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現の蝶  作者: 鮎弓千景
action2 過去編:西暦二〇四五年
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 紡と十夜が自室に帰った後、咲夜は回収してきて貰ったフロッピーディスクのデーターを読み返し始めた。


 当時、クローン技術の研究は本当に魅力的だった。科学者として、研究者として、本能を駆り立てられるくらいに。


 それは多くの科学者を魅了したのだ。科学者にとっての最大の謎、人類の神秘。多くの協力者の元、研究は極秘に行われていた。


 これが成功すれば、人の科学はもっと発展する。誰もがそう思っていた。多くの者は禁断の扉の先を知りたがった。


 ある者は己の欲のために。ある者は地位と名誉のために。欲した。知りたいという底なしの欲望のため、彼らは禁断の扉へ手を伸ばした。


 そして、ついに生まれたのだ。始まりのアダムとイヴが。多くの者が歓喜した。生まれた二人を見て希望を抱いた。


 全てを変えてくれる希望を背負わされた二人。だが、誰も知らなかった。この研究は世界すら揺るがすもので、どれだけの被害が出るのか。


 本当に彼らは“知っていた”のだろうか。禁断の扉が何故、禁断と呼ばれているのか。何故、触れてはならないのか。


 “無知”だったから。だから変えようとした。この世の無知を有知へと。知りたいという知識欲は、行きすぎた知識欲は最早貪欲に過ぎない。


 ≪「無知」とは時に罪であるが、人に仇をなすことはない。「有知」とはこの世の理全てを知っていることである。それは世界の理、人の理、自然の理、全てにおいて。それは全知とも言える。

 人は世界の理と自然の理を知らなければならない。生きていくために必要だからだ。しかし、いかなる時があろうとも、決して人の理に触れることは許されない。

 人の理について触れるのは禁断である。また、知識欲は時には仇となる。欲が深ければ深いほど、それは鋭い牙となりて人々に仇をなすことだろう。

 「有知」、否、「全知」とは生きとし生ける者が犯してはならない大罪である≫




 「実に罪深い話だよ……」


 今の現状、これは相応の罰なのだろう。本当に身勝手だ。残酷な運命を、宿命を背負わせておきながら。


 きっと、死しても許されることはないのかもしれない。彼ーー咲夜は一人、ティーカップに入れた紅茶を口に含みながら、悲しそうに笑った。


 やはり、真実を明かすにはまだ早かったのかもしれない。二人にとってこの真実は重すぎる。重すぎるが故に、素直に受け入れられない。

 全てを明かした時、二人はひどく動揺していた。十夜に関しては動揺とショックから生じた怒りのあまり、殴りかかろうとしてきた。


 その気になれば、彼の拳くらい避けようと思えば楽に避けられる。だが、あの時は避けるつもりはなかった。殴られるつもりでいたのだ。殴られることで、彼の中にある怒りが収まるのなら。

 拳の一発や二発どうってことない。振り上げた彼の拳は、殴る前に紡によって止められてしまったが。


 紡に関してだって、決して平静だったとは言えないだろう。自分自身のことを人間だと心の底から信じて疑わなかったのなら、真実を知らされたことによるショックは計り知れないものだ。

 いくら平静を保てているつもりでも、心の揺らぎまでは止められないのだから。


 ここまで考えて、困ったように咲夜は頬を掻いた。さて、明日から二人にどう接すればいいのか。少なからず、今日のことで二人との距離は開いたに違いなかった。

 本当なら二人の理解が及ぶまで、関わらない方がいいのだろう。しかし、二人は蝶の一員で、自分は本部長だ。仕事の立場上、関わらないなんてことは避けられない。


 「本当、初めて自分の立場を恨むよ」


 生まれて初めて、いや、本部長になって初めて自分の立場を恨んだのだった。



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