それぞれの
三題噺もどき―にひゃくいち。
自転車をこぎながら、風を切っていく。
本格的な冬仕様になってきた風は、鼻が痛くなるほどに厳しい。
その上、今の時間は海からの風もあって、尚更冷たく感じてしまう。
「……」
学校の帰り道。
最寄りの駅から家までを走っている。
これがまぁ、なかなかに距離があったりして。もうさすがに慣れはしたが、疲れるものは疲れる。特に、この時期は。
寒さに怯えながら、風を感じて走らないといけないものだから。
「……」
そうは言っているが、実は防寒具はつけていない。
漕いでいると、それはそれで暑いのだ。冬場なのに汗をかいて、止まったときに冷えるという悪循環が完成する。
まぁ、とはいえ、それも今だけだ。
もっと本格的に寒くなれば、さすがにマフラーぐらいはする。手袋はしないが。…あれは少し、手がむずむずして苦手だ。
「……」
ビュー!!!!
と、耳元でなる風の音を聞きながら、ほぼ一本道の海沿いを走る。
いつもよりは気持ち早めで。―なんとなく、空が重い気がしてならない。
「……ぁ」
が、遅かったようだ。
むき出しの掌に、ぽつりと水が落ちてきた。
それに続いて、ぽつぽつぽとぽと。落ちてくる。
いきなり本降りにならなかっただけ、マシではあるのだが。普通にぬれるのは、困る…。
「……」
あぁ、あった。
とりあえず、道の先にあったバス停に急ぐことにした。
田舎だからなのか、知らないが。そこには屋根付きの小さな小屋のようなものがある。雨をしのぐにはうってつけだろう。
「……ふぃ…」
なんとか本降りになる前にたどり着く。
背負っていた鞄を下ろし、中身が濡れていないことを確認する。…何とか大丈夫そうだ。防水機能付きとか、今度買おうかな。こういう時に困るのだ。安い鞄は。
「……」
しかし、ほんと…。
寒い日と雨の相性の悪さは、なんというか…。ぶるりと、震えるからだが寒さを訴えまくっていて大変だ。少しでも暖を、と、手をこすったりもするが。風も冷たく。海からの風も冷たく。その上雨でぬれてしまったものだから。温まるものも温まらない。
「……」
さっさと家に帰って、ほんの少し前に引っ張り出してきた炬燵にでも潜りたいぐらいなのに。あいにく、雨具というものを常備しているような質ではないので、止むのを待つしかない。
いつ止むのかは知らないが。
「……」
ぼぅっと。
雨が降る海を眺める。
小さな紋が、次々と現れては消えていく。
水滴が、1人、またひとりと、海に還っていく。
「……ん…」
視界の端に何かが入ってきた。
親子だろうか。
あぁ、彼らは雨具をもっていたようだ。
小さな男の子だろうか。靴はかっこいい感じのスニーカーを履いている。青色の合羽を着て、とても楽しげに歩いている。時たまくるりと回り、ふわりと合羽が広がる。後ろを歩く母親らしき人も、それに合わせて傘をクルリ。
「……」
まるで、雨の世界で2人きり。
踊っているようだと思うのは、失礼だろうか。
親と子の。
それは小さな、舞踏会。
「……」
たのしそうで何よりだ。
特にあの子供。とてもはしゃいでいる。声はあいにく聞こえずらいが。しかし、あれは、帰ってすぐ風呂だろうなぁ。
「……」
あぁ、そろそろ帰りたくなってきた。
雨もやみそうにないし…。
いっそ濡れてもいいから、さっさと帰るかなぁ。
どうしたものかと、迷い始めた頭の上を。
1羽のカモメが、ひゅうと飛んでいく。
雨の中。
1羽で。
1人で。
お題:雨具・カモメ・踊り