伝達手段は計画的に
乙女ゲームの世界でなんか別のゲームを始めちゃったらしい、昭君。
そんな昭君に続いて、さくま(仮名)君まで別のゲーム(?)を始めようとしていた。
はてさて、どんな結果が出るのかな?
思いがけず、今まで習ってきた技能を試す機会を得たでござる。
張り切って、拙者の持ち得る全てを用いて調略に努めるでござるよー! にんにん!
昭殿から調略目標のリストと簡単な身上書をいただいたでござる。
これを参考に、まずは身辺調査から始めるでござる。
どのような働きかけをするにしても、相手の情報を詳細に知っているに越したことはないでござるからな! とりあえず一か月は各ターゲットの身辺洗い出しにかけるつもりでござる。こういうのは焦ってもどうにもならないので下準備に徹底が必要でござるよ!
昭殿にいただいたリストによると……
リストの一番上に記載されていた『王子』は聞くところによると、この一か月ばかり失踪しているとのこと。いないものは調略のしようがないので、今は飛ばすとして。
二番目に記載されていたのは……ふむ、【サイバネティックス・ゴルゴンゾーラ】でござるか。
けったいな名前でござるなぁ!
なんだか舌を噛みそうな名前でござるよ。
呼びにくいので、仮にサンバ殿とお呼びするでござる。
――ひとりめ / A組 サンバ(サイバネティックス・ゴルゴンゾーラ)――
――ふたりめ / B組 アラン(アラン・ペペロンチーノ)――
――さんにんめ / B組 マック(マーキュリアル・カルボナーラ)――
――よにんめ / A組 よっちゃん(ヨシュアン・シシカバブー)――
よし。それではこの四人の調略を目標に準備を整えるでござる!
情報を集めるのはもちろんでござるが……情報だけでは備えが不安でござるな。
必要そうな小道具も集めねばなりませぬな!
買ったら高くつきそうなもの、足がつきそうなものはなるべく自作するでござる!
そうと決めて、意気揚々。
拙者は学園の教室や実験室が空いている時間を狙って色々と無断拝借したのでござるが……あ、もちろん使った後は完璧に痕跡を抹消したでござるよ! 材料も、消耗品はきちんと持参したでござる。勝手に使ったとはわからないようにしたので問題なしでござる!
そう、勝手に学内の設備を使ったことに関しては、証拠隠滅も完璧なので問題はござらぬ。
……問題は他にあったでござるよ。
当然ながら、ここは拙者の生まれ育った国とは別世界(文字通りの意味で)でござる。
拙者にとって馴染み深い材料はほぼ入手不可能でござったし、材料が違えば作り方も異なるのは自明の理。
なので学園の、薬学教師のお部屋にこっそりお邪魔して、調薬レシピを書き写させていただいて『この世界のレシピ』に挑戦したのでござるが……
「ま、また失敗でござるー!」
何度も挑戦したでござる。
何度も、何度も何度も。
しつこいぐらいに手順も材料もその分量も幾度となく確認し、慎重に取り組んだのでござるよ。
でも何故か、一度も成功には至らなかったでござる……。
行き詰った拙者は、何とかいい知恵はないものかと昭殿に相談することにしたでござる。
拙者、不甲斐ないでござる……そこそこ手慣れていると自負していたでござるし、自信はあったのに。
「昭殿ー! 聞いてほしいでござるよー!」
「ん、どうしたのさくま(仮名)」
「薬作りが全く成功しないでござる。失敗品の山でござるよー」
「薬? なに作ろうとしたのさ」
「ええと、摂取すると体が痺れる薬と、即座に相手を眠りに落とす薬と」
「痺れ薬に睡眠薬か。鉄板だね」
「摂取すると気分が高揚して理性が緩くなって、ついでに口も緩くなる薬と」
「自白剤だね」
「あと、一定時間嗅ぎ続けると記憶があいまいになる薬でござる!」
「最後に危険なものが出てきたね。でも成程? つまり専門的な調薬がうまくいかないってことだね」
「そうなのでござる! 拙者、とても困っているでござるよ」
「ふうん。でも仕方ないんじゃない? さくま(仮名)の使ってる肉体、確か調薬スキル持ってなかったはずだし」
「ちょ、調薬スキル? で、ござるか??? 昭殿、この体のことを知っているでござるか」
「隠しコマンドで閲覧可能になった、『アルバム』の登場人物欄にプロフィールがあったからね」
「ほほう、ということはこの体はそれなりにゲームの内容にかかわる御仁だったわけでござるな。そのプロフィールには、どのようなことが記載されていたのでござるか?」
「簡単な身体的特徴の羅列と、得意科目や部活動の有無とか、かな」
「得意科目、でござるか……それがわかるのであれば、教えてほしいでござる!」
「さくま(仮名)が使っている肉体の得意科目は『帝王学』と『家政学』、部活動は『馬術部』だってさ。ゲームの登場人物は得意科目や部活に関係するスキルを持ってるらしいよ?」
「家政学、でござるか……ならば料理の応用で薬も作れそうなものでござるが」
「得意な刺繍とレース編みの技術を駆使して製作したっていう大作(※ショール)が学園のエントランスに展示されてるよ。展示されるくらい、得意だったんだろうね」
「あー……お針の方でござったかー」
針仕事がいくら達者でござっても、それで薬は作れませぬなー。残念でござる。
拙者が持っている、そのなんと申したか……す、すきる?とやらではどうやら必要な各種薬品を調合するのは難しいようでござる。
この上は足が付くのを覚悟でタイ米はたいて購入するか……そういえばなんでタイ米なんでござろうな? コメをまき散らして買えるものなど……ハッ米騒動……!?
