第10章 プラシドの決意
あかりの森を発ち一週間程かけてムーノラの街やフェアリー族の街を回って、生命の池から流れる水が飲めるようになった事とその原因を説明すると聞いたものは最初驚いた表情をしていたのだが、次第に喜びの顔になり一行に感謝の意を込めて祭りを催してそれにルピタ達を呼び朝まで楽しむという流れを各街や村で行い、にくしみの森に入りトロール族の村でもやはり祭りを行われたのだがプラシドだけは緊張で何も話さず、黙々と食事を取っていたので彼の横に一人のトロールが座り静かな口調で、
「あんた、モーズリー家の次男だろ? 由緒ある家の奴が旅に出て英雄になっててもいいのか?」
と尋ねられたプラシドは俯き小さな声で、
「元々あの家に私の居場所はなかったし、帰っても家族に何を言われるか分からない……それにあの家は兄が継いでいるはずだから心配はない」
そう言うとトロールはとても驚いたように目を開きながらプラシドを見つめ、
「もしかして知らないのか? あんたの兄は数年前池の水を飲んで死んだんだぞ? 他に家を継ぐ者もいないみたいだし、ノームの村はそのうち滅んじまうって噂になってるんだ」
と説明されたプラシドは混乱のあまり持っていた茶碗を落としてしまい慌てて拾って謝ってから違う茶碗を受け取ると、トロールはため息をついてプラシドの肩に手を軽く叩きその場から去るとさらに黙り込んで食事をするプラシドに気付いたルピタは声をかけようか迷ったのだが、口を結びその場では声をかけず楽しむ事にして夜中近くまで開かれた祭りも終わると、ルピタ達は用意された屋敷の部屋で眠りについた一行だったが、やはりプラシドの事が気になったルピタは静かにベッドから降りて彼を探しているとベランダで一人真っ暗な景色を眺めているのを見つけ横に立ち静かな口調で、
「眠れないんですか?」
そう尋ねるとプラシドはルピタに微笑みかけてからまた前を向き、
「私の家族や村の事を聞いてしまってね……」
と穏やかだがどこか寂しそうな顔で言って俯くと、
「私の家は代々村を治める家系だったんだ、でも次男だった私に父は長の座を譲ることを認める事は無くてね……だから悠々自適に暮らしていたし幼い頃から兄とは仲が悪かったから村に帰るのは週に一度程度だった……でも以前話したように父と母が亡くなり兄が長になると、彼は全て私の責任だと言って私を村から追放したんだ、その兄も数年前に池の水を飲んで亡くなったらしくてね……ノーム族の村は滅んでしまうかもしれないとさっきこの村の者が言っていた……これで私は本当に故郷を失くした浮浪者になってしまったわけだ」
そう力なく笑いながら言うプラシドにルピタは顔を赤く染めながら震えて彼を見据えると、
「どうしてそんな平気なふりをしているの……? 私はプラシドさんを貶めたお兄様を許せない、でも今はプラシドさんにも怒ってる‼ どんな家族でも亡くなってしまって村も滅びかけているのにどうしてそんなに普通なの!? 現状に気付いているのに何もしようとしないプラシドさんはカッコよくないよ‼」
と大きた声で言った後ルピタは泣きながら走って部屋に戻るとベッドの上で大声で泣き続け最後には疲れ果てて眠ってしまった。
次の日の朝に一行は村を出て森の中を歩いているとアーヴィンが小声でモーゼズに、
「な、なんかルピタとプラシドさんの間だけ雰囲気悪くないか? 2人共ずっと黙ったままだし……」
そう尋ねるとモーゼズも頷いて小声で、
「うん……それはオイラも気になってた、あの2人なにかあったのかな?」
などと言っていると後ろでカネリアとリリアンが嬉しそうに、
「若いっていいわよねぇ! 私達もああいうのをもっとしておくべきだったわぁ!」
と言っていたので呆れて何も言えなくなったアーヴィンとモーゼズは黙って歩いていると、次第に2人の会話に熱が入りかけたのでアーヴィンが止めようとした時前のほうでプラシドが静かに、
「着きました、ここがノームの村です」
