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神がいないこの世界、そして僕達は神になる  作者: 秋野紅葉
ジョブチェンジしますか?▼最弱 ▽最強
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物理VS魔法

聞こえてきた大きな歓声は、ヴァルハラサイド日本フィールドを映した、巨大な液晶モニターの光景のせいだった。


広大な平野には、20人の人間だった物が無残にも転がっている。

黒いローブに身を纏った男はダナケーを拾い集め、小さな袋にしまってゆく。

画面が切り替わると、何人もの人間をはく製にして飾られた氷柱を、黒いローブを纏った者が手を振り下ろすと、巨大な音を立て、崩れ去った。

また画面が切り替わると、二人が合流し、言い合いをしながら森へと消えていった。


「いやー、今回も現れましたねー、エリュシオン」

「しかし今回は二人だけでしたね」

「残りの一人がギルドマスターという情報は入っておりますが、戦っている姿が映像に残っていないですね」

「視聴率の為です!サーバーログを漁りましょう!」

「いやいや、アールヴヘイムでは各国エリアに1000台もの自動追跡型カメラが飛び回ってるんですよ?その意味をお忘れですか?」

「情報戦の意味がない!いや、それは解っていますが……気になって仕方ないんですよ!」

「熱狂的な『神々の系譜ティターニア』ファンはそう思ってると思いまして……」

「思いまして?」

「こんな映像を用意しました!どうぞ!」


画面が二人の男から切り替わる。

映されたのはフードを深くかぶった男だ。


「僕達エリュシオンは同志を募っている。メッセージを送るもよし、直接襲い掛かってくるのもよし、どんな方法でも歓迎しよう。だが、条件がある。ダナケーの個人功績が100枚を超えているか、カードを所有していること。以上だ……僕達はいつでも歓迎する、力ある者たちが集う日を楽しみにしているよ?」


