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01 ここって乙女ゲーの世界じゃないですか!

 私の息子よ。一番にならなくても良い。今から通う学園で、実り良い生活を送ってほしい。



 そう父親に見送られ、自分は全寮制の学園へ入学することになった。

 しかしながら、この学園は普通の学校ではない。お嬢様やお坊ちゃまが通うとされる貴族のための学園だ。

 もちろん学園まで向かうのに歩くような人間はいない。通う人間全てが馬車で送られていく。

 がたり、と音を立てて止まったかと思うと馬車の扉が開いた。


「ハンス様、ご到着しました」


 幼い頃から自分の世話役をしてくれているベルナールに感謝の言葉を伝えながら、下りた先に見えた学園に目を見開いてしまう。

 第一印象としては豪奢。あからさまな豪華さというわけでなかく。シンプルながらも洗練された技術や物で作られた学園は確かに貴族が通う場所だということを知らしめている。

 右を見ても、左を見ても煌びやかな人たちが馬車から降りて校門へ歩いて行っていた。


「ハンス様、お荷物のほうは寮へお運びしますので」

「ああ、ありがとう。俺は教室へ向かうとするよ」


 その際にがしっと手を掴まれる。


「ハンス様、もしも嫌のことがあったり、意地悪なことをされましたら私めにお申し付けください」


 私の自慢のあれでやってきますからね、と良い笑顔で物騒なことを言わないで欲しい。


「わかった。何があってもお前には言わないから」

「なんと! でも、ハンス様の身の安全は守るようにご主人様から仰せつかっておりますので!」


 本当に彼は世話役としては満点なのだが、自分に対しての感情をなぜか拗らせているところがある。一度だけ助けただけたというのに、義理人情が強すぎではないだろうか。


「はいはい、俺は遅刻をしたくないから荷運びの方をよろしく頼むよ」

「かしこまりましたハンス様! 良い学園生活を!」


 屋敷から持ってきた荷物を運んでいくベルナールを見送り、自分も彼らと同じように校門へと歩いていく。完全に違うけれども、自分にとっては二度目の学園生活。精神的に一回りほど違うが、初めての場所というものはいつになっても緊張するものだ。

 新しい家族に、新しい場所に新しい待遇。一呼吸おいてから自分が一歩を踏み出した瞬間だった。


「うぐぇ!?」


 不意にやってきた背中の衝撃に情けない悲鳴を上げてしまう。一瞬、自分の声を聞いた人は立ち止まったが次には何事もなかったかのように歩いていた。


「ご、ごめんなさい! 躓いてしまって……!」


 髪の毛を直しながら慌てて頭を下げていたのは少女だった。ブロンドの髪色にエメラルドのような大きな瞳で可愛らしいという印象的であったが、どこか見たことあるような気がしてならない。

 じろじろ見ていては失礼だと気づき、急いで身だしなみを整えながら姿勢を正した。


「怪我がなかったのが何よりですが、次からは気を付けてくださいね。……お名前を聞いてもよろしいでしょうか」

「あ、申し訳ありません! 私の名前はリゼット・アヴリーヌと申します!」


 彼女は声を少しだけ裏返しながらも自身の名前を名乗る。どこかで聞き覚えのあるような気がし、失礼にならない程度に彼女の容姿を確認した。

 いやそんなまさかと否定をし、自分は彼女と別れたあとに大人しく宛がわれた教室へと向かった。

 学園内に置かれている家具などの、どれもが一級品とも呼ばれるもの。花瓶一つでも一般市民ならば到底に手が届かないほどの額だろう。自分が辿り着いた教室へ入室すればすでに何人かが先に到着している。

 とくに興味もなかった自分は、話しかけられるのも億劫で離れた場所に席へつく。時間が経つにつれて少なかった教室にも人がたくさんへとなっていく。

 騒がしくなっていったのか、それとも家系への牽制となっているのかはわからない。その様子を眺めていると、一際に女性の黄色い声が大きくなった。

 この場合は確実にイケメンがやってきたというのがわかる。


「レイモン皇太子と同じ教室なんて」


 とても運が良い、と誰かが言った。彼らは運よく彼とコネクションが取れればと画策しているのだろう。

 自分は断じて違う。色んな意味で確信を持ってしまった。

 この世界はただの中世の時代ではないことを──。

 いや、この世界に生まれて自覚をしたときから自分の知っている中世とは違うなというのを認識していた。何せお手洗いが立派に存在しているということ。まだ中世という時代は排泄物を外に捨てていたはずだった。

 なぜか街は貧富の差はあれども、排泄物が投げ捨てられる行為は見たことがない。この世界はなんか中世の綺麗な部分だけを切り取ったような世界なのだ。

 不思議だと思いながらも、ある程度保障された生活をしていれば認識が鈍くなっていく。

 しかしながら、さきほどの少女とレイモン皇太子という明らかにモブではない顔立ちに薄らいでいた前世の記憶が一気に引き起こされていく。

 以前の自分は日本人であり、思いっきり平凡な家系だ。そして自分には妹が一人おり、「感想が聞きたいからプレイをして」という一言で押し付けられたのが、いわゆる乙女ゲーム。妹が言っていたのは「めっちゃ王道テンプレすぎる乙女ゲー」と言われたが、自分は根っからのアクション派でADV系などはプレイしたことがない。

 そして推理系ではなく、女性向けの恋愛を渡してくるあたりが謎でしかなかった。ものは試しにプレイしたゲーム。

 タイトルは覚えていないが、確か平凡な少女だったはずが実は貴族の血を継いでいたことが判明。彼女は一緒に暮らしていた曾祖父の暮らしを豊かにするために貴族の通う学園へと入学した。

 さきほど自分にぶつかってきた少女こそがヒロインだが、容姿端麗の時点で平凡もくそもあるか。容姿が綺麗なだけでも非凡なのではないか。

 そして先ほど入ってきたレイモン皇太子は攻略する候補者の一人になる。あと他にも個性豊かな候補者がいるが、様々な場所に散らばっているはずだ。

 とにかくレイモンド皇太子から見れば自分の存在はモブであり、朝ぶつかってしまったリゼットこそがヒロインである。


「ま、俺には関係ないか……」


 自分がヒロインを邪魔するような人間でもない。自分は自分の人生を謳歌させてもらおう。

 いびってくる妹もいない。適当に自分の家系に利益になるだろう人間と仲良くなれば良いだろう。


 気楽にモブとしての、一般的な貴族のお坊っちゃまとして生活していくのだと思っていたのだ。

 今日までは──。

右も左もわからないまま、とにかく書きたいものをぶつけた次第です。

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