のシェパード2匹も参加を決め込んでいて、お陰で集合場所はかなり騒がしい。

 もっとも、どの犬も来栖家のハスキー軍団に吠え立てようとはして来ないけど。レイジー達はどの犬達より落ち着いており、貫録染みたモノを周囲に放っている。

 ただし、犬用ベストを着込んだ姿は割とお茶目かも?


 この犬用戦闘ベストも、暇を見ては紗良が色々と手を加えていて。探索で見付けたMP増加効果の布を使ったり、装備効果は少しずつ良くなって来ているのは事実。

 お陰で少し派手になってしまったが、そこまで目立つ程では無い。野外だったりダンジョン内だったり、目立ち過ぎるのは敵と対峙する際には良くないので。


 その辺は、大いに気を遣っている紗良であった。そしてそのベストの着用も、すっかり慣れた模様のハスキー軍団である。そんな彼女たちは周囲の犬達に喧嘩を売るでもなく、ご主人の周囲に集まって。

 護衛任務を怠らず、威風堂々としたその出で立ち。


「結構集まってるねぇ、今日はどんな進行になってるの、護人叔父さん? 私達は、探索着を着て後ろからついて行けばいいのかな?」

「そうだな、大体そんな感じで間違って無いよ、姫香。山歩きに慣れている狩猟会のおっちゃん達が先頭を進むから。俺達は、少し距離を開けてついて行けばいいみたいだな。

 それで野良モンスターの報告があれば、俺達で対処する感じかな?」

「なるほどっ、それじゃあ当分は気は楽だね……途中で松茸とか生えてないか、探そうねコロ助♪」


 話を振られたコロ助は、香多奈に愛想良く尻尾を振って応えるけど。彼らの能力だと、本当に探し出してしまいそうでちょっと怖い。

 そんな話をしていると、猟友会の長である越森こしもりから、簡単な開始の挨拶が。怪我や猟銃の扱いに気を付けて、無事に山狩りを終えましょうとの言葉に。


 各所から応じる声が、どうも他のメンバーも結構な張り切り模様である。そして猟犬を従えて、順次山へと入って行く狩猟会の面々。

 こちらも探索には協力したいが、ハスキー軍団が前に出ると他の猟犬が竦み上がってしまう恐れが。ここは潔くついて行くだけにしようと、護人は犬達に護衛任務を徹底する。

 ただし、飛行ドローン形態のルルンバちゃんはフリーダム。


 静かに上空に飛び立って、自分が行くよと猛烈にアピール。山狩り作業は、あっても獣道の険しい道のりを進む大変な行程なので、タイヤ付きの乗り入れは厳しい。

 そこで選択したドローン形態だけど、確かに偵察にも有利かも? そこで香多奈は思い付きで、ルルンバちゃんに赤い布と青い布を持たせようと提言。


 そして上空から偵察して貰って、害獣を発見したら赤い布を、野良モンスターを見付けたら青い布を振って貰うのだ。これは良い案に思えると、紗良はキャンピングカーに戻って適当な布を見繕い始める。

 姫香もそこら辺の手頃な枝を切って来て、手旗の製作をお手伝い。護人は狩猟会のメンバーに、飛行ドローンが偵察に加わると通達しに向かってくれて。

 これで今日の狩りが、順調に進むのを願うのみである。



 そして澄み上がった秋空の下で、山狩りが開始された。メインに狩るのは、農作物を横取りする主犯の鹿や猪であるとの事。これらは肉も美味しいし、現代では貴重な食糧にもなる。

