第7章 ルピタの覚醒
ラーナスの街を出て歩き続けていた一行は全員が不思議な思いで進んでいて、その理由というのは街を出てから一週間は経つのに池に着くどころか誰にも出会わず、さらには濃い霧が立ち込め前に進む事も困難なほどになっていたのでユレイヤが大きなため息をつくと、
「この様子だと進むのは危険なので一旦休みましょうか」
と言って立ち止まり一行が休憩のために座るとアーヴィンが舌打ちをしながら、
「なんかこの霧、始めよりかなり濃くなっていないか? 街から出た時はそんなに出てなかったのに……それに生命の池が全然見えないしたどり着くか不安になって来た……」
そう言いながら霧を掴む仕草をしているとルピタが真剣な表情で、
「これは自然にできた霧じゃないわ、魔法で私達を惑わせようとしているのよ」
と言うとユレイヤとラウスも頷き同意してから、
「確かに霧から邪悪な魔力を感じます、きっと悪魔が僕達を池に着かないように魔法を使っているのかも知れません」
そうラウスが真剣な面持ちで言って見回すと魔力が少ない3人は顔を青ざめていて、それに気付いたユレイヤが場を和ませようと口を開きかけた時、目の前に4枚の透明な羽が生え大きな目をした虫が現れ驚いた一同が目を見張っているとその虫が突然、
「やあ、お困りのようだね諸君?」
と言っていたのでさらに驚いて飛び退くルピタ達に虫が、
「おや……この姿がいけないのかな? 驚かせてしまってすまない、この場所へ来るには仮の姿を使わなければいけないんだが、一度姿を創ってしまうと変えるのは一苦労するんだ、これで勘弁してくれ」
旋回しながら飛んで話す虫を見ていたルピタはしばらくしてからそれの正体に気付き呆然としながら、
「もしかして、ギルバートさん……ですか?」
そう尋ねると虫は一拍を置いてから静かな口調で、
「やはり、君は気付いたようだね……さすがだ! 僕はとても嬉しいよ!」
と最後の言葉は身体で表現するかのように嬉しそうに飛んで話してから急に止まり、
「実はルピタ君に頼みたい事があるんだ」
そうかなり真剣な雰囲気で言っていたのだがルピタ以外の5人が驚きの余り口をあんぐりと開けている事に気付くと呆れたように、
「虫が言葉を発しただけで驚きすぎではないか? まぁ、仕方がないか……」
そう言ってルピタに向き直ると、
「さて、話を戻そう……君に僕の兄を助けて欲しいんだ、今君達が目指している生命の池に住んでいるんだが、悪魔に池を乗っ取られてから力がさらに落ちてしまって出る事が困難になってしまったんだ、どうか兄を助けてくれ」
と言われたルピタはなぜか胸の中がざわつき押さえているとギルバートと目が合い微笑む彼から視線を外すと彼は少し残念そうにしてから、
「僕達は遥か昔にこの世界を創ったのだがとある理由で兄のレイフは力が急激に落ち、次の世界を創るどころか渡る事も出来なくなっていたんだ、それでこの世界の力の根源となる池に住み力を取り戻そうとしたんだが、悪魔のリタとビトの企てによって力がさらに減ってしまった……だから君達に悪魔を倒してもらいこの世界と兄を救ってくれ!」
そう言って少し間をおいてから、
「僕も微力ながら力を貸すよ、さぁ今から池まで案内するからついて来てくれ、そして悪魔をおびき出す入り口を探すんだ」
と言うと振り返り先頭を切って進んで行くので一行は慌ててついて行くと、数分程で池のほとりについていたので呆然とする一行にギルバートは笑いながら、
「何を驚いているんだ? ただ霧から出て池に来ただけだろう?」
そう言ってからまた真剣な雰囲気で、
「それではよろしく頼む、勇者達よ! 無事と健闘を祈る!」
と言い残し光と共に消えるとその場で立ち尽くしていた一行は気を取り直し、ギルバートが言っていた悪魔をおびき出すための入り口を探し歩いていると、ルピタがふっと立ち止まり池のほとりを指を差しながら、
「ここが……入り口みたい」
