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ルピタ冒険記  作者: 桜本 結芽
12/12

エピローグ ファーム族の村へ到着、そして別れ……

 モーゼズ達と別れたルピタ達3人はゆっくりと森の中を歩き4日程経った昼間、アーヴィンは崖の上から村の方角を見るとさほど離れていない場所からいくつもの煙突の白煙が見え、慌ててルピタとカネリアに伝えると2人も嬉しそうな笑顔で立ち上って再び歩き始め、数時間程でファーム族の村にそびえる門にたどり着いてルピタが大声で開門を願うとすぐに開き、中へ入ってから旅の経緯から全てを説明すると村人たちはルピタとアーヴィンを勇者と称えてきたので恥ずかし気にしていた2人に、村人は握手を求めてきたのでそれに応えてから祭りに参加し、それにルピタとアーヴィンは正装してでるとダンスや食事を楽しみ、朝方まで続いた祭りも終わり疲れた様子で村人が帰っていく中ルピタは名前を呼ばれ、彼女が振り返るとそこには村で一番人気がある若者インスが立っていて彼は唐突に、

 「あ、あの……ルピタさん、俺と共に残りの人生を送りませんか!?」

 と顔を赤らめながら言われ固まるルピタだったがすぐに我に返り頭を下げながら、

 「ごめんなさい、あなたの気持ちには答えられません」

 そう言うとインスは急に顔色を変えてから舌打ちしていたので、ルピタは怯えたような目で見つめていると彼はとても冷ややかな目つきで睨みながら、

 「この俺が告白しているのに断るなんて得策ではないですよ? あなたはもうすぐ『ただの』村人になるんだから」

 と言われルピタは訝し気な目つきでインスを見やると震える声で、

 「どういう事……なの?」

 そう尋ねるとインスは見下した笑みをルピタに向けながら、

 「俺の親父が商人なのは知っているよね? あのバカな親父に少し魔法で暗示をかけたんだよ、この村を売り飛ばすようにね! だからこの村はもうすぐ無くなるんだ地図からも……ね? そうなる前にあんたを先に売り飛ばそうとしたんだけど失敗したよ、本当は手荒なことはしたくなかったけど仕方ないね」

 と言って指を鳴らして誰かを呼んだのだろうが1人も現れずインスが慌てていると、建物の影から数人の大人達が現れそれぞれが若者の両腕を縛りあげていたので、驚いて目を見開くインスに大人の1人が前に出て来て彼を睨みながら、

 「やはりこれを仕組んだのはお前だったんだな……どうしてこんな事をしたんだ?」

 そう尋ねるとその大人をみてインスは驚愕といった顔で、

 「お、親父……どうして催眠が解けているんだ!? 何重にもかけていたはずなのに‼」

 と叫んでいたのでルピタが大股で近付くと怒りの形相で、

 「私が解いたの、帰って来てすぐにね……部下の人達がとても心配していたから駆けつけてみると彼は強い暗示をかけられてた、でも自我も少なからず残っていて魔法を解こうともがいたから魔力が底をつきかけていたわ……」

 そう言った後インスを睨みつけて厳しい口調で、

 「どうして生まれ育った村を売ろうだなんて思ったの? 家族や友達が奴隷になったとしてもあなたの心は痛まないの⁈」

 と怒鳴るように問いただすとインスは一瞬黙り込んでから両手を握りしめその後大声で、

 「こんな……こんな村が大嫌いだからだよ‼ 生まれた時からうっそうと茂った森で暮らして、男は狩をしないとダメなんてうんざりなんだ‼ もう……もう開放して欲しいんだ、自由にさせてくれよ‼」

