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サラリーマン IN 昭和 完結編

この1冊は私の人生を支えてくれた愛する妻に捧げたいと思います。

結婚以前に約束した「生きている間に自分の専門とするマーケティングを活かした

小説を書いて君に捧げたい。」ことの約束を果たせてようやく人生を締めくくりが

できて安堵しました。読者の方にはもしわけないですがお許しください。

大学を卒業してD電機に入社した郷田俊は本社の宣伝部へ配属されるが、そこで直属上司の森田係長の汚職に連座責任を取らされ北海道営業部へ異動させられた。北海道でサービス会社設立という活躍を周囲の応援を得て達成する。社長表彰を受けて、大阪へ帰れると思っていたが、人事部長から九州行を命令され、異動する。はじめは不満だらけの気持ちも周りの態度に徐々に変化し、ここでもサービス会社設立という難題を解決し、その上サービス技術認定制度を導入するという活躍をして又も社長表彰を受ける。しかも個人賞とのダブル受賞と言うかって誰も成しえなかったことを達成する。大阪へ帰れると思っていたら今度は営業統括専務から東京行きを命じられる。東京でもショウルームをまったく新しい形にオープンし、しかも新・旧のショウルームを両立させる活躍を認められたが、社長お交代がありそれに伴って役員の思惑が蠢いて、郷田も巻き込まれた。人事部長の支持で、今度は広島への異動が命令された。そこでも景観照明と景観の周辺アップ策を市長に提示し、認められ会社に貢献する。今度こそと思っていたら新社長が突然辞令を指示、今度は東北へ向かうことにになった。仙台の官庁街にある東北営業部ビルの前でタクシーを降りビルを見上げながら、ここを最後の地方回りにするという意気込みも新たに郷田はビル内に消えていった。受付嬢が「どちら様でしょうか」と言うのに郷田と申します、と返した。「どちらへご用でしょうか。アポイントはお取りでしょうか?」

「営業部の諏訪課長に郷田が来たと伝えてください。」「分かりました少々お待ちください。」と返事して

取り次ぐと急いで「すいません。新部長とは知らずに失礼しました。」と恐縮した声で誤った。

「気にしなくて良いよ。それくらいキッチリしていた方が良いと思うよ」と言っていたところへ慌てて諏訪が下りてきた。直ぐに部長室へ案内して管内放送を庶務課に指示した。館内放送が流れ、ピンポーン、「部長が着任されましたので、出来るだけ手に余る仕事が無い方は所長をはじめ全員6階の講堂へご参集ください。」

2度繰り返された。その間に二人は行動へ上がっていった。行動に続々と社員が集まってきた。諏訪がマイクの前に登壇して郷田を紹介した。郷田は

「皆さんお忙しいところ集まって頂いて恐縮です。私が郷田俊です。これから皆さんには公私ともにお世話になりますがよろしくお願いします。私からは今特にお願いすることはありません.所長以外の方は解散頂いて結構です。所長は3階の部長室へこの後お手数ですが集まってください。では解散願います。」すぐに3階の執務室へ降りて、入ってくる所長たちに指示した「自分は東北は初めての地なので当面は得意先への挨拶回りがあり、管内各地を回りますので、明日までに各地の問題点があれば書類で諏訪課長に提出ください。それ以外は日常業務を宜しくお願いします。」仙台電機営業所長の真鍋所長が歓迎会はいつが宜しいですか。と皆を代表して訊ねたので、いつでも良ので、決めて諏訪課長に連絡しておいてください。と答えた

直ぐに解散して、照明営業所長の神崎を呼んだ。神崎に

「君の管轄でなくても良いから、東北地区での照明の景観が整備されている所を他社物件も含めて明日迄にまとめて提出してください。」と指示した。

「ついでにちょっと聞きたいが、社長から特命で指示されている物件は無いかね?」

「いいえ、特には聞いていませんが、恐らく社長のご先祖の出身地又は会長のではないかと思いますが。一度社長からその地域の城のライトアップの依頼が自治体からないか問われたことがあります。」

「そうか、分かったよ。ありがとう。そこはどうなんだい。あるのかい。」

「いいえ、まだありません。すいません、アプローチもしておりません。」

「そこは何処なの」

「会長は福島の二本松市で社長は仙台だと思います。」

「なるほど、そういうことか。此れでわかったよ。」

じゃ、今日中に頼むよと言った。その後で部員と自己紹介をした。東北営業部営業企画 諏訪課長、宍戸課長、城田主任、川村社員(女子)の4名それ営業管理ぞれに役割が分担されていて、諏訪課長は営業企画、宍戸課長は営業管理、城田主任は仙台地区以外の営業所との連絡係、及び全新聞広告の本社とのつなぎ役、テレビは本社の事業部が広告するだけで、営業所は予防があれば直接事業部と連絡し合うシステムでこれは殆どの地方と同じである。最後に川村さんは部長の秘書的役割と営業企画助手を任せられている。郷田の紹介は諏訪課長から経歴書配布してもらうことで簡略化した。ついでに、歓迎会を仙台電機の真鍋所長が段取りを付けてくれることになっていることた。諏訪課長が「それはそれで結構ですが、私たちはこの部署だけで考えていましたが。駄目でしょうか。宜しければ今晩にでも。」

「それは私は構わないが、君たちは2回も大変じゃないかい。一度にまとめたら、簡単で良いよ。僕はそれだけでも君たちの負担を少なくしたいんだがね。」と言うと川村さんが中国営業部では盛大に何回もあったと聞きましたし、東京営業部でも何回もあったと聞いています。ここではお嫌ですか?」

「そんなつもりはないよ。じゃ決めたよ。今晩やりましょ。但しチョッと疲れ気味だから早くやって切り上げさせてほしいが、いいかね。」「じゃあ、6時に始めれるように支度して、ビルを一緒に出ましょう。」

「さあ、忙しくなるぞ。国分町の居酒屋七夕でいいですね。手配しときます。」と宍戸課長が締めた。

その夕刻予定通り終業して七夕へ入った。「いらっしゃい。」と言う店主の歓迎の言葉で迎えられて予約席についった。諏訪課長に郷田は5万円を渡して後は任せるよと伝えた。諏訪は恐縮しながら受け取った。宍戸が礼を言いに来た。川村が歓迎会の挨拶をして、挨拶を郷田に頼んできた。郷田は立ち上がって、

「今日は忙しい中、集まって歓迎会をして頂きありがとう。今日からは仲間として仲良くお願いします。

自分は仙台どころか東北が初めてなので宜しくお願いします。」拍手ではじまった。東北の地酒は水がうまいのでいけますよと城田が進めるままに飲んでいると少し支酔っぱらってきた。そこで郷田は思い切って、

