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縁の旅人  作者: ネギ田。
23/32

海水浴

皆様お久しぶりです!執筆断念しそうになった彩BOCです。なんとか断念を振り切り、最新話を書くことが出来ました。これからも頑張りますので、よろしくお願いします。

「夏だねー!」


早朝、実家の二階にある僕の部屋から元気の良い声が響いていた。

それも窓から外に向かって


「暑いーっ!」


この叫び声で寝ていた体を起こした。


「何やってるんですか?」


呆れた声で問いかけてみるが、聞こえてないのか知鶴さんは一向にこちらを向こうとはしない。それどころか今度は


「朝だよー!」


と繰り返し叫んでいた。

天然なのは結構だが、少しは近所迷惑も考えてほしいものだ。特に僕への配慮を…。


「知鶴さ〜ん…」


ダメ元でもう一度声をかけると、ようやく気づいたのかこちらを向くと、「よっ!」と言いながら手を振っていた。


「朝から元気ですね…」


先日、日記を探すため横浜に出かけたものの、二手に別れた時僕たちは、まったくの収穫の無い上に例の赤髪の男に出くわし間一髪逃げ切ったが、またいつ襲ってくるか解ったものじゃない。

それなりの対応が出来れば、話は別だけど。

翔一もはぐれて迷子になり、帰る頃になってようやく会えたし


「いやーほら、もう夏じゃん?なんだかわくわくしてきてねー」


猫のように目を細めニンマリと笑うと、再び外を見て鼻歌を歌っていた。


こんなことを思うのはどうかと思うが、一体この人はいつ亡くなったのだろう?夏になるとこんなにはしゃぐのだから、夏ぐらいなのかと、勝手な結論を出していた。かと言って、容易に「知鶴さんはいつ亡くなったんですか?」なんて聞けるはずもない。


ここから横浜は遠いわけでもない。電車で行っても一時間はかからない程度の距離だ。何かの用事で横浜に行ってしまったのも有り得ない話ではない。


「そんなに夏が好きですか?」


そんなことなら聞けた。しかし、僕ははしゃぐ程夏は好きではない。かと言って嫌いでもないが、色々トラウマ等があるわけで…。


「大好きに決まってるじゃん!あ、そーだ、海行こーよっ海!」


好きかと訊いた時点で墓穴を掘ったと感じていたが、予感的中。

朝からに聞くんじゃなかったな。

でも、大学は昨日から夏休みに入っている。何日か講義に出なければならないのはシャクだが、今のところは無いはずだ。横浜も、夏休みに入ってからにすればよかったかな。


「でも、知鶴さん水着とか持って無いじゃないですか」


決して知鶴さんの水着姿を拝みたいわけではないが、この人の性格上、制服のまま海に入ってしまい、びしょ濡れで帰るなどなるのは間違いない。


「それなら買いに行こーよ!あ、どうせなら明名達も誘ってぇ…」


一人で続々と今後の予定を立てていっている。もういいや、好きにしてくれ…。


「さーて、行くよコウちゃん!」


「はいはい…」


でも、知鶴さんがこの調子なら当分考え事しなくて済みそうだな。













僕たちの住む中瀬から隣駅の篠津で降り、少し行った所にある大型デパートへ出かけ着くと、知鶴さんと知依奈は飛びつくように水着を探しに行った。面倒は明名さんと深空が見てくれるそうなので、翔一と僕はその辺を回っていた。

それで何故知依奈が一緒かというと、今日は明名さんがショカンのシフトに入っていて、深空が一緒に行っていたので、一人だけ外すのはどうかと、決断する前に付いて来た。

迷惑をかけてなければいいんだけど…。


「長いなー」


「女性は慎重だから、時間かかるんだよ」

翔一は苦笑しながら言った。何故か翔一は女性心理に詳しい。


「じゃあ、お前もそうなのか?」


「な、なんで僕もなのさ〜…」


顔を赤くしながら否定していた。実際、翔一の顔は小顔だし、何より童顔なので女の子に間違えられることも少なくない。僕も初めて会った時は脈ありかと思ったが、後から知って深く肩を落とした。

