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ボツ&番外編たち  作者: 佐伯琥珀
よく分からない短編たち(2014)
5/23

魔法少女ペディキュアのマスコットに転生してた話

全然書いた覚えがない。

私自身続きが読みたいけど、プロットとかも何もなくて困惑してる。

「まひる!今日もアーク倒し頑張るモフ!」



 とか言ってた自分ぶっ殺したい。




 朝目が覚めた瞬間俺は頭を抱えていた。

 鏡を見れば、まんまるとしたぬいぐるみのようなフォルムに、ぐりぐりとした目の姿の自分が写っている。



 そうだ、俺は魔法少女の妖精的ポジションの「モッフル」だ。

 アークという悪者集団に俺の故郷「宝石の国」をめちゃめちゃにされてしまった。

 そして「宝石の国」の王様の最後の頼みでこの世界の少女に「魔法少女」としての力を与え、アークに占領され今住民の皆が眠りについてしまっている「宝石の国」を救ってほしい。とこの地球へやってきた。


 「宝石の国」を滅ぼしただけではアーク達は飽き足りなかったようで、この地球にやってきたようだ。つくづく迷惑な奴らである。


 そして王様のお願い通り、魔法少女の力をこの「華宮(かみや)まひる」に与えた。



 そこまでは別に良かったのだ。

 しかし今日、目が覚めると突然思い出した。

 俺がこの世界にくるまで普通の男子高校生として暮らしていたことを。

 俺は今やっと自分が「モッフル」とかいう妖精みたいなやつに転生した、という事に気が付いたのだ。


 つまり、記憶を取り戻した今。俺は妖精の皮を被った単なる男子高校生になってしまった。





「あれ~?モッフル?おはよう~」


 ふあ、とあくびをした後に華宮まひるは俺の頭を撫でた。そしてぎゅっと抱き寄せる。

 いつもなら「まひる!おはようモフ!」なんてぬかしていたが生憎今日はそんな気分ではない。



「おいまひる、さっさと離せモフ」


 oh……

 強い口調になってもこの語尾の呪いは解けないのか。

 普段と違う俺の口調にまひるは驚いたのか、俺をぱっと胸元から離した後に首をひねる。

 この「華宮まひる」という人物は、おっとりした性格だが、それなりに可愛くクラスの人気者である。

 俺が魔法少女に選んだその日から、ずっと俺をこの家で飼っているお人好しな奴だ。



「あれ?モッフル今日はご機嫌ななめ~?」


 語尾をやけに伸ばすこの喋り方は、まひる独特のものだ。

 いつもは何も感じないが、今日はやけに苛立ちを感じた。



「まひる、離せモフ」

「あ!分かった!モッフルお腹すいてるからご機嫌ななめなんだね~」


 ぱん、と手を叩いた後にまひるは部屋から飛び出していった。


 とにかくどうするこれ。

 とりあえずモッフルとして生きていく以外に道は無いんだが。

 「宝石の国」を救えるくらいの魔法少女と一緒に戦うのが俺に与えられた使命だし。



「モッフル~朝ご飯のパンケーキだよ~」


 そう言ってまひるは二段重ねになったパンケーキをもってきた。

 俺の前にお皿を置くと、大量のメープルシロップをパンケーキにかけていく。俺を糖尿病にでもする気か。


「あれ?今日は変身しないの~?」


 ああ、そうか。俺は普通に人型(イケメン)にも変身できるのだった。

 ぎゅっと目を瞑り、頭の中で「変身!」と唱えるとぽんと人型に変わる事ができた。



「やっぱりモッフルの人型はカッコイイね~」

「……そりゃどうも」


 この人型なら、モフモフ言わなくても良いようだ。

 とりあえず無言でパンケーキを頬張る。まひるはいつも通りにこにこと笑いながらその様子を見ていた。


 まひるからしてみりゃ、昨日と何も変わらない今日という日。

 それでも俺からしてみりゃ今日は正気に戻った記念日。


 いつもなら俺は嬉々とした表情でパンケーキを頬張っていた。

 しかし今日、鏡に映る自分は死んだ魚のような瞳をしていた。



「モッフル~今日は休みだけど何して遊ぶ?」


 にこ、とまひるが笑う。俺はパンケーキを頬張りながら「柿ピー食いてぇな……」なんて思っていたのに。

 何して遊ぶ、だと?