 そう息を切らせながら言うインスにルピタは力強く頬を殴り、尻もちをつく彼をさらに殴ろうと涙を流しながら腹の上にまたいで、

 「それだけの理由で……どうして村の人達を危険に落とすの!? それであなたはファーム族だと名乗れると思っているわけ⁈ どうして、どうして……!!」

 とさらに殴ろうとしたので大人達に止められるルピタにインスは腫れた顔を押さえながら見下した目つきで、

 「ふ、ふん! やっぱり野蛮だな、これだからこんな村はダメなん……」

 だと言いかけた時怒りを我慢していて限界が来たアーヴィンが見えない程素早く近づいてインスの首元に剣を当てると恐ろしい剣幕で、

 「それ以上ルピタや村の事を罵ってみろ……お前の首を飛ばしてやる……!」

 そう言われ固まるインスにアーヴィンは先ほどより静かな口調で、

 「今すぐこの村から出て行け、お前はもうファーム族じゃない……」

 と言うと周りにいた村人達も同意見なのか若者達に向けて一斉に石を投げつけながら口々に、

 「出て行け、裏切者!」

 そう言っていたので若者達は顔を青ざめながら村を出て行った。


 インス達の騒動から一週間後ファーム族は新たな長を決めるための会議を開き、それにルピタも呼ばれたので出席して話を聞いているとカネリアが静かに挙手してから立ち上がると、

 「今この場で私はルピタを長に推薦するわ、彼女ならきっと素晴らしい長になるはず」

 と言ってルピタに微笑みかけると彼女は顔を赤らめて俯いた後顔を上げ覚悟を決めた声と表情で、

 「私、やります! まだまだ子供で未熟だけど、やらせてください!!」

 そう言い頭を深々と下げると会議をしている部屋は静寂に満ちたのだが誰かが拍手をするとそれは広がっていき、部屋中に響き渡ると村長代理を務めているモリブがルピタの前まで近づくと、

 「我々はルピタさんのその言葉を望んでいました、どうかこの村を素晴らしい場所にしてください」

 と目に涙を溜めながら言われたのでルピタも目を潤ませながら、

 「はい! よろしくお願いします‼」

 そう言って勢いよく頭を下げてから顔を上げ微笑んだ。


 そしてルピタ達が悪魔を倒して池を元に戻した旅から6年後、晴れて成人したルピタは正式に村長の職に就き目まぐるしく過ぎる日々の中で、アーヴィンの結婚を知った彼女は1年前から病床に伏すカネリアに報告すると彼女は微笑みながら、

 「兄さんの魂がまた繋がるのね……」

 とゆっくりとした口調で言った後ルピタを真剣な面持ちで見つめて、

 「ルピタ……今から言う事は1度しか言わないから、よく聞いて……6年前の旅が終わってエルフの街にいる時に、あなたの中にいる神イメルダの事を説明したわよね?」

 そう尋ねられたルピタは真剣な面持ちで頷き、

 「うん、ちゃんと覚えているわ」

 と言うとカネリアは微かに頷いてから静かに、

 「実はね、あなたが生まれてイメルダが中に入る前に彼女が言っていたの、もしルピタが病気や事故に会わず無事に成人を迎えたらイメルダの神としての力が強くなる、だからその時は身体の時間を止めて年を取らないようにするからって……」

 そう説明されたルピタは絶句していたのでカネリアが声をかけようとしたのだが、急に咳き込んでしまいそれに気付いたルピタは我に返ると慌てて医者を呼ぶために部屋を出て行き、カネリアは懸命に治療を受けたのだがそのまま愛する夫ケイケナの元へ旅立ち、葬式の日涙を流す村人達の中でルピタは1人呆然としていたのでアーヴィンは涙で目元を腫らせながら近づくと、

 「なんでお前は平然としてるんだ? ばあちゃんが……死んだんだぞ⁈ なんで……」

 と大声で言ったのだがルピタは生気のない目をしていたので不審に思ったアーヴィンは彼女を部屋に連れて行き、何度も名前を呼んだのだが反応はなく戸惑っているとルピタの中からイメルダが出て来てため息をつきながら、

