2.離乳食、そして怒りの炎
翔は転生して数か月たっていた。
全く夢から覚めないため、転生したのだと嫌々ながら受け入れていた。
お腹がすいたので、取り合えず泣く。
「あら、アランちゃんお腹がすいたのね」
いつもなら飲みたくもない母乳が飲める。
「ちょっと待っててね」
おかんが、包丁で何かを刻みながら用意している。
それを鍋に投入しているようだ。おかんの手元が見えないので
食材は不明だ。
おかんがその鍋から何かをオワンにいれる。
「アランちゃんのご飯よ」
なるほど、離乳食か。
離乳食をみると、ゴキブリの頭がたくさん浮いていた。
俺は口をチャックして断固拒否して母乳を飲みたいとママンに抗議する。
「あら、好き嫌いはダメよ」
そういうとおかんは無理くりゴキブリの頭入りのスープを俺に流し込んでくる。
無力であった。
翌日も同様に同じスープを何度も飲まされる。
ついに怒りの沸点が超えてしまった。
さらに翌日に、目の前のスープのオワンを全力で投げたのだ。
赤ん坊が全力でなげたところでテーブルの上が汚れるだけだった。
「もうアランちゃんたら仕方ない子ね」
おかんが口移しでゴキブリスープを飲ませてくるようになり状況が悪化した。
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それから数年後、アランは毎日ゴキブリ以外にも、クモやらムカデやら何だかよくわかんものを食わされ続けていた。
「おかん、俺は虫は嫌だ。鶏肉や豚肉が食いたい」
「そんなもん、うちはでてきませんよ。父さんが狩猟下手だから、農作物と虫のみなの知ってるでしょ?」
「僕が狩猟して取ってくるよ」
「森に近づいたら危ないからよしな」
おかんは怖い表情になり、アランを持ち上げて、尻が赤くなっても何度も叩くのであった。
「痛い、痛い、もう言わないから許して」
「ダメよ、死んだあんたの兄さん3人も森に近づいて事故にあったのよ」
「おとん、母さんを止めて」
おとんはアランから目を背ける。
アランは死んだ兄たちから数えて4男目だという驚愕の事実をこの時に初めて知った。
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アランは6歳になった。
村の年の近い子たちとも遊ぶようになった。
アランたちが遊ぶ集団に見慣れない大人5人が近づいてくる。
「やぁ、君たち、村長さんの家はあの丘の一番大きい家かね?」
アランは無言でその家を指さして、頷く。
「ありがとな」
大人5人は村長の家に向かった。
アランはその大人たちが気になったので、ついていくことにした。
他の子供たちも興味本位でアランと同じくついていく。
しかし、大人の足には勝てない。
アランたちが村長の家に着くと、大人5人組と村長が話している。
「お前たちも、旅人さんが魔法みせてくれるそうじゃから、ついでに見学していけ」
アランたちは庭に座ってまっていると、奥から、太った村長の孫がでてきた。
どうやら孫に魔法見せるついでらしい。
旅人が何やら唱えると、手から炎が出てきた。
その炎が石壁に当たった。
次に別な何かを唱えると手から水がでてきて、その石壁に同様に当てていた。
「以上、安全のために初級魔法の火と水をだしました。村長殿、ギルドで出した依頼の本題に入りますね」
「そうじゃな」
アランたちは見世物は終わりだと言われて、解散させられた。
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アランは興奮した状態で家に帰り
「おかん、ギルドって何?、それと魔法使いたい」
おかんは怖い顔になっている。
無言でアランを抱えると堅い棒でアランのケツを泣きながら叩きだした。
「どうしてそんなこと…をあんたはいうの」
アランはケツを思い切り叩かれて、冗談抜きに痛い。
「今日旅人見かけて、ギルドがどうこういってたから…」
おかんは棒での尻叩きを辞めるどころか、さらに力をいれて叩いてくる。
「私たちは農民なのよ。そんな危険な職業に興味持ってはいけません。」
「はい、おかん」
「それと魔法は私たち平民には使えないから、そんなこといわないこと」
「はい、おかん」
おかんが、ごめんなさい、ごめんなさいと泣きながらアランを抱きしめたのだった。