 昨日までの自分を振り返る。


 昨日は確か、まひると近くの公園で追いかけっこをしていた。

 今思えば、なんでこんな謎のぬいぐるみみたいな姿で走っても誰も突っ込まなかったんだろうか。

 確かハイテクなぬいぐるみだね!で片付けられていたような気がする。


 ぬいぐるみで片付ける事も然り、女子高生がぬいぐるみを追い回してるのを何で誰も突っ込まなかったんだ。


 ……まぁ、まひるが女子高生にみえるか。と言われれば黙って頷くことはできないけれども。

 低めの身長にぱちっとした二重。髪色はピンク。(そこら辺は魔法少女だからという事で目を瞑ってやってほしい)耳の横で結ばれたツインテール。……どう頑張っても中学生。



「ねぇそういえばモッフル~」


 パンケーキをむさぼりながら、まひるの方を見ると、まひるはやけに真面目な顔をしていた。

 今は人型を保っているので、同じ目線の所にあるまひるをじいっと見る。



「モッフルが言う通り、アークを倒してプリチーボールを50個集めたら宝石の国は元に戻るんだよね~?」

「……たぶん」



 アークを倒してプリチーボールというドラゴンボールのパチモン臭しかしない玉を、50個集めれば俺の故郷、宝石の国の皆の目は覚めてまた宝石の国に平和な時代が戻ってくるのだ。

 俺たち妖精はとても弱いので、魔法少女に代わりに戦ってもらうというスーパー他力本願な作戦であるが。



「私と契約したとき、宝石の国が戻ればなんでも願いをかなえてくれるって言ったよね~?」


 言った、言った。

 国王には夢を叶える力がある。だからこの魔法少女達がアークを倒して宝石の国を元の平和な状態に戻してくれれば、何でも一つ願いを叶えてやる。そんな取引で俺とまひるは契約をしたのだ。

 そういえば、まひるの願いは何だったか。

 ぐっと身を乗り出したまひるが、俺の顔に顔をぐっと近づけた後に口を開いた。



「私ね、パパとママを生き返らせてほしいの」

「まさかの死者蘇生」


 宝石の国の国王と言えどもな、死者蘇生なんて出来るんだろうか。

 ここで出来なければ、もし宝石の国が戻ってもまひるの願いは叶えられないのでドリーム詐欺になるのだが。

 ……困った。とりあえず、まひるがキラキラとした目で俺を見てきているのに苦笑する。


 まひるは、ぽつぽつと自分の事情を話し始めた。


 両親は事故にあって死んだ事。

 今は少し遠くに住んでいる伯母さんに助けてもらいながら、遺産を切り崩しながら一人暮らしをしている事。



 モッフルのみで、俺の自我が戻っていなかった時には「どうしてまひるは一人で住んでいるんだろう」と言った事や「両親はどこに居るのだろう」なんて事、特に気にしていなかった。

 しかし、今は元の自分の感性があるせいか、まひるの少し悲し気な表情を見れば胸が痛んでしまう。



「……大丈夫、叶う。王様ならきっと叶えてくれる」


 たぶん、という言葉は心の中だけにしておいた。

 まひるはぱぁっと表情を明るくさせた後に俺に抱き付く。

 ありがとう、ありがとうという言葉を何だか嬉しく思いながら、俺は一つのアイデアを思いついた。


 俺も、そこそこ活躍すりゃ願い叶えて貰えるんじゃね?

 転生する前の世界に戻れるんじゃね?

 こんな謎のフォルムの妖精的なアレから脱却できるんじゃね?


 イケそうな気しかしない。



「おいまひる! 今まではのんびり魔法少女やってたけれど今日からは本気だせよ!?」

「え~? なんで急に~?」


 俺が元の世界で普通の男子高校生に戻るのには、魔法少女がサッサとプリチーボールを集めなきゃなんねんだよ!

