第二話「脱獄劇の始まり」
華林が初めて一刀と会った時間まで飛びます
華琳SIDE
一刀「ああ、構わない」
華琳「・・・」
へ~、あの関羽と張飛に相当な自信があるのね・・・。
まぁ噂通りなら、首を斬るようなことはないけど。
華琳「では連れてきなさい。今のうちに、そこの二人と悔恨を残さぬように」
一刀「じゃあ、連れてくる」
三人が天幕を出て行く。
一人になった天幕の中で、さらに背もたれに身体を預けた。
華琳「・・・生意気ね。天の御使いは、みんなあんな感じなのかしら」
思い出すのは、荒野の真ん中で佇んでいた全身黒の服装を着た少年。
さっきまでいた煌びやかな服に比べてしまうと、下位の御使いなのかもしれない。
華琳「つまり、私は外れを引いたわけね」
小覇王と謳われた孫策のもとにも、煌びやかな衣装を着た人物が目撃された情報がある。
だが、客将として雇っている袁術や、その他の勢力も「御使いは劉備のもとにいる」という情報に流され、確認作業は行われていないようだが。
華琳(御使いが一人なんて、あの占い師は言っていないものね。二人か三人いてもおかしくはないわ)
しかし、私が外れを引いて、あの甘ちゃんの劉備に当たりが来ているのは納得できない。
いずれ彼も自分のもとへ引き抜く日が来るかも知れない。
だが、その前に・・・
華琳「もう入ってきていいわよ」
兵士1女「ハッ」
外で待機していた兵士の一人。
彼女には、北郷という御使いが着る服を、詳細に書き留めるように指示を出していた。
華琳「それを城にいる荀彧に渡しなさい」
兵士1女「ハッ」
孫策のもとにいる御使いらしき人物の服装も、工作員の調査で判明している。
どうやら、北郷と孫策のところにいる御使いは同じ服を着ていることはわかった。
それを、牢にいるあの男が知ってるとなれば、一応彼も御使いの一人ってことになるわね。
華琳「だけど、いま気になるのは関羽と張飛・・・ふふっ、楽しみだわ」
圭吾SIDE
桂花「はい、ご飯」
圭吾「・・・」
目の前に置かれた皿の上には、テレビならモザイクがかかる代物が───って
圭吾「虫の死骸じゃねぇかぁ!!」
桂花「きゃあ!? ちょっと叫ばないでよ、妊娠するじゃない!!」
圭吾「んな訳あるかぁ!」
桂花「何よ、華林様の慈悲でこうして生きていられているのに、我がままが多い家畜ね!」
圭吾「家畜じゃねぇし、その事については散々謝ったろ! それが何で、三日三晩も残飯以下の物を持ってくんだよ!?」
俺がここに閉じ込められて数ヶ月が経過しているが、まともな食事は取れていない。
目の前にいる荀彧という奴が持ってくるのは、とても食えたものではないからだ。
たまに、心優しい門番からおこぼれをもらって、何とか生きてる感じ。
ちなみに、コイツが持ってくる虫の死骸は全て、憲兵達を職務という理由でかき集めさせたらしい。
桂花「ふんっ! やっぱり、男は最低な人種ね!」
そう言い残して荀彧は去って行ってしまった。
圭吾「ったく、男と何かあったんか、あいつは?」
それも気になるところだが、今はそんな事を気にしている場合ではない。
今は曹操とか、側近の奴らは討伐とやらに出掛けているし、人手不足で近くに番兵もいない。
脱走をするなら今しかない。
圭吾「掴まっている間、静かに座っていると思うなよ」
牢から外を見れる小さい鉄格子があるのだが、古くから使われているため錆が目立つ。
これぐらいの大きさなら、ギリギリ俺でも通れる。
圭吾「あとは手薄になるのを待つだけだったからな」
今は正午ぐらいか。
夜は警邏が厳しくなるから、お昼休みがある(であろう)時間帯の今がチャンスだ。
俺は、強引に鉄格子を思いっきり引っ張ると、錆で弱くなっている部分から鉄格子が外れた。
圭吾「ざまぁみろってんだ」
桂花SIDE
桂花「まったく、どうして一日に何度もアレに会わなきゃならないのよ」
手に持っている紙は、先ほど華林様から遣わされた早馬に手渡されたものだ。
どうやら、華林様の思惑通りだったらしい。
これをアレに見せなくてはならないのだが・・・
桂花「っ!? 居ない!? まさか───」
不自然に壊れた牢の鉄格子。誰がどう見ても、この現状を察することが出来る。
桂花「今まで大人しくしてたのは、城内の警備が薄くなることを狙ってたってことね」
自然と笑みが零れた。
この私から逃げられると思っているあの男が、とても滑稽だったからだ。
桂花(私が負ける条件は、アレの消息を完全に見失う事)
ならば、まずは工作員を城下町に張り巡らせよう。
まだ城内にいるはずだ。
桂花「また豚箱に入れてやるわ・・・くくくっ、覚悟しなさい」