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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の秋~冬の件
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遠征先のダンジョンを無事にクリアに至る件



 ほぼ自滅に近かった、見た目倒しの中ボス戦に勝利を収めた来栖家チームの面々。頑張ってくれたハスキー軍団を褒め倒して、それから恒例の怪我が無いか紗良のチェックを経て。

 巨漢の大入道が落としたドロップ品は、全部で3つとまぁ普通だった。魔石(中)とスキル書が1枚、それから髑髏どくろの首飾りをルルンバちゃんが収集してくれて。


 ようやくのスキル書ゲットに喜びながら、宝箱を探す子供たち。それは建物の廊下の突き当りに置いてあって、普通に木製だった。

 それを残念がりながらも、中身の確認作業を始める香多奈。中には雑多なアイテムが入っていて、魔法アイテムは意外と少なく残念な結果に。


 まずは囲碁盤と碁石セットが1組、それから普通サイズの茶釜ちゃがまと竹の杓子しゃくしが。立派な湯呑みとカラー風船セットも1つずつ入っていて、それを不思議そうに見つめる子供たち。

 後は真珠色の魔玉が4個と木の実が3個、毎度の薬品入りの風船も2個ほどあった。木箱の中身だけに、そんな大当たりも入っていなかったと言う結果に。

 香多奈は残念そうだが、みっちゃんは違った様子。


「うわ~っ、綺麗な碁盤っスねぇ……カヤかなぁ? 因島は本因坊秀策ほんいんぼうしゅうさくと言う囲碁の人で有名っスから、地元にも碁打ちの人が多いんスよ!

 ダンジョンって、たまにこんなドロップがありますよね!」

「ウチのチームは結構多いよ、探索に関係ない雑貨とか生活用品のドロップ。護人叔父さん、今回はチーム員以外のゲストもいるから、ドロップ品の分配はちゃんとしなきゃね!」


 確かにそうだねと、やり残しと怪我人がいないかのチェックを終えた護人は姫香に同意して。大した事をしてないからと遠慮するゲスト陣に、分配は姫香に一任すると告げて。

 友達同士の方が気楽にモノが言い合えるだろうし、姫香なら自分が損をしても強引に分配してくれるだろう。そんな事を考えつつ、護人は帰るぞと号令を掛ける。


 それに反応した犬達が、こっちに何かあるよとご主人に吠え立てて。何だろうねと姫香が見に行くと、どこかで見たような魔方陣が建物の中に。

 その隣には、恐らく6層への木製の階段が。


「あっ、ラッキーだな姫香……無い事も多いんだが、1層にワープ出来る魔方陣が湧いてるぞ」

「そんなんあるんだ、迷路のダンジョンの特別仕様なのかな?」


 陽菜の説明に、ちょっと嬉しそうな姫香の返事。樹上型ダンジョンでも何度も利用しただけあって、来栖家チームにも魔法移動への忌避きひ感は無い。

 この便利な帰路は是非とも利用すべしと、皆で一斉に青く光る魔方陣へと突入して。目論見通りに一瞬でダンジョン入り口に到着。はぐれた人はいないねと護人の言葉に、律儀に点呼を取り始める香多奈であった。

 その結果、ルルンバちゃんを含めて全員この場にいる事が判明。


 そして改めて階段を上がって、ダンジョンから元の世界へと無事に帰還を果たし終えて。紗良が立て看板の前へ進み出て、今回の階層数を記入する。

 中ボス撃破も書いといてくれと、陽菜の注文にもは~いとお気楽に対応して。これで栄えある第一回、チーム『日馬割』のダンジョン遠征は終了と相成った。


 協会にも一応は報告に行くべきだが、まずはお腹が空いたとの子供たちの声に応えて。近くの軽食屋へと、皆で移動を果たす事に。

 いや、その前に着替えたいよと騒ぎながらも街中を移動する一行に。幸い奇異なモノを見る視線は向けられず、これも時代かなと護人は1人で納得しつつ。

 落ち着いてランチにあり付けたのは、それからたっぷり1時間後と言う。


 護人だけは相変わらずの探索着で、ハスキー軍団と一緒にパトロール中との空気を醸し出しつつ。しかしこれは確かに便利と言うか、陽菜の言う通りリードも無い犬達を怖がる群衆は皆無。

