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ボツ&番外編たち  作者: 佐伯琥珀
よく分からない短編たち(2014)
1/23

オタサーの姫転生


5479文字。

(あらすじ)

私は、ある日ここが乙女ゲーム「キャン☆プリ」の世界で、自分がオタサーの姫的悪役キャラ「姫川恵理子(通称エリー)」として転生した事に気づく。

このままでは、オタサーのメンズ達にも優しい天使メインヒロインに嫉妬しメンヘラへの道を爆走する事に。このままではいけない!!ニーハイを脱げ!!ふにゅう……などの謎の姫擬音はゴミ箱へ!!サヨナラ黒髪ぱっつん!!ウェルカム脱色ゆるふわモテヘア!!

そのように私は脱オタサーの姫作戦を行うが、流行りのゆるふわモテヘアに変身した自分を見て衝撃を受ける。……もうマヂ無理……これただのファンキーなブス……。そんな風に絶望していた時、救いの手を差し伸べてくれた人が居て……。






えりぃ♡@erieritaso

わたしのせかいがこわれてく。とってもたいせつなのに。わたしがわるいの?




自分の部屋のベッドに腰かけて、そんなメンヘラツイートを打っていた時だった。

 ぱっと、鏡の中の自分と目が合う。そんな時、パッと前世の記憶とやらを思い出したのだ。



 やばい。ここ乙女ゲーム「キャン☆プリ」の世界だ。


 スマホを持つ手の震えが止まらない。

 マジで?いや、マジで?と私は鏡に映る自分を見てわなわなと震える。



 そう、私は悪役キャラとしてこの乙女ゲームの世界に転生してしまったのだ。

 まだそれだけならいい。世の中の皆さんは、悪役だけど美人じゃないですか。

 だけど、ご覧よこの鏡に映る我の姿を。



 重い黒髪の姫カット。いまだにいじり方が良く分からない為放置された眉。

 とある芸人さんを彷彿とさせる丸い赤メガネ。

 すっぴんでも可愛いエリー♡なんて言われたくて化粧はほぼしていない。なお顔面ピッチコンディションは瀕死の模様。


 猫柄のニーハイ。

 好きなチョイゴスロリブランドで固めたファッション。



 どうみても、オタサーの姫です。ありがとうございました。



 ありえない。でもありえてる。

なんと残念な事に、自分はこの「キャン☆プリ」の中で「芸人枠」として名高い、「姫川恵理子」として転生してしまったのだ。

ちなみにあだ名はエリー。いや、あだ名というより芸名の方が正しいのかもしれないけど。



 エリーは、乙女ゲーム界きってのメンヘラクソビッチである。


 誰にでも優しいメインヒロイン様は、オタサーのメンズ達にも優しく接する為徐々にオタサーの均衡は崩れ、エリーの姫的ポジションは揺らいでいく。

 メインヒロイン様がメンズ達に優しくするたびに、エリーのメンヘラ化は急速に進んでいき、エリーはメインヒロインに嫌がらせを繰り返す。そして最後はメンヘラリスカエンド。やばい。



「このままじゃ、メンヘラ拗らせてバッドエンド……」


 そう自分で呟いてみる。やばい。それはやばい。


 とりあえず、メンヘラツイートを破棄し鏡の前に立ってみる。

 やはり、オタサーの姫。乙女ゲームの世界に転生するお話などは、何度か小説で呼んだ事があるけど、こんな悪役転生は夢に見てたのと違う♡



 と、とりあえず、この姫スタイルから脱却せねば。キラキラキャンパスライフを満喫するのだ。そう思って自分のクローゼットを開いてみる。

 そこにあるのは、ババシャツにレースをつけたような服や、フリフリの服ばかり。

 だめだ、このクローゼット。救いがない。



 と、とりあえずメイクをすれば顔面ピッチコンディションも少しはよくなるのでは?と化粧ポーチを取り出してみる。

 中に入っているのは、グロスとビューラーだけ。これでどうキラキラキャンパスライフを送れと?


 鏡の中の自分をもう一度見てみる。

 そう言えば、天界にはケツに割れ目を入れる天使がいるという話を聞いた事がある。

 今思うのは、ケツの割れ目なんか無くてもいいから、瞼にもう一本線入れといてくれよ。という事だ。

 女の子は、瞼の上に線があるかないかだけでぐっと印象が変わる。そんな生き物だから。



 とりあえずどうするよ、エリー。

 わたし、こんな低スペック悪役ヒロイン見たことないよ。








 次の日、私はエリークローゼットの中でもまだ姫度の低い服を着て大学へ向かった。

 しもむらで買った服だが、あのフリフリの服を着るよりかは良い。


 勿論ニーハイはゴミ箱へシューーーット。

 むちむちの足がひどい。よし、今日はきゅっと足を引き締めてくれるタイツを買って帰ろう。



 オタサーのメンズ達に会いませんように……。と願いながら私は、教室に向かう。

 確か、一限目は専攻科目だから、オタサーのメンズ達と会う事はないだろう。あ、ちなみにエリーは文学部。オタサーの皆達は理系の学部の人が多い。なに学部まではちょっと把握しきれてないけど。