「皆に聞きたいんだが。僕の部下で、君らの上司に相応しい人はこの営業部管内にいますか。」一同がシーンとした。「御免ごめん、冗談の積りが白けさせてしまったね。今のは忘れてください。」突然、宍戸が手を挙げて「いますよ。そんな人なら一人。だけど、向こうが引き受けてくれるかは分かりませが。」郷田は

「説得は僕がするよ。でも社員なんだろう。」「違います。つい先日辞められたばかりの前の企画部長です」と川村さんが言った。「諏訪君どういうことなのかね。」「はい部長、それは事実です。酒田前営業企画部長は仙台建材の田辺課長を酒席で殴ったんです。全治2週間の怪我だったので警察沙汰になり辞表を出して先月辞めたのです。だから前部長も関東営業所へ左遷させられたのです。」「しかし酒癖が悪かったのかね。原因は何だったんだね」「スナックで別のお客さんを接待していたら、課長のお客さんが店の子に手を出し無理やりスカートに手を入れてきたらしいです。それを酒田さんが注意をしたらしいんです。そしたらそのお客さんが怒って帰ったらしいんです。そこで課長が酒田さんに食ってっかったらしいです。酒田さんも誤ったらしいですが、課長が胸ぐらをつかんだらしくて、酒田さんもつい手を出したらしいです。」「僕が聞いていると、悪いのは課長のほうに聞こえるがね。違うかね。」「その通りだと皆も考えましたが、当時の部長がその課長の大学の先輩で、酒田さんに誤ってこいと命令されたらしいんです。それで話がややこしく成って前部長は同じく先輩の後藤常務に泣きついたようです。結局酒田さんが責任をとり、前部長も左遷でおさまった形になったわけです。」

「話しにくいことを話させてしまって、申し分けなかった。ところでその酒田さんは何処にいるの、仕事は出来たかい。」今は一人で無職で暮らしている.家は郊外にあるマンションですが、あの事件で東京のご家族とも別々に暮らしておられるようだ。仕事は出来る人だったと聞いた。その話は打ち切りにして後は楽しく飲んで歌ってその店を出た。次にスナック青葉に行った。事件のあった場所に田辺課長も来ていた。。諏訪課長が今度の営業部長郷田さんです。」と紹介した。田辺は「朝の集会で拝見しました。」と返事したが何か胡散臭そうであった。酒を酌み交わしていると、

「黒田さんから宜しく頼まれていますので、何かあればいつでも呼んでください。」

「君が後藤派の黒田つなぎ役か、ああ、ありがとう。ところで一つ聞きたいのだが、酒田さんと言う人はどんな人なんだ。」

「鼻持ちならない偽善氏ですよ。辞めてくれてスーとしていますよ。」

「もしかして君が罠にかけたのかね。そうだとすればなかなかの業師だね。流石は黒田手配しだけのことはあるね。」

「お褒めに頂きありがとうございます。前部長も一緒に居なくなって清々しています。」

「ほう、前の部長は後藤派と聞いていたがね。」

「いいえ、常務からも今回の件で見限られました。何せ常務は酒田さんの奥さんに惚れていたのに酒田に横取りされましたからね。」

「それは単に常務が振られたと言うことかね。」

「その件は、これ位にしましょう、」と言って話は終わった。全員が白けてきたので打ち上げて出た。

帰りのタクシーで諏訪が部長は後藤常務派ですかと気にして訊ねた。郷田は誰の派閥でもないと答えた。諏訪は半信半疑で愛想笑いをしただけだった

翌朝は一番に出社して所長から出されている宿題の回答を諏訪課長から受け取ると直ぐに城田主任を案内役に青森へ出かけた。電機の所長の伝言で6月10日が歓迎会らしいので1週間以内に全営業所回って、仕事を済ませねばならない。忙しい旅になるなと考えながら段取りを組む俊であった。昼過ぎに青森へ着いたので、城田と昼食を駅前のラーメン屋で済ませて営業所へ入った。所長以下全員が待機していた。お互いの挨拶が終わって会議室で所員の仕事の内容を順に聞いていった。最後に所長にも聞いて終わったのは4時を回っていた。郷田は所長に景観照明について活動をしているか訊ねた。所長は現在県と打ち合わせしている段階で特には受注できていないと返事した。郷田は怒った

「何を暢気なことを言っているんだ!君は会長、社長が気にしていることさえ知らないのか‼そんなことでこの青森を任せられると思っているかね。青森にはライトアップが必要な物件があるだろう。分からんのか。所長の辞表を出しなさい。」所長は驚いて、慌てて土下座して謝った。

「直ぐに県庁との打ち合わせに入ります。どうか何を如何にすべきかをご指導ください。お願いします。」

「直ぐに県知事に面会を申し込みなさい。テーマは県内の夏祭りの集客数アップ特にねぶた祭の県外からの集客5倍増について提案がありますと申し込むんだ。わかったな。」会議室から聞こえてくる迫力のある言葉に所員は驚いてピリピリと手早く動き出した。課長が慌てて入ってきて明日の朝10時に知事とアポが取れました。と報告した。

「よかろう、では明日私は9時にこちらに入るから所長と施設照明担当課長は待機していなさい。それから

この要領は覚えておいて今後はねぶた祭りのある市しそれぞれプレゼンテーションを出来るを用意してやりなさい。売り上げを施設照明で3倍にしなさい。」

「分かりました。お任せください。ところで今晩の宿は手配していいでしょうか。」

「任せるよ。但し私の歓迎会は要らないよ。もしその気があるなら明日の件が成功してからにしてくれるかね。今度来た時にお願いしたい。そんな時間が取れないなら無くてもいいよ。」

「とんでもない。その方向で考えます。」それで終わって営業所を出てホテルへ向かった。

ホテルの部屋で先ず、浅野先生に電話した「ご無沙汰しています。お元気ですか、今日はお願いがあります。今東北の青森に来ています。東北営業部長として先生に来ていただきたいのですが。日時は明日改めてお電話しますが。」と話して了承を貰い、明日の準備にかかった。そして城田を誘い夕食を取りに出た。

翌日は晴れて気持ちの良い朝だった。営業所へ寄りその足で県庁へ出かけた。副知事が玄関で待っていた。早速知事と面会し案件を申し込んだ。知事は喜んでプレゼンテーションを受けると言った。浅野照明景観デザイナーの参画とプレゼンへの参画を了承してもらった。日程は6月12日の午後1時に県庁の2階205会議室と決まった。それで終わって礼を述べて帰った。所長と別れて秋田へ向かった。13時発の特急に間に合った。列車内で駅弁を食べながら城田に秋田営業所長に電話をかけさせた。電話が終わって城田が言うのには「所長が青森の所長から連絡を受けており、お待ちしておりますとピリピリしていましたよ」とニコニコして報告した。

「君は秋田の所長が苦手なのかね。売れしそうじゃないか。」

「すいません。苦手です。いつも上から目線でも物を言われるので、あまり好きじゃないです。」

「いかんな、そんなことでは営業企画の仕事はできないよ。これからは所長を自分の親だと思って接しなさい。すれば、自分も甘えて言いたいことは言えるようになるよ。責任は部長の僕が取るよ。いいね。」