 意外な抜け道と言うか、良い解決法を思い付いてくれたものだ。今回の旅行での一番の収穫かなと浮かれながら、周囲の目を気にせずの街中をぶらり歩くのは割と楽しいかも。


 子供たちの反応も様々で、お土産屋を覗いたり景色を楽しんだりと忙しそう。犬達もリードも無しで、本来の護衛任務に就けて満足そうな雰囲気である。

 そして結構な遠回りを経て、尾道の協会支部へと到着する一行。



 朝一番に顔通しをしていたので、これだけの人数+犬猫同伴でも向こうは驚く事は無かった。逆を言えば、朝の時点で物凄く驚かれたって事ではあるけど。

 無事に探索終わったよとの香多奈の言葉に、それは良かったですねと若い女性の事務員さんがお出迎え。そのまま応接セットに招かれて、買取やら何やらの話に。


 今回は5層のスケルトン軍団の退治が効いていて、魔石だけでも14万円に。それにポーションが1800ml、エーテル500ml、解熱ポーション600mlと水風船の内容がなかなかのモノに。

 しかも宝箱の中に、当たりの初級エリクサー500mlも入っていた。これを含めて薬品系が、11万円近くになって。合計で25万、来栖家チーム+ゲスト2人で分けても充分な稼ぎ。

 何しろたった半日の探索なのだ、まぁ犬猫の働きも含むけど。


 それに加えて、ラッキーなドロップ運も多分に味方した結果だろうか。何しろゲスト陣少女たちの驚きようと来たら、1度の探索でこんなに稼ぐのかと信じられない様子なのだ。

 来栖家チームは、普段は大き目の魔石や薬品系はほとんど換金しないので、換金すれば毎回このくらいの儲けは出ている計算だ。ってか、魔法のアイテムやスキル書の当たりが入っていたらもっと稼げている。

 だから本当の事を言うと、今回の儲けは少ない方。


 換金の待ち時間に、妖精ちゃんに頼んで今回のドロップ品から魔法アイテムを選りすぐって貰い。それを鑑定の書で速攻でチェック、その結果6つの魔法アイテムが判明した。

 それに加えて木の実が2種類、これも鑑定プレートでチェックして。それらを来栖家チームとゲスト陣で分配すると言う、その仕事も残っているけど。


 今回は金の燭台や宝飾品なんかもゲット出来たので、なかなかに難解かも知れない。香多奈は真っ先に、魔銃が欲しいと手を上げていたけど。

 それに割って入る声は、ゲスト陣も含め誰からも無し。


【魔銃リボルバー】装備効果:魔玉射出&威力増大

【猫のブローチ】装備効果:夜目+平衡感覚up・小

【沸騰の茶釜】使用効果:お茶の沸騰&濾過・半永続

【竹の杓子】使用効果::湧き水効果・半永続

【浮遊の風船】使用効果::浮遊効果・半永続

【保温の湯呑み】使用効果::保温効果・半永続


【カンバーの魔種】エーテルの素材

【キャザムの実】MP50%上昇・30~60分up



 ってか、今回のドロップで一番の掘り出し物である。末妹は無邪気に、面白そうな武器オモチャだと思っているみたいだが。そんな危険なモノを最年少の子供に与えたくない護人は、視線で紗良へとシグナルを送る。

 それを汲み取ったお姉さん、私もそれが欲しいなぁと棒読みでの介入だが。え~っと困った顔の少女、それじゃあ交替で使おうよと妥協案を出して来る。


 根は優しい香多奈は、まんまと大人の柵にまってしまったのに気付かない。これで後は、紗良が預かって少女が忘れて行くのを願うだけ。

 消極的な案ではあるが、猛烈に反対すると少女は確実にむくれてしまう。泣かれてしまうと、護人は完全に自分が負けると分かっているので。

 苦肉の策とでも言おうか、まぁこれも末妹の安全の為だ。


「そんじゃ次は、陽菜とみっちゃんが選ぶ番ね? 一応換金したお金は人数で等分するとして、アイテムはどうしよっか?

 魔法アイテムと換金用アイテム、それぞれ1個ずつでいい?」

「えっ、そんなに貰っちゃっていいんスか……でもまぁ、遠慮してても話が進まないんで。陽菜ちゃん、選んじゃいましょう!」

「うむっ、それじゃあ遠慮なく……猫のブローチはみっちゃんに譲るよ。私は修行後に魔剣を譲って貰ったからな、このゴツイ湯呑みで良い。

 後は、この金箔仕様の招き猫が欲しい」


 あっさりした性格の陽菜は、姫香の提案に躊躇ちゅうちょなく乗っかって分配をさっさと決めてしまった。逆に遠慮しいのみっちゃんのも決めて行って、時間短縮までしてくれる勢い。

