action2/19
紡と十夜が自室に帰った後、咲夜は回収してきて貰ったフロッピーディスクのデーターを読み返し始めた。
当時、クローン技術の研究は本当に魅力的だった。科学者として、研究者として、本能を駆り立てられるくらいに。
それは多くの科学者を魅了したのだ。科学者にとっての最大の謎、人類の神秘。多くの協力者の元、研究は極秘に行われていた。
これが成功すれば、人の科学はもっと発展する。誰もがそう思っていた。多くの者は禁断の扉の先を知りたがった。
ある者は己の欲のために。ある者は地位と名誉のために。欲した。知りたいという底なしの欲望のため、彼らは禁断の扉へ手を伸ばした。
そして、ついに生まれたのだ。始まりのアダムとイヴが。多くの者が歓喜した。生まれた二人を見て希望を抱いた。
全てを変えてくれる希望を背負わされた二人。だが、誰も知らなかった。この研究は世界すら揺るがすもので、どれだけの被害が出るのか。
本当に彼らは“知っていた”のだろうか。禁断の扉が何故、禁断と呼ばれているのか。何故、触れてはならないのか。
“無知”だったから。だから変えようとした。この世の無知を有知へと。知りたいという知識欲は、行きすぎた知識欲は最早貪欲に過ぎない。
≪「無知」とは時に罪であるが、人に仇をなすことはない。「有知」とはこの世の理全てを知っていることである。それは世界の理、人の理、自然の理、全てにおいて。それは全知とも言える。
人は世界の理と自然の理を知らなければならない。生きていくために必要だからだ。しかし、いかなる時があろうとも、決して人の理に触れることは許されない。
人の理について触れるのは禁断である。また、知識欲は時には仇となる。欲が深ければ深いほど、それは鋭い牙となりて人々に仇をなすことだろう。
「有知」、否、「全知」とは生きとし生ける者が犯してはならない大罪である≫
「実に罪深い話だよ……」
今の現状、これは相応の罰なのだろう。本当に身勝手だ。残酷な運命を、宿命を背負わせておきながら。
きっと、死しても許されることはないのかもしれない。彼ーー咲夜は一人、ティーカップに入れた紅茶を口に含みながら、悲しそうに笑った。
やはり、真実を明かすにはまだ早かったのかもしれない。二人にとってこの真実は重すぎる。重すぎるが故に、素直に受け入れられない。
全てを明かした時、二人はひどく動揺していた。十夜に関しては動揺とショックから生じた怒りのあまり、殴りかかろうとしてきた。
その気になれば、彼の拳くらい避けようと思えば楽に避けられる。だが、あの時は避けるつもりはなかった。殴られるつもりでいたのだ。殴られることで、彼の中にある怒りが収まるのなら。
拳の一発や二発どうってことない。振り上げた彼の拳は、殴る前に紡によって止められてしまったが。
紡に関してだって、決して平静だったとは言えないだろう。自分自身のことを人間だと心の底から信じて疑わなかったのなら、真実を知らされたことによるショックは計り知れないものだ。
いくら平静を保てているつもりでも、心の揺らぎまでは止められないのだから。
ここまで考えて、困ったように咲夜は頬を掻いた。さて、明日から二人にどう接すればいいのか。少なからず、今日のことで二人との距離は開いたに違いなかった。
本当なら二人の理解が及ぶまで、関わらない方がいいのだろう。しかし、二人は蝶の一員で、自分は本部長だ。仕事の立場上、関わらないなんてことは避けられない。
「本当、初めて自分の立場を恨むよ」
生まれて初めて、いや、本部長になって初めて自分の立場を恨んだのだった。




