どこかに消えた王子様
――あなた(主人公)はある日、未来の女王候補に選ばれます。
次の女王を決めるため、名門エリート校に編入することになったあなた(主人公)。
初めて見る華やかな都、キラキラと輝くような学校生活。
王子様を筆頭に、あなた(主人公)は6人の素敵な男の子と出会います。
1年という限られた時間の中で、あなた(主人公)は男の子たちとの仲を深めていくことでしょう。
果たして、次の女王に選ばれるのは誰?
あなた(主人公)? それともライバルの彼女――?
『きゅんふわ学園ホワイトストロベリー物語 ~恋する乙女は世界の絶対正義!~』あらすじ
――ゲームパッケージより抜粋――
――目が覚めると、そこは別の世界だった。
ここは、どこでござるか……?
目を覚ました、というからには今まで意識がなかったということで。
普段の行動範囲から考えると、目覚めて真っ先に目に入る光景は見慣れた自室の天井か保健室の天井か、あるいは青空のはずでござる。
なのに今、拙者の目に映るのは……
やたら細密に柔らかなタッチで描かれた、天井画!
天使が、天使が踊っているでござる……!
きんきらきんで目が潰れるかと一瞬考えてしまい申した!
古式ゆかしい日本家屋を住まいとする拙者には、少々眩し過ぎるでござる。
というか、全く見覚えがないでござる。
拙者、何故ここに……?
起き抜けに度肝を抜かれ、拙者も少々驚き申した。
しかし驚きが去ると、到底看過できない事実に直面してしまったでござる。
布団を押しのけて上半身を起こすと、剥き出しになった肌に冷えた空気を感じるでござる。
……拙者の、覆面は?
明らかに! 明らかに……!
顔が、素肌感覚でござるー!!
これは拙者が取り乱しても致し方のない事態でござる。
一族の掟は絶対。
そして一族の掟では、隠れ里を出てより素顔を見られてはならぬと口酸っぱく……!
誰かに素顔を見られれば、口を封じるか一族に取り入れるかせねばならぬでござる。
なのに、この現状。
見知らぬ環境で布団に寝かされていたとなれば、誰ぞに顔を見られた可能性が濃厚ではござらぬか!?
しかも下手をすれば不特定多数に!
驚きと、不安と、なんかよくわからぬごちゃごちゃした感情と。
拙者は訳が分からなくなりながら、自分の手で直接顔面をなぞって感触を確かめる。
……ん? あれぇ?
自分の手指の感覚がおかしくなったでござるか?
気のせいでなければ、顔面の造詣がいつもの自分とは異なるような……
思わず鏡、鏡と跳ね起きたでござる。
しかし立ち上がろうとして更なる違和感が!
手足の長さがいつもと違うでござるーー!?
顔どころか体格まで異なるとは如何なる次第でーー!?
慣れぬ長さの足をもつれさせながら、よろよろと見つけた鏡に近寄る拙者。
覗き込むとそこに映っていたのは……
金髪、碧眼。
……見慣れぬ異人さんがいたでござる。
わあ、おめめ青ーい、でござるー。
何事が拙者の身に起きているでござるのか……拙者、どなたかに説明を求めるでござる!
自分のものとはかけ離れた姿かたちに、混乱は募る一方でござった。
お陰で意識は鏡にばかり向かい、注意を怠ってしまったでござる。
がちゃり。
……戸の開く音がしたでござる。
ぎこちなく、油の差されていないブリキ人形のようなぎこちなさで見た、先には。
どうやらお仕着せらしい、おそろいの装束を着た女人が数名。
その先頭にいたおばさんが、拙者の顔を見るなり驚いたように一度目を見張り、ついで笑みをこぼしたでござる。なんでござる、その反応は。
「まあ、殿下! もうお目覚めでございましたのね。呼んでくださいましたらよろしかったのに」
「え、え、はあ? でんか? うんと、洗濯機とかのことでござるか?」←それは電化
「あらあらほほほ、こんなに朝早くにお珍しいことと思いましたけれど、どうやらまだ目が覚めてはいらっしゃらないようですわね。いつものように湯浴みをすればきっと頭もスッキリなさいますわ。既に準備は整っておりますの。ささ、こちらへ」
「え、え、えぇ!?」
そうして、さくま(仮名)君は。
六人程の侍女達に取り囲まれ、女性が相手では手荒な真似も……と抵抗を躊躇っている間に浴室に引きずり込まれ。
なす術もなく、やたらと手慣れたおばちゃん達によって全身をキレイに磨き上げられた。
さくま(仮名)君は死にたくなった!
