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縁の旅人  作者: ネギ田。
25/32

確認、そして再会

「う゛〜ん…」


このまるで墓の中から這い出てきそうなうめき声を上げているのは、もちろん僕ではない。


「誰がお化けよっ!」


そんなこと言ってないです…。

昨日、ショカンで知依奈達と別れた後、知鶴さんがアパートへ行っていい?と唐突に訊いてきたのだが、それはマズいと反対したはずなのに、強引に僕の部屋で寝泊まりしていた。

まぁ、実家でも親の目があったとはいえ、自分の部屋で寝てたしな。

そして今日、昨日と同じ調子で起きていた。このうめき声で起こされたのは言うまでもない。


「思い出せない…気になるなーもうっ!」


癇癪を起こしている理由は、僕の左腕に付けているブレスレットのことだ。帰ってきてからもずっとブレスレットを凝視していて、付けている側としては居心地が良いわけがない。

大雑把そうなのに、こういうのには繊細なのだろうか。


「誰が無頓着よ」


今度は口に出ていた上に誇張されているのは気にしないでおこう。


8時14分。今日は講義があるので、いつまでも家にはおれない。

朝食を用意して食べている僕だが、知鶴さんは食べる気配がない。


「知鶴さん、とりあえず飯食べてからにしましょうよ。それからならいくらでも思い出せばいいし」


「ダメッ!気になって食べれない!」


だだっ子かとツッコミしそうになった僕は埒があかないと思い、知鶴さんに手を出してと言った。解らず差し出された腕に、僕は付けていたブレスレットを巻いた。


「え…」


「思い出すまで付けといていいんで、とりあえず飯食べましょう?」


放心状態だった知鶴さんだが、すぐさま喜んでくれて、朝食にありついた。

しかし、その喜びもつかの間だった。


「よーし、なんか思い出しそうだから、このまま飛んじゃおー!」


「ぶっ!」


思わず口に含んでいた牛乳を吹き出してしまった。デジャヴか?前にもこんな事があったような気がする。


「さぁさぁ早く!過去へひとっ飛び〜」


ぐいぐいと手を引かれ無理矢理その場に立たされた。


「いやいや!今日俺これから講義があるんでっ、飛ぶのはそのあとでも…」


「そんなの待ってられないって!行くよー!」


有無を言わず強引に手を奪われ、アパートの狭い一室の中で僕たちは飛んだ。







「で、ここは何処ですか?」


パッと見て、色んな店が縦に並んでいる場所についた。商店街…とまでは言わないが、小さな店が所狭しと並んでいる。


「ここはね、北中瀬っていうの。今の中瀬通りがある所だよ」


ようやく理解した。北中瀬はどこかで耳にしたことがある。いつか現在の平成に年号変わるとき、地域の変化などで北という位置表示を消して、中瀬という町にしたらしい。ここはその当時の時間に来たのか。


「今日はここに用があるんですか?」


「そう思ったんだけど、よく考えればあくせさりーのお店なんて、この時にはまだ無かったんだ」


辺りを見回しても、とてもあの時見たアクセサリーショップは見当たらなかった。まだ新しい外装から、つい最近建てられたものだと思い出した。


「どうします?」


「とりあえず思い当たる所から探そう。まずは…学校だ!」





日はとうに暮れていた。学校には職員室だけ光が灯されていた。知鶴さん曰わく、この時間に見つかるとタダじゃ済まないらしいので、懐中電灯を持参して調査を始めた。

先ずは教室。


「どこだー?あくさそりー…」


「アクセサリーですよ…。でも、当てもないと…」


「私が現代へ来たときには付けてなかったから、多分この時代の何処かに置いて来たんだとと思う。…いつ何処に置いてきたのかハッキリすればいいんだけど…」


知鶴さんは難しい顔をしながら捜索に励んだ。

でも、一向に見つかる気配はない。


「う〜ん・・・、図書室へ行ってみようか」


そして知鶴さんの提案で次は図書室に着いた。相変わらず僕から見たら古めかしいようなものばかりだが、この中で以前気になる文献を見つけたのを思い出した。


「これだ…」


悪を貫き砕くという意味合いを込められた『ゴルバドの矢』という神話。

その昔、ある街にとても仲の良い男二人がいた。名はカルマとアルテといった。どちらも互いの意志を尊重しあっていて、いつまでも親友だと評判だったらしい。

しかし、カルマの親友…アルテは突然金に困りだし、親友に迷惑はかけれないと不本意ながらも悪人から金を借りる。

それから数日経ったある日から、アルテは人を襲うようになってしまった。お金を借りたのが運の尽きで、膨らんでいった借金を返すアテもなく、人から金を巻き上げるしかなった。

