第四話「趙子龍との出会い」
曹操軍と共同前線を張ることになった俺らは、順調に黄巾党の討伐が進んでいった。
そして、主犯格である張角がいるという情報を頼りに、俺達は先に進む。
愛紗「追えぇ! 逃がすなぁ!
春蘭「義勇軍などに遅れを取るなぁ! 全員討ち取れぇ!」
二人の猛将の号令に、怒濤の勢いで突き進む。
その光景に、俺はただただ圧倒されていた。
秋蘭「御遣い、曹操様がお呼びだ」
一刀「ん? ああ、わかった」
夏侯淵は返事を聞くと、曹操軍の天幕へ戻っていく。
戦場で駆ける姉の夏侯惇とは、双子と聞いていたが、全然似てないな。
桃花「ご主人様・・・」
一刀「そんな心配しなくても大丈夫だよ、桃花」
朱里「気をつけてください。私もついて行ければいいのですが、曹操さんはおそらく・・・」
一刀「俺だけを呼んでる。たぶん、天の世界の知識についてだと思う」
確かに、俺はこの三国志時代の知識を持っている。
だが、天の知識=三国志の歴史と結びつける人物はいないだろう。
俺が曹操軍の陣営まで来ると、番兵が案内をしてくれた。
一刀(すげぇな。公孫賛さんのところでも正規兵を見たけど、気迫というか雰囲気が義勇軍とは全然違う)
これが戦を生業にしている人達か・・・と思いながら、その大将の天幕に俺は足を踏み入れた。
華琳「来たわね」
一刀「・・・夏侯淵はいないんだな」
華琳「ええ。あなたとは一体一で話をしたかったから」
俺は近くにあった椅子を持って座ると、足を組み替えて曹操は口を開いた。
華琳「あなたは天の世界から来たってことだけど、それは本当なのかしら?」
一刀「自覚はないけど、こことは違う世界から来たのは間違いない」
あえて、詳しくは伝えない。
頭の切れる曹操なら、俺が未来から来た人間だということに気付くかもしれない。
華琳「じゃあ、こういう服に見覚えあるかしら?」
曹操がそう言うと、外から現れた兵士に一枚の紙を受け取った。
そこには墨で描かれた見覚えのある服が書かれていた。
一刀(ジャージ・・・?)
華琳「その羽織りもの、ある商人から譲り受けたものなのだけれど、胸の方に興味深い金具があるのよ。その服、天の世界のものじゃないかしら?」
一刀「あ、ああ。確かに俺のいた世界にこういう服がある」
俺は興奮を隠しきれないでいた。
たった一人で、三国志に来たと思っていたのだから、元いた世界の代物があることに何とも言えない安心感がある。
一刀「その商人は、これをどこで?」
華琳「さぁ? 私もそこまで聞かなかったわ・・・ただ」
曹操は、不敵な笑みを浮かべて再度足を組み直す。
華琳「その服があなたの所有物でなければ、その服を天の世界から持ちだした人物がいるってことにならない?」
一刀「っ!? じゃあ、俺の他にも───」
華琳「話はこれで終わりよ。あとは自分で考えることね」
一刀「待ってくれ! もう少し話を!」
秋蘭「御使い、時間だ」
いつの間にか背後にいた夏侯淵に引っ張られ、強制的に天幕の外へ。
俺は諦めて夏侯淵の誘導に従い、曹操軍の陣営を出た。
秋蘭「では、私はこれで失礼する」
一刀「・・・」
陣営に帰っていく夏侯淵の背中を眺めながら、俺は先ほどの話を思い返していた。
一刀「俺以外にこの世界に来た人間がいる・・・」
そういえば、前に桃花達から聞いた占い師"管輅"の占い内容には、天の御使いが一人とは言っていない。
一刀「なら、そいつは今どこに?」
ぶつぶつ呟きながら考えている内に、俺はみんなのもとに戻っていた。
どうやら、戦闘が終了し、愛紗達はもうすぐ戻ってくるらしい。
桃花「あっ、ご主人様! 大変なの!」
俺の姿を見つけるやいなや、育った胸囲を気にすることなく、駆け寄ってくる桃花。
正直、この時は目のやり場に困ってしまう。
桃花「さっき斥候さんから、近くの村に黄巾党の人達が向かってる情報が来て」
朱里「おそらく、根城を失った黄巾党の残党が、身を潜める住処として村に向かっているんだと思います」
一刀「なら、止めないと」
脳裏によぎるのは、焼けた家の前で立ち尽くしていた女の子。
あの時は運良く母親は助かったけど、亡くなった命もある。
桃花「私、曹操さんにお願いして、村を助けてもらうよう言ってくる!」
一刀「いや、それはダメだ」
桃花「え? どうして?」
朱里「曹操さんの目的は、黄巾党の討伐です。首謀者の張角を追い詰めている今、その要求を飲む事はないでしょう」
桃花「そんな! だって、罪のない人たちが危険な目に遭うかもしれないんだよ!」
