第1章 旅の辛さ
森の中へ入ったルピタとアーヴィンは歩いている途中ずっと話をしていたのだが、いつの間にか生命の池に住む精霊の話へと変わっていて、ルピタは首を傾げ不思議そうな面持ちで、
「生命の池に住む精霊さんってどんな人なんだろう?」
と尋ねるとアーヴィンも首を傾げながら、
「俺も良く分かんねぇけどカネリアばあちゃんの夢に入るくらいだから相当な魔力を持っているかもしれない」
そう言ったあと二人は止まって考え込んでいると近くの茂みが大きく動き出し、驚いた二人は咄嗟に弓を構えしばらく待っていると、茂みの中から山賊と思われるトロールが4、5人現れさらに驚く二人をしり目にトロール達は薄ら笑いを受かべてルピタ達を見ると、
「おい、こいつらファーム族じゃねえか? 見世物小屋に連れて行けば高く売れるぞ!」
と言うと手前のトロールが下品な笑みを2人に向けると他のトロールも、
「そうだな、こいつらを一旦親分のところに連れて行こう‼」
そう言うとルピタとアーヴィンに近づき手を伸ばすと先に我に返ったアーヴィンが咄嗟に弓をつがえ放つと、トロールの手のひらに矢が刺さり悶絶しながら矢を抜こうとするのだがなかなか抜けずにいたので、アーヴィンは横で震えて立っているルピタの手を引き走って逃げるがやっと弓が抜けたトロールは怒りの形相で追いかけて来たので必死に逃げるルピタとアーヴィンだが、体格の差もあってかぐんぐん追い詰めてくるトロールに捕まりそうになったその時、木の上からマントにフードを深々と被った人がルピタ達とトロール達の間に降りてくると、
「こんな子供を大勢で追いかけるなんてみっともないぞ! もっと大人らしくできないのか⁈」
と冷静だが怒気のこもった口調で言うとトロールは顔を赤く染め上げながら、
「うるせぇ! てめぇには関係ねぇ話だろうが、引っ込んでろ‼」
1人のトロールがそう怒鳴るとそれぞれ腰に帯びていた剣を抜き目の前に立つ人物を斬ろうと走り寄るが、彼は素手で戦いトロールはあっという間にほとんど倒されて行き最後の一人になっても息を乱せずにいるその人物にトロールは怖気づき腰を抜かせていると彼が、
「散れ、私は今すぐにでも君達の賊を滅ぼす事も出来るんだ、金輪際この森には入ってくるな……次は無いと思え」
と睨みつけながら言うとトロールは首を何度も縦に振り一目散に逃げて行くと、ルピタとアーヴィンが礼を言うために助けてくれた人の元へ駆け付けると彼が振り返り、
「君達! こんな森の中で子供2人だけ歩くなんて危険すぎるじゃないか‼」
そう大きな声で言われたルピタとアーヴィンは驚いて目を見開いていると、マントの人が近づきながら被っていたマントを下ろし顔を出すとなんと助けた人はノーム族で、さらに驚いた2人は咄嗟にノーム族の青年から離れて弓を構えると、彼は傷ついたような表情をしたあと両手を上げながら、
「待ってくれ、私は君達を傷つけるような事は決してしない、これは神にも誓うよ」
と持っている刀を全て外しゆっくりと足元に置くとまた両手を上げてから、
「私の名はプラシド・モーズリー、見ての通りノーム族だが仲間とは違い平和主義者だ、さっきは君達を助けるために戦っただけであって普段は戦わないよ、だから君達に危害を加えようなんて少しも思っていない、これも神に誓うよ」
そう言って微笑むと2人がやっと弓を下したのでプラシドはホッとした表情で、
「君達はどうしてこの森の中にいるんだい? ここはさっきみたいな盗賊や、大狼が沢山いて子供だけでは危険過ぎるよ」
と言われルピタは事情を全て話そうか迷っていてアーヴィンにも尋ねると彼も迷っていたので、話し合った結果助けてくれたプラシドに説明しようとなりルピタが前へ出てきて、
「実は私達……生命の池へ行って黒くなった池を元に戻すためにファーム族の村から出て来たんです!」
真剣な表情でそう言うとプラシドは顎に手を当て何かを考えていたがしばらくすると、
「それは本当の話なのかい? 実のところ私には生命の池が黒いようには見えないんだ、それに……たとえそれが事実でも君達だけで大丈夫なのかな?」
そう言われたルピタが言葉を詰まらせているとアーヴィンがスッと前に出て来て、
「ルピタはファーム族の占い師カネリア・ファームの孫で村でも一番の魔力を持っています、だからばあちゃんは選んだんだ、絶対に俺達で悪魔を倒して見せる」
強い視線をプラシドに向けて言うと彼は驚いたような顔でルピタを見ながら、
「まさか……本当に? 確かに数年前にあったカネリアさんと顔立ちは似ているけど……」
と呟いていたのでルピタは微笑みながら、
「本当です、私の名前はルピタ・ファームと言います、彼が言っていたようにカネリア・ファームの孫でおばあちゃんの魔力を強く受け継いでいます」
そう言うとカネリアから受け取った手紙を手渡しプラシドはそれを読むと、次第に青ざめて行き読み終わると一つため息をついて、
「これは看過できない危機だな……ここ数年謎の死を遂げている人達が増えている事には気付いていたが……80年前の悪魔が再び種族を滅ぼそうとしているなんて……!」
怒りの余り歯を食いしばているとルピタとアーヴィンが怯えた表情で見ている事に気付き、深呼吸をしてから安心させるために微笑むと、
「大丈夫、もう落ち着いたから」
と言った後アーヴィンに顔を向けると真剣な面持ちで、
「そう言えばルピタちゃんとアーヴィン君は顔立ちが似ているけど親戚なのかい? だとしたらアーヴィン君の魔力も強いのかな?」
そう言われた2人は一度顔を見合わせてからアーヴィンが、
「俺はカネリアばあちゃんの兄ユレイヤ・ファームの孫です、でも俺には魔力はほとんどないので弓と剣を使って戦っています」
とプラシドの目を見つめて言うと彼は彼はまた黙って考え込みしばらくしてから、
「それでも君達2人だけだと危険なのは変わらないし、私もここで別れるのは心配だから一緒に行かせてくれないか?」
笑顔でそう言うとルピタとアーヴィンは少し話あってから頷き3人は握手を交わした。