 結局みっちゃんは、戦闘に有用な猫のブローチと、秘かに欲しいと思っていた碁盤と碁石のセットを貰う事に。嬉しそうな笑顔に、他の面々もほっこりしている。


 それよりスキル書どうすると、今回唯一ドロップしたスキル書を手に香多奈が訊ねて来る。2人から相性チェックしなよと、姫香は護人に了承を取って順番を譲る。

 そんじゃあ3番目は私ねと、香多奈は全く遠慮と言うモノが無いけれど。和気藹々《わきあいあい》とした雰囲気で、換金から事務員さんが戻って来るまで過ごす事が出来た。

 そして肝心のスキル書だが、残念ながら誰にも反応せず。


 ハスキー軍団やミケとルルンバちゃんにも同じくスルーされ、販売案件に押しやられる破目に。それから戻って来た女性事務員さんに、取り敢えずE‐動画の編集依頼を頼み込んで。

 これで協会でやる雑務は、全てこなした勘定である。この後少し観光に歩くつもりで、探索着から着替えていないままの護人。

 夕方まで少し歩こうかと誘うと、子供たちも賛同して。


 昨日と同じ作戦で、護人が探索着を着てのハスキー軍団に自由行動をプレゼント。香多奈が海を見たいと言うので、夕方の海岸の散歩と家族で洒落込む事に。

 みっちゃんが、因島の海岸はもっと綺麗だとムキになって演説しているけど。もちろんそれも堪能するよと、お母さん役の紗良が必死に宥めている。


 島育ちのみっちゃんは、どうやらその辺りの話題には敏感な様子。それはともかく、尾道の海岸はすく目の前に向島があって広大な海の景色とは無縁である。

 まるでちょっと広い川みたいと、潮騒も穏やかな海を不思議そうに眺める末妹。確かに瀬戸内海の穏やかさを知る広島県民は、初めて日本海や太平洋の波の荒さを見たら驚くそうで。

 そんな蘊蓄うんちくを語る護人に、じゃあ今度連れて行ってと香多奈のおねだり。


「そうだな、今度は四国か山陰に旅行も良いかも知れないね。探索で儲けた分は、何かしらで発散しないと経済が回らないからな。

 冬の農閑期なら、時間は取れるけどどうするかな?」

「また誰かに家畜の世話を頼んで、雪に閉じ込められる前に家族旅行に行こうよ、護人叔父さんっ! 温泉とか入っちゃってさ、のんびり旅先で過ごすのも良いと思うよ?」


 護人の提案に、すかさず乗って来る姫香である。彼女も探索で儲けた分を、社会に還元すべしと言う変な使命感は多少なりとも持っているようで。

 その癖、自分の贅沢となると尻込みする貧乏性な性分だったり。昨日もキャンピングカーならお金掛からないねと、高そうな宿に実はビビっていたのは内緒である。


 そんな宿も今はもうチェックアウトも済んでいて、荷物もお土産の類いも全て車内へと放り込んである。こんな時にはキャンピングカーは便利、何しろ移動する生活空間なので。

 人気のない海岸線を散策しつつ、ゆっくりと海岸線へ沈んで行く夕日を眺めながら。楽しそうな様子の子供達は、まだ1泊しただけなのに色々あったねぇと思い出話に夢中な様子。


 因島のダンジョンも、実は明日には潜る予定で。何故か社会見学の名のもとに、子供たちによって組み込まれたこのスケジュールだけど。

 みっちゃんによると、島のダンジョンはどれも難易度は高いそうな。それで探索が滞っている場所もあるので、間引きは大歓迎だとの話ではあるけど。

 不安そうな表情なのは、致し方の無い事だろうか。



 完全に日が沈む前に、尾道を後にしようと車に乗りこむ面々。因島へは、しまなみ海道を使えばほんのちょっとの距離の移動で着いてしまう。

 実はつい先ほど八代姉妹から連絡が来たけど、会う時間は無いので今日の撮影は断っていたのだ。陽菜もその件には無頓着、そして一緒に付いて来ている。


 明日の探索も同行する気満々の彼女、もちろんそれが終われば来栖家チームとはお別れだ。短期の弟子入りだったけれど、別れ難いとの感情は陽菜の内心にしっかりと芽生えていて。

 辛いけど楽しかった修行の日々が、頭の中のスクリーンに浮かんでは消えて行っている。陽菜自身、自分がこんなに執着する人間だとは思ってもみなかった。

 或いは修行で強くはなったけど、心は弱くなったのかも。





 ――それを含めて良い経験だと、割り切るには少女はまだ若過ぎて。








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