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花瓶
そよそよと吹く風に草原がさざめく。
心地よく揺られる緑の草本の一角に、凛然と光を浴びる花が咲いていた。
彩り豊かな花は身を寄せ合って、ひとつの大きな花冠を描いているようだった。
質素に添えられた花瓶が、花の美しさを生かしている。
その花瓶は、生涯の意義を理解していた。
永遠と一瞬の美をすくい取るために存在しているのだと。
花が咲き、枯れるまで。その美しさは、ひと時も変えてはいけない調和の体現だ。
最も美しい瞬間に切り取られた花は、それが永遠であることを望まれる。
枯れて行くほど色は濁る。乱雑に重ねられた絵具のように。
それでも、光だけは色を重ねるごとに輝きを深める。
花に差し込む一瞬の光が、二度と見ることのできない色彩を浮かび上がらせる。
そうした美に対する感動のまなざしが花瓶に向けられることはない。
それは、花とのゆがんだ共生関係だ。
花を飾るために生み出され、花を飾るために生きる。
やがてひびが入り、割れて、失われるその日まで。
息をしないままに、花瓶は生き続ける。