捨てられた攻略対象と私
2014.11.23に書いたっぽい。
多分6000文字くらいでちゃんと書き切る予定だったんだけど、途中で飽きて投げっぱなしエンドに。
私はこの世界が乙女ゲームの世界で。そして自分はこの世界でモブキャラ的立ち位置である事を、かなり昔から知っていた。
ここは、「へや☆プリ」という乙女ゲームの世界。
その乙女ゲームについてざっくり説明すれば、兄弟である二人の攻略対象とメインヒロインが運命の悪戯(笑)でルームシェアする事になり、その二人に取り合われながらもあんまーーいルームシェア生活を行うというもの。
私こと、安達風子はそんな「へや☆プリ」の世界でメインヒロインなんて素敵な立場でもなく、メインの三人が暮らす部屋の隣人として転生した。
お隣のメインヒロインの唯ちゃんや、イケメンの二人とは合えば挨拶をする程度。
どんなにお隣がうるさかろうと、「うるせぇ!!黙ってろ!!!」なんて壁ドンや「引っ越ししろ!!!」なんて殴り込みに行く事もなく、この数年間ただ良い隣人を演じてきた。
メインヒロインの唯ちゃんとはそこそこ仲が良かったが、あの攻略対象の二人と関わるとロクな事が無さそうだから関わらずにいよう。という信念でそれなりに楽しくやってきたモブ生活。
ほら、イケメンや美女って見てるだけで良いって言うでしょ。
私もそうだと思うし、ああお隣さんは今日も楽しそうで。なんて思いながら過ごしていたのだ。今日までは……。
*
ぴんぽん、とインターホンが鳴った。
誰だよこんな朝早くから。とふわとあくびしながら扉を開く。
扉の前に居たのは、メインヒロインである唯ちゃんであった。
やけににこにこしている彼女にイヤな予感。顔を上げて「お、おはよう」なんて言ってみれば唯ちゃんはぱん、と両手を合わせた。
なに?そっから地面に手やって錬金術でも始めんの?なんて考えていた時、彼女は意外過ぎる言葉を口にした。
「風子ちゃん、スマン! こいつ引き取って!」
ばちん。とウインクをキメながらのメインヒロイン唯ちゃんの発言に私は開いた口が塞がらなかった。
そーっと目線を横にやると、唯ちゃんの横には、今世紀最大に関わりたくなかったで賞第一位に輝く、攻略対象であるイケメンさんが突っ立っていたのだ。
綺麗な茶髪の髪に、180センチくらいであろうか。軽く見上げなければいけないほどの身長。
眉は不機嫌そうに寄せられているが、小さな輪郭とすっとした鼻が印象的。
いや、こうやって見てるだけだったら良いんだけどね。何かさっき「引き取って」とかいう謎のお願いが聞こえた気がする。いや、きっと気のせいだけど。
唯ちゃんはぱん、と手を合わせてもう一度「こいつ引き取って!!」と言ってきた。いや、マジであんた何言ってんの?
「ま、ま、待って唯ちゃん……? どうしてそんな事に……?」
「いやー。そのさー。私さー景ちゃんの方が好きでさー。最近景ちゃんルート攻略し終わったからさー。純の方が邪魔になっちゃってさ」
てへと笑う唯ちゃん。
私が唖然としているのに気づいたのか、「あ、ごめん攻略とか言っても分かんないよね……」と言いだした。
いや、分かるよ。
メインヒロイン唯ちゃんを取り合うのは「高島景・純」なんて兄弟。
兄である「景」は医者。メガネをかけていて、どちらかというとクールなタイプ。
弟であり、今唯ちゃんの横に突っ立っている「純」は高校生で、俺様タイプ。
へや☆プリでは、この二人に取られあいながらゲームを進めていき、最後にどちらかのルートを選び、選ばれなかった方は部屋を去るという内容。
「あのね、風子ちゃん。とりあえず、私景ちゃんの方が好きでさ、やっぱり私としては景ちゃんと二人で暮らしたいわけよ」
分かる。その気持ち分かる。
好きな人と二人で暮らしたいよね。
「だから、純の事引き取ってくんない?」
分からん。その気持ち分からん。
なぜ選ばなかった方の攻略対象を隣人に押し付けようという考えに至る?
