何とか“裏庭ダンジョン”の最終層まで辿り着く件
ここまでは割と楽勝な道のりで、ルルンバちゃんの戦闘参加も紗良の回復魔法もほぼ出番は無かった。しかし、この4層目はそうもいかず、強敵もぼちぼち混ざり始めた感じ。
その代表格が、本道の蟻の団体に混ざっている、一際大きな体格の戦闘アリである。数は少ないのだが、フロアも広くなって遭遇率も高くなっている。
そんな終盤戦も、ハスキー軍団が大活躍……もちろん護人と姫香も、シャベルと鍬を振るって頑張っている。そしてルルンバちゃんも、2層以降満を持しての戦闘参加。
奴らの足元にこっそり忍び寄って、痛烈な釘の一撃をお見舞いする。
「おおっ、相変わらず凄いなルルンバちゃん……奴ら意外と足元がお留守だから、あの戦闘方法は有効かもな」
「何かアリの癖に、アイツら全員立ち上がった格好してるもんね……アイツらの頭が、あまり良くないのって地味に助かるよね、護人叔父さん」
割と痛烈な姫香の批評だが、まさしくその通りの敵のセンスの無さ。そんな敵に知恵が備わっていたらと思うと、かなりゾッとする護人である。
ただまぁ、所詮は昆虫の奴らは侵入者を発見すると闇雲に突っ込んで来るばかり。そこには連携も何も存在せず、こちらは逆に家族のチームワークで対処出来ている。
そんな訳で、4層の本道もほぼ攻略が完了した。
「ふうっ、あの赤紫色のアリは手強かったな……姫香、怪我はしなかったかい? 紗良に香多奈、犬達のチェックも頼むよ」
「りょうかいっ、叔父さんっ! ルルンバちゃん、魔石の回収お願いねっ?」
「私も怪我は負ってないよ、護人叔父さん。ここも本道はアリの群れがメインで、支道は他の虫系のモンスターって配置かな?
護人叔父さん、支道のモンスター掃除もしとく? それともダンジョンコアっての壊したら、全部のモンスターがいなくなるのかな?」
紗良が律儀にも、地下4階層の脇道の本数も数えていてくれていた。それによると全部で3本で、敵の気配に関しては分からなかったそう。
香多奈が妖精ちゃんに訊ねたところ、確かにダンジョンコアを破壊すればダンジョン内の全てのモンスターは綺麗にいなくなるそう。
子供たちは主に魔石欲しさで、支道も全部回ろうと家長の護人に提案して来た。そして多数決の原理で、呆気無くその案は実行される事に。
そして姫香を先頭に、本道を引き返す事数分。突入してまだ1時間足らずなので、皆の疲れもそれ程では無い。ただしダンジョン攻略の目的に、ズレが生じているのに護人は一抹の不安を覚えてみたり。
そんな支道は、上の層とほぼ同じで巨大ダンゴムシと巨大ゲジゲシの巣だった。数匹ずついたソイツ等を退治して、後に残った魔石を喜んで回収する子供達。
そして残りの1本で、ちょっとした異変が発生した。そこに巣くっていたのは巨大オケラで、ソイツ等は見た目に反して割と凶悪だった。
何しろ土掘りに適した前脚は、物凄いパワーを発揮して来る。
危うく、武器の鍬を壊されそうになった姫香は大慌て。レイジーとツグミのサポートが無ければ、一撃喰らっていたかも知れない。
それにはもちろん、隣で戦闘を行っていた護人も肝を冷やして大慌て。敵2体に囲まれていなかったら、すぐにでも駆けつけていただろう。
「オケラの癖に生意気なっ、たあっ、やあっ……!!」
「うわっ、お姉ちゃん……またスキル使ったんだ、凄いパワー!」
姫香の『身体強化』スキルは、ここでも大活躍の様子を見せた。その突然の凶悪なパワーアップに、逆に敵の群れに哀れみを覚えてしまう末妹だったり。
ハスキー達も多少引いていて、この調子なら残りを任せても大丈夫かな的な態度。護人も同じく、瞬く間に残りのオケラは姫香の鍬捌きでミンチになって行った。
そして残された魔石を、ルルンバちゃんと香多奈で仲良く回収。
「姫香、大丈夫だったかい……頼むから、あまりこっちの心臓に悪い事はしないでくれよ?」
「うん、御免なさい護人叔父さん……やっぱり強いモンスターもいるんだね、初めて戦う奴との戦闘は気を引き締めて行くよっ!」
「……あれっ、ツグミ? そこはオケラの掘った巣穴じゃないの?」
落ちていた魔石を拾っていた香多奈が、不意にそんな言葉を発した。どうやらツグミが、壁にあいた横穴に首を突っ込んで何かを掘り出そうとしている。
確かにオケラのモンスターは、床や壁に穴を開けてこちらに襲い掛かって来ていた。ただしツグミが興味を示している穴は、それとは別のダンジョン仕様。
代わりに覗き込んだ香多奈が、何とその横穴の奥深くに宝箱を発見!