 そうは言えないので、ぐっと押し黙った。


 とにかく、まひる一人でプリチーボールを集めるより、仲間が居た方が良いだろう。

 魔法少女をやってくれてアークを殲滅させてくれたらなんでも願いを叶えてやる!とでも言えばすぐに集まるだろう。

 ……そうだな、まひる含めて五人くらいのチームが出来るとベストだな……。

 チーム名は……「五人はペディキュア」 よし、これで行こう。



「明日からはとりあえず、仲間探しな」

「魔法少女友達一杯できるといいねぇ~」


 ほんと、こいつ能天気な奴だな。

 ニコニコと笑いながら、まひるは手からぽんと花を出した。

 その瞬間背筋がぶるりと震えた。



 ……そういえばこいつ、手から花を出す事だけが能力なポンコツ魔法少女なんだった……。










「モッフル~ただいま~!」


 そう言ってまひるが部屋に帰ってきた。

 まひるは昼間学校に行っているため、俺はその間部屋でごろごろとしているニート妖精と化す。

 人間型でずっといるのは疲れるので、ほぼ妖精型で過ごしている。

 今も妖精の無駄に短く太い手を駆使しながらネトゲをしていた所だった。



「おー、おかえ……」


 振り返ると、そこにはまひる以外にもう一人の少女が居た。

 黒色の髪の毛は短く切り揃えてあり、きっとした目が印象的である。この少女は典型的な「男子に生れてたらモテてただろうな系」の女子であった。

 カバンは、まひると違ってエナメルを使っている事などから、多分スポーツ系のクラブに入っているのだろうと推測できる。



「モッフルー、ただいまぁ」


 まひるがぎゅっと妖精型の俺に抱き付く。

 勢いよくまひるが抱き付いてきたせいで「くそ、いてぇな」なんて漏らしてしまった。

 普通、この手のキャラは魔法少女以外の前では、ぬいぐるみとして使命を全うするのがテンプレであるが。やらかした。

 ショートカットさんはこの部屋に腰を下ろした後に、俺をじろじろと見ている。



「まひるさん、これ誰ですか」

「私は魔法少女で、モッフルはそのサポートをしてくれる妖精さんだよ~」


 まひる、お前は重要な情報をポンポコ話し過ぎだ。ちょっとは隠せ。

 ショートカットのさんは「は?」ともちろん眉を寄せている。



「なんでも一つ願いを叶えて貰う代わりに、魔法少女にしてもらったの~」

「……騙されてるんじゃないですか?」

「え~ほんとだよ~私魔法少女だもん」

「証拠は?」


 ショートカットさんがそう言うと、まひるがぽんと手から花を出した。

 ニコニコと笑うまひるを見てショートカットさんは「手品じゃないですか」と至極もっともなツッコミを入れた。

 まぁ今は、まひるはまだ変身していないし手から少しの花しか出せないけれど、変身すればもう少しだけ多めに花を出せるし……まぁポンコツな事に変わりはないのだが。

 相変わらずショートカットさんはじめっとした目で俺を見ている。



「美沙子ちゃん、モッフルに自己紹介しなよ~」

「……瀬川(せがわ)美沙子(みさこ)。よろしくお願いします妖精(・・)さん」

「美沙子ちゃんはね~中学時代の後輩なんだ~」


 妖精、をやけに強調した所からこの「美沙子」という少女が俺の事を疑っているという事が分かる。

 そりゃそうか。誰だって急に「妖精です」と言われても信じる訳ないよな。

 それにしても、この美沙子という少女は、どうみても運動部なわけだが……。



「まひる、まひるは中学なんの部活だったんだモフ?」

「ソフトボールだよ~」

「まひるさんはキャッチャーでしたよね」


 まひるは、美沙子をもてなすためか。冷蔵庫をがさごそ漁りながら美沙子の問いにゆるーく返事をした。こんなゆるキャラなまひるも、中学ではソフトボールをやっていたのか。なんか意外だ。

