妖精になった……後に、禁忌に手を出した
はい、もはや内容に関しては手遅れです。
契約を持ちかけて数分。
突如、俺の体(魔導書)が淡い光を放ち始める。
『うおお!? なんだこれ、契約成立したってことか!? 』
しかし、俺の様子は光を放つだけで何ら変わっていない……いや、光がだんだん強くなってきている。その光が、目をつぶりたいほどまで強くなったそのとき……光は魔導書を離れ、宙に浮かび人の形になった。見た目はさながら妖精のようである。
『おお、これが俺の体……いや待て、俺の意識はまだこっちにあるのだが!? 』
意識はまだ魔導書の中にあるのだが……どうやら、この状態から遠隔操作しなければならないようだ。例えるなら、ラジコンのような感覚。どう考えても鬼畜である。
『しかたない、これで何とかするしかないか……』
物凄く動かしにくいが、少しずつ動かして本棚までたどり着く。古びた本を一冊、抜き取って……
『お、重い! 』
とにかく重い。見た目からしてたいした腕力は期待していなかったが……まさかこれほどとは。妥協することが多すぎる。……俺は、アクマに会ったら必ず殴ると人知れず誓うのだった。
まあ、このような流れを繰り返し、五冊ほどの本を俺(本体)の視界の内に持ってくることができた。ものすごい達成感を感じつつも、読み始めようとするのだが……やはり、もう諦めるべきか。この腕力。
『アアアアアアッ! 』
ページをめくる度に悲鳴をあげる腕。いつしか、心が折れかけていた。
『もう……嫌……!? 』
この世界の歴史やらなにやらばかり書かれていた、死ぬほど退屈な四冊目までを読み終えた俺の目に映り込んだのは……『魔導書』の文字。タイトルの前半はかすれて一部しか読めないが……その『魔導書』という文字は、間違いなく俺の心を昂らせた。
『ついにキタ、異世界要素! 』
え、お前も魔導書だろって?うるせぇ、ノーカンだ!
……かすれて読めない部分に興味が湧くが……とりあえず、読み進める。不思議と、先程までのような苦しみは無かった。これが趣味の力か。
『何々、禁……封……読めねえ。タイトルを読むのは諦めるか……目次は……空間魔法に、範囲焼却魔法、生命改造魔法、操骸魔法……』
すぐにタイトルを理解する。これだけ物々しい魔法が並べば、嫌でも理解できるだろう。
『これ……禁忌系統かぁ……』
そっと魔導書を閉じ……ようとして、開き直す。こちとら既に悪魔と契約しているのだ。禁忌に手を出すくらいどうってことはない。
それから数時間、俺はそれを読み続け……見事に、禁忌系統の魔法を習得してしまったのだった。