興奮する少女だが、灯りに照らし出されたその宝箱は、結構な穴の奥に配置されていた。子供の体型なら、何とか這って奥まで届くかなって絶妙な位置である。
大人はちょっと無理、ハスキー軍団も這って進めば何とかって感じ。そして護人が制止する間もなく、香多奈はその穴に這って侵入を試みる。
「あ~んっ、私じゃ届かないよっ……ルルンバちゃん、代わりにお願いっ!」
「アンタで無理ならもう駄目でしょ、香多奈。勿体無いけど、諦めるしか……ええっ、マジッ!?」
妹の無茶振りに、呆れた表情の姉の姫香のツッコミである。彼女もしゃがみ込んで、ライトで照らされた細い穴の奥の宝箱を確認する。
それは思ったより奥に配置されていて、しかも箱は穴にみっちりと詰まっている感じ。つまりは、箱ごと回収しないと開ける事は出来そうにない。
それを確認して、本人も箱の回収は不可能だと思ったのだろう。任務を遂行しに穴に潜ったお掃除ロボは、不意に釘を射出したかと思ったら、箱を破壊して中身の回収へと切り替える優秀さを発揮した。
誰も思っていなかった行動に、一行は言葉も無く成り行きを見守るのみ。そしてゆっくり穴から這い出たルルンバちゃんは、香多奈の前で収穫品を吐き出した。
「凄いっ、ルルンバちゃん……わっわっ、大収穫だよっ! 見て見て叔父さんっ、スキル書も1枚あるよっ! 後はブローチみたいなのと、メモ帳の切れ端みたいなのかな?
妖精ちゃん、コレは何だろう?」
「ブローチみたいなの、ちょっと可愛いね……虫を模ってるね、モデルはカナブンか何かかな?」
妖精ちゃんの説明によると、蟲のブローチは魔法の品じゃ無いかなって推測だった。スマホサイズのメモ用紙×2枚は、どうやら噂の『鑑定の書』のよう。
へえ~っと驚きながら、子供たちはそれらの品を熱心に眺める素振り。一方のスキル書だが、こちらは大当たりだと確定している。
探索はまだ続くので、現状は即使用でパーティ強化が望ましそう。子供達はそう話し合って、それじゃみんなで相性チェックをしようって流れに。
そんな訳で、姫香はまずは家長からと護人に厳かに差し出して来る。
早速使えとの事だが、習得する自信の無い護人にとっては躊躇う事案でしか無い。それでも子供たちの手前、弱気な所は見せられない。
促されるまま、護人はスキル書を開封して手の平をあてがってみる。そして案の定の無反応、ガッカリした反応が周囲に漂うのは仕方ない。
そして気を取り直した子供たちは、順次その儀式に取り組んで行く。
「あ~ん、今度は絶対に私の番だったのに! でも売るのは勿体無いよね……叔父さん、コロ助たちに使ってみてもいい?」
「アンタ、自分の犬ばっかり贔屓するんじゃ無いわよ……試すなら、お母さん犬のレイジーからでしょ!」
姫香の嗜めで、香多奈はレイジーを招き寄せての実験タイム。ってか、何か美味しいモノが貰えるのかと、ハスキー軍団全員が寄って来て急な密状態に。
誰がナニに接触しているのか、傍から見ても分からない状態の中。そもそも末妹の香多奈は、犬からの序列が著しく低い立場にあるのも1つの原因かも。
そして巻き起こるプチパニック……承認の光は、果たして誰が巻き起こしたモノか。犬達に圧し掛かられて、その場にひっくり返った香多奈には全く見定める事は出来なかったのは確か。
姫香に助け起こされた時には、既に護人がレイジーの様子を確認にしゃがみ込んでいた。肝心の彼女だが、以前と違う箇所が明らかに1つ確認出来た。
何とフサフサの喉元の毛が、灰銀色から朱色に変わっていたのだ。
「香多奈の持ってたスキル書は、完全に無くなってるな……って事は、今度はレイジーがスキルを覚えたのか。
どんなスキルだろう、試しに使えるかい、レイジー?」
「う~ん、どうなんだろうねぇ……例えば私のとか紗良姉さんみたいなスキルだと、効果が分かりにくいかも?