 熊も広島の山間では、滅多に見ないけど生息はしている。こちらも遭遇すれば、しっかりと狩る対象には違いなく。


 進む方向は、野良モンスターの出現傾向と山の深さを考慮して決定した様だ。つまり野良も遭遇次第に、積極的に狩る標的なのは参加者全員の認識である。

 何なら未発見の、ダンジョンを発見する事態さえあり得ると自警団の細見団長は思っていて。その為に、これだけの人数の探索者が同行しているってのも実はある。

 今日中の発見&即時探索は、まぁ状況次第といった所か。


 そんな訳で、自警団のメンバーの何人かは、先頭に混じって魔素鑑定装置を操っていた。10月とは言え、道の無い山への侵入は大変ですぐに息が上がって来る。

 紗良や香多奈も山育ちとは言え、大人のペースについて行くのは大変な様子。そんな中、1時間も建っただろうか、最初の遭遇が先行メンバーであった模様。


 銃声と犬の吠え声が響き渡り、それから慌てたような怒声が後方まで響いて来た。何事かと来栖家チームも先を急ぐが、そこに上空からルルンバちゃんの迎えが。

 青旗を必死に振って、空から案内しようと懸命について来てのアピール。それに反応したハスキー軍団が、主人を振り返って行って良いかのお伺い。

 護人がゴーサインを出すと、3匹は疾風のように飛び出して行く。


 念の為にと、護人はハスキー軍団が出陣したぞと大声で狩猟会メンバーに通達する。獲物と間違って撃たれる事故は、実は結構あるから怖いのだ。

 前方からも、オーウと声が返って来て合流を促す声が続いて掛かる。どうやら最初の獲物を仕留めたらしい、慌しい雰囲気だが野良モンスターはどうなったのだろう?


 ひょっとして、この騒ぎを聞きつけて寄って来たのかも。ハスキー軍団が、上手く処理してくれれば良いけれど。何にしろ、早く先陣と合流しなければ。

 そして山の中を苦労して移動して、狩猟会の面々と合流を果たす。彼らが仕留めたのは立派な雄鹿で、これも農家にとっては立派な害獣だ。

 宮島にはいっぱいいるのにねと、香多奈は呟いてるけど。


 確かにそうだし、宮島では手厚く保護されている存在だけど。奴らは食いしん坊で、下手すると観光客のパンフまで首を伸ばして食してしまう。

 その場に留まっていれば良いモノを、たまに海を渡って本土へと遠征して来るし。フェリーに乗っていて、そんな奴を発見してビビる観光客もいるそうだ。


 とにかく鹿の存在も農家にとっては死活問題、昔は田畑の周りに柵など無かった。姉妹はなおも、平和な頃に何度か訪れた事のある宮島について語り合っている。

 宮島は初詣とか花火大会とか、年に何度か周辺地域の者も訪れるイベントがあるのだ。観光名所として有名だけど、県内の者も割と通う機会のある島。

 それが厳島神社いつくしまじんじゃを擁する、地元民から見た宮島の立ち位置である。


 そして10分後に、無事に戻って来たハスキー軍団は超ご機嫌。どうやら遭遇戦があったようだが、軽く蹴散らして来たみたいである。

 ツグミが持ち帰った魔石の数によると、半ダース程度の集団だった模様。小粒なので雑魚は確定だが、どんな形態かまでは推測は不可能である。

 それでもご主人に褒められた犬達は、尻尾を振って嬉しそう。


 やはり山に入って集団での狩りは、彼女たちの本能を刺激するみたい。それから更に1時間後、またもや狩猟会が大物を射止めた気配が。

 今度は猪だそうで、これは持ち帰るのが大変だとおっちゃん連中は嬉しい悲鳴を上げている。まぁそうだろう、軽トラまで持ち帰るのも相当大変そう。


 距離もそうだけど、道なき道を戻る作業は行きと同じ労力が必要で。それを獲物を担いで戻る訳だ、考えるだけで疲労が蓄積されて行きそう。

 ちなみに運搬方法は、昔の駕籠屋かごやみたいに前後で棒を担いで持って帰るそうだ。その辺はさすがに狩猟会のメンバーは、手慣れていて仕事も早い。

 山の神様に命の恵みを感謝して、早速獲物を町へと持ち帰り始める。


「あれっ、これで狩りは終わりなの、叔父さん? まだ野良の出没場所、完全に分かって無いじゃん……いいのかな、こんな片手間で終わっちゃって」

「いや、持ち帰り部隊は戻るけど半数はそのまま探索を続けるそうだよ。獲物をそのまま、野ざらしにしておく訳には行かないからね。

 それより、細見団長から何か連絡は無いかな」

「魔素鑑定装置を持ってるんだっけ、反応があれば良いけどねぇ。ちなみにもし山中にダンジョンが見付かったら、どうする予定なの、護人叔父さん?」


 それはまぁ、若くて元気な者が放り込まれるのだろう。町の掟と言うか、どこの団体も似たようなモノだろうけど。つまりは自分達だと、半分諦めの護人であるけど。

 子供たちは、頑張って潜らせて貰おうねと超乗り気である。いつにも増してご機嫌なハスキー軍団も、暴れ足りないのか周囲を小走りでアピールしている。


 お昼前のイベントとしては、おっちゃん連中が舞茸やら松茸やら、割と高級キノコを子供たちに採集させてくれた程度だろうか。それからルルンバちゃんが、2度目の野良発見の報告をして来て。