「はい、分かりました。これからはそのつもりで話すように心がけます」そうこうしているうちに秋田駅に着いた。タクシーで営業所へ向かった。営業所の前に課長風の男性が立っていた。タクシーのドアを開けながら自分は照明販売課長の清川と申します。」「郷田です宜しくお願いします。」課長は坂田所長の席へ案内していった。所長は立って最敬礼で出迎えた。「坂田ですよろしくお願いいたします。」「郷田です宜しくお願い致します。」所長が「皆所長席の前まで集まってくれ」全員が集まったので所長が郷田を新任の部長ですと紹介した。所員一人一人が自己紹介と担当を説明した。1時間かかった。終わって会議室に所長と郷田、城田と課長4名が入った。所長が「青森から聞いていますが県庁とは仕事が少なくてあまり出入りがなくてまだ景観照明のことなど全く出来ていません。申し訳ありません。」

「まあ、仕方がないでしょう。しかしこれからはそれでは駄目ですよ。秋田には竿灯があるじゃないですか。見に行ったことぐらいはあるでしょう。私は東北が初めてでもその名ぐらいは知っていますよ。」

「勿論、見ていますし、当所として竿灯を毎年出しています。担ぎ手も所員2人出していますし、得意先接待に見物席も毎年抑えています。」

「ほう、そんなに懇意なのに県庁には足が遠いのは何故ですか。」

「申し訳ありません。自分が祭りに参加せず3年前に亡くなった自分の父親の法事で抜けてたのが原因です。」

「そういう事情ならば仕方がないですが、その為に課長は要るのでしょう。違いますか。照明担当の販売課長は何方ですか?」

「はい、私清川です。申し訳ありません。全くそちらの営業活動は出来てません。やり方すら知らない情けない次第です。」

「そんなことで課長が務まりますね。営業部に相談すれば良いじゃないですか。まあ良いでしょう。今から至急県知事に明日のアポイントを取りなさい。用件は今年竿灯祭りの他府県からの集客に対しての提案があるますと言ってください。勿論、私の名前を出して、ご不振ならば広島市長に問い合わせてくださいと言ってください。良いですね。さっさと動きなさい!」皆が慌てて事務所へ戻り、慌ただしくなった。

先程の課長が戻って来て、「県知事が明日の朝9時30分なら空いているそうです。」

「良いでしょう。お任せしますと返事をするように。」と伝えた。直ぐには戻って課長はそのように連絡した。所長が明日の予定を変更してきます。と言ってでた。明日は代理店とチェーン店を出来るだけ回る予定だったようだ。そして夜は歓迎会を懇親を兼ねて行う予定であった。所長が電話を終えて戻って来たので明日の予定を事前に相談もなく決めないで頂くように念を押した。所長はただ頭を下げるだけであった。

明日の予定に合わせてこれから準備に入りましょうか。と言うのに郷田は準備は出来ていますから貴方は明日のメンバーを選ぶように言った。会議室に籠って課長4人と打ち合わせして出てきた。全員で所長以下3名ですと報告した。郷田は結構ですでは会議室で明日の役割を話し合いましょうと会議室へ先導した。

それぞれに、資料を持たずに、メモ用紙だけで入って来たので、

「君たちは何を考えてるのだね。知事の前に行って資料もなしに何を話すのか?もうよろしい、君たちは行かなくても良い。僕と所長と城田君で十分だよ。自分で考えることがない人は要らないよ。何が明日必要かは分るだろう。竿灯祭りに集客数を伸ばすにはどうすべきか。その為には現状を分析できる資料が必要でしょう。どこにありますか。君たちは頭の中にあるんでしょうか。」

「すいません、直ぐに調べさせて用意します。各課長は自分の部署の所員に状況伝えて5時迄に明日の参考資料を準備させなさい。必ず課長自身がチェックするようにしなさい。5時を厳守するように。」

皆がそれぞれに散った後で所長が少し早いですが食事をして来ましょうと誘った。郷田は昼食は済ませたのでと断った。自分の準備がしたいのでそれぞれで行くようにと言い、会議室に籠った。所長が所員全員が

集めた情報を5時少し前に持参してきた。その情報をすべてチェックして終わったのが9時過ぎであった。所内は誰も帰らず黙々と仕事をしていた。郷田は会議室を出て、大変良くできたレポートだったと全員の労を労った。そして、所長にまだ空いている居酒屋はあるかを聞いた。充分に在ると言うことだったので、これから食事会をしようではないかと誘った。所長は満面の笑顔で行きましょうと応えた。所から拍手が巻き起こった。全員が一緒に出て、居酒屋へ入った。そこで所長が挨拶をしてこの食事会を部長の歓迎会として費用は会社で負担して頂くことになった、と言った。部長挨拶を郷田がして今日の働きを褒めたたえた。

その後は飲めや歌えのいつもの歓迎会と変わらずに賑やかに進んで幕を閉じた。翌朝、郷田の姿は県庁の会議室にあった。坂田所長、清川照明販売課長と城田の4人と共に。県側は知事と助役2名と竿灯まつり企画局の観光局長と課長の5名であった。互いに参加者の紹介が終わった後、県知事が郷田に

「竿灯まつりの集客力を増やすということですが、私どもは集客は十分だと思っていますが。何か汚点があるのでしょうか。」

「飛んでもないです。誤解を与えたようで申し訳ございません。私の言いたいことは集客数の中味なんです。県内と県外の数量を推定しておられるでしょう。私共も秋田新報で知らべ増ましたら、一昨年県内50万人、県外5万人ということ、そして昨年は48万人と3万人です10年間ですと520万人と32万人ですが、宜しいでしょうか。」

「助役としてはそれでよろしいでしょうかね」「はい。その通りかと。」「ではよろしいです。」

「この数字が知事の予想数字なのでしょうか。もっと多いものと期待していませんか。例えば、青森のねぶたはどうでしょうか。昨年の集客数は県内70万人、県外は70万人昨年は70万人、県外85万人となっています。これをどう考えるかですが、私どもはこんなに竿灯が魅力がないはずはないと思っています・東北の3大祭りの中で特に低い集客力は何処に問題があるか。本来なら大差がないのではないか。県外は特にそう思います。県内は人口に比例するかもしれないが、ではなぜと考えるとPR不足と景観の舞台演出不足ではないかと失礼ながら結論づけました。集客数についてPR不足特に東京地区そして外国人への海外PRが不足しているのではないか。後者はマスコミ対策と外国の在大使館の観光局へのアプローチで解決されるでしょう。前者は舞台装置です。それにはライトアップという方法で竿灯をより幻想的に見せられないか。そこで著名な照明景観アドバイザーの先生方に事前にコンペに参加してもらいその中で浅野先生の案を採用すべきと決めて今回提案させて頂きたいと思います。如何でしょうか。ご検討頂けますでしょうか。」

