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(36)決戦の朝



 王宮でグロイン侯爵様とお会いした翌日。

 じりじりしながら部屋にいました。


 無事に後ろ盾になってくれる人が見つかったのです。

 早くアルチーナ姉様に知らせたい。……そう思っているのに、今日に限ってお姉様からの呼び出しがありません。



「お嬢様? どうかしましたか?」

「何でもないわ」


 落ち着かない私に、ネイラが心配そうに声をかけてきました。

 いけない、いけない。

 こういう時は、さり気なく様子を探らなければ。……どうやって?


「……ネイラ。今日はお姉様からの呼び出しは、まだないわよね?」


 私に、高度な情報戦なんて無理でした。

 諦めてそのままで行きます。


「いつもなら、とっくにお姉様からの呼び出しがあるはずなのに」

「ああ、それでしたら」


 お姉様の動静を気にするのは今に始まったことではありませんから、ネイラは特に不審に思わなかったようです。

 明日着る予定のドレスにレースを縫い付ける手を止め、顔をあげました。


「今日は、朝からロエル様がいらっしゃっているんですよ。最近のロエル様はお忙しかったですからね。今日はもう、アルチーナ様から声がかかることはないと思いますよ」お忙しかった


 なるほど。ロエルが来ていましたか。

 でも……今のお姉様にとって、あまりいい状況ではないですよね?



 ロエルは優しい人です。

 アルチーナ姉様も、ロエルと一緒にいる時は少し穏やかな顔になります。

 でも、二人っきりで過ごす時間はないはずです。必ず誰かが同席しているでしょう。

 メイドの目がある前では、体調が良くなくても平気なふりをしなければならないのですから、かなりお辛い状況のはずです。


 ロエルはともかく、メイドたちは遠ざけなければ。

 そのためには、私が同席するのが一番、とは思いますが。……お二人の時間に割って入るなんて、私らしくないですよね?


 何か口実があればいいのですが。

 えっと……例えば……空気を読むことを忘れてわがままになるような……私にそんなことができるの?


 しばらく考えて、ふと昨日のことを思い出しました。

 私と向き合ってくれたグロイン侯爵様の目は、とても優しい金色でした。決して長い時間ではありませんでしたが、侯爵様のことも少しだけ知ることができました。



「……これだわ」

「お嬢様?」

「ネイラ、私、どうしてもお姉様にお話ししたいことがあるのよ。できればすぐに!」

「まあ、お珍しいことを。でも……」

「昨日ね、侯爵様とたくさんお話しすることができたのよ。その事をお姉様にも話したいの。ロエルにも聞いてもらいたいわ!」


 つい、声が大きくなってしまいました。

 ネイラは驚いた顔をしていましたが、すぐににっこりと笑ってくれました。


「まあまあ。お嬢様ったら、そんなに侯爵様とお会いできて嬉しかったのですか?」

「え? ……ええ、それはもうっ!」


 少し大袈裟になってしまった気がしますが、嘘ではありません。

 お姉様に、少しでも早くお話ししたいことがあるのも間違いないですし。


「では、聞いて参りましょう」


 ネイラは部屋を出て行きました。



 その間、私はじっとしていられなくて、窓辺に行ったり、椅子に戻ったりを繰り返します。

 とても長い時間が経っている気がしました。


「お嬢様、アルチーナ様が来ていいと……」

「すぐに伺いますっ!」


 ネイラが戻ってきた途端、私はすぐに部屋を飛び出して行きました。



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