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(9)変わらないことと、変わったこと



 私は人妻になりました。

 ただの小娘でしかなった時とは全く違う日々が……少しも始まっていない、気がします。



「……おかしいわ。どうして何も変わってないの?」

「お嬢様、いつまでぼんやりなさっているのですか。まだお食事が途中ではありませんか。早く召し上がってください」


 ちょうど通りかかったネイラが、温かいお茶を注ぎ足してくれました。

 家族には内緒にしていますが、私は熱すぎる飲み物は苦手です。だから食事を必要以上にゆっくり取る癖があります。でも、冷たくなりすぎたお茶も苦手です。

 私の乳母であるネイラは、全てを知っているのでさり気なく熱いお茶を足してくれるのですが、今日は特にありがたいと思いました。


「……ねえ、ネイラ」

「なんですか?」

「私、結婚したのよね?」

「ええ、立派な結婚式でございました」


 ネイラはにっこり笑いましたが、空のまま放置されていた誰かの皿を片付ける手は止めません。

 私は残っていたパンを口に放り込みました。


「ここは私の家よね?」

「はい。メリオス伯爵邸でございます」

「おかしいわ。私は結婚した筈なのに、なぜここにいるのかしら」


 首を傾げ、私はちょうどいい温度になったお茶を飲みました。



 昨夜は気にする余裕はなかったし、その前の日はそれどころではなかったのですが。

 私は結婚したのに、実家のメリオス伯爵邸にいます。部屋は客間へと変わりましたが、グロイン侯爵様も生活の場として当たり前のように受け入れていました。

 どう言うことでしょうか。


「もともとアルチーナ様が結婚する予定でしたから、結婚後もメリオス家で生活することが条件の一つだったそうですよ」

「そうなの?」

「侯爵様は爵位を賜ったときにお屋敷も受け取っていると聞いていますが、長く主人がいないまま放置されていたお屋敷だそうで、手入れがまだ十分ではないとか。それに、その、立地も少々中央から離れているので不便でございますし」

「……ああ、そう言うこと」


 要するに、お姉さまは結婚しても生活を変えるつもりはなかったのです。

 侯爵様がご多忙であることを利用して。

 政略結婚とはそう言うものですが、それにしても……でもアルチーナ姉様ですからね……。


「でも、よかったです。今までのお嬢様のお部屋は日当たりが悪すぎましたから。新しいお部屋は快適でございましょう?」

「ええ、そうね。とても明るいわ」

「調度も全てアルチーナ様のためのものですから、特別に上質でございます。ただ、お召し物は……」


 ネイラは手を止めて、私を見つめました。



 今朝のドレスも、結婚するアルチーナ姉様のために用意されたものです。

 例によって大きすぎるので、ベルトでぎゅっと締めてやっと着ている状態。肩を出すデザインではないのに、肩がほとんどあらわになっています。

 朝から着るドレスではありませんが、他に侯爵夫人にふさわしい上質な服がないから仕方がありません。

 頑張って着付けてくれたネイラも気になっているようで、深いため息をつきました。


「……とりあえず、お針子を何人か手配しましょう。侯爵様が社交界に出入りする方ではないのは不幸中の幸いでございました」


 不幸中の幸い、と言っていいのでしょうか。そもそもとして、諸悪の根源はアルチーナ姉様のような気がします。

 言葉には出しませんけれど。



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