 同じ頃、猟犬たちも騒がしく吠え始めて次の獲物発見の慌しさ。それに一切構わずに、さっさとルルンバちゃんの後を追い始めるハスキー軍団である。

 取り残された来栖家の面々は、そろそろお昼だねと呑気な構え。


 何しろ大変な山歩き、しかも来栖家には紗良と香多奈と言う、体力的に劣っているメンバーが2人もいるのだ。護人もその点、気を付けてペース配分を行っている。

 そんな来栖家に、おーいと手を振りながら近付く一行が。立ち止まって確認すると、どうもさっき話題に上がった自警団チームらしい。


 知り合いの登場に、さっき松茸が採れたんだよと興奮して報告する香多奈である。消防署の若者は、この時期に入った甲斐があったなぁとその手柄を褒め称えながら。

 向こうも報告があるらしく、それはどうやら待望のダンジョン入り口の発見の模様。魔素鑑定装置を駆使して、一団の行き先を誘導していた甲斐はあった模様。

 とにかく良かった、ここまでの同行は無駄にならずに済みそう。


「やったぁ、ようやく出番が来たよっ! ハスキー達も喜んでるねっ、まだ全然暴れ足り無さそうだったもん!」

「それに新造ダンジョンなんでしょ、ドロップにも期待出来るよね……う~ん、燃えて来たよっ! 頑張ろうね、護人叔父さんっ!」

「護人のチームが、率先して潜ってくれるなら有り難いな。それなら自警団チームは、周囲に散って行った野良を狩る方に集中出来るから。

 役割分担は、本当にそれでいいかな、護人?」


 普通に来栖家チーム『日馬割』が突入する事に決まったが、そこはもう仕方が無いと割り切って。鷹揚に頷きを返すと、『白桜』の細見団長も嬉しそうに頷き返して。

 案内するよと、先行して来た道を引き返し始めてしまった。それに追従しながら、お昼を食べてから探索を始めようねとご機嫌な末妹である。


 今日は山賊おにぎりを用意して来たからねと、紗良もその話に乗っかって。西広島の住民なら誰でも知ってる『山賊むすび』だが、実はお店は山口県の山奥にある。

 広島駅などに出店して、県内全域に知名度も上がったけれど。いつの間にか、広島県民が地元の有名店のモノだと信じて疑わなくなったと言う経歴が。

 良く分からないが、とにかく普通に美味しくて楽しめるお握りではある。


 その特徴は、とにかく巨大お握りに具が3種中に入ってたり、鳥のモモ肉を1本丸ごとおかずに付けたりと。とにかく豪快なのが、ウリな山奥のお店である。

 そんな話で盛り上がりながら、一行は道なき道をゆっくりと進んで行く。所々険しく切り立った斜面に苦労しながら、ようやく辿り着いたのは沢の様な小さな流れのある谷の底だった。

 左右を小高い尾根に挟まれていて、見通しは決して宜しくは無い。


「うわぁ、こんな場所に……こんな辺鄙な所の入り口、よく見付けられましたね、細見団長」

「いや、丁度そこで野良を見掛けてな……その点はラッキーだったけど、この分じゃ外に出て徘徊してるモンスターの数は相当な数になるかもな?

 それで、本当にそっちが突入でいいのか、護人?」


 平気だよと、元気に返事を横取りする香多奈である。苦笑いで応じる細見団長だが、取り敢えずは昼食後にチームで潜る事で同意して貰えて。

 そんな訳で、山狩りはようく第2段階に移行しそう。





 ――何にしろ、ここまで来た甲斐があったと一息つく護人だった。









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