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アランは村の小川に来ていた。
昨日のギルドから派遣された人が唱えていたものを試しに唱えてみる。
アランの右手に炎の玉が出現した。
試しに水をだしたものも唱えてみる。
アランの左手に水の玉が出現した。
取り合えず両方ともに小川に投げる。投げてみたが威力が強いか弱いかが分からない。
小川は形状は変わってない。
おかんに相談すると、また尻叩きに合う気しかしないため、農作業してるおとんの方に向かった。
「おとん!」
「どうした」
あらんを持ち上げてきた。
「これ見て」
唱えようとしたら途中で噛んでしまった。しかし、水の玉はでてきた。
おとんは顔を真っ青にさせながら、アランをその場に降ろした。
クワを持ち直して、
「おかんとおとんは、大切な話があるから、暗くなるまで遊んでなさい」
そういっておとんはおかんの元に向かった。
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「あんた、畑仕事どうしんだい?」
「……」
「クワなんて家の中にまで持ってきて」
「……」
「なんかいいなよ」
「お前こそ、隠してることは何もないのか?」
家の中が緊張の糸で張り詰める。
おかんは思い出そうとする。
「まさか、あんたの大事にしてた彫刻壊したのがアランでなく私だったってことに気づいたのかい?」
おとんの怒りがたまっていく。
「違う。そうじゃない。それも許せんが、アランが魔法を使えるのは何でなんだ」
おかんは、心配そうな顔をしてオトンの額に手を当てる。
「熱ないけど、何いってんの?」
「はぐらかすな。アランが俺の目の前で水の玉を出したんだぞ」
「………」
「俺の家系には魔法使いはいない。お前の家系だって魔法使いはいない。つまり
魔法が使える子供が生まれるはずがない。浮気したのか?」
おかんは近くに有った木の棒を掴むとオトンに何度も本気で叩きまくっていた。
アランはおとんがボロボロになった状態でやっと追いついた。
「おかん、やめて。やめて。」
必死におかんにしがみつく。
それでもおかんは止まらない。
この騒ぎを聞きつけた他の村人がきてようやくおかんは取り押さえられた。
おとんは無残な姿に変わり果てていた。
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村の掟によると殺人は重罪で、基本的に死罪となる。
「これより夫婦間トラブルによる殺人の処分を決めたいと思うが、
掟通り死罪でどうだろうか?」
村長が裁判長みたいな役割となり、集まった村人たちの意見を聞く。
「まだ6歳の子供がいるから、そのこはどうするんだ。
少なくともうちでは面倒は見ないぞ」
参加してる大人たちが沈黙する。
「それには心配に及ばない。魔法が使えるのはわしも確認したから、
子供は役人に引き渡す」
こうしておかんの死罪が決まってしまった。
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アランは、こっそりとおかんのいる牢屋の裏に来ていた。
「おかん、この村から逃げ出そう」
「アラン、ごめんね。できない」
おかんは覇気のない声で返事をした。
「本当は殺す気はなかったの。
ただ、私昔から感情的になるとやりすぎてしまうから、アランにも酷いことをしてきたよね」
おかんは号泣しながら答えている。
「でも…おとんもおかんもいなくなったら…」
アランも泣き出した。
表側に移動すると、誰も見張りが居なくて、鍵のみだった。
いくら何でもおかんが死ぬのは嫌だったアランは、村の掟に怒っていた。
火の玉を鍵に当てる。鍵が溶けて、牢屋が解放された。
しかし、おかんは出てこない。息子が最後まで必死になっている姿に涙して、
魔力切れで倒れてしまった息子を牢屋の中にいれて、抱きかかえていた。
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アランは村長の馬小屋で目覚めた。おかんもおとんもこの世には既にいない。
「転生して、両親が外れだと思っていたのに、なんでこんなに悲しいんだよ。
どうして魔法が使えただけでこうなるんだよ」
アランは拳で地面を思い切り叩く、拳がものすごく痛む。でも止めない。
1週間後、村に立ち寄った役人に預けられたアランは初めて村をでた。