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田舎の町興しにダンジョン民宿を提案された件  作者: マルルン
1年目の春~夏の件
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家族で初のダンジョン探索に向かう件



 大揉めに揉めた末、香多奈の我がままがまかり通るのは、ある意味いつもの事だったり。今回ばかりはお留守番してなさいと、毅然きぜんとした態度を取っていた護人も5分も持たずの有り様。

 腰に抱き着かれて大泣きされた日には、前言を撤回しない訳にも行かずな模様。そして泣いたカラスがもう笑うの、末妹のパターンも毎度の事。

 そんな訳で、家族総出で昨日出来たばかりのダンジョンに挑む事に。


「ルルンバちゃんも連れてって、叔父さん! ほらっ、この子は自分で改良が出来ちゃうの……凄くない、武器と照明をくっ付けて自在に操るんだよっ!?」

「これ、本当にくっ付いてるのかい? ……あぁ本当だ、何か凄いと言うよりユーモラスだなぁ。ってか、妖精にいでお掃除ロボともコミュニケーションを取れるのか、香多奈は」

「それもある意味、不思議系のスキルだよね……しかも割とチート、あんた知らない内にスキル書使ったんじゃないの?」


 そんな覚えは無いよと、チート呼ばわりされて憤慨ふんがいする末妹はそれでも上機嫌。その肩には妖精ちゃんが乗っかっており、足元には電動のネイルガンと電気スタンドをくっ付けたお掃除ロボが控えている。

 そして手にはスマホをセットした盾を構え、浮かれ模様で撮影の準備に余念が無い。さすがに武器の類いは持たせたくない護人だが、末妹に何も持たせないのも逆に怖い気も。


 そう姫香に相談したら、少女は何かを思い付いた様子。そして納屋にダッシュして、姫香が手に掲げて持って来たモノはある意味納得の品だった。

 何と強力ジェット式の殺虫剤で、果たしてそれが蟻型とは言えモンスターに効果があるのかは不明。でもまぁ、何も持たないよりは遥かにマシかも?


 当の香多奈も、それを手に勇ましいポーズを取っているから良いのだろう。とにかく末妹は、相棒のコロ助と一緒に一番後衛に陣取って貰う予定。

 問題は、自ら改良をほどこしたと言うお掃除ロボだが、どうやら野外でも自走は可能っぽい。そして武器としてのネイルガン(電動釘打ち器具)だが、その威力はかなりのモノ。

 実際、壊れて転がっていたブロックを釘で粉砕する程度には強力だった。


「こりゃ凄いな、これもスキルの恩恵なのか……? 『吸引』系って事だったけど、まぁ吸い込むのも吐き出すのも似たような動作ではある……のかな?

 上手くハスキー達と連携が取れれば、戦力にはなりそうだな」

「そうでしょ、凄いでしょ……最初はこの子に、電動ノコを装備させようと思ったんだけどさ。スキルの関係か、上手く使いこなせなかったんだよ。

 そんで苦肉の策で、ネイルガンに落ち付いたのっ!」


 そうらしい、どうも姉妹は日課の家畜の世話の後に、色々と試行錯誤を繰り返していた模様。そのお陰でルルンバちゃんは、戦力に数える程の補強が出来た。

 苦労は見事にむくわれた訳だ……そのお掃除ロボだが、最初は取り敢えず様子見で中衛に控えて貰う事に。前衛でない理由は、レイジーたちハスキー犬に較べると経験も実績も無いからだ。


 そして前衛は、護人と姫香とレイジーで担う事に決定した。ツグミは予備戦力として、少し後ろに控えて貰う予定。もっとも、どこまで犬達がこちらの意図を汲んでくれるかは不明ではある。

 レイジーはハスキー犬と思えない程に賢いが、一度戦闘に突入すると理性が吹っ飛ぶ可能性も無きにしもあらず。そもそも護人も、そこまで冷静に指示を飛ばせるか分からない。

 ちなみに紗良も、香多奈と一緒に最後衛にいて貰う予定。


 その当人だが、何故だか緊張の類いは一切窺えずほんわかしたたたずまい。まるで家族で、今から行楽に出掛けるかのような表情。そんな長女は、姫香と共に持って行く品の最終チェックをしている。