そうだ香多奈、妖精ちゃんは何て言ってる?」
そうだった、こちらには特殊な方法での、多少チートな鑑定方法があったのだ。利口だが言葉を喋れないレイジーに問い質すより、その方が確認はずっと確実だ。
ところが妖精ちゃんの解説より早く、レイジーが自身に起きた変化に反応した。突然に短く遠吠えしたかと思ったら、宙空に向けて真っ赤な炎を吐き出したのだ。
それに驚く一同、今のはどう考えてもスキルの効果に違いない。妖精ちゃんは恐らく『魔炎』系のスキルだろうと、特に驚いた風も無く解説してくれた。
残りの面々はそうもいかずで、犬もスキル書を使えるんだと今更な感想。お掃除ロボも覚えてるしねと、姫香のツッコミはまさにその通り。
それに較べれば、はるかに常識的に思える不思議。
とにかく4層の突き当りの探索で、大いに戦力増大に漕ぎつける事が出来た。宝箱って夢があるよねと、香多奈のテンションは高めを維持している。
残りのアイテムは、ポーションや魔石と同じく紗良が鞄に入れて持ち歩く事に。詳しく調べるのは後回し、何しろダンジョン内は魔素の濃いエリアなのだ。
一般人の長居は、推奨などされない場所には違いない。軽度の変質を認定された、来栖家の面々には今更な気もするけれど。その変質が進んだ結果、どうなるのかは未だ不明なのがちょっと怖い所。
危ない橋を渡る危険を冒したくない護人は、皆が落ち着いたのを見計らって奥へ進むよと進言する。幸いな事に、ここまで一行にそれ程の疲労も無い。
「休憩はもういいかな、みんな? それじゃあ次の層に進むぞ……レイジーが炎を使えるようになったから、戦闘フォーメーションには気を付けて、姫香」
「了解っ、護人叔父さん……でもいいなぁ、魔法ってちょっと憧れるよね!?」
「私が覚えたかったのに、狡いよねレイジーってば! でも次のスキル書は、絶対に私が覚える番だと思うんだ……!」
はいはいと、香多奈のいつもの台詞を軽く受け流す姉の姫香。ついでに危ない真似は許さないよと、いつもの護人の小言も飛んで来る。
それらをいつもの調子で受け流し、末妹は元気にチームの後について歩き始める。スキルを覚えたてのレイジーも、普段通りの護衛犬の所作を崩さない構え。
ツグミとコロ助も同じく、1時間を超えた探索に特に疲労の影も無し。
後ろから付き従いながら、後衛の紗良は思う。何と言うか、こんな探索者チームも珍しいのではないかと。多少の緊張感の欠如は、まぁハスキー軍団もいるし大丈夫だろう。
誰かが怪我を負っても、自分が治してあげられるという思いはある。つまりは、こんなホンワカとしたペット同伴の家族チームが、1つくらいあっても良いではないか。
一夜漬けの動画での情報収集だったが、それなりに役に立つ場面もあった。例えばダンジョンの雰囲気だとか、モンスターの出現位置のパターンだとか。
それから宝箱から出現する、アイテムの種類なんかもそう。実際、今回箱の中に入っていた、鑑定の書の束にはバッチリ見覚えがあった。
今後もこの家族チームでダンジョン探索を行うのなら、自分は情報収集で役に立とう。紗良は秘かにそう考える、元より荒事にはまるっきり向いてない性格なのだ。
それが家族の絆だと思う、例え血が繋がっていなくとも。
――このチームの一員の座は、手放さないぞと紗良は強く誓うのだった。
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