キャラ増えると名前考えるの大変
リーシャは兵士に剣を持たせると、立ち上がり、裾を翻して王城の入り口へと向かった。歩き方こそゆっくりしているが、入り組んだ廊下を迷うことなく進み、追いついたと思ったら次の角を曲がって姿を消している。微かに聞こえる衣擦れの音を頼りに追うしかない・・・にしても、人がいない。気配もない。王城内なら、多くの人が働いているはずなのだが。
「つきました・・・ハヤ、何をぼんやりしているのです?」
気が付くと、リーシャが立ち止ってこちらを見ていた。目の前には、簡素な木の扉がある。リーシャに目で促されて、扉を押し開く。その中は、思いがけず広い空間が広がっていた。
色鮮やかな衣に身をまとった女たちの目が一斉にこちらを向く。ハヤが何か言うよりも早く、栗色の髪の少女が立ち上がってパタパタと駆け寄り、ハヤの手を握った。
「あなた!さっきこっそり見ちゃったけど、強いのね!まだちょっと信じられないわ!恰好よかったぁ。私のところにも、あなたぐらい強い兵がいたらいいのに。リーシャの兵よりお強いんですもの。私の兵なんて足元にも及ばないわ。しかも、ねぇ。四人もいたのに勝っちゃうなんて。あ、ごめんなさいね!つい喋りすぎちゃって。私の名前はマルーヌ。あなたの名前は知ってるわ。ハヤ、よね。よろしくね!みんなのことも紹介するね。」
「マルーヌ。それぐらいにして。自己紹介ぐらいさせてほしいわ。」
腰かけたまま、ドレスというよりは黒いローブのようなものを身にまとった少女が言った。
「私はグラナダ。あなたと仲良くできるかどうかは、まだよく分かりませんが、よろしくお願いします。」
隣に座る癖毛の少女がグラナダの肩をつっつく。
「グラナダ、あなたそういうこと言うから性格悪いって噂されるのよ。あぁ、私はヴァニラ。仲良くしましょ。」
最後に残った少女に視線が集まり、たじろいで一歩下がってしまった。
「ほら、リィン。喋って喋って。」
マルーヌに急かされ、リィンと呼ばれた少女ははにかみながら
「リィンです・・・。よろしくお願いしますね、ハヤ様。」
と囁くような声で答えた。
「ハヤ、リィンは宮廷女官の家政長で、身の周りのお世話をとりまとめています。しばらく彼女の元で働いてください。」
リィンは薄桃色の髪を三つ編みにまとめており、ハヤより少し背が高いぐらいだった。どこか頼りなく、家政長と言われてもピンと来ない。
「どうぞよろしくお願いいたします。」
膝をついて礼をしようとすると、
「その礼は、私なんかには勿体ないです・・・。後程、女官の作法をお教えしますね・・・
皆様、私、ハヤ様と一緒に退出してもよろしいでしょうか?何かご用件がございましたら、お伺い致しますけど・・・。」
「ん、とりあえず大丈夫よ。何かあればまたお話しに行くね。」
「私からは何も。」
「ないわ。」
「そうね、下がっていいわ。今日は顔合わせだけでいいでしょう。私達もじき、解散します。」
「それでは皆様、失礼いたします。ハヤ様、どうぞこちらへ。」
戸口に立ったリィンが、小さくお辞儀した。ささやかだが、洗練された完璧な所作だった。見よう見まねでお辞儀するが、上手くいった気がしない。退出して戸を閉めると、
「大丈夫です、すぐにできるようになりますよ・・・先ほどのハヤ様の体術、とても美しかったですもの。基本はきっと、同じです。」
「そうだと良いのですが。」
長い年月をかけて身に着けた所作に見えた。そう簡単にまねできるものではない。
「今日はお疲れでしょうから、お勤めは明日からでお願いいたします・・・明朝、私の部屋までお越しください。場所は・・・ユウとアイが知っております。彼女達も連れてきてください。」
「・・・どうして。」
「ユウとアイは、昔、ここで勤めていたのですよ、ラカン伯の元から、研修のために・・・ふふっ、どうしてあなたの元にユウとアイがいることを知っているか、でしたら・・・噂好きの方がいらっしゃるから、とだけお答えしておきます。」
「そう、ですか。」
悪戯っぽい笑みが、本当に楽しそうで深く追求できなくなってしまう。
「ハヤ様。あちらが出口となっております。通行証を、ユウとアイのものもまとめてお渡ししますので、お忘れないようお持ちください。」
リィンから、模様の彫りこまれた木片を三つ渡される。
「では、また明日。お気をつけてお帰り下さい。」
礼の完璧なお辞儀で見送られて、かえって居心地悪く思いながら、ハヤは王城の門番に会釈し、外に出た。チラリと振り返ると、ちょうど頭を挙げたリィンが気づいてにっこり笑い、手を振ってきた。こっそり振りかえす。まぁ、何とかやっていけるだろう、そんな気がした。