言葉
―想い続けていれば、願いはきっと叶うものよ…。―
あの日…知佐人がいなくなったあの日から…おまじないのようにその言葉が繰り返される。
みんなが忘れかけてた頃からも…ずっと…。
知佐人…お前は一体…どこにいるんだ…?
<講義室>
暑い季節がやってきた。
知鶴さんたちが来てから毎日実感の湧かない日々だったが、夏が近づいてくるにつれて、こうして僕は平凡な大学生なのだと、いまさら実感が湧いた。
「…と、この公式はなるわけだ。それではここを都築、前に出てこの公式の使い方を説明してくれ」
「はい」
いつも通り指名が来て、いつも通りに前に出て説明し、みんなから軽い喝采を浴びる。
久々なので、悪いとは感じない。ただ、やはりなんか寂しい感じになる。
やっぱり…何か起きないとな……世の中は。
<食堂>
「ええ〜!?それってすごくないですかぁ?」
「そうでしょ?そこで昂介くんがね…」
見ると、明らかに高校の制服姿をした二人が同じ食台で話し込んでいた。
知鶴さんと、知依奈…?
アイツら、いつからあんなに仲良しになったんだ…?
「あ、昂介くん」
「コウ先輩!今日は長かったですね!」
そんなことより、お前ら高校生のクセに大学まで来るなよ…。特に用も無いのに。
「あれ?明名さんは?」
「明名ならショカンに居るよ。マスター達出掛けてて店番頼まれたんだって」
あなたはそれが嫌で抜け出してきたわけか。
「授業はもう終わったの?」
「今日は昼までらしいですよ。もうじき深空たちも来ると思います」
「えー!?じゃあ今日はちぃとデートしてください!」
「そんなヒマはねぇ!」
ただでさえ知鶴さんが現れて忙しいのに、知依奈の世話なんかしてられるか!
「なんだ。昂介のほうが先に終わったのか…て、知依奈に知鶴さん?」
「お久ですー!ソラ先輩にショウ先輩!」
元気よく挨拶をした知依奈に、冷静に応える深空と、翔一は頬を赤くしていた。
「そっちは長かったみたいだな」
「生憎、物理の白井教授が急に体調を悪くしてね」
またあの人か…。白井教授は元々病弱な人で、講義にもちょくちょく顔を出すくらいで、普段は滅多に会わない。まだ若い青年だというのに…。
「けどようやく、そろそろ夏休みだねぇ」
しみじみと翔一が言う。夏休み…。長く楽しいのでいいんだが、その間中に論文を課題として出されるし、研究課題を探してこいと焦らせるし。
「ところで」
知鶴さんが、切って話しを出した。
「帰りにショカンに寄ってもらえないかな。あなたたちと私たちの今後の事について、話したいことがあるんだけど…」
急に改まって言われたので、みんな緊張が走っていた。
何だろう…真剣になって知鶴さんが言うのだから、余程の事だろう。
――――――――――――
<ショカン>
「旅をする?」
「正確に言えば、心当たりのある人物を探しに行くのよ」
ショカンには明名さんがいて、ついさっきまで一人でホールやレジを全てやっていた。
「誰なんですか?それって」
「特定は出来ないから、まだ。当てがあるだけ。可能性の話」
話の概要は、知鶴さんたちの予想より早くI/Oが現れたので、なるべく早く他の同じ力を持っている人たち(知鶴さんたちの時代の人物)を見つけ、知鶴さんたちの目的を果たしたいという。
「それで、無理は承知の上なんだけど…」
突然、知鶴さんの表情が曇った。確かに、今までの被害を見ていると解る。そして、これからはもっと危険な目に遭う事になる。解ってた。
「ちょうど夏休みに入るし、論文の題材も見付かるだろ」
「いい息抜きにもなるだろうしね」
知鶴さんはパァと顔を明るくした。
「みんな…」
「あの〜僕まだ何にも…」
「色んな所を回れば、いずれ貴方と通じる御方も見付かるんじゃないかしら…?」
明名が興味をそそらせるようにそう言うと、翔一は少し考え込んだ。
「せ、せっかくの夏休みだし…有意義に使わなきゃね…」
「…………」
翔一の意志の軽さを知ったのは、初めてのことだった…。