いや、ちょっと思考が脱線したでござるな。
そもそもタイ米をはたこうにも、はたけるタイ米の持ち合わせがござらぬ。
これではどうにもならぬでござるよ。無い袖は振れないというやつでござる。
拙者がうんうんとタイ米について考えを巡らせていると、傍目には思い悩んでいるようにでも見えたのでござろうか。
珍しいことに気付かってくださったのか、昭君の方から提案をいただくことができたのでござる!
「薬の調合で悩んでいるのなら、小夜を尋ねてみたら? キャラ紹介によると小夜に当てられた肉体の得意科目、薬学と礼儀作法と帝王学みたいだし。薬の調合とかできるんじゃない?」
「!! 昭殿、小夜殿の行方をご存じなのでござるか……!」
「むしろなんで知らないと思われたのかが気になるね。もちろん、知っているけど」
「な……っそれを早く教えてほしかったでござるー!!」
いろいろと、衝撃的な事実の発覚などあり申したからな。
昭殿との再会の喜び、かーらーの実はこの世界がゲーム(※事実)発言やら降ってわいた調略チャレンジなど、色々と気が逸れてしまい申して小夜殿に関しては後手に回ったというか。
正直な話、命に深刻な被害が予想されるような危険などなさそうでござったし、時間経過で勝手にこの世界からは脱出できるだろうという昭殿の予想に安堵して「じゃあ大丈夫でござるなー!」と当初の深刻さや焦りが薄れていたこともござる。
考えてみると、小夜殿には申し訳ないことをしたでござる……。
何はともあれ、まずは無事な再会を果たすべきでござったのに。
「それで小夜殿の所在は……」
「さくま(仮名)も予測はついてるんじゃない?」
「では、やはり」
もう一人の女王候補、でござるか……。
でもあの御令嬢、確か……
「四六時中、誰かしら取り巻きが側にいるから接触がしづらいご婦人であったような」
「そうだね。僕も近くを通りかかっただけで取り巻きに牽制されたり睨みつけられたりするんだよね。攻撃力高いよね、あの取り巻き連中」
「攻撃力というか、好戦的でござるな」
そう、この学園に潜伏し始めてから知ったのでござるが、このゲーム同好会(※学校非公認)の部室と化した空き教室にほぼ常駐している昭殿とは異なり、もう一人の女王候補は接触する隙が中々ないのでござる。
それもあって、小夜殿かどうか確かめるのを後回しにしていたということもあるのでござるが。
しかしこうなってはそうも言っていられないでござる。
大人しい性格の小夜殿のこと、このような見知らぬ世界で何もわからぬままよく知らない取り巻きに全方向包囲されては気が休まる暇もなかったでござろうし。
「拙者、なんとか接触してみるでござる!」
「がんばってね」
……昭殿、他人事みたいな言い方は酷いでござる。
昭殿の投げやりな激励も受けたことでござるし。
拙者はその日の内に行動を起こすことにしたでござる。
中々近づけない相手と、連絡を取りたい。
そんな時はこれでござる!
伝統的手法、そのいち!
「矢文~でござる~!」
という訳で、早速!
中庭で取り巻きの御婦人方とご歓談中の小夜殿とは似ても似つかない派手な御令嬢の、座っているベンチの背もたれ目掛けて! 射出! でござる!
「きゃぁぁあああああああっ敵襲よ~!」
「誰か、誰かある! 曲者が矢を……!」
……大騒ぎになったでござる。
この場は離脱!
本格的な追手がかけられる前に、混乱に乗じて拙者は逃亡する羽目になったでござる。
せめて小夜殿が、矢文に気付いてくれることを祈るでござる……。
一応、誰か別の人に読まれても構わぬよう、簡潔でありながら具体性に欠ける内容にしてあるので足はつかないと思うのでござるが。
ちなみに手紙にはこう書いたでござる。
――お前の正体を知っている。
明日、昭和のヤンキー漫画で定番の場所にて待つ。
そうして拙者は翌日、人気のない校舎裏で一日潜伏して過ごしたでござる。
もうお日様は西に傾き、空は真っ赤。
なのに誰も来ないでござるよ……。
今日は無理でござろうか。
改めて小夜殿にどう接触を図ろうかと策を練り直し始めていた、その時。
「さくま(仮名)君……? このお手紙をくれたの、さくま(仮名)君でしょ。どこにいるの?」
「さ、小夜殿ー! 来てくれたでござるかー!」
「やっぱり、さくま(仮名)君!? もう、あんな風にお手紙くれるんだもん。驚いたよー!」
小夜殿が来てくれたでござる。
それに拙者のことも、来る前からわかってくれたでござる。
わぁい! やっぱりお友達って、良い物でござるな!
「それでさくま(仮名)君、昭君は?」
「まず聞くことが昭殿のことでござるか! 流石は小夜殿、ぶれないでござる」
……わあ。やっぱりお友達って、良い物でござるなぁ。
こうして、拙者は離れ離れになっていた友達二人との再会を果たしたのでござる。にんにん。