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(20)屋敷の鍵



 私の夫であるグロイン侯爵様は、戦争などで大変な功績のある方です。

 貴族とはいえ、下級扱いの男爵家の出身で、それゆえに国王陛下がどれだけ信頼していようと出世に上限があったとも聞いています。その上限を超えさせるために、国王陛下は長く空席となっていたグロイン侯爵位をお与えになったそうです。


 空位だった期間が長かったため、付属していた王都の邸宅は多少荒れているようですが、古い時代の庭園形式がそのまま残っているとも聞きますし、そのうち見せてもらえればいいなと思っていました。

 でも。

 その由緒正しい邸宅の鍵を、私がすでに持っていたなんて知りませんでしたっ!




「お嬢様……じゃなくて奥様っ! 婚礼後に運び込まれた荷物の中に、確かにありました! これで間違いないでしょうかっ!」


 保管庫に探しに行っていたネイラが、息を切らせて戻って来ました。

 両手で、銀製の盆をささげ持っています。その中央に、小さな箱が載っていました。


「ああ、それだよ。ご苦労だったね。しかし、奥方はまだ見ていなかったのですか?」

「その……高価な宝石ばかり頂いていたので、怖くて途中で確認をやめてしまいました……」


 恥ずかしくて、ハーシェル様のお顔が見られません。

 まさか、侯爵様からの高価な贈り物の中に、お屋敷の鍵まであったなんて。それに気付かないまま、今に至っていたなんて。

 ……もしハーシェル様に教えていただかなかったら、遠い地まで間の抜けた手紙を送ってしまうところでした。受け取った侯爵様は、さぞ困惑なさったことでしょう。


「まあ、全部をまとめて贈ってしまったし、オズウェルも十分な説明をしていないままみたいだし、ね。見落としていても仕方がありません」

「そうね。エレナはそういう子ですもの。説明をしておくべきでしたわ。こんな古い鍵だけ渡されても、私でもよくわからなかったと思いますもの」


 ……アルチーナ姉様が、優しいです。

 お姉様なら早い時期に全ての贈り物を確認していたでしょうし、鍵だけがあったとしても、それが何かに気付いていたはずですから。かばってもらえるなんて思いませんでした。

 ちょっと感動です。


「鍵がここにあるということは、つまり、お屋敷の管理権はエレナにある、という意味であっているかしら?」

「その通りです。アルチーナ嬢」

「そして、あなたはそういう経緯を全てご存知みたいですが、少し詳しすぎる気がしますわね」

「オズウェルの友人として、侯爵にふさわしい体裁を整える相談に応じているだけですよ。あいつは体裁など気にしないが、家格とか格式にやたらとこだわる愚かな人々もいますからね」

「あら、確かに愚かなことですわね。生まれも育ちも、表面を繕っても変えられませんのに」

「アルチーナ嬢は、見た通りに気性が激しいようだな」

「外面がいい人のように、嘘をつくことがないだけですわよ」


 ハーシェル様とアルチーナ姉様は、また完璧な微笑みを浮かべ始めました。

 ……なんだか、風向きがまた怪しくなって来ました。話を進めましょう。


「あの! 本当に私が見に行ってもいいのでしょうか!」

「それはもちろんです。ああ、そうだ。これから屋敷を見に行ってみませんか? 私がお供しますよ。もちろん姉君もご一緒に」

「え、でも……」

「いきなりでは管理人が困るかもしれないな。お二人が出かける用意をしている間に、私が先触れとして馬を飛ばしましょう」

「それはいいわね。エレナ、お願いしましょう!」



 ……どうやら、これからお屋敷を訪問することが決まったようです。

 話が進みすぎました。



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