とりあえず、翔一に対して“女の子”は禁句らしい。まぁ可哀想だから言わないだけだが。


「でも、なんだかいきなり賑やかになったね」


自動販売機で缶コーヒーを二つ買い、一つ翔一に投げ渡した。背もたれのあるベンチに座りフタを開けた。


「だな。うちでも知鶴さんが騒がしくてしょうがない」


今朝の事を思い出しため息を吐いた。黙っていればあれで綺麗な人なのに…。


「あははっ、昂介も大変そうだよね」


翔一は一口飲みだす。


「でも、またいつアイツらが襲ってくるか解らないね…」


横浜での出来事はつい三日前のことだ。

あの時は知鶴さんのとっさの機転でマンホールを使って逃げたが、地上に出た後も何度も追いかけられた。しかし、横浜から出るとそれきり追ってくることはなかった。一体何が目的なのか、本当に日記だけなのか…。

どちらにせよ、これから海へ行くのに、十分に気を付ける必要があるな。











「海だー!!」


それから四つ隣の桜峰の海に着いた。今日の昼間は特別日差しが強かった。そういえば、今年最初の猛暑になるでしょうと、気象予報士が言っていたのを思い出した。既にこの暑さでグロッキーになりそうなのに、知鶴さんと知依奈は馬鹿みたいにはしゃいでいた。

知依奈は水色のタンキニ、こちらはまだ幼いから良いとして、目のやり場に困るのが知鶴さんだ。でも水着で見る知鶴さんのスタイルには、改めて感動した。白のビキニがとても似合っている。


「昂介…鼻の下伸びてるよ…」


横で見ていた翔一が、呆れ顔で僕をたしなめた。僕ら二人は、少し休憩でパラソルの下で休んでいた。と言っても、まだ海に入ってもないが…。


「仕方ないだろ、男の本能に逆らう術はないからな」


自分でも言っていて、危ない事を言ってると理解した。


深空とも付き合いは長いが、水着姿は初めて見た。というか、今まで男混じりな女の子と見てきたが、水着を着ると一層女の子らしさが感じられた。


「いつの時代も、男とは変わらないものね…」


冷たい視線が、背後からつらく突き刺さった。振り向くと、哀れんだ表情で僕を見ていた。確か明名さんも水着を買っていたと思うが、上着にシャツを着ていて、水着が隠れていた。わざわざ水着まで買ったのに、海に入らないつもりだろうか。


「明名さん、海、入らないんですか?」


それとなく聞いてみると、


「日差しが強いから、肌が焼けてしまうから遠慮しておくわ」


と見事にそっけない返事が帰ってきた。せっかく買ったのにもったいないですねと粘ったりしたが、一向に海に入ろうとはしなかった。

下が水着なので、あのシャツの下も水着を着ているはずだろうけど、いくら目を凝らしても見えそうにない。


「諦めなさい。私の水着を見ようなど、100年早くてよ」


「こ、昂介…」


「あ、いや…別に俺は…」


不意に、頬に冷たい感触がした。水?


「さっきから呼んでるのにー!早くおいでよー」


水しぶきの原因は知依奈達だった。海からすくい上げた海水がしょっぱい。


「先輩も、早く入りましょうよー」


ぐいぐいと知依奈の細い腕が僕の腕を引っ張る。


「い、いや…俺はここで休憩して…」


「さっきからしてるじゃん。ほら、行くよー」


知鶴さんが僕の腕を引くと、知依奈は翔一の元へ寄った。


「坂本先輩も、ほら早く〜」


「ち、知依奈ちゃんっ!?」


ぐいぐいと知依奈が翔一の腕を引っ張ると、翔一の顔がたちまち真っ赤になっていった。


「おい翔一、顔大丈夫かよ?」


「ぼぼぼぼ僕はだだだだだだ大丈夫!」


明らかにしどろもどろしている。見ているこちらとしては楽しい。

翔一が知依奈の事が好きだ。それは僕らは暗黙の了解だが、知依奈だけそのことを知らない。てか、あそこまで意識されてるんだから、いくらなんでも気付くと思うが、よく解らない。


「明名も、せっかく水着を買ったのに勿体ないぞ」


「わ、私は別に…」


深空は無理やり明名さんの手を引き、海へ連れて行こうとした…その時―


「キャッ!?」


ザッパーン!


