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いつか出会う誰かのために  作者: マコト
第一章 へんてこな出会いとなりゆきな決意
3/3

初めまして 3

誰か呼んでくれてるのかなぁ~?

不安(汗)

「これが人の住む……小屋?」

「確かにボロいが犬小屋みたいに言わないでくれ」


場所を家の中へ移動したのはそろそろ辺りが暗くなってきたからだ。

断じて少年がラビの話を信用した訳ではない。

あまりにも突飛すぎる話し。

ウサギが人になる?

ケッ、人を馬鹿にしてんのかよ!である。

少年が何度目かの溜め息を吐く横で、ラビは目をキラキラさせて家の中を見回していた。


少年は買い付けて来た荷物を所定の場所へしまい込み、小さな台所へ向かう。

水を満たしたケトルをコンロ(のような物)の上に置き、ボソボソ何やら呟くと小さな火が点された。

それを見たラビは得意気な顔する。

「ラビちゃんもー出来るよー!ファイアボーーー」

「ま、待て!ちょっと待てっ!」

加減なんて知らなさそうなこの少女、危険要素しか感じない。

ここは家の中なのだ。


「もう点いたからっ!今のところ火は間に合ってるから!」

「えー……」

ラビがウサミミを萎れさせて残念ポーズを決める。

「たぁくさんー修行ーしたのにぃー」

「いやいやいやいや。今何気に全力でぶっぱなそうとしたよな?」

家が燃えるわ、と少年は顔をしかめた。

そして同時に横にあるウサミミを結構な力で引っ張る。

「いたーっ!いたいってばーっ!」

突然の事にラビが耳の根元を押さえて叫ぶ。

「離してー!耳が抜けるのーっ!」

「……やっぱ作りもんじゃない、か。」

グイグイと引っ張った後、少年は肩を落としながらポイッと耳から手を離した。

ラビが慌て耳を撫でる。

丁寧に丁寧に……それはさながら毛繕い。

耳から興味を無くした少年がお茶を入れ、簡素なテーブルへ移動すると慌ててラビが後に続く。

カップからふわふわと甘い匂いが立ち上っている。

「えっとー……」

出会ってから今までの騒がしさが嘘の様にラビがおずおずと少年の向かいにある椅子を指さす。

「お座り」

「ーーキュキュッ!」

満面の笑みを浮かべ、ラビが椅子に跳ねのった。


「それでお前、いつまでいるの?」

大概夜も更け、そろそろ食事の準備がしたい少年呆れたようにラビへ問う。

「んっとねーラビちゃんーお礼とーお兄さんのーお名前をー聞きに来たのー」

両手で包み込むように持ったカップにフーフー息を吹きかけながらラビが言う。

「……それだけの為に人になったって?」

俄に信じがたい。

だがラビは真っ直ぐ少年の目をみて頷いた。

「ラビちゃんにーラビリンスってお名前をー付けてくれたからーラビちゃんもーお兄さんのお名前をー呼んであげなきゃってー」

少年は一瞬目を見開き、ニコニコ笑顔で話すラビを見つめた。

「お名前をー呼んでーラビちゃんがーずぅっと一緒に居てあげるからーもう寂しくないよー」


一つ山を挟んだところに村はある。

だが少年を訪ねて来る人はいない。

少年が人付き合いを拒むからだ。

小屋から見渡せる範囲に家もない。

つまり少年の名を呼ぶものなど誰一人いないのである。

少年の名を知る者ももう存在しない。

随分長い少年の沈黙を、ラビはニコニコしながら黙って待っていた。


長い、長い沈黙。

少年は腹から吐き出すように息を吐いた。

そしてーー

「……タ、クミ」

小さく、掠れた声の呟きをラビは勿論聞き逃さなかった。

「タクミー!!」

どんとカップを机に叩き置き、すっくと立ち上がり耳をぐるんぐるん回して踊り出す。

「タークーミータ~ク~ミ~タックン~そう呼ぼう~タックン~タックン~!」

絶妙に嫌らしくビブラートがかかっている。

はっきり言って呪いレベルに気持ち悪い。

止めろタクミが言っても止めないどころかボリュームを上げて歌いだす始末。

名前を教えてしまった事を後悔しながら少年は立ち上がり、食事の準備を初めるのだった。






次、やっと話が進みだします。

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