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縁の旅人  作者: ネギ田。
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逃走

末永く読んでくださっている皆様、長い間更新せず申し訳ありませんでしたm(_ _)m

リアの方がとても忙しく、ようやくこうして更新できる次第です

まだ一年目の新入社員で仕事に慣れなく、毎日が忙しない状態が続いておりますが、そんな中でも頑張って更新していきますのでこれからもよろしくお願いします!!

「こちらA班、前方にターゲット二名を確認。至急応援を要請する!」


『了解。引き続きターゲットの追尾にかかれ』


15m以上先にある話し声はともかく、同じ距離にあるトランシーバーから聞こえる電子音まで幻聴で聞こえた気がした。気までどうかしたのか、昂介は苦笑すら浮かんだ。


「笑ってる場合か!くそ!あいつらいつまで追いかけてくるつもりなんだ?!」


深空の張り上げる声に再び緊張が戻った。街中を必死に走り抜ける昂介と深空の後ろには、黒スーツの男達が決して少ないとは言えない人数で追ってきている。事の発端は数分前―

公園で翔一たちと別れた(置いていった)後、二人は暑さを凌ごうとどこか涼しい場所へ街中をさまよっていた。そしてどこからともなく現れた黒スーツ集団。別れてこの事態になるまで一時間とも余裕はなかった。徐々に距離が縮んでいく、昂介はともかく、女性の深空にはそろそろ体力も限界に近いだろう。しかしそれもショカンまで行けば、知鶴たちに助けてもらうことが出来る。それまで、ただひたすら走り続けるしかなかった。


「くそ!あの角曲がるぞ!」


「わかった!」


二人は建物の路地裏に回り込む。日の差さない建物の裏に回れば少しでも目くらましになるだろうと細い道を走っていく。当然黒スーツも一列に狭そうに追ってくる。時折置いてあるゴミ箱を蹴飛ばし黒スーツの道を阻もうとするが、何の苦もなくするりと避けられる。


「こ…昂介…私、…もう…」


「…!諦めるな!ショカンまで走るぞ!」


足に限界が来ていた深空の手を強引に掴み、再び走り続ける。しかし、その負荷のせいかスピードはグンと落ちてしまう。黒スーツ男の手が深空に届く。

その刹那―


「何をやってるんだ?お前ら」


その透き通った声が路地裏に響くと、黒スーツ集団は機械のようにピタリと足を止めた。

頭上から聞こえるその声の方へと見ると、背後の建物の屋上からこちらを見ていた人影を見つける。日差しで映し出された黒い人影はその場でしゃがみ込んでこちらをじっと見ていた。


「な…No.3…」


「誰の命令で追ってる?時の旅人と行動していない時は狙うなって、聞いてなかった?まぁ俺が言ったんじゃないけどさ」


男は諭すように言うと、黒スーツ集団は怯えるように身を固める。人影はストンと高さ20mはあるであろうビルの屋上から飛び降りると、再び昂介の方を見た。いや、正確にはその視線は、昂介たちの背後にいた黒スーツ集団に向けられていた。

薄暗い光に照らし出された姿は、影に重なって見にくいその体つきは、昂介と同じ背丈だが、どちらかといえば華奢な方だった。黒に統一された一式の服。その体の後ろで揺れる長い髪。顔は完全に闇に隠れてしまっていて、よく見えない。そして腰の左右には、日本刀のような物が二本据えられていた。


「一体誰の差し金か知らないけど、もしお前等が独断で行動しているのなら、許すわけにはいかないなぁ」


「し、しかしNo.3!これはNo.4のご命令でして…!」


一人の黒スーツ男が震えた声で告げると、No.3と呼ばれた男は面倒くさそうに乱暴に頭を掻いた。


「またあいつか。あんのガキ…いつになったらわかんのかねぇ…」


なんなんだよ、と昂介は吐き捨てる。一体何が起きているのかも分からない。黒スーツ集団は身動き一つも取れない。目の前に立ちふさがる男の威圧か、昂介たちもその場から足が動かないでいた。この男は敵なのか?

すると男は視線を変え、昂介の元へと歩み寄る。


「悪いね君たち。今回は危害を加えるつもりはないから安心してくれ」


昂介は決して目は悪い方ではない。しかし、目と鼻の先にある距離でもその顔ははっきりは見えず、目に映らない。全速力で走って疲れが出たのか、昂介は振り絞って声を出す。


「今回はって…アンタは一体…!」


すると、No.3は黒スーツ集団を指差す。


「コイツらの手違いで君たちは追われる羽目になってしまった。ここに丁重に謝罪させてもらうよ」


No.3は深々と頭を下げ、綺麗に伸びた髪を揺らす。男にも女にも通じるその声は、少し意識して話せば聞き分けも難しいほど綺麗な声だった。少なくとも自分より年上…の青年と見えた。