それを知ったカルマは、慌ててアルテの前に…。


「あれ?」


それからは、ページが無くなっていた。破られた後がある。以前はこの先があったハズなのに…


「コウちゃん、あった?」


背後から知鶴さんの声がした。破かれたのが僕だって勘違いされても困ると思い、すぐさま本棚に戻す。


「い、いえ…まだ」


「うーん…一体どこで落としたんだろ…」


すると、不意に強烈な光が背後から襲った。


「こらー!こんなところで何やっとるかー!」


「!?」


突然の大声に足元がすくんでしまった。同じく、知鶴さんも強張った表情をしていた。


「この時間帯が一番危ないと言っとるだろうが!」


「…あれ?」


この声どこかでと呟いた知鶴さんは、懐中電灯の光を声の方に当てた。


「うわっ眩しっ!」


「!?…りょ…涼輔!?」


以前、僕を助けてくれた銀髪の青年が、突然の光におどけていた。


「あはは…久しぶりだな知鶴…。それと…都築か?」








「さぁ、ブラックは飲めるかい?」


「あ、はい、頂きます」


わけも分からず喫茶店に着いた時には辺りはすっかり暗くなっていた。表には湘館と名前があった。何か引っかかる名前だと思ったが、その思考はすぐ途切れた。


「でもびっくりした〜。涼輔、コウちゃんの事知ってたの?」


「え?都築のこと?そりゃあだって…なぁ?」


わざわざもったいぶるようにして僕に振ってきた。


「……」


そういえば、知鶴さんにはまだ言ってなかったんだ…。

あの日、資料探しに図書室に行った時、ヘマをして本に埋もれてしまったところを、偶然神木さんが通りかかったのを助けてもらったのだ。まして自分の正体をバラさず、挙げ句の果てには同じクラスメートなど後には引けない状態になってしまった。


「うん。今彼と飛んできて…」


「あーこのコーヒーは美味しいですねぇ!!コクがあって飲みやすいですし!最高ですよ!」


ヤケクソ気味にブラックを大絶賛した。

知鶴さんは驚いて目を丸くしていたが、後には戻れないから仕方がない。


「あ…ああ。実は最近いい豆が入ってね。味見してほしかったんだ」


神木さんは状況が解らずも、僕の話に乗ってくれた。恩に着ります神木さん!僕は心の中で神木さんを拝んだ。


「そうなんですか。ブラックって全部味は苦いだけかなって思ってたんですが…」


「まぁ、一般的にはそうかもね。でも、苦味を抑えたものとか、飲みやすいものとかは作り方次第だよ」


ふむふむと僕は頷いた。今度ショカンに行った時伝えておこう。


「…ちょっといい?コウちゃん」


「え?」


むんずと引かれた腕を神木さんと離れた所まで連れてかれる。


「ど、どうしたんですか?」


「あのさ、もしかして…涼輔にあなたの正体…」


「すみません」


口にされる前に僕は頭を下げた。僕は神木さんとは級友として話してしまったなど全て事情を話した。知鶴さんは大きなため息を吐いた後、神木さんの方へ振り向いた。


「まぁ、そのうちバレるんだし…先に話しとこうか?」


「そうですね…」


僕たちはカウンターに向かい、苦笑いを浮かべながら事情を話した。





「へぇ〜…そんな事情があったんだ…」


カウンターに頬杖をつきながら事情を聞いた神木さんは驚くことも、また胡散臭い目で見ることなく、むしろ興味があるような表情をしていた。


「まぁ、信じるのは難しいと思うけど…とりあえず事情だけでも」



「ひとまず、昂介は未来から来た大学生で、知鶴はその未来に行ってきたわけだ」


うんと年上でまだ会うのは二回目なのに名前で呼ばれてしまうと、急に親近感が湧いた気がした。


「まぁ…そんな感じかな…」


「でもさ、なんでそんなこと俺に教えたんだい?こんなこと言うのは言い方悪いかもしれないけど、多分…というか俺には関係のない話じゃないか?それに、実際その話は少々信じがたいしな」


神木さんは淡々と言った。まさにその通りだ。確かに考えてみれば、異常が起こっているのは知鶴さんと明名さんだけで、その知り合いだからと言って同じような事が起きているはずがない。


確信は無いが、少ない可能性が脳裏をよぎった。


「涼輔さ…あの時みんなで買った日記帳、まだ持ってる?」


それを聞いた神木さんは、キョトンとした表情だった。


「・・・ああ。半月くらい前にみんなでヨネばぁのとこで買った日記帳だろ?毎日ではないが、度々書いていたよ」


「そっか」


知鶴さんのその笑顔は、何か取り繕ったようなぎこちないものだった。


「よかったらその日記、見せてもらえないかな?」


「ん?日記帳をか?」


知鶴さんが頷くと、神木さんは嫌な顔一つせずに分かったと言い残しカウンターの奥へ入っていった。


「どうするんですか?」


「ちょっと…ね。確認したいことがあるんだ」


そう言って、知鶴さんはカップに注がれていたコーヒーを見つめていた。


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