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縁の旅人  作者: ネギ田。
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竟笠(過去)

<神奈川県横浜市竟笠区(60年前)>



目を開くと、現在私たちが住む程ではないが、豊かそうな町並みが広がっていた。

子供は道端で走り回り、大人はいそいそと仕事をし、その雰囲気に明名は、何故か涙が流れていた。


「明名?」


「え…?」


受け答えると、ようやく頬に涙が付いていた事に気づき、グイと拭った。


「いえ…」


「アンタの生まれって…もしかしてここ…とか?」


根拠は無かったが、懐かしがるように涙を流していた明名を見て、深空はそれとなくここが故郷と思っていた。


「いえ…ただ、一度だけ…幼い時にお父様に連れてきてもらったことがあるから…」


「思い入れでもあるんだ?」


場を和ますように深空は笑顔で聞いた。


「歩きながら話すわ」


明名も微笑みながら答えた。







「あれは…まだ三つの頃かしら…。」


再び懐かしむように柔らかな微笑みを浮かべながら、楽しそうに口を開いた。


「いつもお仕事で会う暇ないほど忙しいお父様が、久々に会ってお食事をご一緒してくださるというので、私とお母様は喜んで行きました」


父親とは離れて暮らしていたのか、余程大きな仕事をしていたのかと、少し同情した深空だった。

明名とは状況が違うが、深空の母親も、一人前になるまで女手一つで育ててくれていた。だが今は昔の元気も無く、今は病弱な状態が続き、病院で過ごす日々を送っている。


「そこで初めて、ここに来ました。そしてお食事を済ました後、お父様に手を引かれながらこの街並みを歩きました。今ほど建物も無く、人通りも無かったですが、人々の人情もあり、とても良い思い出ですわ」


子供のようにはしゃぎながら話している姿はとても輝いていて、普段の明名とはまるで別人に見えた。


「いいな、そうゆうの」


話を聞きながら相槌を打った。しかし、一度だけ来た所に、すぐに親しくなった知り合いなどいるのかと、はなはだ疑問に思った深空だった。


「あ、明名姉ちゃん!」


通りすがった小学生の男の子が、二人の所へ駆け寄る。


「瞬太?久しぶりね」


坊主頭の少年が、澄んだ目でこちらを見ていると、明名はスッと手を出し、微笑みながら少年の頭を撫でた。


「元気だった?」


「おうっ!小太郎も花子も、みんな元気だぜ!」


そう言ってガッツポーズを見せると、明名は再び微笑んだ。


「そう、それは良かったわ」


「…?このねーちゃん、誰?」


ようやく深空の存在に気付いた瞬太は、指差しながら明名に訊いた。珍しい物をみるように深空を見ていた。首を上下に動かして見ていたので、服が珍しいのだろうかと、服に手を当てながら少し照れていた。


「ふふっ…私の友人よ…深空と言うの」


「よ、よろしくな…?」


妙にどぎまぎしながら、瞬太に向かって手を振った。


「ふーん?」


持っていた木の枝を振り回しながらまじまじと見つめる。

背後に回ってはじろじろと、珍しそうに眺めていた。


「このねーちゃんて、外国の人?」


瞬太から見ると見たことのない服装だった深空は、異国の人かと思い込んだ。


「瞬太ー!ご飯だよー!」


一角の民家から人影が見えた。そこからか、女性の張り上げた声が響いた。


「あ、母ちゃんが呼んでる」


「では、私達は行くわ」


瞬太が帰り際に大きく手を振っていた。明名も微笑みながら手を振り返した。











「でさ、ここで何を調べるんだ?」


明名に考え無しについて行くと、そこは区が経営している図書館についた。この時代に図書館なんてものがあったのか…。深空の中で何かしら期待を抱いていた。

それでも今の図書館に比べたら小さい。一部屋の大きな場所に三つ四つ、本棚が置かれているだけだった。


「調べるワケではないけれど、探し物をね」


本棚から本を取り出してはパラパラと流し読みをし、それでも隅から隅まで何かを探すようにしていた。


「手紙…封筒に入ってるハズなんだけど…」


「それを探すんだな?」


「ええ。お願い出来るかしら」


振り向いた時には、深空も同じように本を流し読みしていた。


「…………」


少しずつ近づいている、両心がそう思うのであった。


「あの…深空?」


「ん?」


呼ばれ深空がその手を止め明名の方を見ると、あの明名が頭を下げていたのが解った。深空も目を丸くして明名を見た。


「あの…ごめんなさい」


「ど…どうしたんだよいきなり…」


予想外の行動に驚きながらも、もう頭を上げてくれよと説得した深空だった。

気が済んだのかようやく頭を上げると、今度は深空の手を握り口を開いた。


「ずっと疑ってた。こんなしとやかさも淑女のカケラもない人と、これからやってけるのか…」


「はは…」


一応明名なりに気を使ってるんだよな?と、心底に疑問を抱きながら、苦笑いをしながら黙って明名を見た。


「でもあの時、ショカンで飛んだ時…涼輔を助けてくれた…」


「涼輔?」


頭の記憶を探る。確かショカンで飛んだ時、夜で…気の軽そうな男性が現れた。


『ブラックだけど…飲めるかい?』


あの時飲んだブラックコーヒー…今まで飲んだ事の無い。なんだか懐かしい味がした。


「今まで飛んだ相手は、あそこで涼輔を助けようとはしなかった。子供を助け、そのまま…見殺しに」


「さっさと探そうぜ」


辛い事を言わせているようで、お互い気を悪くしないようにと、深空は口を止めた。


「………そうね」


思いが伝わったのか、微かに微笑みながら、明名も探し物に没頭した。






それから一時間、最初に声を上げたのは

深空だった。


「おいっ!これそうじゃないか!?」


手に持って見せたのは、少しホコリ被った白い小さな封筒。面には何も書かれていない。


「…………」


明名は黙って手にとり開けてみる。中身は、手紙らしき紙が一枚、入っているだけだった。明名は真剣な表情で内容を黙読する。


「なるほど…」


読み終えたのか、一息つくと目を閉じたまま微笑した。


「何か、解ったのか?」


「………え、ええ…そうね‥」


妙に口ごもっていた。


「とりあえず現代に戻りましょう。翔一が心配だわ。それから、日記を探しましょう」


手紙の内容は話そうとせず、作り笑いをした。



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