 教室に入れば、さっそくゆるふわ女子が「あー今起きたのー?名前書いといてあげるよ」なんて、寝坊したのであろう友達ときゃっきゃっと楽しそうに電話をしている。

 私はその横を俯きながら、いつも座っている辺りに足を進める。


 前過ぎず、後ろ過ぎず。

 そんな目立たないいつものポジション。机の上にアクシーズ・フォームで奮発して買ったカバンを置く。



「エリー! お前どうしちゃったんだよ!!!」


 するとそんな声が。

 この声だけ聞くと、男友達に聞こえるでしょ。

 ぱっと顔をあげる。残念、男まさりな女オタク友達の「ヨーコちゃん」である。



「あ、ヨーコちゃん……」

「俺のエリーが、ニーハイを履いてないなんて……」


 そう言って、ぎゅっと抱き付かれた。

 今までならここで「ふにゅう……」なんていう姫擬音語を用い感情表現をしていた。

私は「アッ、やめて貰って良いッスか」と言いそうになるが、急にそんなキャラチェンをすればヨーコちゃんに怪しまれるに決まっている。


 なんと答えようか。そう思っていた時、またすっと人影が。



「エリー! 今日は何か服装がいつもと違うね」


 そう言ったのは、女オタク友達「タカちゃん」だった。

 タカちゃんは、アニメの缶バッチの付いたカバンをどん、と机の上に置くと私に抱き付いているヨーコちゃんを見た。



「ってオイイイイイイイイイイ!!!!!! ヨーコちゃんあんた朝からなに抱き付いてんだよ!! 皆勘違いするからね!?!?? エリーとヨーコちゃんデキてるって勘違いしちゃうからね!?!?!?!?」


 そう、タカちゃんはとある漫画を彷彿とさせる勢いのあるツッコミが持ち味の女オタク。

 私は、そんな大声を出したら教室の皆こっち見るって!!!と辺りを見渡したが、残念ながらこんなショートコントを毎日していた私たちにもう慣れきっているのか、誰も私達には注目していなかった。



「でもさ。エリーの絶対領域はさ、やっぱちょっと『フツウのヤツラ』には刺激がつよすぎたから、俺はこれで良いと思うけどな」


 ヨーコちゃんはそう言って、バチンとウインクをした。




 やばい、思ったより、前世の記憶を取り戻してからの生活きつい。

 今までのエリーの行動を恨む。なんでもっと早く記憶取り戻してくれなかったんだ。


 スマホを開けば、自分の所属している漫画読み専サークルのL1NEが稼働しまくっている。内容はエリーを讃えるものばかり。


どうしよう。どうしよう。エリー。ほんと記憶取り戻すの遅い。

もうオタサーの姫としてのポジションが揺るがぬものになっている。



 記憶を取り戻したからには、キラキラキャンパスライフを送りたい。

 しかし、私とて人の子。ここまで仲良くしてもらっていたヨーコちゃん、タカちゃんそしてオタサーの皆さんを切り捨て「おら今日からお前らと関わるのやめっぞ!」なんて言える訳がない。


 どうすればいい。どうすればいい。

 そう考えていた時、ぴんと一つのアイデアが浮かんだ。



 そうだ。キラキラモテ子になって、本当の姫になればいいのだ。

 リア充たちから見ても「ウッ……これは本当の姫だ……」なんて認められる位になれば、リア充たちとも仲良くなれるし。それで本当の姫にフォルムチェンジできても、オタサーの皆さんや、ヨーコちゃんタカちゃんと上手くやっていけばいい。万事解決。



 思い立ったら即行動。

 私は、アプリを開き、イマドキ流行りっぽい美容院を予約。バイバイ黒髪ぱっつん、ウェルカムゆるふわモテ子ヘアー。


あ、直接電話するのはちょっと無理なんでネット予約ですけど。









「ありがとうございましたー」


 イオソモールの中にある美容院のお兄さんの声に送られ、とりあえずトイレに駆け込む。

 エリーことわたしは美容院で恥を捨てて「いまどきの女の子にしてください!!!」と言ったのだ。



 トイレの鏡に映る自分。美容院で鏡をずっと見ていたが、また見てみる。



 明るく脱色されたボブスタイルに、ゆるふわパーマ。

 しかし全く私に似合っておらず、「いまどきの女の子」というよりは「ファンキーなブス」の方がしっくりくる。あれれー?おっかしいぞー?


 まぁパーマが当たりすぎて「レゲエブス」になるよりかはまだマシだったのか?なんてクッソ低い心のハードルを越えていた時、なんと驚き。メインヒロインである「西野さん」がトイレから出てきたのだ。


 彼女は私をちら、と見た後に隣でさあああっと手を洗う。

 そして、綺麗なハンカチをカバンから取り出すと、丁寧に手を拭いて居た。



 綺麗に染まっている茶髪に、ぱっちり二重。すっと通った鼻筋。

 全て私が持っていないものだ。



「あ、に、西野さん……」


 なんで私、名前呼んじゃうかな?