知事が助役たちの顔を見回した、誰からも反論が出ずにいたので、「それで、検討するには費用と効果が出ないと検討のしようがないのですがね。」

「後になりましたが私どもの試算では集客数100万人県内50県外50の比率です。そしてプレゼン通り行う場合の試算はすべての費用で3億8千万。但し浅野先生の契約料、デレクター費用は含みません。推定で3千万と思います。浅野先生の略歴も付けております。」知事が検討に1週間欲しいと言うことなので連絡は秋田営業所長宛にくださいと言って出た。帰りに知事が庁舎の前まで送ってくれた。その時に会長と社長の東北地区の係わりを説明して、費用面は応援出来る部分も多少ある旨伝えた。帰りに秋田営業所により皆に報告し礼を言って駅に向かった。11時発の山形行きの特急に間に合った。15時に山形駅に着いた。

列車内で昼食を済ませてあったので営業所にタクシーで直行した。入って行くと女子社員が応対に出て来たので、城田が名前と部署言った。慌てて取り次いだ。田代所長と桐田照明販売課長が出てきて挨拶をした。

所長が会議室へ案内し皆を集めて、部長を紹介した。一人一人が自己紹介と担当を説明した。郷田は今回の訪問の目的は先ず一番に皆の仕事を知ること2番目は得意先を挨拶回りすること3番目に照明を初めとして景観の美化や催事にライトアップが必要とする場所を積極的にアプローチすることを提唱する。営業所として全員が一丸となって推し進めるように旗売り役で来たこと伝えた。全員が歓迎の拍手をして終わった。後は所長と代理店とチェーン店の回る順路と先方の状況を聞いた、。終わり掛けに所長が今晩の宿と歓迎会を開催したいのでその宿で良いかを尋ねたので、宜しくお願いしますと返事して終えた。7時に宿にチェックインして待っていると所長がやって来て、広間に用意が出きたので行きましょうと誘った。その夜はいつもと同じで宴会が行われたが、疲れ気味だったので9時には自分だけ先に失礼させてもらっい早く寝た。

あくる日は一日挨拶回りをして、夕刻に営業所に帰った。会議室に6時に集まってもらって、皆にお願いをした。「私は今から岩手へ回り帰りますが、先刻言ったように、景観を意識して営業活動を当面プラスしてください。成果報告を所長から頂けると確信して待っています。1か月間に何件その報告があるかは皆さんの仕事のプラス評価です。私はそれを評価基準にしますから、よろしく。」と言い終えて駅へ向った。18時30分発の特急に乗って岩手へと向かた。途中で城田がホテルを予約し岩手のホテルのチェックインが10時過ぎだった。夕食は車内で弁当を食べたので、直ぐに温泉に浸かり就寝した。翌朝は9時に営業所へ入り、所長と挨拶をして会議室にて朝会をしてもらうことにした。所員が全員集合したので、所長が郷田を紹介した。それから郷田は山形営業所と同内容の今回の訪問の趣旨を述べた。所員の表情が引き締まった。所員一人一人が緊張しながら自己紹介と担当の仕事を発表した。田代所長は照明販売の桐田課長を連れて会議室へ案内した。郷田が桐田にに県庁とのやり取りのポイントを伝え城田から必要な資料を受け取った。その後で各ルート別代理店、チェーン店の巡回先を聞き、今から挨拶に行くことを各課長に先方へ伝えるように言った。所長が今晩ホテルの手配をするので、滞在はいつ迄ですかと訊いた。明日迄いますと答えた。

「それでは今晩はホテルで歓迎会をしましょう。代理店、チェーン店で参加したいと言う所は参加させても宜しいでしょうか。」

「それは、丁重にお断りしてください。今回はそんな余裕はありませんので。所員の方だけにしてください。明日の夜には福島に向かいたいので。12日の朝から仙台で県知事と打ち合わせがありますから。」

「分かりました。そのように段取りをつけます。」それから社用車で所長と担当課長、城田と6名で分乗して得意先回りに出かけた。県庁前を通り過ぎるとき、知事が出かけるのに玄関前で出くわした。郷田は車を止めて直ぐに挨拶に降りた。知事が「何方でしょうか」聞くので、「おはようございます。初めまして、私はD電機の東北営業部長に今度なりました郷田俊と申します」と挨拶をし名刺を差し出した。知事も名刺を返礼し、「今日はアポイントはありましたか。」と訊ねるのに、「急な要件があって来ましたので、改めて参る所存でしたので、取ってません。失礼しました。昨日の夜に入りましたので、連絡もせずに帰るところでした。丁度駅に駅に向かう途中でお見かけしたものですから。一言でもご挨拶をと所長に言われて恥ずかしながら声をかける不始末をお許しください。」

「それはそれは、お忙しいですね。また今度でも良かったのに。」

「そうはまいりません。お姿を見て帰るわけには部下にも示しが着きません。今日はこの辺で失礼しますが今度はアポイントを取って参りますので、その説には何卒宜しくお願い致します。お忙しいところを止めまして申し訳ございません。」

「いつでも結構です。またお会いしましょう。では、今日は急ぎますので失、失礼。」

「失礼しました。改めてご挨拶せてもらいます。」

と忙し中の一瞬であったが、挨拶が出来て良かったと胸を撫でおろした。再び乗車した郷田に所長が

「流石は部長ですね、機転が利いて私を持ち上げて頂いて助かりました。」と礼を言った。車はその後で得意先を回り予定を全て終わりホテルへ着いた。午後7時を過ぎてのチェックインとなった。直ぐに宴会場に顔を出した。所員が拍手で迎えた。早速所長の歓迎の辞で始まり、乾杯となって10時迄続いた。所長が2次会を誘ったが、そちらは城田に任せて郷田は部屋へ帰った。入浴して就寝した。翌朝は朝から得意先を回り挨拶を済ませて午後4時に駅に着いた。田代所長と別れて、福島行きの特急に駆け込んだ。

夕食は駅弁で済ませて、福島についてホテルへ入ったのが8時過ぎだった。城田と街に出て夕食を居酒屋で済ませて、戻ってから温泉に入り眠った。朝8時に朝食を済ませ営業所へ9時に着いた。受付で郡司所長を名指しで自分の身分を告げた。慌てて郡司がやって来て応接間へ案内した。部屋へ入って直ぐに所員を集めてもらった。会議室に全員が集まり、そこで郡司所長が郷田部長を紹介した。郷田は城田を紹介してから今回の訪問の目的を山形同様に説明した。その後で所員各自から自己紹介と担当を聞いた。後は質問がないか訊ねたが、誰も質問はなかった。郷田は余りの覇気のなさにガックリとした。大声でおはようございます。と挨拶をした。全員がビックリして目を白黒させた。郷田が