「今の彼女にはどんな言葉も届かないですわ……心の奥底に入ってしまってわたくしの言葉でも届かない程深く潜ってしまっていますの……」

 そう悲し気に言ってから意を決したようにアーヴィンの方を向くと、自分がルピタの中に入った事で彼女の時間が止まってしまう事を説明すると彼は驚愕の面持ちで、

 「それは……本当なのか? ルピタはもう、年を取らない……?」

 かなり動揺した様子で尋ねるとイメルダは無言で頷くので後ずさって壁に背を預けてから舌打ちをすると、ルピタにこれから訪れる苦悩を考えてまた舌打ちをしてから近づくと抱きしめ、

 「たとえ年を取らなくても、ルピタはルピタなんだ‼ 俺が認めた、大好きだったルピタ・ファームなんだよ‼ だから……だから絶望しなくてもいい、お前は俺が守るからずっと笑顔でいてくれ!」

 と大声で言うとそれが心に響いたのかルピタの目に涙が溢れ、大泣きしながらカネリアの名前を呼ぶルピタの背中をアーヴィンはずっとさすっていて、その様子をイメルダは嬉しそうに微笑んでから2人に、

 「もう大丈夫ですわね……ありがとう、アーヴィン……あなたがいてくれて安心ですわ」

 そう言って言うと再びルピタの中に入って行った。


 さらに時は進み80年が経ったころ年老いたアーヴィンは自分の家族と姿が変わる事のないルピタに囲まれながらベッドに横になっていて、泣きじゃくるルピタや家族が見守る中目元に涙を滲ませて静かに目を閉じて天国へと旅立ち、彼の葬儀の後ルピタは1人バルコニーで膝を抱え声を殺し泣いていると後ろから名前を呼ばれ振り向くと、そこにはギルバートが立っていて彼は優しい笑みをルピタに向けながら近づき、

 「死なないというのは、辛いですか……?」

 と尋ねながら隣に座るとルピタは膝に顔をうずめながら頷いて小さな声で、

 「もう……昔の私を知っている人はいないんです……アーヴィンも……もう、いない……」

 そう言ってから顔を上げてギルバートを見つめ、

 「ねぇ、私はいつまでこのままなんですか……? イメルダさんは、いつになれば力が戻るんですか? 私は……私はいつまで生きればいいんですか……?」

 と言うとまた俯くのでギルバートは静かな口調で、

 「家族や仲間の元へ逝きたいですか? 今の生活を捨てて、この村やこの世界の人達からの記憶からも消えて……」

 そう言ってルピタの目を見つめると彼女は驚いたという表情で、

 「そんな事が……出来るんですか……?」

 と尋ねるとギルバートは真剣な面持ちで頷き、

 「出来ます、ただ……この世界の誰の記憶からも君が存在した事は残らない、それでもいいなら……ね」

 そう言われルピタは一瞬ユレイヤやラウスの事が脳裏に過ったのだがそれでも気持ちは揺らぐ事は無かったので、

 「それでも、私の気持ちは変わりません……なによりカネリアおばあちゃんやアーヴィン達に……早く逢いたいです」

 と微笑んで言うとギルバートは、

 「そうですか……では君の言葉を尊重します」

 そう優しい笑みを浮かべて言うとルピタの額に人差し指を当て1言呟いた途端、そこから小さな光が現れそれがみるみるルピタを包んで行き大きくなっていくと、光からイメルダが出て来てさらに光は広がり最後には弾け飛んで行き、空を舞う光をギルバートとイメルダは横に並んで少し悲し気な笑みで見つめながらイメルダが、

 「ルピタは無事にカネリア達の元へ逝けたのかしら……?」

 と言ってギルバートを見やると彼は空を見上げながら、

 「大丈夫だよ、彼女の事だからきっと笑顔で仲間達と逢っているさ」

 そう言うとイメルダも空を見上げ笑顔で、

 「そうですわね、きっと……」

 と言って2人は光が完全に消えていく朝方まで空を見つめていた。



 ――完――

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