一刀「だから、俺達だけで行く」
ハッと桃花が俺の方に顔を向ける。
さっきまでの慌てた様子から、覚悟を決めた戦士の目に変わっていた。
桃花「うん。じゃあ、私行ってくる!」
一刀「・・・朱里もついて行ってやってくれるか?」
朱里「は、はい! では、失礼いたしまちゅ───」
噛んだ朱里は、赤面を隠すように桃花の後を追っていく。
丁度入れ違いに、愛紗と鈴々が帰ってきた。
鈴々「ただいまぁなのだ!」
愛紗「ご主人様、ただいま戻りました・・・桃花様と朱里は?」
一刀「今、曹操の所に行ってる。あと、急で申し訳ないけど、これから俺達は曹操達と別行動になる」
黄巾党の残党が、近くの村を襲おうとする情報を二人に伝える。
すると、桃花と朱里も戻ってきた。
最後の兵糧も支給してもらえるということで、俺達はすぐに移動することになった。
桃花「義勇軍の皆さん。今から、黄巾党の残党が襲おうとしている村を助けに行きます! 疲れていると思いますが、皆さんの力を貸してください!」
桃花の呼びかけに、先の戦闘で疲れ果ててた義勇軍が、何とか重い腰を上げて準備を始めた。
一刀「やっぱり、みんな相当疲れてるな」
雛里「ここ毎日、戦闘の連続でしたし、曹操軍も一緒で精神的にも堪えてるんだと思います」
愛紗「ご主人様、また我々だけで先行して村人を避難させるのはどうでしょう?」
一刀「村の規模も、村人の人数も分からないんだ。それに、例え避難できたとしても、保護できる安全な場所がない。やっぱり今は、全員で急いで向かうしかない」
だが、敵の規模を正確に把握する必要がある。
愛紗と朱里、そして俺が数十の義勇軍を率いてもらって、先行することになった。
義勇軍を後ろに従え、徒歩で移動する。
朱里「ご主人様。兵糧の件なんですが・・・」
一刀「分かってる。公孫賛のもとへ行くまで、みんなには我慢してもらうしかない。勿論、鈴々にもな」
愛紗「お任せ下さい。私が必ずそうさせます」
一刀「頼むよ、お姉さん」
歩いて30分が過ぎて、目的の村までもう少しって所で、男の獣のような咆哮が聞こえてきた。
愛紗「ご主人様!」
一刀「ああ、急ぐぞ!」
朱里「はわわ!? ま、待ってくださーい!」
聞こえてきた咆哮に、俺たちだけでなく従えている義勇軍からも闘気が出てきた。
彼らも、何らかの形で賊に虐げられた経験のある者達だ。
疲労は溜まっていたとしても、俺達の駆け足に付いて来てくれている。
朱里「み、見えましたっ! はぁ、はぁ・・・」
遠くのほうに見えるのは、黄色い布を頭に巻く群衆。
紛れもなく、黄巾党の残党だ。その数、およそ百。
一刀「くそっ、急ぐぞ!」
愛紗「っ!? ご主人様! 他にも誰かいます!」
百の賊の前に立つ白い衣装を着た女性を、視認したからだ。
彼女は堂々と賊の前に一人で立ちふさがり、赤い槍を構えていた。
一刀「一人じゃ無謀すぎる!」
愛紗「ここは私にお任せください! 先に行きます!」
先行していく愛紗の背中が遠のいていく。
俺も負け時と追いかけようとするが───
朱里「はひぃ・・・ま、待ってくださいぃ~!」
今にも崩れ落ちそうな朱里を置いていくことが出来ず、おんぶって行くことになった。
愛紗SIDE
ご主人様達を置いて、黄巾党に囲まれる女性を救おうと走る。
が、その心配の必要がなくなった。
星「ハァッ!」
たったひと振りで、賊数名が宙を舞う。
その後も、波のように襲い来る賊を圧倒的な力で倒していく。
賊1男「くそっ! 何なんだ、コイツは!?」
賊2男「つ、強すぎるっ・・・!」
賊3男「お、おい! 何か向こうからも何かきたぞ!?」
愛紗「ハァァー!!」
愛刀の青龍偃月刀を構えて、襲いかかろうとする賊を薙ぎ払う。
そのまま賊を掻き分け、見知らぬ女性のところまで走り抜けた。
星「おや? こんな場所に何用で参ったのかな?」
愛紗「見ての通り、こやつらを成敗に。お主こそ、こんな平原に一人は危ないのでは?」
星「ご安心なされ。その辺のゴロツキ如きにやられるほど、か弱くはない」
愛紗「確かにそうだな・・・我が名は関羽。もうすぐ主が来るが、その前に終わらせようと思っている」
星「それほどの武勇を持って、仕えようとする主君か・・・興味がある。我が名は趙雲。背中は任せたぞ、関羽」
恐れて後ずさりする賊を逃すまいと、二人の猛者の目が鋭くなる。
そして、一人の賊が自分だけが助かろうと逃げようとした瞬間に───
愛紗「でりゃぁ!」
星「ハアァァ!」
正義の名のもとの、制裁が下った。