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(22)メリオス伯爵邸



 最近、なんだか忙しい気がします。



 二週間前、新しいドレスを作るために部屋に布があふれました。

 布の選定で三日ほどかかった気がします。

 デザインの大まかな決定で二日。着ることになる私は何も主張することはありませんでしたが、お母様とお姉様がひたすら言いたい放題でいつになく長引きました。


 それがやっと終わったと思ったら宝石商と彫金師が来て、またお母様とお姉さまが言いたい放題。

 何も言えないままの私に、ロエルが美味しいお菓子を持ってきてくれました。


 ドレスの件がやっと落ち着いて、ほっとしたのも束の間。今度はグロイン侯爵邸の内装について相談したいと管理人さんがやってきて。

 これに関してはお母様は無関心でしたが、お姉様はさらに言いたい放題。

 その三日後から壁紙やカーテンのサンプルを持った商人が入れ替わり立ち替わりやってきて、その全てをお姉様がダメ出しをして追い返す日々が続いています。

 ……でも、そこまでダメでしょうか?


「エレナ。妥協はダメよ。小さなことでも、気になり始めたらどんどん大きくなるのよ。それに商人の怠慢も許すべきではないわ。彼らに甘い顔をしたら、すぐにつけあがるだけだから」

「でも、提案していただいたカーテンはとてもきれいでしたよ」

「きれいではあったわね。でも、エレナはあの緑色はあまり好きではないでしょう?」


 ……なぜバレてしまったのでしょう。

 カーテンの中で、小さな模様の一部に使われているだけの緑色。その色が確かに苦手な色でした。嫌いではないのです。あと少し青かったらいいのに、と思っただけなのに。

 顔に出ていたのでしょうか。


「あら、気付いていなかったの? あなたは色の好き嫌いははっきりしているわよ。ずっとお母様が選んだドレスを着ていたけれど、好みの色の時だけ、とても表情が明るくなっていたから」

「……そう、だったのですか?」

「それなのに、好きでもない色のドレスをずっと着ているんだもの。見ていて腹が立つのよね」


 もしかして、ドレスのことでお母様と意見を衝突させていたのは、私のことを考えてくれていたのでしょうか。


「あの成り上がりは地位とお金だけは持っているんだから、早く自分の好みのものを揃えればいいのよ。そのイヤリングも全然似合っていないわよ。好きでもないのに、なぜつけているの?」


 でもこれは、お母様からいただいた誕生日のプレゼントですから……。

 そう言おうとしましたが、お姉さまの顔を見てやめました。

 今日のお姉様はいつもより機嫌が良くないようです。こういう時に楯突くのは、妹として絶対にやってはいけないことですよね!


「そ、それより、アルチーナ姉様は新しいドレスは作らないのですか?」


 無理矢理な話題転換として、でもずっと不思議に思っていたことを口にしました。

 最近、商人たちを呼んでいたのは、私のドレスを作るためでしたが、商人が持ってきた布の中から、お母様も自分用のものを選んでいました。

 なのに、珍しくお姉様は何も選びませんでした。


「お姉様がお好きそうな色がたくさんありましたのに」

「あなたの部屋に、まだたくさん上質のものがあるからいらないわ。すぐに着れるものがあるのに、仕上がるまで待ちたくないし」

「そ、そうですか」


 いかにも面倒そうに、目を逸らされてしまいました。……やはり、アルチーナ姉様はご機嫌が良くないようです。

 久しぶりに、クローバーを探しに行くことになるかもしれません。

 今日は天気がいいから、たくさん見つかりそうですね。



 そんなことを考えていたら、廊下が騒がしくなりました。


「お、お嬢様っ!」


 ノックなしで入ってきたのは、ネイラでした。

 飛び込んできてすぐに扉を閉めましたが、閉めるときにバタン!と大きな音がしてお姉様が嫌そうに眉をひそめます。

 お姉様のご機嫌を気にしつつ、息を切らせているネイラの顔色が悪いことにも驚きました。


「どうしたの?」

「お嬢様っ! 大変でございますっ!」

「ネイラ、うるさいわよ。それにエレナのことは奥様と呼ぶのだったでしょう?」

「は、そうでした。お嬢様……奥様……いいえ、もうそんなことは今はどうでもよろしゅうございますっ! 大変でございますっ!」

「もうっ! 大きな声を出さないでっ!」


 ネイラが慌てれば慌てるほど、アルチーナ姉様のご機嫌がどんどん悪くなっています。

 私はさり気なく二人の間に割り込みました。



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― 新着の感想 ―
[一言] ね、姉様...? この姉様本当にマイペースなだけで実は妹大事でよく見てる完全合理主義者説浮上。
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