 この人メインヒロインだし、エリーはこの人に嫉妬の炎を燃やして最後は自滅エンドなのに。


 西野さんは、目をぱちくりとさせた後に、少し困ったように眉を下げた。



「あの、すみません。誰ですか?」


 エリー、認識すらされてなかった。

 もうだめだ、恥ずかしい……。なんて思って俯いた時、西野さんは「もしかして姫川さん!?」と声を上げた。



「アッ、そ、そうです、姫川恵理子です……」

「凄い! 髪型変えたんだ!」


 わーすごい!と西野さんは私の髪の毛をまじまじと見る。


 髪型を変えた女の子へのお世辞トリプルコンボと言えば、「似合ってるよ」「可愛いね」「そっちの方が良いよ」であるが、そのどれも飛び出していない事から、エリー・ファンキーブス説は確固たるものであるという事が証明された。



「でも、そんなのシナリオにあったっけ……」


 ぼそ、っと西野さんが呟いた。

 待て待て待て。もしかしてだけど。もしかしてだけど。西野さんも転生してる系の人なんじゃないの?


 ごく、と唾を飲み込む。

 しかしここで「お前も転生したのかー!」なんて急に言い出せば、もし違った時のダメージが半端じゃない。ここはちょこちょこヒントを小出しにしていく方法でいこう。



「キ、キャン☆プリ……」


 そう呟いてみる。

 ここが乙女ゲームの世界だと気づいていなければ、西野さんは「なに言ってんだこいつ」で終わるはずだ。


 ぱっと西野さんの顔を見てみる。

 彼女はわなわなと震えながら「も、もしかしてあなたも?」と言ってきた。


 

「う、うん……」

「エリーに転生って……」


 ぷ、と西野さんに笑われた。

 大丈夫。私もあなたの立場なら笑ってる。

 というより、メインヒロインに転生しているのが羨ましすぎる。いつも西野さんの周りには人が溢れているし。

 オタサーの姫・エリーに転生なんて、私は前世どんな大罪人であったのであろうか。



「それにしても……髪型似合ってないね!!!」


 西野さんは、私相手には猫を被っていなくて良いと判断したのかプスス、と口の前に手をあてて笑った。

 エリーならここで「ふにゃあ……そんな事言われたら心がしくしくする……」なんてポエムツイートをするところだが。わたしは「ですよね」なんて笑っておいた。



「ち、ちょっとでもイメチェンできないかなって頑張ってて……」

「なるほど……おもしろそうね……!!!!」


 西野さんがそう言って笑った。

 流石エリー。イメチェンを考えてるだけで「おもしろそうね」なんて言われるなんて芸人の鏡である。売れない芸人どもはエリーを見習うが良いよ。



「エリー、彼氏は!!!!!?」

「い、いない」

「でもオタサーの姫だよね!!!!?」

「アッ、オタサーの姫っていうより、サークル内で皆がエリーの事を取り合ってるから、サークルクラッシャーっていう方が正しいかも……」


 ふうん、と言った後に西野さんがすっと笑みを浮かべる。

 トイレでこんな自分の姫談義をするなんて私は一体何をしているんだ。



「わ、わたし、その、頑張ってイメチェンしたいっていうか……」

「うんうんうん!!! だよね!! エリー! 頑張ろうよ! 私も手伝ってあげるからさ!!! 絶対なんとかなるよ! 頑張ろう!!」



 メインヒロイン西野さんはそうやって私の手を取りぶんぶんと上下にシェイキング。

 なにこの熱さ。なんて思いながらもこの日からエリー・オタサーの姫脱却作戦が始まった。





 メインヒロインである西野さんと仲良くなったのだから、エリー悪役化は回避できたのだが、エリーのオタサーの姫的ポジションは中々揺らがない。



「おい。エリーは今日俺と帰るんだ」

「何言ってんだ。エリーは俺と帰るんだよ」


 エリーの所属する「漫画読み専サークル」

 エリーことわたしは何度もこのサークルをやめようと試みたが、何度挑戦しても上手くいかない。



「みんな……私の為にあらそうのはやめて……」


 本音を言ったまでだが、言ってから「しまった」と思った。

 なんでこんな姫発言をしてしまったのやら。


 今日は「西野さんとオシャンティな女子大生っぽい服を買いに行く」約束をしていたのに。


 私は、近くの鏡に映る自分を見た。

アイポチという人口二重メイキンググッツにより、少しはぱっちりした目元。少しはマシになったけど、まだまだオタサーの姫ポジションは揺るがない。







 乙女ゲームの世界で、オタサーの姫やめました。

 そうやって〆る事が出来る日が来る事を、心の底から祈っている。


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