 まひるの鼻歌が部屋に響く。

 美沙子は未だじめっとした目で俺を見るだけで、必要以上に俺に関わるつもりはないらしい。まひるが紅茶と焼き菓子をテーブルの上に置くと、さっと俺から目を離した。



「まひるさん、一人暮らしなんてほんと大丈夫なんですか」

「伯母さんもいるし、お隣さんも優しいから大丈夫~」


 ふうん、と美沙子が漏らした。そして部屋をぐるりと見渡す。

 まひるの部屋はよくあるワンルームタイプで、それなりに片付いている。コンビニ弁当などが散らかっていない事に美沙子は安心したのだろうか。

 「そうですか」と小さく呟くと、紅茶をすすった。



「今年から美沙子ちゃんと同じ高校になれてうれしいなぁ」

「留年して同い年にならないでくださいよ」

「うん、気を付けるね~」


 まひるは、美沙子の言葉にへへと笑っていた。

 美沙子のもの言いは中々にきついが、この二人は仲が悪い訳ではないようだ。

 部屋を見渡していた美沙子が、まひるの部屋の写真立てをじっと見ていた。

 そこには、中学時代のユニフォームを着た美沙子とまひるの姿があった。なるほど、この二人は中学時代のバッテリーなのか。

 集合写真ならまだしも、二人の写真を飾っている事が美沙子は意外だったのか、それとも嬉しかったのか。俺にはどちらかは分からないが、その写真を見て少し眉を下げていた。



「……それよりまひるさん、魔法少女になったってどういう事ですか」

「モッフルね~とっても困ってるの。モッフルの生まれた宝石の国を救う為に、魔法少女になったんだぁ」


 美沙子は俺をじろりと睨んだ。

 魔法少女?ありえない。表情がそう語っている。



「さっき願いを叶えてもらう代わりに、って言ってましたけど。まひるさんはどんなお願いを叶えてもらったんですか?」

「うーんとね、後払い方式なの~、私が宝石の国を救えば願いを叶えてくれるんだって~」

「典型的な詐欺の手口」


 ええ、そんな事ないよぉ。というまひるを無視して、美沙子は俺をじろじろ見る。

 それにしてもこの美沙子という少女は、整った顔付きをしている。妖精の俺だが、顔を近づけられるとドキっとしてしまった。

 まひるの、ほわほわとしたゆるキャラタイプとは違い、美沙子はきりっとした表情でボーイッシュだが綺麗な顔をしている。

 美沙子はしばらく何かを考えていたようで黙っていた。



「まひるさん、少しモッフルを借りていいですか?」


 完全にモノ扱い。

 まひるは、ケーキを頬張りながら「良いよ~」といつも通りのゆるい返事をした。

 美沙子は俺の首を片手でぎゅっと持つ。窒息で俺を殺す気か。

 短い手足をバタバタとさせていると、美沙子は立ち上がり、まひるに断りを入れた後に玄関へ向かいローファーに足を押し込んだ。


 がちゃ、と美沙子が俺を持ったままドアを開けて外に出た。

 まひろの部屋はマンションの四階で、外に出れば物寂し気な廊下がある。

 美沙子はその廊下に誰も居ない事を確認してから、俺をどん、と壁に押し付ける。


 逆壁ドン。

 しかし妖精状態の俺の足が地面につくわけもない。その事に配慮してくれたのか、美沙子は俺の両肩を壁に押し付けるようにして俺が下に落ちないようにした。



「あんた、妖精ってほんと?」

「……一応そうらしいモフ」


 まひるの部屋に居た時の美沙子は、冷たい目線ではあったが、今のようにギラギラとした瞳はしていなかった。

 俺は「ふぅん」と言った後に俺を上から下まで舐めるように見る美沙子に、背筋が凍った。この女、怖い。



「魔法少女って、何をするの?」

「え、そのアークっていう敵からプリチーボールを回収して、俺らの国復活させてほしいな~みたいなモフ」

「死ぬ?」

「……たぶん死なないモフ」

「誰でもなれる?」

「やる気・努力・根性が有れば……モフ」


 ふぅん、とまた美沙子が漏らす。

 あれ、もしかして美沙子、魔法少女に興味あるんじゃね?いや、俺としたら大歓迎なんだけれども。

 美沙子は、俺をまたぎろりと睨んだ後にゆっくりと口を開いた。



「私を、魔法少女にしてほしい」



 マジカ……。

 そりゃまひるの仲間が増えたら万歳、なんて思っていたがこんなにすぐ集まるとは。

 しかし、この美沙子。どうにも魔法少女をやりたくて立候補したようには見えないのだが。

 魔法少女になりたい、という女の子はほぼ「皆の役に立ちたい」なんていう正義感がどこかしらある人間だ。まひるも、(「お願いを叶えてあげる」という餌があったにしろ)そのうちの一人である。