 姫香は武器に、愛用の備中(くわ)を選択した様子。まるで畑作業にでも出掛ける雰囲気で、革の戦闘スーツが完全に不釣り合い。


 昨日と同様に、ハスキー軍団には大きく期待を寄せている護人。間違いなく、戦闘においては頼りになる相棒達ではある。狭いダンジョン内では、人間は動きを制限されるかもだが犬達は関係ない。

 とにかくこれで、大まかな突入の準備は整ったと思いたい。そんな護人の武器候補だが、昨日は紗良が使っていた根切りシャベルを選択。


 奴らは力持ちで、噛みつき攻撃や蟻酸ぎさんの放出攻撃は確かに要注意である。ただし、節足動物の弱点と言うか、首や脚などの関節部分は意外ともろい。

 そこをシャベルの刃先でピンポイントに狙えば、戦闘時間は短時間で済む筈だ。理想はそうなのだが、向こうも動き回るのでそう上手くは行かないのは百も承知。

 とにかく昨日のように、チームワークがモノを言うだろう。




 念の為にと、買ったばかりの“魔素鑑定装置”と“変質チェック装置”をリビングの縁側に持って来て使用する護人。2台で14万もしたのだ、使わないと損だなとか思いつつ。

 そんな機具の反応は低いに越した事は無いのだが、残念ながらこちらの期待には両方とも沿ってくれなかった。“魔素鑑定装置”によると、生活空間の縁側近くの魔素濃度は無視出来ない程度には高かった。


 それに伴って、“変質チェック装置”の結果である。苦労して説明書を読み解いて使用した末に、何と家族全員が“軽度の変質”に該当してしまっていた。

 香多奈の提案で、ハスキー軍団も唾液を採取して確認してみた所。こちらも3匹とも家族と同じ結果で、何となく皆で黙り込む破目に。


「……まぁ、なってしまったモノは仕方が無いな。幸いにも、気分が悪いとか肌に異常が出たとかの症状は、まだ誰にも起きてないみたいだし。

 裏庭に出来たダンジョンを活動停止すれば、少なくともこの周辺の魔素の数値は下がる筈だしな……」

「そうだね、ダンジョン攻略頑張ろうっ……引っ越しなんて絶対に嫌だし、愛する我が家を守るためだもんね!

 私もスキルを覚えたし、ガンガン敵を倒しちゃうよっ!!」


 相変わらず勇ましい姫香の台詞に、妹の香多奈もオーッと追従の構え。4人とも装備は万端、そして侵入すべきダンジョン入り口はすぐ目の前と言う。

 ハスキー軍団も、主人のテンションを感じて既に狩りモードへとスイッチが入っている感じ。頼もしい事この上ないが、狭い地下ダンジョンでは多少の不安が。

 それは護人も同様で、何しろダンジョン突入など初体験なのだ。


 それでも不安な顔など、一回り以上年下の子供たちには見せられない。気合いを入れ直して、護人はそれじゃあ行くぞと号令をかける。

 それに応える元気な返事と、ハスキー達の追従する気配。そして何故かルルンバちゃんも、家長の後ろをおごそかについて行く構え。妖精ちゃんも、香多奈の肩の上にちゃっかり居座っている。

 それをリビングから見送るのは、ネコのミケただ1匹のみ。




 空気の変化は、入り口の階段に足を掛けた途端にはっきりと認知出来た。或いはそれは、魔素の濃度の違いなのかも知れない。

 護人とレイジーを先頭に、狭いダンジョン入り口を潜って階段を降りて行く。程無く洞窟仕様の空間に出て、そこは既に地上の明かりも届かない暗闇の中だった。


「おっと、入り口に較べて中は割と広いな……それじゃあ、灯りは姫香と紗良が担当でな。姫香には、戦闘になったら補助を頼むとして。

 後方の安全は頼んだよ、紗良」

「はいっ、任せて下さい」

「……ルルンバちゃんの灯りも、結構役に立ちそうだね。さすがに階段は降りられなかったけど、この位(なめ)らかな床だったら動き回るのに不自由は無いかな?」

「そうだねっ、ルルンバちゃんも初陣だから頑張るって言ってる!」


 果たしてお掃除ロボに、モンスターの相手が務まるかどうかは別として。彼の提供する灯りは、足元を適度に照らしてくれて都合が良くはある。

 護人が見る限り、ダンジョン1階の道は真っ直ぐ1本のみ。それを確認して、シャベルを構えて用心深く奥へと進み始める。レイジーも同じく、獲物を探す構えであるじの隣を歩き始める。


