第三話「全て綺麗事だけでは済まされない」
短めです
華琳「・・・それで? 兵糧を分けてほしい、と?」
一刀「あ、ああ。虫がいいのは分かっているが、この通りだ」
頭を下げる相手は、魏の曹操・・・なのだが、想像していた人物像とはだいぶかけ離れていた。
天幕の中央にある椅子に、足を組んで座っているのは、中学生ぐらいの風貌の少女だった。
その両脇に控えている美女は、夏侯惇と夏侯淵と説明を受けたから、少女が曹操なのは違いないだろう。
一刀「勿論、ただって訳じゃない。取引だ」
春蘭「貴様! 華琳様にその言い草は失礼だろっ!」
華琳「春蘭! 控えなさい・・・それで取引の内容は?」
たった一言で家臣を黙らせる圧力は、見た目とギャップがある。
これがこの世界の曹孟徳・・・いずれ桃花が倒さなければならない敵。
一刀「働かず者食うべなからず・・・こちら側は"戦力"を提供する」
春蘭「はぁ!? たかが、平民の寄せ集めが華琳様の"戦力"になるだと!?」
言い方は刺があるものの、夏侯惇が言うのはもっとも。
ここで反発したのは桃花だった。
桃花「そんなことはありません! みんな、世の中を平和にするために集まってくれた仲間です! そんな言い方───」
桃花の言うことももっとも。
だが、俺は夏侯惇に肩を持つことにする。怒る桃花を手で静止させた。
一刀「そちらの言い分通り、戦力としては言えない烏合の衆って言われても反論は出来ない」
桃花「ご主人様っ!? 何を言って───」
朱里「桃花様・・・」
今度は、横に控えていた朱里が袖を引っ張って止めさせる。
朱里は俺が話を進めるため、思ってもいないことを言っているのに気づいているが、桃花には分かっていないようだ。
まぁ、例え嘘でも言って欲しくないことは誰にだってあるからな。
一刀「だが、こっちには最強の猛者が二人いる。俺が知っている曹操さんは、他人の才を見抜く力があるはずだ」
華琳「私を試そうとしてるの? 生意気ね」
春蘭「華琳様、この無礼者を斬る許可を!」
華琳「控えなさいと言ったでしょ」
春蘭「しかしっ!」
華琳「秋蘭」
秋蘭「ハッ。姉者、少し頭を冷やしに行くぞ」
夏侯淵が夏侯惇を天幕から連れ出す。
俺の横を通り過ぎる際、夏侯惇の殺意がチクチクと刺さったが、気丈に振舞った。
華琳「・・・その二人を連れてきなさい。もし、私の目に叶わなかった時───」
その時、曹操は不敵な笑みを浮かべ、
華琳「その後ろの二人の首を落とすわ。それでいい?」
俺ではなく、桃花と朱里。
他人の命を俺の判断で天秤にかけろ、という心理的攻撃。
だが俺は、間髪入れずに───
一刀「ああ、構わない」
華琳「では連れてきなさい。今のうちに、そこの二人と悔恨を残さぬように」
一刀「じゃあ、連れてくる」
俺は二人を従えて天幕を出た。
瞬間、桃花が俺に掴みかかってきた。
桃花「何であんなことを言うの!? みんなを・・・みんなをそんな風に思ってただなんて、私・・・」
朱里「桃花様、それは違います」
桃花「え・・・?」
朱里「話を円滑にするためには、仕方が無かったことなんです。ご主人様がとった言動は、確かに義勇軍の人達の努力を否定するものでしたが、彼らが兵糧を得るためにご主人様は嘘を言ったんです」
桃花「だ、だけど・・・それでも」
一刀「悪い、桃花。言って欲しくなかったって気持ちは分かる。だけど、今は目の前の問題を片付けないといけないんだ。桃花達が望む平和な世界を作るためにも」
桃花「・・・」
一刀「分かってくれ」
桃花「・・・うん。私もちょっと血が上っちゃって、冷静じゃなかった。ゴメンね」
一刀「とりあえず、愛紗と鈴々を曹操のところに連れて行こう。たぶん大丈夫だと思うけど」
桃花「そうだよね! 愛紗ちゃんと鈴々ちゃん強いもん。絶対認められるよね!」
誤解も解け、いつもの桃花に戻ってくれた。
俺はもちろん、朱里も安心したように微笑んで、愛紗達のもとへ戻った。