<第2話>居酒屋の二人
捜査一課に戻った黒川と青野は、連日の泊まり込みの捜査から首尾よく解放された。
おかげで二人は、約束通りそのまま近くの居酒屋へと歩いて行く事が出来た。
店では、さらに運良く個室が開いていたので、そこへ入る事にした。
部屋に入ると、手早く注文を終えホッと一息をついていた。
「いやぁ、本当に店に来られるとは思っていなかった。
今日は、何かとついているな。」
黒川が嬉しそうに言った。
「そうですね。
課長が『今日はとりあえず帰っていい。』なんて言ってくれるのを、久しぶりに聞きましたよ。
課長の気が変わらないうちにと思って、そそくさと出てきちゃいましたね。」
青野も嬉しそうに答えた。
乾杯用の生ビールが二つと、おつまみが数品届いた所で、二人は乾杯をし、軽く食べ始めた。
「それじゃあ約束通り、始めるとするか。」
黒川がそう言って、グラスを机に置くと、おもむろに話を始めた。
「さっきの話な、実は姫子さんと初めて会った時の事なんだよ。」
「えっ!姫子さんと出会った時の話なんですか。」
驚いた青野は、自分も持っていたグラスを机の上に置くと、黒川の話を真剣に聞き始めた。
「ああ、そうだ。だから随分懐かしい話になるよ。
今のように難しい事件に遭うたびに、姫子さんと一緒に事件を解くようになっていくなんて、
あの時の俺には、全く想像がつかなかったよ。
ところで青野、お前は桜井財閥の会長の事件は知っているのか?」
黒川が青野に質問をしてきた。
「ええ、知っています。
確かその事件については、父から聞いた覚えがあります。
あの事件が起きた当時、僕はまだ中学生でしたよ。」
「そうか、そんなにまだ小さかったのか。
でも、事件をちゃんと知っているんだな。
さすが警視総監の息子。小さな頃から刑事としての英才教育を受けているんだな。」
「英才教育ですか?そんな感じではないと思いますよ。
子供相手ですから、そんなに詳しく話してくれた訳でもありませんし。
あの事件がテレビで報道されたので、解決した時に父が上機嫌で結果を話してくれた
だけだと思いますよ。
僕が聞いたのは、テレビで問題視された誤捜査の疑いが払拭されて、桜井会長の一件が事件であることが判明した事と、その後の捜査で事件も無事に解決したという事だけです。」
「わははは…。それは随分かいつまんだ話を聞かされていたんだな。
まぁ、守秘義務とかを総監はきちんと守る人だから当然か。
でも今日の俺の話は違うぞ。
青野はもういっぱしの刑事だ。だから裏側も含めてちゃんと詳しく話して聞かせないと今後の参考にならないからな。」
楽しそうに話しながら黒川は、グラスに残ったビールをグイッと飲み干した。