また画面が切り替わる。


「これは……エリュシオンのギルドマスターですか?」

「はい!私にメッセージが届きましてね?映像を流して欲しいと。フレンド登録を試しに申請してみた所、承諾までしていただきました」

「案外気さくな人かもしれませんね」

「そうだと嬉しいですね!取材もしやすいですし」

「それで、名前はなんですか?」

「はい、リストには『レア』と表示されてますね!どうやらコードネーム表示にしているようですね」

「へー、大胆な事をする割に慎重ですね」

「まぁ、これからも彼らを追い続け、丸裸にしてやりましょう!」

「期待してます!では、次のニュースです」


内容が変わっても歓声や怒号はやまない。


「かっこいいよな!」「なめやがって!」「どんな美少年なんだろうね」

「お前入れるんじゃね!?」「潰してやる」「ギルドで手を組めば……」


これだけの事態に3人はというと……


「うるさいなー、臨!御剣さんの服と装備揃えにショップに移動しようぜ」

「なんで奏までなんで奏まで……」

「ほらー、私の装備ー」


平和である。


結局、臨に装備を買い与えて貰った奏は、

赤いマントをそのまま服にしたようなヒラヒラした剣士服と、長剣を腰元に下げている。


「これポンチョみたいで可愛いー」

「女子のセンスは理解できない」

「そうかー?臨は街に出なさすぎだ」


臨はメニューを呼び出し資金を見ながらブツブツ言いながら歩く。

千寿はアイテム欄の確認をしながら、奏はヘルプを読みながら。

臨が立ち止まると、順番にぶつかる


「どうした?臨」

「いきなり立ち止まらないでよー」


「早速だが奏、初陣といこう」


『へ?』







千寿と奏は肩を寄せ合いながらビルの窓に背を向け座っている。


「こんな作戦ありかよ……」

「私、初心者なんだけど……」

「はい、二人ともうるさい」


『はい』


「じゃあ、状況開始前に再確認。そのビル内には20人程、単独プレイヤーが身を潜めている。全て狩り尽くせば終了だ」

「ねぇ、私本当に出来るの?」

「あぁ、俺を信じろ。ゲームに関しては予想の上をいかれたことはない」

「何かあったら家まで乗り込んでやる」

「御剣さんに同意」

「千寿は指示を出さないのが今回の課題だから、多少怪我をしてもらう」

「そうならないように頑張るよ」

「あぁ、最悪の事態は迎えないようにサポートはする」


臨は窓に腰を掛け、スコープで向かいのビルを見下ろす。


「じゃあ、楽しんでいこう!」

「あぁ」

「うん」


千寿は走り出し、扉を開けて飛び出すと左右を確認し、奏に合図を出す。

奏は千寿の後を追うように走り出す。

左方向に走ると、階段から気配を感じる。


「じゃあ、お願いできるかな?」

「うん、任せて」


奏が階段の前を横切ろうと走り出す。


「いいか?姿勢は低く、飛び出したら前のめりに前転のイメージだ」

「わかった!」


奏が体制を低く一歩目を強く蹴り、飛び出す。

階段から駆け上がってきた男が、廊下に出て銃を構えようとした瞬間、

後ろからしゃがんでいた千寿に撃たれる。


「ビンゴ!」

「伊万里君!早く!」


千寿はダナケーを拾いがてら、奏が手招きする通路左側の部屋に入ると、扉を閉め、両側に腰を落とす。


「さっきはなんでしゃがんでたの?」

「銃の軌道を真っ直ぐにした場合、貫いた弾が立ち上がった御剣さんを襲うケースがある。角度を調整して、跳弾も視野に入れた場合、あれが一番安全なんだ」

「なんかすごいね」

「臨の指示に従っていれば覚えるさ」


「次は千寿がおとりだ」

「あぁ、わかってる」

「階段をのぼるのは二人……一人はマシンガン、一人は槍?おもしろいな」

「高みの見物は楽しそうでいいね」

「本当はそちらで戦いたいんだけどね」

「はいはい、無能ですからね」

「へこむからやめて……」

「痴話喧嘩も程々に、くるよ?」

「誰と誰が夫婦だ」

「誰と誰が夫婦よ」


「じゃ、いくよ!」


千寿は扉を外へ開く。開かれた扉に銃弾が撃ち込まれる。

千寿は扉の上方の窓に1発撃ちこんだ瞬間に、姿勢を低くしたまま通路に滑り込み、寝そべりながら正面の男を撃つ。


崩れ去る男の背後から槍を突き出し、盾を構えながら男が突進してくる。

剣を構えた奏が部屋から飛び出す。


「臨!」

「あぁ、右の壁へ飛べ!」


言われるがままに奏は壁に飛ぶ。

姿勢を低くしていた突進が一瞬、奏に気を取られ盾が浮く


「千寿、足!」

「あぁ!」


隙を狙うように千寿が右足を撃つと、態勢は右へ傾く。

すぐさま、体と距離をあけた盾を持つ左腕に、奏が切り込む。

腕が切り落とされ、無防備になった体に、千寿が弾丸を打ち込む。


「ねぇ?もういい?」

「あぁ、いいよ」


千寿はダナケーを拾いながら答えた。







遡ること1時間——


「3人揃ったし、練習がてらギルドの拠点費用を稼ぐ」

「いきなりすぎないか?」

「私まだ一回も戦ってないよ?」

「奏のスキルが俺の想定通りなら、上手くいく」

「えーっとねー」

「スキル名称はアテナ。能力は剣を自在に扱えるってとこだろ?」

「なんでわかったの!?」

「あー、御剣さんは知らないと思うから、解りやすく言うね。特殊スキルは全て神様の名前で、臨は神様マニアなんだ」

「うぇー、臨そんな変な趣味あったの?」

「変とはなんだ。つまり、剣術スキルってことはタイミングさえ合わせれば弾丸だって切り落とせる筈だ」

「それってチートってやつ?」

「いや、勿論射程距離もあるはずだから、方向とタイミング次第だな」

「へぇー、私そんな事出来るんだ」

「御剣さん、他人事みたいだね」

「想像つかないもん」


臨はポンっと手を叩く。


「千寿、奏の前に弾丸を一つ放り投げてくれ」

「は?」

「奏はそれを鞘から抜いた剣で斬ってみてくれ」


言われるがままに放り投げた弾丸は、奏によって斬り裂かれた。


「うそ……」

「ねぇ、私凄くない!?凄いよね?」

「まぁ、スキルのおかげだからな」

「私これならいける気がするー」