そう気乗りしない様子で言って止まるとそこには門があったとされる残骸だけがあり、プラシドは呆然としばらく立ち尽くしてから中に入ってみると、そこには荒れ果てた家が建ち並び村の人達も覇気がない様子でぐったりとしていたので唖然として固まるプラシドに気付いた村の人が驚愕といった表情で、
「プラシド様……? どうしてここへ……あなたは追放されたはずなのに」
と言われプラシドは言葉を詰まらせていると彼の後ろからルピタが出て来てフードを外すと村人に、
「私達は川の水が飲めるようになった事を伝えに来たんです」
そう言うと村人はルピタの顔を見て幽霊でも見るような顔をして大声で、
「ファ、ファーム族!? どうしてここへ! そんなことよりどうしてプラシド様と……⁈」
と言って後ずさると彼女の後ろに立つ一行に気付きさらに驚いた面持ちで、
「ど、どういう事なんだ……⁈」
そう呟いていたのでルピタは慌てて全ての経緯を説明すると村人は次第に目を輝かせ、最後まで聞いた彼は身体を震わせながら他の村人達を呼び寄せ彼等にも説明すると、その場で踊りだす者やへたり込んで泣き出す者で入り口は賑やかになっていたので、騒ぎを聞きつけたノーム族で長の代理をしている女性が現れ騒ぎを治めようとした時プラシドに気付き彼女も幽霊を見ているような目つきで、
「プラシド、兄さ……ん?」
と言って口元を両手で覆いながら近づくと目に涙を浮かべながら、
「無事……だったのね……?」
そう言われたプラシドも驚いて目を見開きながら、
「さ、サリレラ? まさか、村長代理をしているのは、お前なのか?」
と言うとサリレラと呼ばれた女性は目に涙を浮かべながら何度も頷いていて、ゆっくりとプラシドの前まで行くと抱き着いて泣きじゃくる彼女に困惑している彼の周りに村人達が集まり、
「今までどこに行っていたんですか? 我々はあなたが人助けをしているという噂を聞くたびにあの事が分からなくなってしまった……本当の事を話してくれませんか?」
そう年長者らしき男性に尋ねられプラシドは信じてくれるか不安で迷っているとルピタと目が合い口を真っ直ぐに結ぶと、兄に騙されてしまって追放された事からルピタ達に出会ってからの事を全て話し俯くと村人の1人が歩み寄り、
「プラシド……今まですまなかった! 実は先代が死んで長男のレガイアが長になった後俺達は心底後悔したんだ、お前は濡れ衣を着せられたんじゃないかって……だから奴に聞きに行った者もいたんだ、でも誰一人帰ってこなかった、それで俺達は確信した……だからサリレラと共に川の水を飲ませて奴の命を奪ったんだ、それでなくてもあいつは村を治める者としてはクズだった……圧政を敷いて俺達を餓死させようとしていた……だから……!」
と最後まで言いかける前にプラシドは落ち着いた声で、
「兄さんを殺したんだろ? でもそれは仕方ないよ、村人が生き残るための最終手段だから」
そう言って微笑むと村人達は涙を流しながらプラシドの手を握っていて、その姿をルピタ達は目を潤ませながら見ているとプラシドがルピタと目線を合わせ、
「ありがとう、ルピタちゃん……昨日の君の言葉で私は心を救われたよ、感謝をしても足りないくらいだ……本当にありがとう」
と満面の笑みで言うと村人達と共に広場まで行ったのでそれを見送りながらルピタは嬉しさで微笑んでいると、一行も呼ばれたのでついて行きノーム族の村でも祭りが催されたので村人に混じって一行も踊ったりして楽しみ、2日後の昼にプラシドと別れの挨拶をしてから村を離れ森の中をカネリアとリリアンに合わせてゆっくりと進み、さらに3日かけてしっとの川まで行くとルピタはカネリアに教えてもらっていた風の魔法で川を渡り、さらに歩き続けてムーノラの街へ着くとそこで一晩泊まってから門の前でモーゼズとリリアンとも別れ、久しぶりに家族と会えるという事でモーゼズは嬉しそうに歩いて行くのでそれを見送った後ルピタ達も村があるしんせいの森を目指して歩き出した。