「君たちは毎日こんなつまらない状況で朝会をしているのかね。照明販売課長はどうかね。答えてくれないか?」

「はい、私は照明販売課の田所ですが、今日は抜き打ちに自分たちが調べられているような気持ちが先行して、警戒心が先だったように思います。申し訳ございません。しかし、いつもはこんなことはありませんので、信じてください。」

「わかった。君を信じよう。でもね、D電機の社員としては頼もしさに欠けるね。もっと自信をもって仕事に取り組んでほしいものです。今後の皆さんの成果に期待したいので頼みます。」

郡司所長が「以後本日の部長の訓示を忘れず肝に銘じますことをお誓い申します。良いね。皆」と言い全員が大声で「お誓います」と言った。そこで紹介を兼ねた朝会は終わった。会議室に課長列以上を残して本来の要件に入った。郷田は所長に県知事と二本松市長に電話をかけてアポイントを取るように頼んだ。

「理由は県の催事あるいは名所の集客数を増加させる件で提案したいので一度時間を頂きたい。それと同じ内容で市長にも伝えて、特に相馬の野馬追祭りについてと付け加えてください」

所長はびっくりして急な話で先方が良い返事がくれるか、心配ですがと返した。郷田は「あなたは日ごろどの程度の付き合いがあるのですか。毎月1回程度は挨拶に顔を出してますか?」

「いいえ、出来ていませんが、そんなに顔を出さないといけません刻々をか。」

「君は会長の先祖が二本松城主であると知らないのですか。こちらの新聞は⒉紙あって福島新報、福島新友の両紙に毎年相馬の野馬追時期の初秋に大阪本社が協賛広告を出していることを知っているんでしようね。毎年新聞社の社主から会長あてに礼状と招待状が来ていることも知らないのですか。」所長は飛び上がらんばかりに驚いて「すいません全く知りませんでした。どうすればよろしいでしょうか?」

「気が自分で考えなさい、と言いたいところですが、今回のチャンスを逃さずに商談を成功させること。その為には学習しかないでしょう。織田家と二本松城の関わりを勉強してください。それと先ずはアポ取りに田所君と一緒に知事と市長を訪ねて行くしかないでしょう。口実は社長の勇退の話でも遅ればせながらと報告する体で行くことですね。」

「ご教授ありがとうございます。部長、この御恩は郡司一生忘れません。」と言った。そして、アポイント取り、電機担当の課長に今日明日の部長の宿泊先の手配と歓迎会の準備や挨拶回りの代理店、チェーン店段取りを伝えて慌ただしく二人は出て行った。仕方がないので挨拶回りは各ルート別に担当課長の案内で回ることにした。1日目を終えてホテルへ戻って、宴会場に行くと所長は戻って来ていて満面の笑みで迎えた。

どうでしたかと訊ねると指で丸を造り、上手くいきましたと答えた。何日かと訊くと,明後日の午前に二本松市長、午後2時から知事と言うことだったので、安心した。その後は歓迎会に流れて終わりは10時であった。その晩は疲かれて、良く眠った。翌日の9時には二本松市庁で市長と会議室で面談していた。郷田は「市の名所、旧跡で集客数をもっとアップしたい場所を決めて頂きたい、そうして頂ければD電機としてお手伝いできる点をプレゼンテーションをさせて頂きます。むろんそれに関わる費用は当社が負担しますが。

「そんな、押し売りのようなことをD電機の営業部長が言っても良いんですか。特に困って言うようなことはありませんが。」

「これは失礼しました。誤解されては困りますが、当社の会長が二本松城の城主の末裔で特に相馬の野馬追には関心が高く、毎年新聞2社に協賛広告をだしております。また、知事からは礼状、招待を毎年頂いております。そんな関係で私も二本松市のお役に立てることはないかを伺いたかったものですから。」

「それはそれは、こちらこそ失礼しました。そんな事情が貴社とあることを聞いてなかったものですから。

喜んで、相談したいのですが今特に問題となることはないと思うんですが。」

「お伺いしますが、相馬の野馬追祭りは来客数が10万程度ですか、会場を30万人にして運営しては如何でしょうか、有形文化財として保護していくためのにも必要でしょう。仙台の七夕はじめ東北には多くの歴史ある催事がありますが、それらと引けを取るものではないでしょう。派手さでは負けてもその荘厳さでは有名と聞いておりますが。ライトうっぷ看板を市役所前や駅前に出したりして㏚することも必要でしょう。

会場の雰囲気も荘厳さをもっと前面に打ち出すライトアップ照明や周りの景観を当時の時代演出したものにするなど工夫の余地はあると思いますが、如何なものでしょうか。」

「勿論、そうなればよいと思うが、費用と効果が釣り合うかそれが問題です。」

「その通りです。そこで私どもが先の提案通りに来客数を試算して経済効果は50億以上であることは間違いないでしょう。またその判定基準も含めて費用と一緒にプレゼンをさせて頂きたいと思いますが。如何でしょうか。この件は午後に県知事さんにも同様の話をさせて頂きます。出来ればプレゼンを同一日に同じ場所で行いたいと思っております。県庁で20日13時に如何でしょうか。」

「分かりました、ではそのように準備ください。私共は10名ほどで伺います。知事にも宜しくとお伝えください。」ということで、纏まったので県知事を何としてでも説得しなければならない。と決心も強く市庁舎を飛び出した。県庁前で1時近かったのでそのまま知事への面会を請うた。会議室へ案内された。待っていると知事以下5名が入って来た。先ずお互いに自己紹介と名刺を交換した。座ってから知事が要件を聞いた。郷田は先ほどの市長の件を例にとりながら、説明をした。特に知事には関心が高いと思える会津若松市近辺や鶴ヶ城や大内宿などの具体的地名を加えて話を進めた。もともと織田会長のことも知っており話は弾んだ従って20日の13時からのことも了解された。会議室も確保されて後は雑談となった。3時から先約があるので、知事は退席された。その後10分ほど副知事達と話して失礼した。玄関先でお礼を言って庁舎を後に社用車に分乗して帰った。営業所に帰る前に駅で降ろしてもらい、所長らに見送られながら仙台行きの特急に乗車した。昨日仙台について寮へ戻って熟睡したお蔭で今朝は目覚めが良く朝食を終えて久しぶりに爽やかな通勤になった。営業部に着く諏訪課長も出社していた。今日が歓迎会であることを確認してから、12日の午後1時からの青森県知事との打ち合わせを確認するように頼んだ。午前中に留守中の報告と執務を受け継ぎ処理をした。午後は部員から報告を受けて3時から得意先への訪問を受けて挨拶を20件こなした。終わったのは8時であった。その日歓迎会があり、歓迎会後は真鍋電機営業所長と諏訪課長と宍戸課長と二次会に誘って二次、12時近くまで飲んで終了した。翌日は朝から朝会の後、仙台市内の代理店を挨拶回りに出かけて、午後も引き続きその後はチェーン店回りをして営業部へ帰った。城田が待っていて直ぐに仙台駅6時30分発の特急で青森へ向け出発した。青森のホテルへチェックイン後、翌朝の打ち合わせをすべく、居酒屋へ入り飲みながらの打ち合わせをして、ホテルへ戻り就寝した。次の日の朝、青森営業所の会議室で所長と宮地照明販売課長と城田と4人で打ち合わせ、11時過ぎに昼食を近くの蕎麦屋ですませて県庁へ向けて出発した。知事は既に会議室で5,6人のスタッフ一同と打ち合わせをしていた。そこへ一同が入って行った。相互に自己紹介をして名刺交換をした。先ずは知事が今日の会合の主旨を郷田に訊ねた「本日はお忙しいところ恐縮です。私はD電機の東北営業部長として初めてお目にかかります。今

