親友
千寿は一人、日本エリアのエントランスホールを歩く。
えー、こほん。僭越ながら私が彼の紹介を。
彼の名は伊万里 千寿。伊万里財閥の御曹司らしいの。
どんな会社かは詳しくは知らない。だってまだ知り合って3年だし、あんまり自分の事話さないし。
日本屈指の大企業ってこと、彼の眼帯の下の目は瞬間記憶能力を持っているってこと、学年で一番モテるチャラ男ってこと、これだけしか知らない。
じゃあ何故私が紹介するかって?
知りすぎてるって事も、危険だってこと。
ほら、見てて?
千寿は路地裏に入ると、帽子を深くかぶった男と接触する。
「で、進捗は?」
「はい、目ぼしいのは4つ程ですね……」
「そうか……俺は運よくカードを手に入れた。ギルド内にもう一人所持者がいる。計画はこのまま進める」
「わかりました……くれぐれも無理はなさらぬよう」
「わかっているさ。情報が正しければ、国を守り、友を守るにはこれしかないからな……本当は守るべき友を巻き込みたくなかったがな」
「貴方様の判断は正しいと……組織の見解も示しております」
千寿は男からトレードの申し込みウィンドウを開き、許可する。
アイテムをいくつか受け取ると、男に背を向け歩き出す。
「お気をつけて……」
男が頭を下げると、千寿は手をヒラヒラとさせた。
ね?こんな所見て怪しいと判断できるのは、彼を知りすぎていない私だから。
公平な判断を歪ませる感情は、時に毒となる。
臨の受け売りだけどね。
では、私達の大将の紹介を怪しい彼から……どうぞっ!
臨は部屋に入ると、ソファに腰かけ、天を仰いだ。
誰が怪しいだっ!まぁ、メタい話は置いといて、紹介しよう、俺の親友!
彼の名は尾張 臨。白い髪、釣り目、特に特徴がない彼は自称プロゲーマーだ。
小学生の頃はスポーツもしていて、それなりに運動神経はいい方だ。
俺が中学で出会った頃には既に白髪で、根暗だった。
ゲームセンターでダメージを一切受けることなく、ゾンビをなぎ倒す姿に惚れ込んで、ナンパしたわけよ。
実は、うちの会社って電子機器全般を作りつつ、ゲームも作ってるんだ。
でも、俺はからっきしなわけで……
自分が出来ないことをなんなくこなす人間に、人は憧れるもんだよな。
まぁ、臨の受け売りだけど。
で、それ以来ゲームセンターで臨を追いかけまわして、新作のゲームで釣って、気づけば打ち解けてくれてたわけよ。
やり方が汚い?でもまぁ、今は信用しあえる親友なわけだし、終わり良ければ全て良しってな。
話が長くなったな、これが俺の親友だ!
「はぁ、疲れた」
臨はぼーっと天井を見つめる。
電話のベルが鳴りメニューを開くと、Callと表示されている。
臨は一瞬目つきをギラつかせると、遮断した。
すぐさまメッセージが届く。
「なんだ、奏の奴……はまってるじゃないか」
少し嬉しそうに笑うと臨は部屋を出た。
今の電話は御剣さんか?教えてもないのにもう使えるのか。
こんな能天気な親友を守る為にも頑張らないとな!
こうして、それぞれの歯車が回り、再び噛合せる。