第9章 最期の別れと戴冠式
ユレイヤは全速力で走ったため息を切らせながら女王が眠るベッドに近づくと彼女は浅い息をしていて、彼がそっと彼女の冷たい頬に触れると女王は薄く目を開け落ち着いた口調で、
「ああ……戻ったのですね、ユレイヤ……悪魔を倒す事ができて、本当に良かった……」
と苦し気に言って微笑んだ後ユレイヤの頬に手を当てながら、
「この国を……世界を……よろしくお願いしますね、あなたなら……どんな困難にも、立ち向かう事が出来る、自信をもって……ください」
そう言うと静かに目を閉じて息を引き取り女王の手をずっと握っていたユレイヤは、大粒の涙を流しながら搾り取るような声で、
「母上……どうして、汚染された水を飲んだのですか……?! どうして……」
と最後は力なく言うと神官の一人が顔を涙で濡らしながらユレイヤの横で跪くと、
「殿下は……他種族が苦しみ悶えている状態に心を痛めておられ、ユレイヤ様が旅に出られた後我々の言葉を聞き入れることなく池の水を飲み続けておられたのです……」
そう震える声で言ってから頭を床に着けるように下げながら、
「全て、我々の責任です……! どうか罰を与えてください‼」
と言うとユレイヤはその神官の前で膝をついて座ると落ち着いたように、
「顔を上げてください、何も全てがあなた達の責任ではありません……母上が、他種族を想ってした事なのですから……それを誇りに思わないといけない気がします」
無理に笑顔を作ってそう言うとさらに、
「それにもう池は元に戻ってこれからは苦しむ人がいなくなったのだから……」
とユレイヤはまた涙を流しながら言うと後ろで見ていたルピタ達も泣いていたので、彼は涙が自然と止まるまで大声で泣き続けた後疲れて眠りにつき、翌日の朝葬儀の為エルフの神官達が女王の亡骸が入った棺を掲げて街を抜けエルフ王家の墓まで行くと、神官長のヘルバシオが祝詞を唄い女王の魂が墓の中で安らかになるように祈り、葬儀にはルピタ達も立ち合い女王の最期を惜しみながらも見送った。
女王の葬儀から一週間が経ちエルフ王国に落ち着きが戻った頃ユレイヤの戴冠式が行われ、赤い豪華なマントを身に纏い玉座に腰かけた彼は母の事を思い出し涙ぐむが首を小さく横に振って気持ちを切り替えると、王になって最初の仕事である任命の儀をするため目前で跪く臣下達に勲章を与えると臣下はそれぞれの誓いを述べていき、一番最後に跪いたラウスに武官長の勲章を渡すと彼は低頭して忠誠を誓うとユレイヤは微笑んで頷きその後ラウスは下がって武官長の席に着くと、その後の儀式も無事に終了し夜のパーティーにも出席したルピタ達はエルフや仲間達とダンスや食事を楽しみ夜中まで続いたのだがそれもお開きになり、ルピタ達は用意された部屋に入り各々休んでいる中ルピタは寝付けずに何度か寝返りを打った後無理に寝る事を諦めベッドから降りて部屋のバルコニーで風に当たっていると後ろからカネリアに名前を呼ばれ、
「女王殿下の事を考えていたの……?」
そう尋ねられたのでルピタは何も言わずに俯いて小さく頷くと自信のない声で、
「どうして……あの人は自分の命と引き換えにしてまで他の種族の事を考えたのかなって思ってたんだけど、全然分からなくて……」
と言うとカネリアは優しい笑顔をルピタに向けると頭を撫でながら、
「今のあなたはまだ若いし分からなくても当然と思うわ、でも……大人になって村長になった時に自然と分かるようになるものよ」
そう言われたルピタは驚いて目を見開くと、
「わ、わたしが……村長? でも、女の私が認められるわけが……」
と言いかけたがカネリアは左手を上げ遮るとルピタは不思議そうに祖母の顔をを見つめていたので、カネリアは大きなため息をついた後真剣な面持ちで、
「これからは女性も男性も関係のない世にしないとだめなのよ、エルフが女性政権から男性政権になったこの機にファーム族が女性政権になれば、きっと他の種族も変わるはずなの、だって……」
そう途中まで言った時ルピタの中からイメルダが現れ真剣な表情で、
「もともとファーム族はこの世界を創った後一番初めに造った生命体だから他種族への影響力が大きいんですのよ?」
と説明されたのだが意味が分からなかったルピタは首を傾げながら、
「でも、私達は他種族が交わり合って生まれた種族だって昔読んだ本に書いてあったわ」
そう言うとイメルダは呆れたようにため息をつき呟くように、
「やっぱり何も知らないみたいですわね……では、一から説明させていただきますわ」
鋭い視線をルピタに向けながら言うと彼女は真剣な顔で頷いたのでイメルダは微笑んでから、
「あなた達ファーム族はわたくし達が他種族を創り出す前に練習として創った種族で、それをどういう経緯か知らないですけれど今の伝説が生まれてしまったんですの」
とイメルダは語り部のような口調で言ってからカネリアに目線を向けると、
「カネリアがこの事を知っているのはわたくしが力を失い器を探して彷徨っている中、生まれて間もないあなたが器に適している事に気付き、カネリアにお願いすると了承して下さったのでお礼にお教えしましたの」
そう笑顔で言うとカネリアも楽しそうに笑いながら、
「この世界を創った神様の一人がルピタの中に入る事もだけど、私達が創られた話が一番驚いた事を今でも覚えているわぁ!」
と両手を合わせながら言っていたのでルピタは多少呆れたように、
「普通、孫に神様が入ることが一番の驚きだと思うけど……でもどうしてその事を私に教えてくれなかったの?」
そう最後は拗ねたように上目遣いで口を膨らませて言うと、カネリアが困ったようにしていたのでイメルダが間に入って、
「それはわたくしが彼女に口止めをしていたからですの、あなたの事が他種族の耳に入ってしまうとあなたは誘拐されて命を奪われてしまうかもしれません、そうなればわたくしも消えてしまいますもの」
と言ってから2人に目配せしてから笑顔で、
「2人とももう寝ないと明日の朝に起きられなくなりますわよ? わたくしも力を沢山使って疲れたので奥の方へ入りますわ」
そう言うと煙のようになってルピタの中に入って行ったのでルピタとカネリアもベッドに戻り眠りにつき、次の日の早朝ルピタ達は池の水を元に戻した事を全種族に伝えてから故郷に帰るためにエルフ達と別れの挨拶を交わし、街を出て森の中を案内役の青年エルフと歩いていたのだが青年は最後まで無表情で歩いていて、森の出口でその青年とも挨拶をすると彼は優しく微笑みながら、
「またいらしてください、その時は仲間ではなく友人として迎え入れます……道中お気をつけて、初代エルフ王マールインの御加護がありますように」
と言われ面食らった一行は驚きの表情で青年を見ているとそれに気付いた彼は元の顔に戻し、
「私も笑う事はあります……どうかお気をつけて!」
そう恥ずかしそうに顔を赤らめて言った後回れ右をして森の中を足早に入って行ったので、ルピタ達は一礼してからあかりの森を背にしてラーナスの街へと向かった。