当社の回訪問するにあたっては、私どもの社長から東北は当社と縁のある地域で特に社長は仙台の城主の末裔で東北に当社が貢献出来る点があればどこの名所、旧跡でも良いから寄与するように指示され参りました。しかし知識が不足している私には何処にどの名所、旧跡があるか分からないので皆様のお知恵を借りたくて参りました。とは言え私どもの出来る範囲を今日プレゼンテーションさせて頂いて検討をお願いをしようと考えました。如何でしょうか?」知事が「それは結構ですが具体的に言ってもらえませんか。」

「それでは例えばねぶた祭りの集客数を倍増するためにどうすべきかを例として話します。私共ではねぶたをライトアップさせてその雄大さをより大きく荘厳に見せる効果を発揮させることが出来ますしその関連としてPRの為の活動として駅、空港と青森の観光PRをすべき場所には景観高める照明看板を出し、海外大使館には観光局向けにニュースリリースを送付し、また説明会を開き海外記者クラブに嬢を招待状を出し動員すべき方法を実施するお手伝いをさせて頂きます。本日は景観照明プランナーでありデザイナーとしても著名な浅野先生もお呼びしております。これから先生にプランを少し紹介して頂きます。先生お願い致します。」

「私は浅野と申します。よろしくお願いいたします。では簡単にこちらのスライド画面をご覧ください。・・・・・・・・・以上ご提案の一部を終了します」拍手とため息が漏れた。郷田が続いて

「浅野先生お疲れさまでした。皆様如何でしたでしょうか。景観照明の必要性と効果が想像できたでしょうか。知事はこれがねぶた祭りの集客増員に繋がるとお思いになりませんか。私共は必ずこれによって、PRを提案通りに実施すれば3倍以上の効果があると考えています。外国人の来場者は5倍以上恐らく10万人は訪れる日が2、3年以内に達成されます。そうすれば投資金額は初年度は2億その後は1億で毎年平均すれば10億以上の経済効果が期待できます。ゆくゆくは年間100万人で100億の経済効果があるようになるでしょう。」知事が「分かりましたが、あくまでも捕らぬ狸の皮算用でしょう。一応議会に諮って結論は

来月に出しましょう。」

「それでは間に合いません。今年はチャンスですのに惜しいことです。なぜなら、東北他県も一斉に実施しべく私どもはプレゼンする予定になっております。もし他県が実施して遅れて翌年に実施すれば計画の集客数を得るのは難しいと思いますが、宜しんでしょうか。」

「ではいつまでに結論を出せば良いでしょう」「今月の20日までに頂ければと思います。」

「何とかやってみましょう。あまり期待しないでください。」

で、散会となり郷田は急いで仙台に帰る準備をした。浅野先生も同道して帰ることにした。営業部に帰った郷田は各営業所に電話連絡をした。各所長は予定を連絡した。岩手皆川所長は明日14日午後1時の打ち合わせの予定を報告した。続いて各地の所長に電話すると、山形が15日の午後1時、仙台は既に1時の予定ががあるので、浅野先生に各地の実施日を伝えて了解を取った。その後浅野を仙台ロイヤルパークホテルへ案内するように川村さんに支持した。先生を見送った後で部員を集めて、各地のプレゼン担当を決めた。

仙台は自分が、そして岩手は諏訪課長と城田、山形は宍戸課長と城田、福島は自分と川村と決めた。

その後で全員を連れて仙台ロイヤルパークホテルへ浅野を訪問して全員で夕食を取りにホテルの会議室を借りて食事をしながらの打ち合わせを行た。食後は先生と城田、川村と2次会に行った、終わりは11時にホテルへ先生を送った。翌12日は朝からプレゼンのマニュアルを作成し部員に配布した。そして1時に県庁で知事に会い七夕の景観照明に関するプレゼンを行い、知事、市長の賛同を得て、今年から規模は小さくても出来る限り実施することで意見が一致した。七夕の場合は国分町通りの商店会が賛同して、商工会も一緒に費用を負担するということで、規模は初年度より結果的には大きなものになった。売り上げが10億を超える物になった。営業部へ帰ってから所長がお礼に表れて、何でも言ってくださいどんな協力でもしますと言うので、「では、お言葉に甘えて1点だけお願いがあります。本社の人事部長に直訴してください。それの内容は前企画部長の酒田さんを呼び戻すこと許可して欲しいということです。私が言っても許可されるでしょうが、酒田さんが戻りにくい状況は作りたくないので、私は知らないことにしてお願いできませんか。」

「分かりました。それくらいは私でも人事部長は先輩なので出来ますから早速お願いしましょう。理由は聞きませんから。」

「ありがとうございます。此れで私ももっと営業所の側面援助に気軽に出かけられます。」

二人は固く握手をして別れた。これを聞いて拍手喝さいが起こり、部員の皆がお礼を言いにきた。

その後各営業所と各県並びに市役所の担当者の打ち合わせの結果として青森で2億、仙台で10億、秋田で1億、岩手で1億、山形1億、福島2億、計16億の商談の成果を上げた。翌年以降に繋げられるように油断なく関係者との連絡を密にとり、集客者の調査などをして必ずや来年度は今年以上の集客数を狙えるように準備し関係県市しアプローチ出来るように所長が自ら率先垂範リードをするように通達を出した。そんなこんなで。シーズンを迎えて祭りも終わり各所から大成功の連絡がどんどん入って来ていたある日、社長から電話があり「郷田君は私が思っていただけのことを成果として東北に残してくれたね。嬉しいよありがとう。此れで私も3年後には身を引けそうだよ。君の今回の業績が10年後の君にプラスになるように祈っているよ。」郷田は何故か涙をこらえている自分を誇らしく思えた。翌日は中井常務から電話があり多いに褒められた。ついでのように「酒田さんの件は了解2、3日内に本人に連絡することになるから後はよろしく。」と言われて目のつかえが降りた。2日後に黒田庶務部長から電話があり酒田のことで話があるから大阪へ来いとの命令がきた。郷田は早速翌日に大阪へ飛んだ。黒田に会う為に庶務部に行ったら、仙台住建営業所建材課田辺課長がいた。黒田が「さあ、行こうか」と経理部の常務室へ連れて行った。後藤常務が居て「やあ、郷田君遠いところをすまないね。君に来て貰ったのは田辺君が君が酒田君を呼び戻したと言うものだからね。本当かね。」

