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千年桜

 その少女は、桜を紡ぐことができる。

 彼女の胴回りほどの花瓶には、やせ細った木が根付いていた。

 少女は、自らの指よりも細い枝に手を当てた。

 ぽつぽつと薄紅色の花弁が枝先につく。

 かつて人々に桜の雨を降らせていた威容は見る影もない。

 千年咲けば永遠(とわ)へ至る。

 そんな迷信に縋るような姿をありがたがるもの好きは、数えるほどもいなかった。

 どれだけ美しく着飾っても隠せない衰えは、人の目に自らが直面する老いを突き付けていた。

 そうした醜悪さを理解して、少女は紅を指すように花弁をつける。

 老いた体躯が、せめて安らかに朽ちることを。そんな願いに砂かけるように、今にも手折れそうな体から、少女は花を咲かせる。

 繊維をたぐって花弁を編み出す。

 肉体をナイフで切り裂いて、血液をあふれさせるかごとき残忍さ。

 一瞬で散る儚さのために、十何年という命を奪い去る。

 それを桜の木が望むかはわからない。

 ただ、散った花弁が風に舞い、遠くのだれかの目に映ったのならば。

 それは桜の願いか、少女の願いか。

 その美しさは記憶として運ばれ、千年に至る。

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