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縁の旅人  作者: ネギ田。
28/32

再会?

――――カラン。


「いらっしゃいませー……あ、昂介くんと知鶴ちゃん」


「どうも」


「こんにちはー捺美さん!」


ショカンに入ると、日が暮れてきたせいか、店内に人はまばらだった。「空いてるとこ座ってー」とサービス感ゼロのマスターに促され、空いていた奥のいつものカウンター席に腰掛けた。


「いらっしゃいませ。今日は何にいたします?」


「ああ、えっと……て、あれ?明名さん今日シフトだったですか?」


カウンターに三人分のお冷やを置いてくれた店員は、何故か見慣れない和服コスチュームに身を包んでいた明名。依然見た時は、いつものセーラー服の上にエプロンという簡単な服装だったが、しかし依然自分がバイトをしていた頃に女性用にあんな制服はなかったと昂介は思い出す。


「ええ、おかげで仕事も大方覚えれたし…ところで今日は何にするのかしら?今日はハーブティの付いたランチがおすすめ……」


ふと、明名の口が途端に止まった。

いや、もっと言えば、かがんていた体と向いていた視線もそのまま膠着していた。何かとその視線の先を辿ると、何故か涼輔に向けられていた。

そして、その視線に気づいた涼輔が振り向いた。


「お、明名じゃないか。こんなところで会うなんて奇遇だなぁ。一体何をして、」


ドゴッ。


誰も気づく事の出来ない速さで殴ったような鈍い音の後、涼輔はのめり込むようにゆっくりとカウンターから崩れた。それに気付くのにたっぷり3秒。


「か、神木さんっ!?」


「あ、明名!?なんてことを…!?」


「はぁ……はぁ……はぁ……な、なんで……」


「や、やぁ…相変わらず力は衰えていない…」


涼輔の声を聞き、ますます頬を赤らめていく明名。そして、


「いやぁぁぁぁぁ!!」


キレのある右ストレートが涼輔の頬を貫き(補正あり)、ついにトドメをさした。この騒ぎを見てないハズがない他の客の場を落ち着かせるのに、長い時間を有した。


「こんにちは捺美さんー…って」


「な、なんか…あったみたいだね…」


後から来た深空と翔一は事態を把握出来ないまま、二人は立ちすくんでいた。







「申し訳ありませんマスター!私事のとはいえ、お店やお客様にご迷惑をかけてしまって……」


「い……いいよいいよ。もう済んだことだし、それじゃ店の方に戻るね」


「そ、それなら私も!」


涼輔を見据える明名は罪悪感を感じているのか、踏み出した足取りは妙によそよそしかった。


「いいよ明名ちゃんは。それにあなたは、彼には謝っておいた方がいいんじゃない?」


ひとまず伸びてしまった涼輔をスタッフルーム(という名の純和室)に運んで寝かせた。店の方もいたスタッフや捺美がその場を抑えたため、大事にならずに済んだ。


「は…はい。申し訳ありません…」


「そっちのほとぼりが冷めたら、また店の方手伝ってね」


「はい。ありがとうございます!」


そう言って、深々と頭を下げる明名に優しい言葉をかけて捺美はスタッフルームを出ていった。明名のパンチが相当の威力だったのか、あれから30分経った今でも涼輔は目を覚める様子はない。

一度病院へ連れて行った方がいいのかと昂介たち焦ったが、知鶴はいつもの事だと冷静に言った。


「でも…何故涼…、神木くんがここに?」


口ごもって呟いた明名に、追い込みをかけるように知鶴は言う。


「なーに今更他人行儀になっちゃってんのよ。普通に涼輔って呼べばいいじゃない。ホンッと明名ったら奥手なんだから」


「なっっっ!?」


核心を突かれたように、明名は真っ赤になってギョッとした。


「ですよねー。飛んだ時も明名ったら、マトモに神木さんの顔見れてませんでしたよ」


深空もニヤリと笑い、いじるように言葉を繋げる。


「みっ、深空まで!?」


まるで明名を虐げるように右からも左からも笑いかける。決してふざけているわけではなく、きっと応援しているのだと昂介は思った。


「でも、よかったじゃない明名」


「え?」


「涼輔に、会えて…さ」


真剣な表情で知鶴は言った。


「……ええ」


明名も、何かしら吹っ切れたような顔していた。


「捺美さん、私代わりに入りますよー」


制服の上にエプロンを被るだけにした知鶴がシフトに入った。


「あ、ありがとう!それじゃこれ持ってって―」


「はーい」


あれから少しして、涼輔は目を覚ました。ケガも(目立たなかったが多分重傷)なかったので一同も安心し、知鶴が明名と二人きりで話をさせようと他のみんなもスタッフルームを出た。今頃楽しく会話を交わしてるだろうか、いや…先ほどの行動を見て、明名は黙り込んでいるに違いない。