「常務に連絡が遅くなりましたがその通りです。それは私の仕事上必要だったからで、常務に指示される内容ではないと判断しましたが。何か間違ってますか。」

「君はこの田辺君が私との関係と酒田君との関係を知っているんだろう。」

「勿論ですよ。でも私は黒田さんにも断っていますが、常務の為に悪いことはしませんが、私に悪いこともしませんから。だから酒田さんの再雇用は致します。それと田辺君は私にとっても部下ですから、一々指図される必要はありません。彼はそう遠くない日に担当を替えられて九州へ行くことに成っていますから、常務も手を引かれたほうが利口だと思いますよ。」

「なんだって!君がそんなことを知っているんだ。人事のことは事前に知らせるのが私との約束だろうが。」と黒田が吠えた。

「私はそんな約束はした覚えがない。勝手にご自分で決めつけないで欲しいですな。まして田辺君の処遇を決めるのは所属最高責任者の私の専権事項のはずで、貴方にとやかく言われるものじゃないはずですよ。」

「貴様、後藤常務を裏切るつもりか、この黒田を舐めているのか。貴様など何時でも左遷してやる。覚えて置け、いつまでもいい気になるな。」

「黒田さん後藤常務はとっくに貴方を手放すつもりですよ。それが分かりませんか、可哀そうな人だ。では

私は早く営業部に帰らねばならないので、これで失礼しますが。常務、竹中社長は常務の腹の内をお見通しですよ。どうか末節を汚さずに退任されることを願っています。」

「君に同情されるとは私も堕ちたものだ。しかし、どうして社長が君にそのような話をしたんだ。よくわからんね。」後藤は盛んに頭をひねってた。郷田は経理部を出て空港へ急いだ。仙台の営業部へ夕刻に入って

執務をとっていた。諏訪課長が人を連れて入って来た。「部長、ご紹介します。酒田さんです。」

「酒田です私に話があるから、会いに行くように人事部の課長から連絡があり参りました。」

「私が東北営業部長の郷田です。よく来てくださいました。お掛けください。話は一つだけです。酒田さん今でもこの営業部に思い入れがありますか?」

「勿論、みんなと一緒に仕事が出来れば最高に幸せだと思っています。」

「では、明日から出社可能ですか。それで良ければ営業企画部長として復帰しませんか。」

「本当でしょうか?揶揄われていないでしょうか。私はほぼ首になったと同じ社員ですが。」

「過去はお互いに忘れましょう。前営業部長と田辺君もいない営業部で再度活躍を期待しています。」と郷田が言うと酒田は大きな声で礼を言い男泣きに泣いた。握手を差し出した郷田の手に濡れた酒田の手が握られた。部屋の外から部員全員が入ってきて涙を流しながらよろこびあった。

「じゃ、今日は業務を切り上げてこれから歓迎会と行こうじゃないか。」と、郷田が言い。皆を誘った。近くの居酒屋へ行こうとした時、営業部ビルの前で田辺が飛び出してきて、」郷田を刃物で刺そうとした。危やゆく避けて難を逃れた郷田は田辺を追いかけたが逃がしてしまった。そのことは忘れて宴会に居酒屋へ入った。12時にお開きにして、寮へ戻った。寮父さんが、玄関前で待っていた。

「大変です部長。仙台住建の田辺課長が部屋で自殺を図る居ました。隣の部屋の者が見つけて、一命は取り止めましたが、今病院の方に救急車で運ばれて保護されています。仙台病院の202号室だそうです。

「分かりました。私が行ってきます。寮の皆には何もなかったことにして、騒がないように注意をしておいてください。それから警察の方も穏便に済ませてもらうようにしますから。分かりましたね。」と言い終えて病院へ急いだ。仙台市民病院202号室に着くとドアーの前に警察官が立っていた。「ご苦労様です」と挨拶すると「貴方は何方ですか?」と職務質問をされた。

「私は田辺の上司でD電機の東北営業部長郷田俊と言いますが。彼の容態はどうなんですか。」

「大した怪我ではなく首の周りに紐でこすれた跡がある程度らしいです。ご心配はありません。」

「そうですか、でもなぜ警察が見張っているんですか。」

「自殺未遂との報告がありましたので、関係者が来たら事情を聴くために居ます。」

「ええ!自殺未遂。そんなことはないと思いますが。」

「どうやら人を刺そうととして未遂に終わったことで、自暴自棄になったようです。」

「その刺されそうになったのは、私のことでしょう。でもそれは彼の勘違いで仕事上でミスをしたことを咎めたら行き成り殴りかかってきたのを避けたら、彼がお茶室の果物ナイフを持ったので私が振り落として彼を叩いて目を覚まさせたのです。だからそれを悔いて寮へ戻って反省するように言いましたが、それをオーバーに受け止めたのでしょう。お騒がせして申し訳ありません。」

「そうなんですか、それじゃ自殺未遂をするほどの内容では本来ないのですね。分かりました。私は引き揚げますので、後は宜しくお願いします。それと明日でも部長さんが同伴して署の方に私を訪ねて来ていただけますか。一応調書だけは取りますので。なに、注意する程度で終わると思いますので。」

「ありがとうござます。明日は必ず伺います。」と言って名刺を交換した。警察官は林部長刑事と言い感じのよさそうな人だった。2時間ほどベッドのそばで付き添ったが、気が付いて黙って唇を噛んで涙を流した。郷田はゆっくりと話しかけた。

「君が自殺未遂迄するとは思わなかったよ。馬鹿だな人生は一回なのにそんな大切な命を大事にしなくちゃ。僕は何とも思っていないよ。君が可哀そうだと思っていたよ。君のことを悪いが自分なりに調べてみたよ。酒田さんとの関係もね。でも昔のことじゃないか。互いに忘れて良いんじゃないか。君と奥さんが結ばれて酒田さんも今は本当に良かったと言っているよ。ご家族の為にも、もう一度出直すんだね。今日のことは僕の口から警察には表ざたにならないように頼んでおいたので、明日一緒に警察へ行ってこのような事情ですと言えば済みそうだよ。」明日の朝に言うべき内容は伝えるから安心して眠りなさい。それと君の左遷のことは無いことに人事部長に言って了解されたから、今まで通り仙台で頑張ってください」

