弟に寝取られた話
2014.12.14に書いてたらしい。
4289文字。BL気味?
オチの意味が自分でもよく分かりません。
私の名前は田中きららである。
田中きらら、なんて苗字と名前の温度差が半端じゃない。
自己紹介をすれば大体くすくすと笑われる。本当に名前だけで笑いを取りに行ってるなんて我ながらなかなかクールな女であるとは思う。
せめて私がきらら、なんていう名前に似合うようなキラキラした女の子なら良かったのに。残念ながら私はキラキラ感ゼロのアラサー愛煙家である。
高校時代のあだ名は「キラ」
新世界の神になるつもりは少しも無かったのに。
とりあえず「きらら」なんていう名前をつけた両親よ。
夜空にキラキラと輝くような子に育ちますように。という発想からして狂っている。
夜空でキラキラ輝いてたら、それはもうお星さまじゃないか。死んでるじゃないか。
そんな名前の由来を聞いた時は、流石に助走を付けてぶん殴ってやろうかと思った。まぁ私の脳内ガンジーが非暴力を唱えたのでぐっと抑えたが。
結局私は、地上では特にキラキラ輝く事も出来ずに生きている。
「きらら、別れよう」
ファミレスでミラノ風ドリアを俯きがちに見ながらそういう彼に「は?」と言う声が漏れた。
「待って、何言ってんのあんた急に」
「俺、好きな人が出来た」
そう言う星治。
星治は私の大学時代からの彼氏。星治ときらら。銀河系カップルなんて大学時代はよくサークルの皆から茶化された。
星治は柔らかい髪によくにあった暗めの茶髪で、はっきりとした目鼻立ちが素敵な人だった。星治は世に言うイケメンで、私は隣を歩くとき優越感に浸っていたもんだ。
え、待って。別れるって何さ。
それより、好きな人が出来たって何さ。
「聞いてくれよ、スッゲー可愛いんだ」
うるせぇ、黙ってろ。
興奮気味に星治は新☆カノのどこが可愛いだのを元☆カノの私に語ってくる。お前にやさしさというものは無いのか。まぁ頭悪い奴だとは知ってたけど。
喫煙席の特権である重たい灰皿が鈍器に見えたのは初めてであった。
「あ、きいちゃんお帰り」
家の扉を押して、靴を玄関でぽいぽいと靴を脱げばそんな声が聞こえた。
だっとキッチンまで足を運ぶと、そこにはやはり私の双子の弟であるひかるの姿があった。
「びがる゛」
キッチンで、可愛いエプロンを付けながら私の好きなカレーを作ってくれている、ひかるの姿に涙腺崩壊。
とりあえず食卓の椅子を引いて座りこめば、火をちゃんと落とした後にひかるが「きいちゃん大丈夫?」と私を見て言う。
田中きららと田中ひかるは双子の兄弟である。
ちなみに私が姉で、ひかるが弟。
二卵性双生児なので顔は似ていない。あと性格も。
ひかるは、長い睫にくりんとした目をしている。正直言ったら、髪の毛をちゃんと伸ばせば「女」と言っても通るレベル。
ひかるはかなりの美少年。むかし喧嘩した時、私が唯一思いついた罵倒の言葉が「まつげファサ男」であったくらいに。
私とひかるは二人暮らしをしている。
大学の時は、私は地元の大学でひかるは違う県の国立大学に行っていた。けれども就職時に一緒に上京したのだ。
母に「あんたは何もできないから」という理由で私とひかるは一緒に住む事になった。
その時は「そんな事ないのに」と思っていたが、今となってはその母の優しさに感謝している。ひかるは、家事全般が完璧なのだ。
昔から母の手伝いをしっかりとして、勉強もしっかりとして。ひかるは私と違ってデキた弟だった。
私は、ひかるの事が非常に羨ましくもあったが、不思議と嫌いにはなれなかった。……というよりも、少しブラコンに足を踏み込んでいるような気もするレベル。
「ひかる、振られた」
「え、……ええ! 本当に! なんで!?」
ことん、とカレーの入ったお皿とを私の前に置く。ひかるはエプロンで自分の手を拭いた後に、ええええ?とあわあわしていた。何で振られた本人であるきらら姉さんよりあんたが驚いてるのよ。
あまりにも慌てるひかるに、少し涙も引っ込む。
そしてひかるは私の前の椅子を引いてそこに腰かけた。
「新しく好きな人が出来たんだって。……あーでもせいせいするわーマジせいせいするわーあんな男別れて正解だわー正直私惰性で付き合ってたみたいな所あったしー」
やばい、このセリフを本当に自分が言う日が来るとは思わなかった。
ひかるは困ったように眉を下げて「きいちゃん大丈夫?」と言っている。ごめん、大丈夫じゃない。
「……きいちゃん、僕明日恋人をさ、きいちゃんに紹介しようと思ってたんだけど……ごめんやめとくね。今日は二人で飲もうか」
「いやいやいやいや待て待て」
今お前なんて言った?恋人できたって?