「やっぱり女の子なんだなぁ」


「それ、誰のこと言ってんの?」


昂介が誰にも聞こえないように呟いた独り言を、隣に座っていた深空が聞いていた。深空も以前涼輔のいた日付に飛んで話したことがあるらしいが、今いる涼輔は深空の事を知らない。昂介が深空たちより以前に飛んだ時の涼輔を連れてきたので、深空の事は知らないのだ。つまり彼女が会ったことのある涼輔は今ここにいる涼輔とは別人となる。


「明名さんだよ。やっぱりあの時代の人たちって、わかりやすいっていうかさ」

明名は容姿端麗、プライドが高く貴族生まれの彼女は、恋も家の赦しが無ければきっとする事も出来なかっただろう。軍事教育、戦争…彼女たちは今の若者には想像出来ない過酷な日々を送ってきた。そんな人たちが今現代に若い日のまま存在している。非日常を望んでいた昂介だが、色々あった後の今でもこれから何が起こるかと不安になる。


「ま、色々あるんじゃない?女の人ってのはそんなもんさ」


「他人事みたいに言うなよ…。…あれ?そういえば翔一は?」


気が付けば、翔一の姿が見あたらなかった。さっきスタッフルームから一緒に出てきたような気がしたのだが。


「きゃあ!」


その悲鳴は店の奥から聞こえた。聞き覚えのあるその悲鳴はどうやらスタッフルームからのようだ。

それに加え、まるで静電気に触れたような音が聞こえたのは間違いなかった。嫌な予感が頭から消えなくなっていた。

その悲鳴に驚いた昂介と深空は慌てて奥のスタッフルームへ駆け込んだ。


「どうしたんですか明名…さん?」


どうかした…状況には思えなかった。和室に座り込んでいた明名さんがいて、それ以外は特に変化が見当たらない。一体どうしたのか…。いや、むしろそれがおかしかった。


「あの…神木さん…は?一緒にいたんじゃなかったんですか?」


時間的に目が覚めた涼輔と会話をしているはずの明名は、ポカンと口を開けたままだった。涼輔の姿はない。よく見ると、脱ぎ揃えられていた靴は三組あった。丁寧に揃えられた大きさの違う茶色の革靴が二足と、見覚えのあるスニーカーが一足。それは確か翔一のスニーカーだったはず。


「あの…翔一、ここに来ましたか?」


明名はコクンと頷き、小さな口をそっと開いた。


「丁度話が終わった頃に翔一くんが顔をお出しになって、涼輔が挨拶と翔一くんに握手をしようとして……」


そこで言葉は途切れた。しかし、昂介にはそれだけで何があったか想定できた。つまり、握手をした涼輔と翔一が手を触れ合った。その際に起こったのは一瞬の静電気のようなもの。そしてそれが起こったのが最後だった。飛んだのだ。彼らは通じ合って、

あれ?と昂介は首を捻る。


「でもっ!神木さんはもう俺と通じた。一度通じた時の旅人は他の人とは通じないはずじゃあ…」


「そうだったはず。少なくとも私たちの知る範囲では。でも、涼輔が時の旅人だということは今まで知らなかったから、…しかも複数人と通じる事が出来るなんて…」


「とにかく!あの二人を追いかけた方がいいんじゃないのか?明名、二人を追いかけよう」


昂介の背後にいた深空がぐいと前に出て明名の手を掴む。


「そうね。彼らだけでは不安だし…昂介、すぐに知鶴を呼んで私たちの後を追ってきなさい。分かりましたね」


有無を言わさず、二人はその場を駆け過去へ飛んだ。そして残された昂介は、


「何かあったの!?なんか悲鳴が聞こえたんだけど……」


先ほどの明名の悲鳴を聞きつけた知鶴が、制服のままスタッフルームに駆け込んできた。部屋をさっと眺め彼女も異変に気づく。


「あれ?明名と涼輔は…?さっきまでいた…よね…?」


そこにいるべき人がそこにいない事態を、知鶴は素早く理解したようだ。昂介は落ち着いて事態を説明すると、知鶴も明名と同じく、そんなこと有り得ないとこぼした。


「でもそんな事言ってる場合じゃないよね。行こ、コウちゃん!明名だけじゃ不安だよ」


「そうですね。それじゃ早く着替えて…」


しかし、次には彼女の華奢な手が昂介の掌をスルリと掴んだ。


「そんな悠長な事言ってられないよ!ほら、れっつごー!」


「え…ええっ!?」


またもや彼女に主導権を握られ、後を追うことになった。


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