 緊張しながら進む一行だが、それから10分間は何事も無い時間が過ぎた。そしてさらに下に降りる階段と、大型ダンゴムシのたむろする部屋へと辿り着く一行。

 それを受け、ダンジョン内の初戦闘を護人と姫香でサクッとこなす事2分。


 何しろ、綺麗に丸まる敵にさすがのハスキー軍団も手足は出せず。精々が、レイジーが頭突きを喰らわせてさを晴らす程度。

 こんな弱いモンスターもいるんだねと、逆に大活躍だった姫香は肩透かしを食らった表情だ。同意を口にする護人も、一息ついて周囲をうかがうも。

 他に敵影は存在せず、部屋には次の層へ続く階段があるのみ。


「あっ、ルルンバちゃん何して……おおうっ、床に落ちた魔石を拾ってくれてるんだ! 凄いね、叔父さん……こんな機能もあるんだね!」

「機能と言うよりは、本能じゃ無いのか……?」


 大型ダンゴムシの落とした魔石は、かがんで見ないと分からない程の小粒だった。お掃除ロボは、それらを自走しながら苦も無く吸引して行く。

 程無く全部の散らばった魔石を回収したのか、お掃除ロボはそのままの勢いで香多奈の元へ。少女が興奮しながら、しゃがみ込んでその成果を確認する。


 たった数個の小粒な魔石だが、これでも合計で数千円の稼ぎである。田舎のあるあるなのだが、山菜やら葉っぱやらが道の駅とかで結構売れたりするのだ。

 それらは子供の良い小遣い稼ぎになったりと、幼少期から経済に触れる機会も多いのだが。これはちょっとけたが違う、テンション爆上がりの子供たちである。


 そして地下2階層へと、同様の陣形で降りて行く一行。どうやらオーバーフローを起こしたばかりのダンジョンは、浅層の敵の配置はスカスカの傾向があるらしい。

 肩透かしの1層と較べて、2層目には敵はちゃんといた。地上に出て来た例の蟻型のモンスターが数匹、本道をふさぐ格好で待ち構えていたのだ。

 そいつらを、細心の注意で倒して行く来栖家チーム。


 敵の行動パターンは、昨日の夕方の戦闘で織り込み済み。ただし、向こうの本拠地のせいか、ダンジョン内の敵の方が動きにキレがある気がする。

 とは言えこちらも、あらかじめ固めてあった覚悟の程が違っている……家族の平和を守るため、護人と姫香は手にした武器(鍬とシャベルだが)を振るいまくる。


 犬達も同じく、集団での狩りは彼らの本能に違いない。意外だったのは、自動お掃除ロボのルルンバちゃんだった。子供たちのゴリ押しで、護人的には半信半疑で同行許可を与えたのだけど。

 何と、全く期待していなかった戦闘場面でも活躍してくれたのだ。ハスキー達が気をらしている隙に、背面に回って精密射撃でのネイルガンの急所への撃ち込みと来たら!

 角度の都合で上半身は狙えないが、蟻モンスターの脚関節を吹き飛ばす程。


「うわっ、ルルンバちゃんの戦い振りも凄いね、護人叔父さん……ハスキー達も張り切ってるし、これは案外ダンジョンの攻略も思った程に大変じゃないかも?」

「油断するのはまだ早いぞ、姫香……でもそうだな、俺が思っていた程には苦労せずには済みそうな雰囲気かもな。

 少なくとも浅い層の敵には、余裕をもって対処出来てるな」

「この層には脇道が2本ありましたね、護人さん。念のために覗いてみますか、突き当たりに次の層への階段が見えますけど……?」


 紗良の言う通り、この層には無視して進んだ支道が2本ほどあった。本道もそれ程の距離は無かったので、引き返して確認するのもそんな手間では無い。

 一行は相談して、念の為にと脇道の確認も行う事に。そこは両方とも、別のむし型モンスターの巣になっていた。とは言え、巨大ダンゴムシと巨大ゲジゲジが数匹ずついただけ。


 気持ち悪い姿の敵が、ダンジョンルールで消えてくれるのに子供たちは安堵の表情。蟲とは言え、やはり潰れた巨大な死骸は見ていて気持ちの良いモノでは無い。

 そして出現する、ドロップ品に一喜一憂の声が上がる。


「あぁん、ちっちゃい魔石ばっかり……スキル書出ないかな、今度は絶対に私がゲットする番なのに」

「アンタの番って事は無いでしょ、あれは資質とか相性が関係してるんだから。それより護人叔父さんに、何か強いのを覚えて貰わないとね?