何かにつまづいたのか、明名さんは思い切り顔から海へダイブした。まるで漫画で見るような、ドジっ子が石につまづいて大袈裟に転ぶように、海が大きな波しぶきを上げていた。


「ぷっ…あははははーっ!明名のドジっこー!」


知鶴さんが腹を抱えて大笑いしていた。確かにすごい転び方だったな。ムービーでも撮っておくべきだったかな。

少しして、海の中から何かが這い上がってきた。その形相は貞子…もとい、まるで海坊主のような登場の仕方だった。


「笑ったわね〜…知鶴ぅ〜…」


恐ろしい鬼のような目つきで、知鶴さんを睨みつけていた。


「わ、笑ってないって、…ぷ…あははははーっ!」


「笑うなー!!!」


「あれ?」


ふと、明名さんから何やら赤いものが目に入った。僕は目を疑ったが、明名さんのシャツが海水で濡れて…


「あ…」


「……」


中の水着は、確かに真っ赤な…


ゴッ!!


頭に、鈍い音と強い衝撃が走った。その後は、塩辛いものが口当たりを刺激していた。









「あっはははー!!!」


桜峰から中瀬駅は一時間近くかかる。だから明るいうちに電車に乗っているのが一番いい。それほど遠いわけではないが、滅多には来ないけど今日は結構楽しかった。

そして今、僕の顔を見て大笑いしているのは、他でもない、知鶴さんだった。帰りの電車に揺られながら、僕は窓から見える風景を眺めていた。

あれから、どうやら僕への攻撃は踵落としだけでは足らずと、数え切れないほどのコンボを決められたらしい。踵落としの時点で気を失っていた僕は、痛みどころか何が起こったのかも解らなかった。


「知鶴さん、そんなに笑ったらかわいそ…ぷっ」


慰めに来たのかそれともただ単に笑いにきたのか、深空まで僕の前の席に座るなり笑い始めた。


「はぁ…」


「ふん、鼻の下伸ばしているあなたがいけないのよ」


明名さんは隣の座席でまだ怒っているのか、口を尖らせ外を見ていた。


「でも、明名さんだって最初から水着でいれば…」


「もしかして、まだやられ足りないの?」


不気味な程、優しく微笑んだ笑顔がこちらに向けられた。生優しい声も添えられて…


「いや…ホントすみません…」


「でも、楽しかったよねー。コウちゃん達が夏休みの間にまた来たいなー」


小さな子供のように足をパタパタさせた知鶴さんが、海があった方向を物寂しく眺めていた。


「まだ夏休み始まったばかりですから、来月になれば全然行けますよ」


夏休みは基本的高校までと同じだ。違うところと言えば、高校の時より出校日が多い…といってもほとんど講義で出なきゃ行けないんだけど…。


「確かに、いい潮風だったわね。また来るのが楽しみだわ」


ようやく見せた明名さんの笑みを見た僕は、意を決して冗談を口にしてみた。


「その時には、水着を見せてもらえるんですね」


その言葉を合図にしたように反射的に明名さんはその場に立ち上がると、直ぐに僕は危険を察知出来た。早歩きでその場を去ろうとしたが…


「触点、痺点」


肩に触れられたのを境に、突然足がピタリと止まってしまった。必死に動かそうと努力を惜しむが、その結果はあまりに無惨で、足の感覚がまるでなかった。

背後から不敵な笑い声が聞こえた時には、既に走馬灯を見いだしていた。


追記。もう一つの作品、優しき風が吹く頃には、今一度読みやすく書き直すよう努力致しますので、よろしくお願いします。

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