本来、彼が受けている教育方針では。
現状に理解が及ばない時は、冷静になって状況を掴むことに努めるよう指導されているのだが。
この朝の出来事で、一気にそれどころではなくなった。
全身つるつるに磨かれた上、服を着るという行為さえもおばちゃん達の手で行われたのだ。
美しい出来栄えをさくま(仮名)君に鏡で確認させると、満足げに頷いておばちゃん達は部屋を出て行った。
どうやら朝食を持ってきてくれるらしい。
だけどさくま(仮名)君は、もう朝ごはんどころじゃない。
――一刻も早く、ここを脱出するでござる……。
さくま(仮名)君の目は、死んだお魚さんそのものだった。
なけなしの理性が、こんな目立つ派手な格好で脱出するなど狂気の沙汰でござる!と叫ぶ。
なんとなくいつもより鈍い動作で、さくま(仮名)君はごそごそとウォークインクローゼットを漁った。
すると隠し戸棚の奥からちょっと薄汚れた紺色のマントと庶民的な服、目立つ金髪を隠す茶髪の鬘の発掘に成功した!
さくま(仮名)君は『王子様のお忍びセット』を手に入れた!
あとは話も簡単だ。
さくま(仮名)君は己の全スキルを駆使してお城の隠し通路を見つけ出し、闇に消えた。
その日、お城では。
現女王の血を引く唯一の実子――王子が忽然と姿を消した。
当然ながら、お城は上を下にの大騒動となった。
一か月後。
城下町の中でも下町と呼ばれる雑多な界隈の隅っこに、カツラを被ったさくま(仮名)君の姿があった。
労働者の皆様御用達、安い早い上手いの三拍子そろった酒場で、筋骨隆々としたオッサン達に囲まれてチキンを齧っている。
「おう、今日もお疲れー!」
「お疲れ様でござる!」
「ようさくま(仮名)、お前今日も絶好調だったじゃねえの。どうやったらあんなおっきな岩てめぇみたいな細腕のガキ一人で運べるっつうの。ほんと、仕掛けがあるなら教えてもらいたいもんだぜ!」
「伝家の秘法でござるー。うちの一族の者と婚姻を結んでもらわねば教えられないでござるな!」
さくま(仮名)君は、オッサン達に囲まれて和気あいあいとチキンを齧っていた。
お城を飛び出してから、今日で一か月――。
彼は即日賃金を得ることのできる日雇い労働で日銭を稼いでいた。
そこそこ充実しているのか、実にイキイキと肉体労働に励んでいる。
オッサン達にも妙になじんで溶け込んでいるように見えた。
ござる語尾は健在だったが。
「一族のもんと結婚って、じゃあてめぇの姉ちゃんかおばちゃんとかいねえの? 紹介しろよ」
「ジェイ殿はダメでござる」
「ああ゛!? なんで俺はダメなんだよ!」
「ジェイ殿には長年連れ添った細君がいるでござる。奥様に密告するでござるよー」
「お、おぅ……いや、あの、そのな? うん、俺じゃなくってな? そ、そうそう俺じゃなくって紹介してほしいっつう奴がいてだなぁ」
「ぎゃはははは! さくま(仮名)、勘弁してやれよ! ジェイの嫁はいま六人目で腹がでっけえからよぅ。そんなとこに野郎が浮気しようとしただなんて聞いちまったらでっけぇ腹でど修羅場演じる羽目になっちまうぜ!?」
「なんと、ジェイ殿はおめでたでござったか! ひとりの体ではないというヤツだったのでござるな!」
「おい、やめろ。その言い方やめろ。俺の腹にガキがいるみてぇだろ」
「ジェイ殿、体を大事にして下され。よきややこを生んで下され、でござる」
「だからやめろっつってんだろ!? 俺が生むんじゃねえよ!」
さくま(仮名)君は、日雇い労働で食いつないでいるオッサン仲間たちにとてもとても馴染んでいた。
王子、失踪。
王子様→さくま(仮名)君。
次回はヒロイン(?)が登場します!