「あと一つ問題がある」

「御剣さんがこれだけ出来るなら問題なんてないだろ?」


臨は立ち上がって奏の正面に立つ


「え?え?」

「敵を斬った後は、千寿にいいって言われるまでそっちを向くな」







そして『今』に至る。


「ねぇねぇ、もう大丈夫?」

「なぁ、臨?」

「どうした?」

「今……御剣さん5人をぶった斬ったんだけど……これ必要ある?」

「一応女子への配慮をしたつもりなんだが」

「しかも真っ二つに」

「いや、必要ないかもな」


話をする奏の背後に何かが光る。


「危ない!」


千寿が奏を突き飛ばすが、放たれた弾丸は千寿の肩をかすめる


「よくもっ」


奏は男に向かい走り出す。弾丸が放たれた瞬間、剣で薙ぎ払い、銃を持つ腕ごと切り落とすと、背後から体を剣で貫いた。


「ほら、やっぱり大丈夫じゃん」

「伊万里君大丈夫!?」

「千寿!どうした!?」

「肩を撃たれた、痛みの程はそうだな……殴られた程度かな」

「凄いな……じゃあ死ぬ時も制限されているだろうな」

「二人とも!殴られたって痛いんだから!」

「ごめんごめん」

「悪い、傷薬を使ってやってくれ」

「このシートを貼ればいいの?」


奏がアイテム欄から傷薬を選択すると、湿布の様なシートが現れる。

それを千寿の肩にあてると、時計の様なゲージが表示される。


「これは……完治するまで10分てことかな?」

「便利だな、感触はどうだ?」

「熱を冷ますシートみたいだ、気持ちいい」

「へー、痛みは?」

「徐々に減ってきてる」

「なら続けよう」

「あぁ」


千寿は立ち上がる。


「伊万里君、本当にごめんね?」

「気にしないで、御剣さんも守ってくれたし、お相子様だ」

「……ありがとっ」


「そこまでだ!」


階段の前に3人の男が立ちふさがる。


「荒稼ぎしているようだが……まず、銃を捨ててもらおうか」


ターンッ、カチャッ、カラーン……

ターンッ、カチャッ、カラーン……

ターンッ、カチャッ、カラーン……


「おじさんたち、そこは立たない方がいいよって……遅いか」


3人の男は頭部を撃ち抜かれて倒れた。


「え……今の臨が?」

「あぁ、臨があそこにいるおかげで、この8階建てのビルの窓は全て死角なんだよ」

「こんなに凄いなら初めから手伝いなさいよ!」

「悪い、余り目立つとこっちが狙われかねないからな」


臨は窓から離れて壁際に腰かけると、マントで体を覆う。


「悪い、一人来るみたいだ。千寿頼んだ」

「任せな、相棒」


千寿は踊り場の窓際から、向かいのビルの一つ上の階の窓に銃を構える。

微かな声で引き金を引いた。


「3、2、1……0」


乾いた音の数秒後、窓際の男が倒れた


「ありがとう、そのスキル本当に便利だな」

「おかげさまで」


奏は呆気にとられる。


「今……頭に当てたの?」

「あぁ、これが俺のスキル。機械を体の一部の様に扱えるんだ」

「目で見た場所に当てれるってこと?」

「まぁ、そんなところだ」


「さ、あと8人一気にいこう!」


「あぁ」

「うん」


その後はガンマンと剣士がお互いをカバーしあい、時折援護射撃を受けながらも、8人を打ち取り、入口にたどり着いた。


「ダナケー20枚!大量だね」

「それでいくらぐらいなの?」

「600万ぐらいだな」

「殺し屋になった気分だね……」


臨がビルの端を見つめて動きを止める。


「どうしたんだ?」

「帰る前に……イレギュラーだ。出て来いよ」


一人の赤いローブを着た女が臨の声でビルの陰から出てくる。


「どうしてわかった?」

「こっちは風下だ。やけに焦げ臭くてね」


二人が空気の匂いを嗅ぐ。


「たき火?」

「煙草の匂いみたいだな」


「どちらも不正解だよっ!」


女が手の先から炎の弾を飛ばし、それを奏が剣で切り裂く。


「へぇ、剣で炎を斬るなんて初めて見たよ」


「ヴァルハラ相手じゃ、慣れてないこっちは分が悪い」

「みたいだな。どうする?」

「千寿、撃ってみてくれ」

「あぁ」


千寿が撃つと同時に、女の前に火柱が上がり、弾は燃え、塵と化した。


「やっぱりか……」


「今度はこっちからいくよ!」


女が次々と炎の弾を打ち出してくる。

3人は散りながら避け、インカムで話し始める。


「相手は一人だ。だが、時間を掛けると戦闘音で何人か来るかもしれない」

「つったってどうすれば」

「私が行くよ!」


奏が女に向かい走り出す。炎の弾を斬り裂きながら進み、女に剣を振り下ろす。

しかし、炎の壁に阻まれる。

剣を降ろし、後ろに飛んだ瞬間、壁に穴が開き、伸ばした手から炎の弾が放たれる。


両手で防ぐように構えた奏が、横に吹き飛ぶ。


「大丈夫か?」

「ちょっと臨!マフラー燃えてる!」

「え?あっつ!」


マフラーを振り解くと地面に叩きつける。


「あははっ、ざまぁないねっ!」


女が二人をあざ笑った時、女の肩を乾いた音と共に弾丸が貫いた。


「もう一人忘れてるぜ?叔母さん」


千寿が二人の反対のビルの部屋、外に止められた車越しに顔を出した。


「千寿!頭を狙えって言っただろ!」

「車の窓越しだと、肩しか見えなかったんだよ!」

「不味い!逃げろ!」


女が千寿のいる部屋に向け手を伸ばす。


「クソガキがぁあああ」


火柱が地面を裂きながら千寿に向かい進む。


が——







何が起きたのか理解が出来るまで時間がかかった。

辺りを包む白い霧……

晴れた頃に見えたのは、火柱ごと女を包み込んだ大きな氷柱だった。


「何……が起きたんだ?」

「千寿!大丈夫か!?」

「あ、あぁ、目の前にでかい氷が現れたけど無事だ」


千寿が急いで外に出ると、黒いローブを着た者が氷に触れ、砕いた。


空気中に舞う氷の結晶の中、フードの下から現れた表情は、綺麗な黒髪も相まって、冷たい……雪女のような……


目の前に現れた女は幻想的に美しく見えた——。





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