「それじゃいくぞお前ら。君たちも、それじゃ」


そう言って、No.3と黒スーツ集団は去っていった。No.3と呼ばれた男は昴介とすれ違い様、耳元に囁くように呟いた。


「またね。」


「!?」


思わず悪寒を感じた昴介はすぐに振り返ると、既に彼らの姿はなかった。残された二人…深空はその場にへたりと崩れ落ち、昂介は立ったまま呆然としていた。


「何だったんだ…今の」


去っていった先を見つめたまま、喉に詰まっていた言葉がようやく流れる。長髪の男はNo.3と呼ばれていた。以前に聞き覚えのあるその名前に昂介は記憶を引き出す。

ナンバー…その言葉に聞き覚えがあった。もちろん学校やテレビを見て知ったとかいうレベルの話ではない。ナンバーの後につく数字が若いほど地位が上。つまりNo.3と呼ばれた彼は以前現れた赤髪の男より上といことだ。I/Oの奴らは日記のためなら手段を選ばないと思っていたが…。


「中でも良い人っているんだな」


光のない路地裏で、力が抜け崩れ落ちた深空の手を掴みながら昂介は不意にもそう思った。








「いらっしゃいませー。お一人様ですか?奥のカウンター席が空いておりますのでご案内しまーす!」


捺美から教わった営業スマイルを忘れずに、セーラー服の上にエプロンだけという即席制服を身にまとった知鶴は今日も仕事に精を尽くしていた。客の女性は会釈を返し、知鶴の後についていく。


「こちらにどうぞー。ご用があればなんなりとお呼び下さ〜い」


軽率な笑顔を浮かべ、「すいませーん」と呼ぶ他の客の元へと向かう。女性は知鶴に差し出されたお冷やをカランと揺らし、中を眺めていた。


「なかなか洒落た店だ。店員も綺麗だし、さぞ儲けているんだろうな」


「あらあら、何もこの店は見た目だけで売ってないわよ?」


一人言を聞かれているとは思わず、女性はグラスに向けていた視線を上げる。長い髪を後ろに一つに束ね、使い終わった食器を洗いながら声をかけていたのはこの店の店長代理。捺美は手を止め新たに棚からカップ取り出し、コーヒーメーカーでコーヒーを注いでいく。女性の位置から見えないカウンターの奥から何やら粉末を取り出し、中にサラサラと落としていく。


「あなた名前は?あ、このコーヒーは試飲ってことでいいから」


「…。エドだ。このコーヒーはありがたく頂戴する」


そう告げ、目の前に置かれたカップを静かに見つめる。コーヒー自体はブラックと見える。仄かな甘い匂いが香る。漆黒の中に自分の顔が映り、しばし眺めていた。


「外人さん?まぁそんな髪の色の日本人なんて見たことないけど…」


エドは小さな鼻で匂いを嗅ぎながらコーヒー一口含む。


「生まれはどこなの?結構淡々と日本語話すけど、こっちの生活は長いの?」


「随分話好きなマスターだな」


「いいじゃない減るもんでもないでしょ?トークするのも仕事の内よ」


捺美はそう言って得意げに微笑むと、釣られたようにエドも笑みをこぼす。


「アルトクラムという国から来た。日本には2年目になるな」


聞き覚えのない国に、捺美は首を傾げる。


「アルトクラム…聞いたこと無いわね」


「ヨーロッパの中で、一番文明の進んでいない国だ。電気はおろか、窓もまだない。と…あの粉末は、シナモンか」


「お、正解。このシナモンは本場インドから取り寄せたんだよ。本来ブラックは何も入れないのが当たり前だけど、このシナモンは味付けに合うのよ」


なるほど、とエドは頷く。熱いうちにもう一口と口に含む。捺美は洗いの手を止めていたのを再び動かす。


「それにしても綺麗よねエドって、あなたの国って美人が多いのかしら?」


「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」


初対面の人間に褒められるとは思ってもみなかったので、エドは思わず苦笑していた。しかし、捺美はどこか納得のいかない顔でため息をついた。


「それ本気で言ってる?他の人たちがさっきからあなたの事見てるの、気付いてない?」


視線を後ろへと促すと、店内にいた大半の客がエドの方を見つめていた。「キッレー!芸能人かな?」「写メっとこ!」「サインとか貰えないかなー」などなどエドを見た感想はほぼ全員が口を揃えていた。


「…?なんだ?みんなこちらを見ているが」


「だから、みんなエドの事見てるのよ。あなたが綺麗だから。あ、なんか自分で言ってて悲しくなってきた…」


どうしたらそんなに綺麗になれるのかねー、と捺美まで知らずにこぼしていた。モデルと間違えられても申し分ないスタイル。腰まで綺麗に伸びた真紅に染まった髪。背も普通の男性よりも少し高めで、体のラインが分かりにくいジャージに似た黒い一式の服装をしているのでしっかりとは分からないが、女性なら誰もが憧れる体格だろう。