 私達のリーダーなんだから、しっかり強化はして貰わないと!」


 姫香の妄想爆走トークに、護人は曖昧あいまいな返事を返す。確かに強力なスキルはダンジョン探索には助かるが、普段の生活に限っては無用の長物でしかない。

 いや、姫香も紗良も微妙に生活に役立つスキルを獲得出来ていて、その点は運が良かったかも。まぁ、特に強さに憧れを持たない護人にとっては、超欲しいモノでも無し。



 この先の3層には、優良なアイテムが転がっているに違いないと。ともすれば先頭に出そうな子供達の、手綱をしっかり握りつつ階段を降りる先頭の護人とレイジー。

 そんな3層の蟻モンスターの数は、上の層の倍以上の有り様。とは言え、既に見慣れたモンスター……ハスキー達のサポートを受け、早期の殲滅せんめついそしむ前衛陣。

 前夜の情報を元に、色違いの蟻には細心の注意を払いつつ。


「そっちに赤い奴が混じってるぞ……注意してっ、姫香!  正面に立たないようにしろ、蟻酸ぎさんが飛んで来るぞっ!?」

「分かってる、護人叔父さんっ……スキル使って、一気に首を落とすねっ!」

「頑張れ~っ、姫香お姉ちゃんっ!!」


 香多奈の声援を背に受けて、宣言通りに姫香が初めて戦闘でスキルを使用した。そのパワーと勢いは凄まじく、踏み込んでの一撃で赤蟻モンスターの首と胴体は泣き別れに。

 その勢いのまま、別の蟻に突っ込んだのはご愛敬。助っ人に入ったツグミの一撃で、何とか体勢を立て直す事に成功した姫香だったり。

 護人は肝を冷やしつつ、残りの蟻モンスターを駆逐して行く。


 そして戦闘後には、小言を口にして子供たちの気を引き締め直す護人。姫香は一応反省している感じだが、香多奈に関してはいつも通りの大らかな表情。

 そしてこちらも普段と変わらずな紗良が、この層の脇道も2つあったと報告して来た。それを受け、上の層にならって皆で戻って確認する事に。


 そして見付かる、雑魚っぽい蟲型モンスターと土に半ばまで埋まっているペットボトル風の何か。それを発見したのは妖精ちゃんで、後衛の紗良と香多奈に掘り起こすように指示を出す。

 前衛陣は、何事も無くゲジゲジの群れを殲滅し終わった。先ほどの小部屋はダンゴムシだったけど、ゲジゲシも強さに関しては似たようなモノで雑魚である。


「うわ~っ、まだ肌がゾワゾワする……田舎住まいでも、さすがにゲジゲジとかムカデの多足系の虫は慣れないなぁ。

 しかもモンスターサイズは、結構来るモノがある……」

「まぁ、確かにそうだな……ハスキー軍団も積極的に噛み付きに行かないし、皆して思いは同じなんだろう。

 向こうの戦闘力が、ほとんど無いのが助かってる感じだな」

「わっわっ、ゴミかと思ったら……叔父さんっ、コレって中に入ってるのポーションだって、妖精ちゃんが言ってる!」


 戦闘そっちのけで、アイテム回収にいそしんでいた後衛からそんな驚きの報告が。何と発掘したペットボトルの中身は、噂のダンジョン産回復ポーションだったらしい。

 泥に汚れた2ℓのペットボトルの、中身は半分程度だろうか。一応、中の液体は澄んでいて汚れてはいない感じは受けるけど、これに直接口を付ける勇気は出ない。

 そう言えば、昼間の販売員にも容器の携帯を勧められていた面々。


 つまりは、使用するなり売りに出すなら、綺麗な容器に移し替えろってアドバイスらしい。どうもダンジョンには、地球の土中に捨ててあるゴミを再利用する習性がある模様。

 探索者は、そんな光景を何度も目にするとの事だ。ネット動画で仕入れた情報だが、いざ目のあたりにするとトホホな気持ちになってしまう。

 何しろ見た目は廃棄ゴミ、アイテムを得られたと喜ぶ気持ちも半減だ。





 ――それでもこれで1万円の価値があるとの事、ダンジョンって本当に不思議。







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