「待て待て待て……何でそうなる……」
「景も風子ちゃんはいい人だしって言ってたし。風子ちゃんいまルームシェアしてる相手いないでしょ? 彼氏に最近逃げられたばっかりだもんね」
ふぐぅ、と唯ちゃんの言葉が胸に刺さる。
そうだ。私は最近彼氏と別れ「」な部屋の家賃をどうしようと考えていた所だった。
だから、大家さんに頼んで新しくルームメイトでも探そうと思っていた。
私からすれば新しくルームメイトを探す手間も省けるし、ありがたい限りなんだけど。
いや、それでもやっぱりこの攻略対象なんかと関わると良い事がなさそうだ。私のモブ人生が危うくなる。
「や、やっぱルームメイトは自分で探すし……」
頬をぴく、と揺らしながらそう言うと、初めて「高島純」は口を開いた。
「俺、あんたと一緒に住みたい……」
は?
まさにそんな声が漏れ出しそうになった。
何故か高島純は泣きそうになりながらそう言う。いや、お前マジでなに言ってんの?
唯ちゃんも「ほら、純がこういうからさー」なんて呆れ気味。
「俺、安達さんの事が好きなんだ……」
は?
唯ちゃんは、このこの。なんてニヤニヤしながら肘で「高島純」の事をつつきながらそう言う。
いや、待て。まじで待て。
私の事が好きだと?挨拶した事しかないのに?
高島純は、視線を斜め下に落としている。
長い睫が顔に影を落としていて、今にも泣き出しそうな高島純の表情を見ていれば謎の罪悪感が。
「ま、まぁとりあえず話だけでもする……?」
何だかんだ言っても私も女なので、自分の事を好いてくれていると言っているこの男に「帰れ」なんて言う事も出来ない。
唯ちゃんとバイバイしてからとりあえず「高島純」を家にあげると、扉をばたんと閉めて、食卓の椅子を引いてそこに座った後にやっとした笑みを浮かべた。
「騙されたな!!! 流石俺!!」
は?
なんだそのうざい笑顔。
「……何言ってんのあんた?」
「唯に家は追い出されたけど、隣の家に住んでたら唯にいつでもアプローチできるだろ!! あと壁越しに唯の声とかも聞こえるだろうし……だから安達風子、お前とルームシェアする事にした!」
「やっべぇ警察呼ばなきゃ」
攻略対象、高島純のメインヒロイン唯ちゃんへの愛はかなりカンストしていた。
こんな奴とルームシェアとか絶対にありえない。なんて思いつつ私はテレビをつけた。するとちょうど星占いのコーナーがはじまった。
『今日の双子座の運勢は、最悪~!!!』
うっわ、超あたってる。なんて双子座の私はテレビを見ながらそう考えていた。
はいはい、どうすればハッピーになれるの。なんて思いつつまたテレビを見る。
『そんな双子座の人も大丈夫! 今日誰かとルームシェアをはじめれば超ハッピーになれるよ!』
あれ、人類の中で双子座なのって私だけだった?こんなピンポイントなアドバイスありえる?
「ほら、星占いもそう言ってんだろ。風子、俺と一緒に住め!! そんで俺が景から唯を奪う手伝いをしろ!」
「うるせぇ、巣に帰れストーカー野郎」
あ、って言っても隣の部屋から追い出されたんだっけぇ~~なんてわざとらしく言えば、高島純は頬をひくつかせる。
だいたい「俺が景から唯を奪う手伝いをしろ」ってどんな命令だよ。っていうか何様のつもりだ。私の部屋に住みつきたいっていう願いだけでも有り得ないのに。
なんかそんなこんなで私とこいつの謎のルームシェア生活は始まった。