そして一つ、エドが何気なく立ち上がり気づいた事に、捺美の顔が青ざめていく。


「あの〜…さ…、その腰に付いてる二本の…傘、なわけないよね…」


苦笑するほかなかった。自分だってどう見ても傘には見えないのはわかっていた。捺美の視線の先に気付くと、その“傘を抜いて”みせた。


「……」


絶句。エドを見ていた他の人間も言葉を失いただ唖然とする。そんな空気になっていることも気付かずエドは語り出す。


「剣術は心得ている。不用意に抜いたりしないから安心し」


「今まさに不用意に抜いてるから!お願いだからその刀早く仕舞って!」


振り回してこそいなかったが、鞘から放たれた日本刀は、店内の証明に反射して必要以上に輝いていた。磨き抜かれた刃、スラリと反り伸びた刀身は、決して素人では扱えないだろう。エドは言われた通りに日本刀を収める。


「エド……。アンタの国では良かったのかもしれないけど…日本は刀はおろか武器を持つことは犯罪なのよ?」


若干の誤報も織り交ぜながら説明すると、ようやくエドは理解して「すまない」と頭を下げる。


「まだこの国の規則には疎いもので…申し訳ない。これはボスの護衛のために仕方なく…」


「ボスの護衛?あなた一体なんのお仕事をしているの?警備員…とかあ、それを言うならSPかな?」


捺美が問いかけると、エドは再びカウンター席に腰を下ろした。


「それも一つの内だが、探し物をしているんだ。何処にあるかも検討のつかない、いつになれば終わるかもわからない探し物さ。護衛はあくまで補助任務(サブミッション)てわけだ」


まだ熱のこもったコーヒーをすすり、常に冷静を保っていた。


「あんま現実味ない仕事してるのね。あ、何か頼む?今ならサンドイッチがオススメだけど。あ、言っておくけどこれは別料金だから」


「なかなか休みが取れなくてね。今ここにいるのも密かに休養を戴いてるからなのさ。じゃあそれ貰おうかな」


さりげなく注文を受け早速捺美は作業に入る。エドは何気なく再び店内を見回すと、まだ何人かが携帯やら視線を向けては何やら噂をしている。この国の人間は不思議なものだ、と口には出さず呟く。

ややあって、中の胸ポケットが突然震えだした。そこから携帯を取り出し通話を開始する。


「もしもし、こちらNo.3」


『あ、ようやく繋がったー!もう!一体何処で何をしてるの!?』


電子機器を通して聞こえてくるのは聞き覚えのある少女の声。こちらが名乗ったのに対してそれに応じないのは、彼女の性格からだろうか。


「長い間休みがなかったものでね、少しばかり休息を―」


『サボってるの?てか、その声今“女性”なの?』


「今女性なの?」その会話に違和感はなかった。エドは今“女性”。その言葉に何も不思議な事はない。


「こっちでも色々あってね。ここのマスターに一杯奢ってもらっていたところなのさ」


『エドの事好きだけど、今のエドは嫌いだって。キザっぽい喋り方になるし。てか話逸らさないでよ』


電話越しから拗ねているのが痛いほど伝わる。特に彼女に好かれる必要はないのだが、同じ仕事をする同僚とあっては仲を崩すわけにはいかない。



「それと、エドの言われた通りちゃんと“保護”したから。彼」


「ご苦労様。それで、君は今何処にいるんだい?No.5」


苦笑をこぼしながら彼女の偽名(コードネーム)を呼ぶ。それでも納得のいかないこえで彼女は答える。


『今駅ビルにいるの。中瀬駅の駅ビル、わかる?』


なんだかバカにされている気がして、見えない相手に引きつった笑顔を浮かべる。


「それぐらい私でも分かる。今から向かった方が良いのか?」


途端に声の質が変わる。


『当たり前じゃない!元々同行してたのにエドが離れるからー!』


「それも色々あってね。まぁ、今から向かうとするよ」


通話を切り、その場に立ち上がる。


「マスター。私は急用が出来たから行かないといけない。悪いが注文したサンドイッチをテイクアウトしてもらえないかな?」


「あら仕事の用事?待ってて、すぐ用意するから」


捺美は嫌な顔一つせず、出来上がったサンドイッチをテイクアウト用のパックに詰めていく。レタスサンドにたまごサンド、色とりどりのサンドイッチがパックに詰められていくのを眺めながら、今ここで食べられないのを少し後悔する。


―早いとこ面倒事を済ませて、このサンドイッチを美味しい紅茶と一緒に頂きたいものだ。

もはや先ほどの電話の事など頭に入っていない。その感性があっても仕方のない事だった。エドは今“女性”なのだから。


「はいどうぞ。持って動いても崩れないようにいっぱいに詰めておいたから。でもなるべく早く食べて頂戴ね。質が落ちるから本当はテイクアウトはしてないのよ?」


「心得た。ではありがたく頂くとしよう。お釣りはいらないのでこれでお願いしたい」


「なーに何格好ちゃって…ってこれ、大きすぎだって!お釣りお釣り!」


エドは静かに万札一枚を置いてさっさと店を後にした。お釣りはいらないとは言われたがこれはいくらなんでも大きすぎる、しかしレジからお釣りを取り出す暇もなく、エドの姿はなかった。


「ナンバー…5?」


エドの通話を偶然近くで耳にしていたのは、空いたテーブルに広げられた食器を片づけていた明名だった。


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