「最初に断っておくけど、あんたの為じゃないからね」


 典型的な、「あ、あんたの為なんかじゃないからね!」というツンデレテンプレワードだが全く萌えない。むしろ寒気しかしない。

 本気で俺の故郷である宝石の国の事なんてどうでも良いのだろう。ぎろりと睨んでくるその目がそう語っている。



「だったら、どうして魔法少女になりたいんだモフ?」

「まひるさんが、何でも願いを叶えてくれる。って言ってたから」

「……美沙子の願いは何モフ?」


 美沙子は俺からの質問にしばらくは答えなかった。

 しかし、数秒後すこし口角を上げながら俺を見てこう言った。




「パパの恋人を殺したい」





 背筋がすうっと冷たい水でも流し込まれたかのようにぶるぶると震えた。

 どう考えても、高校生のするお願いごとではない。



「語弊があるかもしれないけれど、ただ単に殺したい訳じゃないの。正確に言うと『殺しても許される世界』が欲しいの」


 妖精のあんたには、分からないだろうけれど。と美沙子は自嘲した。

 いや、俺元人間だけど分かんねぇよ……。



「この願いが叶うなら、私は魔法少女でも悪魔でも何にだってなってやる」



 へ、ヘビィ……。









「……本当に良いんだモフ?」

「構わない、その代わりに願いをしっかりと叶えてよね」


 に、と美沙子が笑った。

 魔法少女の力を与える、というのは「宝石の国」の妖精たちが適当な奴らばかりだからか、マニュアルの簡易化に努めまくったのか、たぶんどちらともだが異常な程に簡単でさる。



「瀬川美沙子、君は今日から魔法少女モフ!」



 以上、こんだけ。

 美沙子も流石に驚いたようで「はぁ?」と眉を寄せる。

 ごそごそと懐から、宝石の国で採れるマジカルストーンを取り出し、美沙子に渡した。

 美沙子は片手で俺を壁に押さえつけると、離した方の右手でマジカルストーンを受け取り眉を寄せながらまじまじとマジカルストーンを見ていた。美沙子の眉間に刻まれるしわが多くなる。マジ美沙子怖い。