そう言って池に近づくとしゃがんで静かに波打つ水に触れると波紋が奥の方まで広がり、共鳴するような音を立てた途端池の中央辺りから内臓がえぐられるような叫び声が聞こえ、ルピタ以外の一同が顔を青ざめて固まっていると、声がした方からスッと何かが浮かび上がり一行は固唾をのんで見ていると、そこから黒い服をきた褐色の肌をした男性が現れ、彼は閉じていた目を静かに開くとルピタ達を睨みつけながら片方の口を吊り上げて微笑み、
「この俺様を追い出そうなんて考えたバカはどいつだ……? だが次こそは俺様が……」
と途中まで言ってルピタを見た悪魔は驚愕の表情で、
「て、てめぇは……イメルダ?! 何でお前が、いや……それよりその姿はファーム族じゃねぇか!」
そう口早に言うとルピタはニッと笑い白い光に包まれ、それが消えるとそこには金の髪をした長髪のくせ毛をした女性が立っていて、彼女は髪をなびかせながら悪魔を見下すような目つきで、
「お久しぶり……ですわね、ビト? 実はあの時わたくしは力を失くして消滅したのですがカケラだけは残っていましたの、そしてわたくしの器となる者が誕生するのをまっていましたの、そしてカネリア・ファームの孫であるルピタ・ファームが適正だと思ったわたくしは彼女の中で眠っていた訳ですわ」
と言ってから困惑しているアーヴィン達を振り向いて微笑むと、
「今まで黙っていてごめんなさい、あの子はわたくしの存在に気付いていなかったし、わたくしも今まで眠っていましたから……あまり責めないで上げてちょうだい、でもわたくしの存在を知っていたこの子の祖母とドワーフの占い師には帰ったら問いただしても構わないですわ、でも……今はあの愚かな悪魔を倒さなければいけませんわね‼」
そう言って前を向くと最初は戸惑っていたアーヴィン達も気を取り直し頷いて武器を構え、いつでも攻撃ができる体勢になるとビトは怒りで震えだし次の瞬間大声で、
「キサマらでは俺様を倒すことは出来ない‼」
と言うと黒く穢された池の水に魔力を込め無数の槍を創ると飛ばして来たので、ラウスが魔法で強靭な壁を作りだしそれを防ぐとユレイヤが剣を天に突きさすように上げると雷を起こし、それを剣にまとわせて飛び掛かるが見えない壁に阻まれたので何度か空中で回転してから着地すると、アーヴィンと目を合わせ彼は頷いて弓を放つとユレイヤが魔法で矢に炎をまとわせるのだがそれも届かずに落ちて行き、舌打ちをして次の攻撃を繰り出す間にモーゼズがハンマーを振り上げ壁を殴りつけると、あまりの強さにひびが入りそれを見たアーヴィン達は瞬時に攻撃をするとビトは慌てて池の水を使って防ぎ壁を作り直そうとしたのだが、イメルダがそれを魔法で阻止し怒りに満ちた表情で彼女を睨みつけるが悪戯っぽく微笑み返されたので震えながら叫んだビトは、腰にある触角を使ってイメルダを弾こうとするのだがラウスに止められさらに怒り狂ったビトは次々と攻撃を繰り出し、防ぐことで精いっぱいになって来たラウスが苦悶に満ちた顔で息を切らせているとユレイヤ達が駆けつけ、応戦するとその間にイメルダが悪魔を消滅させる呪文を唱えていて、アーヴィン達は勇猛果敢な戦いを続けやっと壁を破壊させるとビトに攻撃を加え弱ったところで呪文が完成し、80年前の魔法よりも強力な消滅魔法に飲み込まれたビトは断末魔の叫びをあげると消えていき、ホッとした一行は池に目を移すがなぜか池の汚染は変わっていなかったため呆然としているとイメルダが、
「まだ……戦わなくてはいけないようですわね」
冷静な口調でそう言った途端池が沸騰したように泡立ち全員が警戒していると、先ほどまでビトがいた場所から真っ黒な光が現れそれが空まで届くと、そこから濃く赤黒い雲が湧き立ちそれが空を覆うと一行はまた武器を構え戦闘態勢に入ったその時、光が細くなり消えて行くとそこから高笑いが聞こえ次第に大きくなって耳をつんざく程になっていたが急に途切れ緊張しながら池を見つめていると、また水が泡立ったと思えば持ち上がりそこから黒いミニスカートをはいた女の悪魔が異様な生き物の頭に乗って現れ一行を見下すように睨みつけていた。