私とひかるは、それこそ子宮からのお付き合いだが、ひかるに恋人ができたなんて初めて聞いた。
ひかるがモテないから恋人が出来なかった訳ではない。ひかるはモテ過ぎているのだ。
小・中学時代からバレンタインにはロッカーにテロかと思う程のチョコが詰め込まれていた。まぁ私がほぼ食ったけど。
高校時代は、流石に親も「ヤバい」と思ったのかひかるを私立の男子校に入学させた。しかしひかるの溢れんばかりのモテオーラと、男子校に似合わないゆるふわな外見と性格で、ひかるは一年生にして男子校のアイドルと化していた。
大学では様々なサークルの勧誘に会い、何度か新歓コンパなどに顔を出したようだが、ひかるの溢れんばかりのモテオーラはサークル内の友情・愛情関係をことごとく破壊させ、サークルクラッシャー(通称サークラ)の名を欲しいままにしてきた。
あまりにもキラキラとしたひかるの人生。もうあんたに「きらら」の名前を献上したいよ。なんて思ってはや二十数年。
社会人になってもなおモテ続けたひかるのハートを射止めた女の子がようやく現れたとは。きらら姉さんは少し泣きそうだよ。
次の日、私は家に帰る前にケーキ屋に寄ってひかるの好きなチーズケーキを買って帰った。
昨日振られたばかりで傷心気味な私だが、自分の弟に彼女ができたのを祝わないわけにはいかない。きっとひかるが好きになるくらいなのだから、同じようなふわふわした可愛い子なんだろうな。なんて思いながら、家のドアを押した。
玄関にある、見覚えのある革靴に首を傾けたがきっと気のせい。
「おかえりきいちゃんー」とキッチンから聞こえるひかるの声に惹かれるようにしてリビングに向かう。
そこには、にこにこ笑うひかると、私を見るなり「ヒッ」と声を上げた元☆彼氏星治の姿があった。
「な、なんできららお前がここに!!!!」
「それこっちのセリフ!! あんた誰に許可得て、きららズハウスに足踏み入れてんのよ!!」
「きいちゃん紹介するねー」
ひかる、お前はもうちょっと空気読め。
昨日別れた彼氏が、次の日家に帰れば自分の弟の横に立っている。なにこの状況。
いや、でもひかるは昔から捨て猫とか放っておけないタイプだし。その延長線上で、このゴミ男を拾ってきたという可能性もある。
「僕の恋人の星治くんだよー」
「何かもうツッコミどころが多すぎて、何から言えばいいか分からない」
整理しよう。本当に。
まず何で、ひかるは男なのに星治を恋人として連れてきたのか。
そして次、なんで運悪く星治なのか。
とりあえず、チーズケーキを食卓に置いた。
これ以上持っていれば、いつか星治の顔面にぶん投げてしまいそうだったから。
「えっと……とりあえずひかる? その、君の横の人は男の子なんじゃないかな?」
「きいちゃん……僕男の人が好きみたいなんだ!」
「きらら、それで俺も同性愛者っぽい!!」
「なにこのカミングアウト頂上決戦」
なに、もう私と星治が元恋人関係だった事もカミングアウトいっちゃう?
昔からひかるは女っぽい奴だと思ってたけど。星治、てめぇは違うだろ。
とりあえず、私は嬉しそうに笑うひかるを見て、隣のそいつは昨日まで私の恋人でした。なんて言う事も出来ずに居た。
「きいちゃん、僕、明日から星治君と一緒に住もうと思って」
「なんて? もう一回言って? そしてできれば嘘だと言って?」
「星治くんと同棲しようと思って!!!」
私と星治の目があった。
私は星治といつか同棲できたらな~♡なんて夢みていた。そんな夢が別れてから叶うとは。
「いやー……そのひかるよ。そこの星治君はね、私の元彼氏なんだわ……」
修羅場、突入。
ひかるは「え」と声を漏らした後、ぽろりと涙を流し始めた。
「ご、ごめんねきいちゃん。僕何にも知らなくて……」
「おいきらら! お前なにひかるの事泣かせてんだ!」
もう何なのコレ。
とりあえず私と星治の気持ちは一致していて、とにかくひかるを泣きやまそうと必死だった。
昔から私は、ひかるという美少年の涙に弱いのだ。泣かれれば毎回慌ててひかるを泣きやまそうと必死だし。それほどにひかるの涙はブラコン気味の私の胸を痛ませるのだ。
「ひひひ、ひかる? ひかるがしたいなら同棲いいよ……」
「ほんとに? きいちゃんと僕と星治君、三人でこれから一緒に住んでも良い?」
涙交じりに儚く笑う、ひかるの姿。断れる訳がない。
この日から始まった、弟と元カレという謎メンでの同棲生活。
「おい星治、あんたさっさとひかると別れて元居たゴミ捨て場に戻りなさいよ」
「断固拒否、俺はひかると一緒の墓に入る」
「それ私と一緒の墓に入る事になるからやめろ」
「きいちゃん! 星治くん! 喧嘩はやめなよ!」
「「いや、こいつが悪い」」
星治とは、付き合っていた時からよく喧嘩していたけど。まさか弟を取り合って喧嘩する日がくるとは。
昔は「きららお婆ちゃん」と呼ばれる日がくるのにひやひやしていたが、今ではもしかするとこの二人が結婚してしまうという日がくるかもしれないという事にしている。
同性結婚を否定しているわけじゃない。
私のひかるを星治なんかに取られる事が腹立たしいのだ。
前は政治になんか興味は無かったが、今ではこの二人のお陰で少しは興味が湧いて生きた。ハナエはきょうは会社休んでるかもしれないけど。とりあえず、私は今日選挙行ってきます。