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神がいないこの世界、そして僕達は神になる  作者: 秋野紅葉
ジョブチェンジしますか?▼最弱 ▽最強
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幼馴染

「へぇー、これが私の部屋かぁー」


奏は部屋を見渡す。

クローゼット、ベッド、風呂、トイレ、机にソファ——。

基調はモノトーンで、あっさりとした部屋だ。


ここで軽く紹介をしよう。

彼女の名は御剣 奏。電子製薬という、各々にデータ処理された薬品を作り上げるシステムを駆使した『御剣製薬』のご令嬢だ。


温和な父に、しっかり者の母、知的な兄に囲まれた世間一般的にいう、裕福な家庭で育った。


蝋人形の様に整えられた顔立ちに、スレンダーな体型、美しく長い茶色い髪を流して歩く様はお嬢様そのものだ。


千寿の様に言うならば、『見た目』は完璧な美少女だ。


ん?何故『見た目』を強調するかって?


簡単なこと、見ていればわかる。


「まずはシャワーね」


奏は服を脱ぎ散らかすと、下着姿でウロウロと歩き回る。


「シュシュとかないのかな?」


メニューを開く。しかし、買ってもいないアイテムは見当たらない。


「んー、不便だなぁー。ま、いっか」


バスルームに入っていく。


20分後——。


「はぁー、さっぱりした」


頭にタオルを巻いたまま、ベッドに飛び込む。


勿論、何も身に着けてなどいない。


この状況を見ていただいてわかる通り、ズボラというか、だらしない奴なんです。

男勝りだし、がさつだし……


「んー、臨と遊ぶのって懐かしいなー」


仰向けに寝転がる。大の字に。


もう一度言う、何も身に着けてはいない。


「『あの時』以来……もう3年も経つのかぁ」


奏は遠い目で天井を見る。


『あの時』……まだ気にしてるのか。


では、語らせてもらおう。


3年前の夏の出来事を——。







中学にあがると共に、奏のじゃじゃ馬っぷりは拍車がかかった。

小学生高学年にあがる頃に頭角を見せ始めた悪ガキは、男子よりもスポーツ万能で、力も強く、気も強く、喧嘩っぱやかった。


中学にあがっても胸は成長せず、痩せっぽちなその体型から、揶揄われる度に喧嘩をしていた。

ここで喧嘩がどのくらいの暴れ様かと説明する例を一つ。


近隣の小学校3つが集まる中学校に、噂のガキ大将が入学してきた。

入学式で、奏の事を見るなり……


「お前男のくせに女みたいな顔してるな」


よく見てくれよ、スカート履いてるよね?


バカなの?目が悪いの?言葉を選びなよ。


とか、考えてるうちに……


「絶対許さねぇからなーっ!」


ガキ大将は腫れあがった顔を押さえながら、走っていった。


ここで終われば、奏も、僕も消えない傷を背負うことはなかっただろう。


一週間も経たない内にそれは始まった。


下駄箱にゴミ、机に落書き、刻まれた体操服、行方不明の教材……


『いじめ』ってやつだ。


だが、奏は弱音一つ吐かなかった。


1ヶ月後、俺は見てしまったんだ。


部屋で舞う布や羽毛の残骸を——。


俺の部屋と奏の部屋は同じ2階、窓同士が5m位の距離で、その日俺は電気を消してゴロゴロしていた。


布が切り裂かれる音、ドタドタと聞こえる音、そっと覗くとその光景が見えた。


泣いていた。理由はそれだけで充分だった。

限界だったとか、よく耐えたとか、そんな大人の評価なんてどうでもいい。

奏を泣かせた。それだけで翌日の俺の行動は説明できた。


翌日、奏が登校すると——。


ガキ大将と取り巻き5人がズタボロになって転がっていた。

文字通り、もはや喧嘩に負けた等と言えない重傷だ。


奏は鞄を落とし、両手で口元を押さえ、泣きながら崩れた。


そんな奏に俺は手を伸ばし、頭を撫でて手を取り、髪止めを渡した。


その後は正直あまり覚えていない。


ただ、その事件の後から避けられ、疎まれ、親にまでも世間的にダメージを与えた事からだろう、俺の髪は真っ白に染まった。


奏も大人しくなり、スポーツも出来ないフリしたり、お嬢様の様に振るまった。

いつしか、幼馴染は学校1の人気者、俺は学校1の疎まれ者となった。


奏は俺に近づこうとしたが、避けてきた。

その中で出会ったのが千寿なんだけど、その話は別の機会に。


まぁ、疎遠になったきっかけがこの事件だったって事——。







「まだ……許してもらえないかな……?」


奏はメッセージを開く。







To:臨


まだ起きてる?


よかったら部屋に来ない?


少し話があるんだけど__







そこまで打つと、バックスペースを押し続け、打ち直す。







To:臨


まだ起きてる?


起きてるならもっとゲームのこと教えてよ!


部屋で待ってるから来てね!


あ、変な期待はしないように!







苦笑いしながら送信すると、髪を乾かし、着替えた。

髪をハーフアップにしようと髪止めを探すが、この世界には存在しない。

少し悲しそうに俯くと、頬を叩き、伸びをする。


扉を叩く音がする。


「はぁーい、どーぞ」


奏は笑顔で出迎える。


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