 すると、しゅう、っと音を立ててマジカルストーンは漆黒に染まった。

 ……確か、まひるの時は、淡いピンク色だったな。

 美沙子の心の闇をご丁寧にも反映してくれているのだろうか。マジカルストーンなりの粋な計らいが感じ取れる。


 マジカルストーンに手をやり「変身!」というと変身できる簡単なシステムだが、マジカルストーンは他の人と混じらないように、個々によって色が違う。

 このマジカルストーンに映る色はいわば、イメージカラーみたいなもんだ。

 まひるなら、ペディキュアピンク。美沙子ならペディキュアブラック。

 ……なんていうか序盤から色のチョイスがさ……。

 普通ならレッドとかイエローとかブルーとかから埋まるだろ……。


 美沙子はマジカルストーンを手に入れたことに満足したようで、また俺の首を掴みながら部屋の中に戻った。



「あ、美沙子ちゃん。遅かったねぇ、何してたの~?」

「魔法少女になってました」


 サラリという事じゃねぇから。

 美沙子は俺をぼふ、とまひるのベッドの上に投げた。ほんと美沙子の俺の扱いな。

 美沙子は特に表情を変える事もなく、まひるが先ほどだしたケーキをもぐもぐと食べていた。



「え、美沙子ちゃんも魔法少女になったの?」

「ええ、なりました。まひるさんに憧れて」

「え!嬉しいなぁ。美沙子ちゃんのお願いはなぁに?」

「人類が皆平和に暮らせますように、です」


 このペテン師が。

 美沙子は、また特に表情を変える事も無くケーキにフォークを進めた。

 お前の願いのどこが人類平和なんだよ。なんて心の中で悪態をつく。

 まひるはとにかく、自分の後輩である美沙子が魔法少女の仲間になった事が嬉しいようで、にこにこと笑いながら「嬉しいなぁ、嬉しいなぁ」と繰り返していた。



「まひるさん、魔法少女って具体的にどんな事をするんですか?」

「え?モッフル言ってないのぉ? 魔法少女がどんな事をするのか先に説明しなきゃダメだよ。それじゃ詐欺だよ!」


 まひる、お前俺が具体的な魔法少女の説明する前に「魔法少女なる!説明は後で良いよ!」って言った事脳みそから消してるみたいだな。

 それじゃ詐欺だよ!ってまんまと詐欺に引っかかたのはお前もだろ。



「時間が無かったんだモフ……」


 ほんとは、説明する間もなく、美沙子がとんでもない眼力で「私を魔法少女にしろ」と脅してきたのでそれにビビッてサッサと美沙子を魔法少女にしただけだったんだが。



「しょうがないな、先輩魔法少女のまひるちゃんが教えてあげるよ~! えっとね、魔法少女ってのはね、魔法が使える女の子の事だよ!」

「説明になってませんけど」


 人差し指をぴっと立ててドヤ顔でそう言ったまひるをサクッと美沙子が切り捨てた。

 確かにまひるのは全く説明としてなりたっていない。

 いや、これまひるの説明を任せると、夜中までかかるな。そう思い俺は口を開いた。



「アークっていう、悪者を倒してそしてそいつらが持っているプリチーボールを回収するのが魔法少女の役割モフ」

「アークって具体的には?」

「あ、えっと、なんていうか……こうでかくて、黒くて、なんというか……悪者っぽいやつモフ」

「なんかね~悪いぞ~! って感じのやつだよ~」

「まひるさんも、モッフルも説明能力が乏しいのは良く分かりました」


 美沙子はじとっとした目で俺達を見た。

 お前らまとめてバカ。とでも言わんばかりのその目である。

 いや、アークの説明なんか難しいから。つーか、会えば分かるし。なんて俺は心の中で言い訳をしながら、また口を開いた美沙子の方を見た。



「まひるさんの能力は、花を出すことですよね。私の能力は何ですか」

「美沙子は、まひるみたいに魔法少女になっても能力が出ていないモフね……」

「……もしかして、それって弱いって事ですか」

「いや、魔法少女にも二パターンあるモフ。一つ目は、まひるみたいに変身しなくても常に能力が発動しているタイプ。そして二つ目は美沙子のように変身した時にしか能力が発動しないタイプモフ」



 ……なるほど、と美沙子が小さく漏らす。

 まひるは良いでしょう~とでも言わんばかりのドヤ顔でぱっと手から花を出した。

 まぁ前者のパターンの魔法少女は、ポンコツな能力な奴が多いという事は秘密にしておく。



「まぁ私の能力は、変身してからのお楽しみって感じですね。それよりいつもまひるさんはアークとどうやって闘ってるんですか?」

「うーんとね、花を出してね、長い茎をアークの首に巻き付けてきゅってリボン結びみたいな~?」

「世に言う絞殺ですね」


 おいやめろ、まひるのマジカル☆りぼん結びを冷静に分析するな。

 まひるは「こうさつってなぁに?」と首をひねっている。お前は知らなくていいよ……。



「それ以外の戦法は?」

「あ、今考えてるのは、アークを巨大な水槽に閉じ込めてそこにまひるの花を詰め込んで窒息させるっていうのモフ……」

「あの、もしかしてまひるさんもモッフルも頭悪いですか?」


 まず、水槽に閉じ込められるならそれまでに倒せ。

 花で窒息させるより水槽に水を入れる方が早い。


 と、美沙子はサクサクとツッコミ倒した。確かにな。なんて俺もまひるも顔を見合わせた。

 これからの俺達五人はペディキュアのブレーンは美沙子に決定。



「美沙子ちゃんの能力は何だろうね?」

「……さぁ、でも触れた奴を皆殺しとかなら便利そうですよね」


 まひるは「おもしろい~」とケタケタと笑っているが、見ろよこの美沙子の目。

 こいつ、マジな目をしてやがる……。


 お前、俺と契約するより死神の(かた)とかと契約した方が良かったんじゃないか……なんて思いながら、俺はまひるの出していたクッキーをぱり、とかじった。


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