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  :事件について

「今回の事件は、一人の男性が失踪したことから始まるのだけれどね」



 彼は生真面目な男だった。だが、彼の失踪が発覚する三日ほど前から職場を無断欠勤しており連絡も取れず、同僚が家を訪ねると、財布や携帯電話――見た目はスマートフォンによく似ているが機能は通話しかない――などの必需品も置きっぱなしで、彼の姿だけがなかったという。



「それだけならただの失踪事件。君たちがわざわざ出るまでもない」

「つまり、これはただの失踪事件じゃなかったってことですか」

「その通り。彼の妻の墓が、何者かによって掘り起こされていたのだよ」



 失踪した男性の奥さんのお墓が、男性が失踪した直後に掘り起こされ、棺が消えていた。

 メアリーは、真面目な顔で写真を机に並べる。掘り起こされた墓穴、崩された墓石、どこにもない棺。遺族が見れば卒倒しそうな写真だが、その遺族も失踪しているときた。思っていたよりも厄介な事件のようだ、とアルトは眉を顰める。



「その次の週、今度は女性が失踪し、その直後に、彼女の亡くなった夫と息子の墓から棺が盗まれた」



 この二つの事件の状況は偶然と言うにはあまりにも一致する点が多かったため、騎士団は同一の犯人がやったものとして捜査することにしたらしい。


 なんとも不可解な事件である。目的も犯人像も、アルトには全く予想がつかなかった。それはメアリーも同じのようで、犯人の目星はついているのかというアルトの問いに首を振る。



「次の犯行場所は大体目星がついているのだけれど……」

「そうなのか?」



 どうして、次の犯行場所が分かるのだろう。訝しげな顔をするアルトに、メアリーはくすりと笑って種を明かす。



「この二件と同じような状況で失踪し、さらに失踪する直前に近しい人を亡くしている人間はそう多くないからね。探せばすぐに見つかったよ」

「はぁーん、そんでココってわけか」



 三件目の失踪事件。いなくなった女性の妹は今、エヴィラ墓地という場所で眠っている。次の犯行がそこで行われるという予想は、当たっているように思われた。

 アルトが納得したことを確認したメアリーは、満足げに頷き、空になった封筒を軽く叩く。



「さて、今ある情報はこれくらいかな」

「なら俺たちは、今夜から犯行が起きる可能性の一番高いエヴィラ墓地で犯人を待ち伏せして、現れ次第逮捕すればいいのか」

「多分それが最善だろうねぇ」



 アルトも、現状でイーヴァスの提案より確実な方法は思いつかなかった。失踪した人間の行方が分からなくとも、犯人を現行犯で捕まえてしまえば後はどうとでもなる。


 かたり、メアリーが立ち上がり、軽く伸びをした。彼女はこの件に直接関わるつもりがないらしく、資料は全て机に置いたままだ。



「さて、私はそろそろお暇しようかな。イーヴァスさんとエルルちゃんは絶対に騎士団じゃないことを悟られないように。アルトくん、ラジーくん、君たちが命令を無視するような愚か者でないことを祈っているよ。頑張ってくれたまえ」



 随分な言い方に、アルトとラジーの眉間には皺が寄る。だが、メアリーは背中に突き刺さる視線も何処吹く風。ひらひらと手を振りながら、一度も振り返ることなく歩き去ってしまった。


 残された、いいとは言えない雰囲気の中、ラジーがもう耐えきれないとアルトの手を引いて、出ていこうとする。



「あ、ちょっと待ってください。何時にどこに集合するかだけ決めましょうよ」



 また。メアリーを止めた声が、ラジーの足を止めた。ぎろりと、不快さを滲ませた瞳がエルルを射抜くが、表情は変わらない。



「エヴィラ墓地の入口に十時。それでいいッスよね」



 ただ真っ直ぐ任務を遂行するために自分を見る彼女が、ラジーにはひどく鬱陶しく思えて、簡潔に吐き捨てる。



「分かりました。では、また後で」



 お互い、それ以上話すつもりはなかった。了解の返答を聞くなり、ラジーは早足にその場を去る。アルトも、ラジーの思想を咎めることが出来ず、そのまま何も言わずに後を追った。




 無言のまま、そして歩調も緩めないまま歩き続けるラジー。やがて、完全に、会議室の扉が見えなくなる。

 ぴたり、とラジーが足を止めた。そして次の瞬間、壁に拳を叩きつけた。

怒りは痛みに似ているらしい。

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