と言って彼の眠るのを見てから、寮へ帰った。寮父さんに事情を言い、他言はしないように頼み部屋へ帰って眠った、翌朝諏訪課長に昨日の顛末を述べて、出社が遅れるのでよろしく頼むと伝えた。病院から警察を回り営業部へ着いたのは12時前だった。住建営業所の所長に田辺を少し借りたことを謝り田辺と別れた。

酒田部長がやって来てお礼を言った。「さて何のことですか、分かりませんが」と惚けた。夕刻に田辺がやって来。部長室で土下座をして謝り、礼を言った。涙杭を事を杭を流しながら自分の考えが足りなかった事を悔い、今から警察へ自首して来ると言い出した。郷田は「早く忘れて、家族を安心させなさい。」と言って笑って見送った。酒田がドアー前で迎えて手を差し出した。握手をした時に拍手が周りから起こた。

諏訪課長が宍戸課長とが郷田に今晩は居酒屋のん兵衛で席を予約して良いかを訊ねた。「勿論良いよ」と返事した。川村さんが来て耳元で「私、部長のことを俊ちゃんて呼んでも良いですか」と赤くなりながら囁いた。郷田は「僕は妻も子もいる中年だよ揶揄わないでくれないか。本気にして浮気しちゃうよ。」

「やっぱり駄目ですか。あはははと笑ちゃいますよね。冗談ですから忘れてください。」

郷田は数年前の北海道営業部時代に転勤の際に、スナックのホステスに告白されたことを思い出していた。あの時のほろ苦さをもう二度と味わいたいとは思わない。だから冗談で済ますことにした。でも心の中でチョッピリ残念かなあとも思っている。複雑な男心を感じた瞬間であった。皆で揃って飲みに行った。その晩は珍しく3次会迄つき合って帰った。その日から暫くは日常業務をこなしていたが、ある日柴田顧問から電話があり至急東京へ戻れないかと訊かれた。今は各地の祭りシーズンで自分が抜けるわけにはいかないのですと断ると、

「会長が倒れられたので今後のことを中井常務と共に相談したいことがあるので何とかしなさい」と強い指示に言い方が変わった。

「分かりました、では3日後に顧問のお宅で逢いましょうか。午後2時で良いですか」

「宜しい、じゃ待っているからね。中井君には僕の方から連絡しておくよ。じゃ、気を付けて」

電話を切ってから郷田は諏訪課長を呼び「緊急で東京へ行かねばならない用件が出来たので後を酒田部長と宍戸課長と一緒に判断して処理を頼む。もしもの緊急の時は携帯に電話してくれ。番号は君の知っている番号だから。自分は明後日の朝はに出かけねばならないから、それまでに出来るだけ懸案事項は挙げてくれ。処理はすべて片づけて行くからね。宜しく頼むよ。それ

なかいじょうむとから誰から問い合わせがあっても神戸の実家で緊急の用事があり帰った。3日後には帰るから後を頼むとの事でした。と言ってくれ。本社の中井常務には断っていると言ってもいい。」それから2日は目まぐるしく過ぎた。3日後には東京の柴田顧問の応接間にから中井常務3人で話し合っていた。

柴田が「今回は急な病で織田会長が倒れられて慌てたが何れはこの話はしておかねばならない件だった。」

「私もまさかと思いましたが、こんなに早いとは思わなかったです。」と中井常務が返答した。郷田は「社長はどうしているのでしょうか?会長職を継ぐつもりでしょうか。」

柴田が「多分そのようにされるでしょう。でもすんなりと敵が承諾するには条件次第だろうね。」

「条件は後藤常務の社長就任でしょうか。」と中井常務が言い

柴田が「それだけではないだろう。恐らく、社長の退陣と東会長の就任も要求する可能性があるよ」

郷田は「それだけは絶対認められません。とにかく株主総会までに取締役会で過半数の賛同を得られるように動きましょう。会長の容態はどうなんでしょうか。復帰の見込みはないのでしょうか。」

「それは先ずないと思って良いようだ。同居の長男の昭和製鋼に勤めている専務からの話だから間違いないと思う。それに一家の意見としては会長の持ち株を中井君に譲っても良いそうだ。何故か後藤君がいち早く駆けつけて譲るように頼んだらしい。それが返って印象の悪いものになったようだ。」

「こちらとしては助かりましたね。」中井常務が言った。郷田はだからこそ今のうちに多数派工作を成功させねばならないと力説した。3人の考えは一致した。会長は竹中現社長の就任代表権は維持、社長は中井常務の就任、新規に副会長職を設けて柴田顧問が就任代表権は無しとする。そして新任の取締役に郷田俊を東京営業部長職担当として着かせる。そして直ぐに現会長夫人を消費者担当の顧問として迎える。会長が亡くなった時には社葬として新社長が葬儀委員長を務める。此の事を3人の連名書に纏めた。そこで中井が

「問題は宗政派がどう動くかですね。彼は後藤さんに前回の昇任の時に経理担当役を譲たくらいですからね、一緒に社長を決めるシャドウワークになるかもしれません。」

柴田が「専務に昇格させてはどうかな、それで十分だと思うが。」「それなら事業部門担当副社長にしては如何でしょうか」と郷田が提案した。それで纏まり連名書を訂正した。昭和64年、年の初めから体調が優れなかった天皇陛下が急に病状が悪化され崩御された。後を追うように織田も亡くなった。64年の暮れはD電機は混乱にくれた。ようやく取締役会が開かれて社長が続投と決まり、その他の役員の内会長は会長夫人が代表権のない形で就任。両顧問は据え置き。副社長に代表権付きで中井人事、経理、、研究部門統括担当、専務に宗政事業部門担当が、そして後藤常務は庶務、製造研究部門担当。新任は郷田東京営業部長一人として常務への昇格は無しとしせする。そのほかに消費者担当会長補佐役に社外取締役員を非常勤として2名置く、このうち1名は創業者一家より選んでいただくことで会長に一任している。もう1名は現庶務部長黒田君にお願いする。但し2年間の期間限定として引き受けて頂く。という内容の人事部報が回覧されたのは株主総会の後で平成の元号の下であった。郷田は東京に家族を呼ぶ寄せ一緒にマンション住まいをしだした。入社以来はじめてにゆっくりできる私生活を味わいながら家族と談笑出来る幸せを噛みしめていた。郷田俊38ページ歳38歳の春であった。辛い、悲しい、だけど周囲に励まされる幸せな昭和の思いを胸に明日へ向けてまた頑張ろうと決心して進む平成であった。・・・・・・・・・(完)




この本を書くのに、昨年足を切断して身体障害者となり初めて自分の不摂生を呪い、後悔しましたが、

それを救ってくれた家族3人の励ましが私に小説を書く勇気を与えてくれました。感謝しても仕切れない

気持ちで買い終えることが出来て今とても幸せです。いつ死が訪れても怖くないし、寂しいけど定めと諦

められます。最後に私を励ましてくれた兄弟姉妹達、そして友に感謝します。    AU BOIRE

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